1話__勇者に誘拐されそうなのですが
2000文字前後で短く進めていきます。
ファンタジー白熱バトル系小説ではなく、ドタバタコメディー感覚で見ていただけた方がわかりやすいと思います。
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ここは、王都の辺境にあるせまーい村、ピュトロアの村。
この世界で15になった者はもれなく全てここ神託の間で適正職業を告げられるが、この小さな村も例外ではない。
ロレア=ヘクタールは、昨日15になって、今日はお待ちかねの神託の日を迎えた。
「おねーちゃん、頑張ってぇ!」
特に頑張る事でもないのだが、無知で無垢な妹フレアは飛び跳ねながら檄を飛ばしてくれている。
ロレアの両親も、涙を堪えながら、「これで〜」「やっと〜」など、感慨に耽っているようだ。
「皆ありがとう!おねーちゃん行ってくるよ!」
振り向いて大きく手を振ると、神託の間に向かって駆け出して行った。
鍾乳洞のような美しい神託の間の御前。
流れる水の音が神聖さを際立たせている。
「やぁ、ロレアちゃん、待ってたよ」
眼鏡をかけた、老齢の神官がロレアを迎える。
村の中でも有名な優しい神官さんで、バニラさんと呼ばれている。
「バニラおばさん、今日はよろしくお願いします!」
「えぇえぇ、任せなさい。緊張しなくていいからね」
バニラは人当たりの良いいつもの笑顔でロレアを奥に促す。
「じゃあ、服を脱いでおいで」
バニラはその間に、せっせと神託の道具を用意し始めた。
老齢のせいか、少し動きが覚束無いが、そこは年の功。
着実に用意を進めて行った。
「バニラおばさん、おまたせー」
「いや、こっちも今終わったとこだよ。それじゃあ、そこにお座り」
ロレアが神託の間の最奥の石に座ると、バニラは呪文を唱えながらロレアに聖水を振り掛ける。
「やっ、冷た」
「そうねぇ、でもちょっと我慢しててね」
それから1時間ほど待っていると、空から白いオーブのような光が舞い降りてきた。
ロレアの適正職業が見つかったのだ。
バニラは一層呪文を唱える語気を強くすると、その白いオーブはロレアの中に入っていった。
___そうなるはずだった。
そのオーブは、更に輝きを増すと、前方で呪文を唱えていたバニラの目を眩ませる。
「うおぉ!!」
そして白いオーブは化けの皮が剥がれたように赤黒い禍々しいオーラを放ちながらゆっくりと沈んでゆく。
その謎の職業をロレアの中に落とすことを止められる者はいない。
バニラは呆然とその様子を見て、感動していたのだ。
「素晴らしい存在感、もしや勇者の職やもしれんぞぉ…!!」
そんなに禍々しい色をしたオーブが勇者の職であるなんて馬鹿げているというのに、バニラは止めない。
まるで心臓の鼓動のように明滅を繰り返しながらロレアの中に入り込むオーブ。
その様子は神託の間の外に佇んでいた家族や村のものにも伝わっている。
「お姉ちゃん…」
「なに?どうしたの!?ロレアはどうなるの!?あたしのロレアは!」
「落ち着け、まずは最悪の状況を考えて村人を避難させろ!」
「ロレアちゃん、お願い!!頑張って!」
「ロレア!がんばれ!」
村の衆は皆ロレアの名を口々に呼ぶ。
それほどまでに異様な後継が目の前で繰り広げられていた。
崩れ落ちそうな程に揺れる神託の間、そこを中心に渦巻いている不穏な雲、ひび割れからは眩く、昏い光が絶えず降り注いでいる。
「こりゃあ、不味いかもな」
しかしそんな彼らの心配をよそに、着々と作業は進められていた。
バニラはまた改めて呪文の詠唱を開始する。
「〜汝らに祝福を与えん!」
そして、職はロレアの中へ落ちた。
ストン…とそれはそれは簡単に。
「終わったぞ」
行きも絶え絶えにバニラはロレアに告げる…が、反応がない。
(まさか、勇者の職が体に適合せなんだ?)
「お、おい、起きるのじゃ!!」
「う、うぅ…」
一瞬焦ったバニラだが、無事なのを確認して落ち着く。
「はわわっ、私、寝ちゃってました!」
「はぁ、もう大丈夫よ、体を拭いて、服を着てから、またこちらにいらっしゃい」
「はぁい」
その後、ロレアに現れた職業は【召喚術師】。
代表的な冒険者職の1つで、歴代の勇者パーティにもある有名な職業だ。
それを聞いてロレアは大興奮だった。
「さっ召喚術師!?やった!それって、可愛いウサギさんとかも呼び出せるの!?」
「ま、まぁ、そうじゃな」
「やった!!これで私、もふもふふわふわライフが出来る!」
「よ、良かったのぉ」
勇者の因果に呑まれた者はそんな甘い人生は送っては行けんぞ…と内心で思いつつも、バニラは密かにロレアの旅路を応援していた。
神託の間を出ると、村人総出で出迎えてくれた。
大丈夫だった?とか、もう安心だ、など言われていたが、当のロレアは爆睡していた。
「う、うん、いろいろ大変だったけど、大丈夫だよ…?」
と、適当に受け答えをしておいた。
その日の晩は宴だった。
村中の旬の食材を集めて、みんなで踊ったり、歌ったりで大狂乱。
ロレアも、妹のフレアや、仲の良い幼馴染達と共に一夜を過ごそうとした。
だが、深夜も少し回った頃。
問題は起きた。
「お楽しみのところ済まない、ロレア=ヘクタールという者は知らないか?」
と、尋ねる者がいた。
皆一様に誰だコイツ…という雰囲気を漂わせていたが、その静寂を破る者がいた。
「まさか、勇者ルゼリアス…?」
「ルゼリアス様だって!?」
「あの歴代最強にして最年少の勇者!」
「あぁ、今年で勇者の位を頂き、魔王討伐に向けて仲間を集めているって…」
「嘘だろ!もしかしてロレアが…!」
皆口々に賞賛や歓喜の声を上げる中、1人呆然としている者がいた。
ロレアだった。
「え、私、なんかしました?」
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