新型機の実力
さて、この作品を書いてから久しく筆を取っていないのですが、最近はまたチマチマと書き溜めを再開しました。もし次があるならお読みいただけると幸いです。
今回は合衆国新型機と会敵するところからです。
第三話、新型機の実力始まります。
帝国side
レーダーを監視している青木隊員から無線が入った。
「レーダーに12機の新手、高度はこちらとほぼ同じです。降下一旦待ってください」
「敵の増援か。敵の機種は分かるか?」
「不明ですが、噂の新型機だと思われます。680km/hで接近していますからピジョンではないのは確かですね。ピジョンはこの高度だと直線で5分以上加速し続けた上でかろうじて500km/hが出る程度ですから」
残った4機は高度を落とし、戦域から離脱している。
追撃をするべきなのだろうが、もし新型機が噂通りの性能を持っているのであればこちら全員でかからなければ危険だ。
「離脱した敵機は無視しろ。それと、自軍の被害は?」
「全機損害なしです」
「よし、全機速度が落ちすぎない程度に上昇する。敵新型機を迎え討つぞ」
隊長機を先頭にまとまって少しずつ高度を上げ始めた。
合衆国side
A隊! 間に合わなかったか!
撃墜されたピジョンの残骸が豆粒のように見える。
敵戦闘機隊もはっきりと視認できた。
機種は報告にあった通り壱式艦戦。
撃墜されたのか報告より2機少ない28機しかいないが、それでも数は倍以上だ。
敵を上回る運動性があるとはいえ、普通に考えれば自殺行為に近い。
しかし、スパローに乗るのはいずれも5機以上の撃墜記録があるエースのみだ、勝ち目はある。
「こちらA隊ニック。一旦戦闘空域より離脱しました。燃料は僅かですが残ってます。そちらが戦闘に入ったら上から奇襲することもできますがどうしますか?」
「おお! 生き残りがいたか。是非頼みたい。そちらの残存機は?」
「4機です」
「ずいぶん減ってしまったな。準備ができたら無線をいれてくれ。指示を出す」
「了解しました!」
さて、敵の機体はすでに見えている。
高度36,000フィートの高高度を飛行する敵機を正面から迎え撃てるのは我々だけだ。
全長およそ7m、翼幅およそ9.3mの小柄な機体に2段3速スーパーチャージャー付き2,000馬力級14気筒エンジンを積んだスパローは航続距離を犠牲に壱式艦戦のような大型機には絶対に不可能な機動を可能とした。
機首には12.7mm機関銃が4門、主翼内部には20mm機関銃が片側2門、計8門の重装備だ。
20mmの弾薬ベルトには3発毎には帝国の物と比べても強力な炸裂弾が装填されている。
装甲さえ貫ければどんな大型機でもひとたまりもない。
「敵は微上昇しながらこちらへ向かっている。こちらも高度を上げるぞついてこい」
「「「イエッサー!」」」
追い込まれた状況にも関わらず、パイロット達の士気は高い。
彼らがスパローに乗るのは2回目、試験飛行のとき以来だ。
新しい機体を駆って出撃するのはパイロットにとって最も楽しい瞬間のひとつだろう。厳しい戦局でこそ士気は重要だ。
それがあれば持っている実力以上の力を引き出せる。
「俺が突出してヤツらを引き付ける。他は自分のウィングマンと浮いた敵を叩き落とせ!」
「な、危険ですよ」
「心配はいらねぇ、俺は自分に自信が有るからな。この機体なら負けない」
そう言って副隊長オスカーは返事も聞かずに編隊から外れた。
「放っておけ、いつものことだ。止めたって行くよ。援護には俺が入る。直進すれば後30秒で機関砲の射程内だ。各機ウィングマンと散開!」
隊長は副隊長の援護に向かう、これで全員が二機一組になった。
敵機との高度差はほとんどなかったが、こちらの方が僅かに上昇力が高いので50mほど上にいる。
これで多少は有利に立ち回れるはずだ。
「困ったな。敵さんの方が上昇力が良いみたいだ」
「そうみたいですね。どうしますか? 多分降下すれば逃げ切れますけど」
「この後の基地爆撃を考えるとやっちゃった方がいいんだよな」
「ですよね」
「よし、隊長機から各機、小隊戦闘だ。高度差は大きくないし、性能差も数でカバーできる範囲だと思う。耐弾性能はピジョンと大差ないらしいから一発でもまともに当たれば戦闘不能にできるはずだ。出来れば1機に対して4機以上で各個撃破しろ。健闘を祈る!」
こうして歴史に残る空戦が始まった。
帝国side
「敵戦闘機が一機編隊から外れてこちらへ向かってきてますね」
「そうだな。あいつはバカなのか?」
敵はこちらより優速で高度も高くとっているが、それでもたった一機で突撃してくるのは理解に苦しむ。
多対一戦闘は絶対に避けるべきことだ。
多くの場合乱戦状態に陥り死角から撃墜されるのがオチだからだ。
「一斉射撃! 落としてしまえ」
次の瞬間信じられない光景が広がる。
28機の壱式艦戦から放たれた22mmと12.7mmの弾丸は真っ直ぐ飛んでいる様に見える新型機の右側を通りすぎただけだった。
「横滑りしているのか? いや、射管が検知するはずだ。どうやったんだ?」
敵機は高度を下げて加速しながらこちらのど真ん中を突っ切る。
無理に射撃はせずこちらを引っ掻き回すのが目的だったようだ。
現に何機かが追いかけようとして接触しかけた。
「正気じゃないな」
「隊長、岡崎と岡村が通過した敵機を追尾しに行きました。止めますか?」
「微妙だなー。岡コンビは新人だけど成績はいいからな。ほっといたら死角からやられそうだし、いいんじゃないか?ただ深追いはしないで欲しいな」
「そうですか」
「それよりも引っ掻き回されたな。何人かが相棒を見失ってる。各機、相棒を見失ったやつは下手に射撃せず、後ろを警戒しながら合流してから戦闘しろ」
「俺はちゃんと隊長の後ろにいますよ」
「分かってるよ、後ろは任せた。青木、お前のペアは俺のペアと一緒に敵機を挟み撃ちにしてくれ」
「了解です」
自機より飛行性能の高い敵機との戦闘は久し振りだ、気合いをいれていこう。
合衆国side
オスカーが敵機の中を通って引っ掻き回した後、フランク隊長が合流した。
「オスカー、援護する」
「またかフランク、別に俺の援護なんかしなくてもいいんだぜ?」
「何度目か分からないが言わせてもらうけど、いくらお前だって後ろに目玉は付いてないだろう? お前が心配なんだよ」
「目玉は付いてなくても後ろは見えてるんで間に合ってるな。後方330ヤード、下方100フィート敵機2機だ。おそらくこちらの旋回を待ってる」
この距離は敵機の機関銃の射程内ではあるが、22mm機関銃は初速が遅めで、ましてや下から撃つとなると軌道が弓なりになるためほとんど当たらない。
12.7mmはそこそこの命中率があるが、フランク隊長とオスカー副隊長は絶えず機体を揺らして狙いをずらしている。
何時までも持つわけではないが、二人の乗るスパローは少しずつ上昇しているのでその射程からも外れようとしている。
航続距離に難のあるこちらはどこかでヤツらより先に引き返さなければならないし、ここから当てるには充分に投射面積が大きくなる旋回を狙うのが一番簡単なので旋回を待っているというわけだ。
直進し続ければ帰ってこられなくなるスパローには結構きつい。
「完全に死角のはずなのになんで見えるんだか……。どうするんだ?」
「出来れば釣り上げる。ダメなら強引に旋回戦に持ち込んで隊長の射程に放り込む」
「俺が必要ないってのはどこ行ったんだ」
「おっと釣れた釣れた。もうちょっと我慢してたらこっちも大変だったのになぁ? せっかちだなっと」
二人を追って緩やかに上昇していた敵機は痺れを切らして一気にこちらと同じ高度まで上昇して射撃してきた。
後は簡単だ、操縦桿を引いて左上に方向転換。
敵機も慌てて同じ軌道をとろうとするが、速度を失ったため上昇に付いていけずオーバーシュート、切り返して斜め上から機関砲をぶちかまし、主翼を撃ち抜いた。
根本から主翼を折られた敵機は完全にコントロールを失い、墜落した。
「グッドキルだオスカー。相変わらずいい射撃センスだな」
「どーも、まぁまだこれからさ。少なくとも後3機はやっておきたいねぇ」
舵を切って落とした機体の寮機を追撃する。
こちらも先程の旋回で大きくエネルギーを失った上、隊長の援護も有り、簡単に撃墜できた。
正面からは固いが、飛行機である以上軽くするために脆い部分はある。
壱式艦戦の防弾性能は側面や上部からでは発揮できないのだ。
「さて、次だ」
二人のベテランパイロットは主戦場に戻って行った。
合衆国の切り札『スパロー』が到着し、戦場は帝国の優勢から拮抗に移った。
しかし、帝国には数という圧倒的なアドバンテージがある。苦しい状況の中、合衆国は性能差と経験を生かし少しずつ敵機を減らす一方で、離脱した4機の『ピジョン』に動きが……。
次回、奇襲。
次回もお楽しみに。