新型機現る
今回より一部でヤードポンド法の表記が出ます。
これ以降の話でも出てきますが、結構表記揺れしてますし、変換がガバガバなのであまり気にしないでください。
気になるようでしたら修正します。
RF-6fという機体が出てきますが、実際に存在したヘルキャットとは無関係です(サイコロを振って決めたらこうなりました)。
用語解説を用意しています。
スムーズな読書にお役立てください。
合衆国side
「敵艦載機隊が迫ってます。壱式艦戦が30機。基地北東方面50マイル高度20,000フィート付近を200mph程度で航行していました。現在上昇中です」
「可能なら監視を続行しろ。すぐに邀撃隊を上げる。A隊、B隊スクランブル!!地上部隊は念のため高射砲を構えろ」
「「「イエッサー!」」」
「敵は壱式艦戦のみか?」
「そうです。爆撃機や攻撃機は確認できませんでした」
「別動隊の警戒に当たれ。2機索敵機を送る。絶対に死なずに情報を持ち帰れ!いいな」
「勿論です!」
「ダグラス、ナタリー、RF-6fでヤツらの爆撃隊を探してくれ」
彼らは怪我で戦闘機パイロットからは引退しているが、二人とも熟練のパイロットだ。
哨戒任務にも慣れている。
幾つもの死線を乗り越えた本物のベテランを索敵に送り出す。
「「了解!」」
「司令官! スパロー12機が過給機の整備中で動かせません。ピジョンももうありません」
「クソッタレ! 残ってる機体は?」
「すぐにでも飛べるのは練習機が5機、機種転換待ちのf4bが3機だけです」
これでは最新機種であるスパローを優先的に支給されたベテランが出られない。
しかし、いくらベテランとはいえ、練習機や機種転換待ちの旧式機では話にならない。
以前に使っていたピジョンも残っているが、燃料は全てスパローに移してある。
燃料の積み直しは意外と時間がかかるので過給機の組み上がりを待つしかない。
機体の供給が間に合っていない前線では整備中の予備機が無いことが多々ある。
ここも供給が足りていないのだ。
「そんな機体じゃ話にならん! B隊のピジョンに乗れるものはA隊に合流、乗れないものは組み立てが終わるまで待機しろ! 整備隊! 大至急過給器を組み上げてくれ」
「了解」
滑走路
ピジョンの2,000馬力エンジンgx280が次々と始動する。
プロペラが空気を押し出し推進力を生む。
高馬力のエンジンは小型軽量の機体を強力に引っ張り、地面から離れていく。
小型ゆえに航続距離は短いが、その代わり高い旋回性能と高速性を両立している。
壱式艦戦と比べてしまうと見劣りするが、間違いなく強力な機体だ
「旭日の猿どもめ!絶対に許さない」
「落ち着け、感情に飲まれるな。俺達はスパローが来るまで足止めするのが目的だ」
「しかし」
「しかしもなにもない。悔しいがこの機体は壱式艦戦と比べると劣っている。自覚して生き残ることだけを考えろ。時間を稼ぐんだ」
「基地より、大体の方角は北東、詳しくは偵察に聞いてくれ。敵は壱式艦戦30機、高度は20,000フィート程度だったそうだが爆撃隊と合流するのであれば会敵する頃には36,000以上を飛んでるはずだ。君たちの幸運を祈る」
無線から司令官の声が聞こえる。
最低限ではあるが、敵の情報が入ってきた。
こちらがまともに動けない高度に敵がいる可能性は想定内だ。
「こちらが高高度を飛べないのを分かっているだろうからそうだよな。スパロー、出来るだけ早く来てくれ。お前らだけが頼りだ」
A隊の隊長が独り言を漏らす。
隊長の言うとおり、ピジョンは27,000フィート以上では真っ直ぐ飛ぶのが精一杯とまではいかないが、速度が足りず、旋回時の失速が激しくなる。
油断すればすぐにスピンだ。
加速し続ければ高馬力のエンジンで何とか313mphは出るがヤツらの戦闘機は平気で400mphは出す。
どうあがいても勝てない。
しかし、スパローは違う。
最新式のgx300 水冷12気筒エンジンを搭載し、2段3速スーパーチャージャーによってピジョンとは比べ物にならないほど高高度性能が高い。
合金の悪質化によって信頼性が低かった2段過給機は構造の単純化で整備性が大幅に向上したため、簡単な整備さえ行えば飛べるようになった。
短時間であれば壱式艦戦とさえ互角以上に渡り合える。
敵との予想遭遇点、高度36,000フィート目標上昇高度だ。
辺りを見渡すと仰角60°距離1.5マイルほどの位置に既に敵機がいた。
予想高度よりも少し上に居たため発見が遅れた。
「敵だ! クソ! 予想より上に居やがる。ウィングマンと散開しろ! 固まってるとまとめて落とされるぞ」
「「はい」」
隊長の指示でそれぞれがウィングマンと共に散開する。
これで狙いが分散して流れ弾が当たる確率は小さくなる。
敵は直ぐに急降下を始め、こちらに狙いをつけた。
「回避しながら撃ち返せ! 狙いは適当でもいい! 弾幕を張って自機を守れ」
敵は圧倒的な速度をもってヘッドオンで襲いかかってきた。
壱式艦戦は正面の耐弾性能が非常に高く、角度や被弾箇所によっては30mmでも有効な損傷を与えられないことがある。
機体の優位性を生かして真っ向から制圧する。
単純ゆえに効果の高い戦術だ。
こちらが向こうに有効打を与えるには大きく迎角をとって主翼か胴体部の弱点を狙うしかない。
もう敵の射程内で降下や旋回による回避は的を大きくするだけの自殺行為なので機首を引き起こして投射面積を減らし、進路を揺さぶりながら機銃を発射する。
大きく迎角をとったせいで失速ぎみになるまで速度を落としている機体も多い。
隊長の機体も気流が剥離、再付着を繰り返すことで生じる振動が感じられる、危険な状態だ。
交差が終わった、友軍機が数機主翼をやられて墜落している、燃料が吹いている機体もある。
ここは洋上、海岸からの距離はかなりあるが、敵が攻めてきていると言うことは恐らくは帝国の潜水艦が潜んでいる。
運が良ければ命だけは助かるかもしれない。
一度自機の下を通過してから敵機は速度にまかせて再上昇している。
狙うなら今だ、ローヨーヨーで加速反転してヤツらのケツに照準を合わせる。
「落とすなら今だ! ケツを狙え。一機でもいい落とすんだ」
敵側は損傷した2機が離脱し、残りはみるみるうちに上昇していく。
ここで落とせなければもう一度急降下をもらう。
何としてでも損害を与えて阻止しなければならない、全力で機関砲を放つ。
しかし、こちらと違って余裕のある向こうは悠々と射線から逃れる。
やがて、上昇が限界に達し敵機を照準に収められなくなる。
敵との距離が詰まる、ヤツらは速度を高度に変換して上からこちらの脇腹を狙っている。
もう機関砲は届かない。
急旋回による回避もできない。
万事休すだ。
後は頼んだぞ
脆弱な胴体部に被弾したピジョンは次々に墜落していく。
隊長機も例外ではない、運良く操縦席は無事だが、敵の22mmでエンジンも油圧も燃料も全部ダメになった。
ふと、エンジン音が聞こえる。
壱式艦戦の20気筒エンジンの音ではない。
ピジョンの酸欠で苦しそうな音でもない。
力強く、それでいて軽快な猛々しいエンジン音。
熟練パイロット達が駆る邀撃戦闘機スパローは今到着した。
短いですがここで一旦切ります。
元々短編のつもりだったので少々区切りが変動してます。
次回予告
壱式艦上戦闘機がピジョンを撃墜し、制空権を確保していく中、合衆国が投入した切り札たる『スパロー』は遂に戦場に到達した。
合衆国は奪われた制空権を取り返すべく高空を支配する帝国の戦闘機を迎撃する。
果たして新型機『スパロー』は壱式艦上戦闘機に対抗できるのか!?
次回、新型機の実力。
次回もお楽しみに。
引き続き誤字報告お願いします。