過去物語 大剣のブルーノ
ブルーノはそれなりに大きな街で教師を勤めていた。身体が大きく、優しいその性格は街中の人から慕われていた。
ブルーノは両親、そして、十になる妹と暮らしていた。妹は兄を慕い、兄は妹を溺愛していた。そんな仲睦まじい家族だった。そんな穏やかな日常だった。
黒い風が吹いた。
ある日学校で授業をしていると、校庭に真っ黒な人影が現れた。ブルーノは授業を止めて訝し気に校庭を覗いていた。
一人の教師が人影に近寄った。そして、質問をしているかのような素振りをすると、突然闇に呑まれた。
ブルーノの背筋は凍り付いた。身体の隅々がこれまでかというほどに警鐘を鳴らしていた。
「みんな、避難するから俺の後に……」
教室に目を戻すと、目の前で複数の生徒が影に喰われた。血が飛び散り、体から浮き上がった光の粒子はそのまま闇に包まれた。
パニック状態になる教室で一つ、また一つと魂が闇に包まれた。その光景をブルーノはただ黙って見つめるだけだった。
「やはりこういう場所は人が集まっていいな。恐怖が蔓延してくれるおかげでヤリやすい」
自分の影が言葉を発するのを聞くと、ブルーノは身を捻って攻撃を避けた。そして、ブルーノはすぐに走り出した。
階段を二つ降り、妹のいる教室へ向かった。
妹は床に倒れていた。すぐに気を失ったおかげで影に襲われることがなかったようだった。
ブルーノは妹を両腕に抱えて逃げ出した。生徒たちに、すまないと繰り返し唱え、街を走った。
街のあちこちに血痕が見られた。しかし、人の姿はなく、闇に包まれたものが転がっているだけだった。
ブルーノは自分の家に向かった。そして、祈るような気持ちでドアを開けた。そこには父親が立っていた。手には包丁を持ち、ドアの前にいるブルーノへ視線を向けた。
「お前たち、無事だったんだね。母さんを闇から守ったよ。形を残してやれてよかった。どうか、埋葬してやってくれ」
その言葉を最期に父親は影に喰われた。影はそのままブルーノを攻撃すべく突起物を伸ばした。
うあああああ
ブルーノは声を上げた。すると、床が捲りあがり、土の壁ができた。
ブルーノは訳も分からずにその場を後にした。
街を抜け、拓けた草原に身を移した。
息を切らし、その場で膝をつくと、妹を下そうとした。しかし、さっきまであったはずの妹の姿がなかった。
ソレは突然目の前に現れた。妹の首根っこをひょいと摘まみ、呑み込むように口に放り込んだ。
ブルーノには何が起こったか理解ができなかった。
ソレは両手を広げた。すると、街から闇に包まれた物がソレの体に入っていった。
すべての回収が終わると、ようやく気が付いたようにブルーノへ目を向けた。
「まだ残りモノがあったか。しかし、少々身が重い。すぐに戻るからそこにいるように」
言い終わるとほぼ同時にブルーノの周りから土の槍が放たれた。無数に、かつあらゆる方向から放たれたにも関わらず、ソレは土埃でも払うようにいなした。さらには二つをブルーノの両足に突き刺した。
そして、ソレは闇に包まれて消えていった。
ブルーノは痛みと悔しさで涙を流した。走馬灯のように流れる家族、街との思い出を思い返すと、埋葬して欲しいと言った父親の姿を思い出した。
自分が死んではいけない。ブルーノはそう強く決心すると、足に刺さった槍を抜き、少しでもその場を離れようと近くの林へ身を隠した。
林に住む魔者に襲われそうななったとき、光が目の前を通り過ぎた。
それは希望の光に見えた。家族の復讐をするために、ブルーノは魔を絶やす決意をした。