表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春秋  作者: South.K.Mackenzie
9/19

五(二)

部下が運んできた茶を、ゆっくりと啜った。

「後悔しているのか?」

「覚光上人には、そう見えるのか?」

「訊いてみただけだ」

覚光が、口元だけで笑みをつくった。

覚光とはじめて会ったのは、まだ有徳が一介の邑主のような存在だったころである。妙に俗っ気があり、豪放な僧侶がいると噂になり、見に行った。その時は、石像のように口を噤み、瞬きすらせず、微動だにしなかったが、興味をそそられて何度も会いに行くと、五度目で堰を切ったようにしゃべりはじめた。覚光の紡ぐ言葉ひとつひとつが典雅で知性に溢れ、ある種の詩的表現を含んでいることに感動し、涙をあふれさせながら聴いていた。その姿勢を見て、覚光はさらに浴びせるように言葉を放った。清廉な、川の流れのような涼やかな志を持っていることも、その時に気がついたのだ。

「いま、国が大変な危機に陥っているそうではないか」

「そんなことはない。とても安定しているぞ」

「果たしてそうかな?」

「どうしてそんなことを」

「ほんとうに国が安らかなら、なぜそんなに仕事が山積しているのだ」

言われて、はっとする思いがした。無意識のうちに、自分自身でも秘匿しようとしている事柄があることに少なからず動揺したし、それを平然と指摘してくる覚光にも、なにか言い難い幽玄さのようなものを感じた。いまでは、自分にこうして直言してくるような者はほとんどいない。

「これはわたしの性癖のようなものだ。仕事をしているほうが落ち着くのでな」

「余人の眼はくらませても、わしの眼はそうはいかん。弥次郎、この国は病んでいるぞ」

「なんの病だ?」

「伝染病のようなものだ。国賊という、外から侵入してきた病源のようなやつらが国の中心に巣食うことによって、国は正しい機能を果たさなくなりはじめている。おまえ、外に出ているか。外に出て、民の声を聴いているか。郊外の農村がどういう状況になっているか、おまえ知っているのか?」

「それを、俺に報せにここへ?」

「本来の目的とは逸れていると言えるが、大筋はあっているともいえる。端的にいうがな、弥次郎。おまえ死ぬぞ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ