五(二)
部下が運んできた茶を、ゆっくりと啜った。
「後悔しているのか?」
「覚光上人には、そう見えるのか?」
「訊いてみただけだ」
覚光が、口元だけで笑みをつくった。
覚光とはじめて会ったのは、まだ有徳が一介の邑主のような存在だったころである。妙に俗っ気があり、豪放な僧侶がいると噂になり、見に行った。その時は、石像のように口を噤み、瞬きすらせず、微動だにしなかったが、興味をそそられて何度も会いに行くと、五度目で堰を切ったようにしゃべりはじめた。覚光の紡ぐ言葉ひとつひとつが典雅で知性に溢れ、ある種の詩的表現を含んでいることに感動し、涙をあふれさせながら聴いていた。その姿勢を見て、覚光はさらに浴びせるように言葉を放った。清廉な、川の流れのような涼やかな志を持っていることも、その時に気がついたのだ。
「いま、国が大変な危機に陥っているそうではないか」
「そんなことはない。とても安定しているぞ」
「果たしてそうかな?」
「どうしてそんなことを」
「ほんとうに国が安らかなら、なぜそんなに仕事が山積しているのだ」
言われて、はっとする思いがした。無意識のうちに、自分自身でも秘匿しようとしている事柄があることに少なからず動揺したし、それを平然と指摘してくる覚光にも、なにか言い難い幽玄さのようなものを感じた。いまでは、自分にこうして直言してくるような者はほとんどいない。
「これはわたしの性癖のようなものだ。仕事をしているほうが落ち着くのでな」
「余人の眼はくらませても、わしの眼はそうはいかん。弥次郎、この国は病んでいるぞ」
「なんの病だ?」
「伝染病のようなものだ。国賊という、外から侵入してきた病源のようなやつらが国の中心に巣食うことによって、国は正しい機能を果たさなくなりはじめている。おまえ、外に出ているか。外に出て、民の声を聴いているか。郊外の農村がどういう状況になっているか、おまえ知っているのか?」
「それを、俺に報せにここへ?」
「本来の目的とは逸れていると言えるが、大筋はあっているともいえる。端的にいうがな、弥次郎。おまえ死ぬぞ」