四(二)
「では、各地の情勢にはさぞや精通なさっておるのでしょうな」
「いやいや、手前程度にはとてもとても」
柔和な表情をつくってはいるが、嘘を吐いている、と新太郎は直感した。京にいれば、自然、噂や地方の勢力など、次々と話題に上り、人々の口の動きに拍車がかかる。新太郎は京という地理のその情報収集能力を買ってこういった話を切り出したのだが、相手の答えは不審に思うほどにべもない。
これは駆け引きであった。国家が乱れ、自分の支配している国の情勢が不安定であるいま、各地の情報はみなが垂涎を拭いながら欲しているのである。つまりその情報を得たいのであれば、それなりの報酬を用意せよ、ということを言いたいのであろう。
「吉右衛門どのは、どういった商品をお取り扱いなのだろう?」
「米、魚、肉から、衣料、染め物、絹などの雑貨、それに油や、必要なら武具も取り寄せることができます」
「なるほど……」
新太郎はしばし考えて、
「では、専属の取引をしていただきたい。吉右衛門どのの取り寄せる食物を、わたしのほうで一定の期間、買い取らせてもらおう。むろん、それとは別に報酬は払おう。どうです?」
「それはもう。願ったりです」
上手くいった、と新太郎は思った。こうして誼を通じておけば、こちらの要望も無下にはできまい。ある程度の追加の金銭は、暗に情報を仕入れた場合の報酬であるという言い方になる。これで、各地の情報は比較的入りやすくなった。