表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の想い人  作者: 流音
5/26

4、胸の痛み


私がヒロと元樹に一定距離を保つように告げた日から数日経ち、私は穏やかな日々に平和だと安心しながら……教室の端が気になっていた。

明日香と何気ない会話をしながら、チラチラと廊下側の席に目を向ける。

そこには転校してからというもの一匹狼を気取ったヒロいて、今も人との接触を避けるためか耳にイヤホンをして音楽を聴いている。


新しく友達作ればいいのに…

何やってんの?


私はこの間の言葉がすべてスルーされてると感じて、若干ヒロに苛立つ。


昔のヒロだったら誰にでも平気で話しかけて、いつの間にかクラスの中心にいるのに…


私は何だかんだヒロのことが気になってしまい、手助けしたくなる自分に歯痒くなる。

そうして一人ムズムズしていたら、クラスメイトの女子が何人か私と明日香の元にやって来た。


「天野さん。花崎君と昔っからの幼馴染だって本当?」

「…?…そうだけど?」


二学期初日に出た話の真意を確かめに来たのか…と話しかけてきたその子を見ると、その隣にいたメガネの女の子が言った。


「花崎君って…昔からあんな感じなの?」

「え?あんな感じって?」


「え…と、なんていうか…クールで落ち着いてるっていうか…。モテそうなのに、偉ぶらなくて…。」

「うん。寡黙でカッコいいよね。」

「やっぱり彼女とかいたりするのかな?」

「天野さん、知ってる?」


………………


私はまるでヒロじゃないような話に面食らって言葉が出てこない。


寡黙でカッコいい…??

クールで落ち着いてる????


私が知ってるヒロは、バカみたいに騒ぎはしないけどやんちゃで…元気な小坊主で、クールとか寡黙とは程遠い。

それだけに誰の話だと、何度も瞬きしてから訊き返した。


「えっと…、ヒロって…そんなにカッコいいかな?」

「え!?カッコいいよね!」

「うん!!いつも近寄り難いオーラ出してるけど、たまに見せてくれる笑顔がいいっていうか…。」

「そうそう!!また妙に影があるところが、他の男子と違ってキュンとくる!!」


…………………


少し頬を赤く染めながら語り出すクラスメイトに、私は絶句するしかない。

そして横目で今も人との接触を断っているヒロを見て、あれがカッコよく見えるのか…とだらしない前髪のヒロの姿に不思議だった。

するとある一人の女子に腕を掴まれた。


「きっと中学の頃から彼女いるよね?」


私は本気な目をした二つくくりの女子からそう詰め寄られて、顔が引きつりながら首を横に振る。


「わっ、……私が知ってる限りではいなかったと思うけど…。引っ越した後は分からないよ。」

「そうなんだ。やっぱり本人に聞かないと分からないか…。」

「あ…でも。」


私はしゅんと沈んだ目の前の彼女を見て、つい引っ越す直前のことを言いかけて口を噤んだ。

すぐ横には不自然に口を閉じた私を見つめる明日香の目がある。


これは本人の前で言わない方がいいよね…


私は中学の時、ヒロが明日香を好きだったということを知っていただけに、口が緩みかけたけど本人の手前なんとか我慢した。


「ヒロに聞いてみて?一匹狼気取ってるから話しかけにくいかもしれないけど。」

「そうなんだよね…。話しかけられそうだったら、聞いてみるね。」

「ありがとう、天野さん。また色々教えてね。」


クラスメイトの女子は少し渋い顔をしながらも、話しかけてきた目的は果たせたのかグループで去っていく。

私はそれを見送ってから明日香に目を戻すと、明日香にじとっと睨まれた。


「な、なに?」


明日香は私の問いかけにスッと目を伏せると、「何もない。」と黙ってしまって、私は隠した事を気づかれただろうかと思った。


今さらヒロが明日香を好きだったとか伝えても、明日香も困るだけだと思ったんだけど…

もしかして何か気づいたのかな…?


私は軽く冗談みたいに伝えようかとも思ったけど、明日香はいつの間にかヒロの方を見ていて、私はそれに体がビクつくように震えた。


明日香…ヒロを見てる…?

まさか…さっきの話聞いて、明日香もヒロがカッコいいとか思ったり…


私は明日香がただヒロを見てるだけで、変に心臓が動き出して胸の奥が少し疼いた。

この感覚にかなり前に覚えがあって、私はこの疼きから目を背けようとギュッと目を瞑ったのだった。





***






その日の放課後―――――


私はまっすぐ家に帰る気分じゃなくて、中庭のベンチに座りながら風に葉を揺らす木を見上げていた。

こうしていると小学生のとき、ヒロとよく木登りして遊んだことを思い出す。


『ナツも来いよ!!』


ヒロは一番に木に登ると、いつもニカッと無邪気な笑顔を浮かべて手を伸ばしていた。

私はヒロの手を借りてなんとか登って…、でも怖くてすぐ下りるんだよね…


私はあのときのヒロのブスッとした不服そうな顔を思い出して、今でも笑ってしまいそうになる。


あの頃はいつも一緒にいたなー…

どこに行くにも一緒で、よくご近所さんに『ヒロナツ』と一括りに呼ばれていた。

ヒロがいるところには私がいて…、私がいるところにはヒロがいる。

だからどちらか一方を探せば、もう一方も自然と見つかる。


ウチのお母さんもヒロのところの奈美さんもそれを分かってて、いつもどっちかが私たちを迎えに来ていた


一緒にいるんだから、まとめて連れて帰ればオッケーってな感じで…


私はあの頃が一番楽しかったな…と思いながら、目を閉じて昔に想いを馳せた。



ヒロが…初めて自分の好きな人に関して口にした日…

私は引っ越す事とダブルでショックを受けて、頭の中がグチャグチャだった。


その上ヒロはお別れも言わないままいなくなって…


誰にも聞けない…複雑な気持ちに胸がずっと苦しかった。


あのときの苦しさは、自然とどっかに飛んでいってたと思ったのに…

今のこの変な気持ちはあのときと少し似てる。


私は考えても分からない気持ちにはぁ…とため息が出て、閉じていた目を開けると、急に元樹の顔が映りこんできて跳び上がった。


「うわっ!!何!?」


「何って…、それはこっちのセリフなんだけど…。こんなとこで何やってんだよ。」


元樹は微妙にムスッとしながらそう言って、私は元樹と話すのがあのとき以来だということに気づいた。


そういえば…元樹にも結構キツいこと言ったはず…


私は間は空いたものの普通に話しかけてきた元樹が不思議で、つい思ってたことが口から出てしまう。


「元樹…、もしかして私の事諦めてくれた?」


元樹は私からの問いにカチンと顔を強張らせてしまい、私はその表情の変化から失言だったと元樹から顔を背けて謝った。


「ごめん…。」


数日空いたとはいえ…、これはないよね…


私は恋をしたことがないけど、元樹の心を傷つけたというのは分かったので、思ったことを口にしてしまう自分の口を指でつまんだ。

すると元樹が私の横に座ってくるなり、顔を隠すように項垂れてから言った。


「何回謝んだよ…、菜摘のバカ…。」

「…………ごめん…。」


元樹の悲しそうな声についまた謝ってしまい、私は口を噤んでから元樹の言う通りバカな自分にため息が出た。

それから微妙な沈黙が続き、私がここから立ち去るべきかと思い始めていたら、元樹が動く気配がした。

元樹はまっすぐ前を見つめていて、少し目を細めると口を開いた。


「……俺…、菜摘と一緒にいたい…。」


私は元樹の言葉に一瞬息が詰まった。


「もうあんなことはしねぇから…。ちゃんと…友達やるから…、だから…一緒にいさせてくれ…。」


元樹はギュッときつく目を瞑った後、私をじっと見つめてきて、私はその目にドキッとした。


「まだ…菜摘のことすげー好きだけど…、菜摘を困らせることはしねぇ…約束する。」

「も、元樹…。」

「絶対、嫌がる事はしねぇから…。お願いだから…、縁を切るのだけは…。」


「わ、分かった!!」


私は泣きそうな元樹の表情に胸がドキドキしていて、思わず考える前に声が出ていた。


「分かった。元樹の言いたい事は分かったから…、もう大丈夫。」


元樹は微妙に潤んだ瞳で私の決定的な一言を待っているようで、私は手に汗を握りながら告げた。


「友達だよ。元樹。それは、これからも…でしょ?」

「菜摘~~~…!!!」


元樹は私の返事を聞いてやっと安心したのか、いつものように抱き付いてこようとしたけど、寸でのところで腕を引っ込めて体の向きを変えた。


「と、友達だからな!!我慢……、我慢できる!!」


元樹は自分に言い聞かせるようにそう言っていて、私は一生懸命な元樹の姿にプッと吹きだしてしまった。


「あははっ。元樹、そんな必死にっ…!」

「わっ、笑うなよっ!!誰のせいでこうなってると―――!!」


元樹は笑う私を見て反論していたけど、急に顔を背けると腕で顔を隠して小さくなってしまった。

私はそれを見て笑いを収めると、何してるのかと元樹を覗き込んだ。

そうすると元樹の顔が耳まで真っ赤に染まってるのが見えて、私はその顔を見てしまったことにドキッとして、スッと体勢を元に戻す。


見なかったことにしようと思うけど、あんな顔するぐらい好かれてると分かり、平常心じゃいられない。


もう…、こんなの私のキャラじゃないから…


私は元樹の横でドキドキしながら気まずくなってる自分が嫌で、鞄を手に持つとベンチから立ち上がった。


「じゃ、私帰るね。」

「え―――!?」


私はとりあえずこの空気から逃げ出したくて、元樹に別れを告げて足を校門に向けた。

でも元樹は私のそんな気持ちに気づかず慌てて追いかけてくる。


「菜摘!だったら俺も一緒に―――」

「いいから!!今日は一人で帰りたいから!」

「でも、菜摘―――」

「いいってば!!」


私はついてこようとする元樹を振り払いたくて、声を荒げる。

これは元樹にドキドキさせられて恥ずかしくてのことだったのだけど、元樹は顔の赤い私を見て言葉を詰まらせたようで固まってしまった。


私は自分らしくない姿を見られたことも恥ずかしくて、元樹から顔を背けると「またね。」とだけ言って足を進めた。


もう!!

元樹があんな顔したりするから、こっちまで影響されてしまった。

早くいつもの自分に戻らないと…


私は自分の熱い顔を触って冷やしながら落ち着けと言い聞かせていると、後ろから走ってきた元樹に行く先を塞がれてしまった。

元樹は大きく肩で息をしながら、真剣な目で見つめてくる。


「菜摘…。」


私はこの元樹の目が苦手で、見つめられただけで居た堪れなくなって視線を逸らす。

それが元樹に何か誤解を与えてしまったのか、元樹はギュッと拳を握りしめるとジリ…と少し私に近付いてきた。


私はそれを感じていつもみたいに冗談でも返さないと…と思い、なんとかドキドキしてる自分の心臓を落ち着けようと思っていたら、ふと元樹の後ろにいる人に目が吸い寄せられて、気持ちが一気に冷めて切り替わった。


「…………ヒロ…。」


私は睨むようにこっちを見ていたヒロと視線が交わって、ヒロの隣に明日香がいたことに息が詰まった。


明日香…

なんでヒロと…?


明日香は私と元樹を見てこっちに足を踏みだしかけたけど、それをヒロが明日香の腕を掴んで止めていて、ヒロはそのまま明日香を引っ張りながら歩いていってしまう。

私はそんな二人から目が逸らせなくて、二人をじっと見つめて見送りながら胸の奥がグリ…と疼くのを感じていた。


どうしてヒロを見ただけでこんなことになるのか全く分からない…


私は元樹に影響されたさっきまでの感情がどこかに吹き飛んでいて、元樹に何度も声をかけられるまで何も耳に入らなかったのだった。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ