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隣の想い人  作者: 流音
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3、一定の距離


微妙にヒロに睨まれながら終えた夕食会から一夜明けて、私は普段と変わらない時間に家を出た。

そうして今日も暑いな…と思いながら駅までの道のりを歩いていたら、いつの間にか横にヒロが歩いていて思わず飛び退いてヒロを見てしまった。


「おはよう。いたなら声かけてよ。朝から心臓に悪いんだけど…。」

「………そっちが先に昨日から俺のこと無視ってたクセに。」

「それは…。――っていうかヒロが私に恋愛の話を振るからいけないんだよ。」

「は?なんでだよ?高校生にもなったら普通だろ?」


「あーー!!そういうのが嫌!!もう私にその手の話はしないで!気分悪い!!」


私はヒロと並ぶのをやめて早足で歩き出すと、自分の手で耳を塞いだ。

それがヒロに何か火を点けてしまったのか私を追いかけてきて、腕を掴んでくる。


「結局ナツから元樹のことちゃんと聞けなかったんだけど!!どう思ってんだよ!?」

「うるっさいな!!私が元樹のこと好きになろーがヒロには関係ないでしょ!?」

「関係どうこうの話じゃねぇよ!!俺は―――」


何か言いかけたヒロが道の先を見ると言うのをやめてしまい、私もそっちに目をやると元樹がビックリしたようにこっちを見ていた。

私は元樹の姿に助かった…と思ってヒロから腕を振り払うと、元樹に駆け寄った。


「おはよ。元樹。ヒロに絡まれててうんざりしてたから助かったよ。」

「今の……マジな話?」

「へ?」


今度は元樹が私の腕を掴んで詰め寄ってきて、私は何の話か分からず仰け反る。


「さっき俺のこと好きになったとか言ってた!!あれマジ!?」

「へっ!?好きとか言ってないけど!?」

「言った!!言ってた!!とぼけんなよ、菜摘!!」

「い、言ってないってば!!」


元樹はグイグイと私に顔を近づけてきて、私はヒロと言い争っていたのを聞かれていたのか…と汗が出てくる。

とりあえず誤解を解こうと、元樹の前に掌を広げて顔を近づけてくるのを阻止する。


「元樹、あれはヒロに対して売り言葉に買い言葉になっちゃっただけで…、違うから。全くの誤解だよ。私が誰も好きにならないのは元樹が一番良く知ってるでしょ?」


「…………そんなこと知らねぇ。」


元樹はやっと興奮が収まったのか、ブスッとすると子供みたいに拗ねて顔を背けてしまう。

私はそれを見て元樹の手を優しく引き離すと、元樹から一歩後ろに下がった。


「まぁ、理解したくないってのは昔っから言われてるけど…、これは変わらないから。ごめんね、元樹。」

「謝んなよ!?俺の事、何回フるわけ!?」

「………えーっと…、……ごめんね?」


私は元樹に注意されても謝罪の言葉しか返せなくて、つい口にしたら、元樹がウルウルと瞳を潤ませてからガバッと抱き付いてきた。


「ちっくしょー!菜摘のバカ!アホ!!でも、大好きだー!!」

「………ちょっと、公衆の面前で恥ずかしいんだけど。離れようよ。」


私が元樹を押し返そうと力を入れると、いつもより簡単に元樹が離れていって、横を見るとヒロが元樹の首根っこを掴んでいた。

その光景からヒロが元樹を引き離してくれたんだと察する。


「ヒロ。」

「お前、馴れ馴れしいんだよ。行くぞ、ナツ。」

「へ?え!?」


ヒロは元樹から手を放すと私と手を繋いで大股で歩き出して、私は引っ張られるように小走りでついていく。


「え!?ヒロ!?」


私はヒロの大きな掌に収まってる自分の手を見ながら、なんだか胸がざわざわしていて気持ち悪い。

この手のゴツゴツした感触がいけないんだと、私はなんとか握られてる手を引き剥がそうとするけど、ヒロの力が強くて放してもらえない。


もう!!何なの!?


私は手が汗でぬるぬるしてくるのも嫌で、ヒロに放してもらおうと背中を殴るように叩いた。


「ヒロ!!放してよ!」

「うるっさいな!昔はよくこうしてたろ!?喚くなよ!」

「は――――!?!?!」


私はまるで子供の時と同じだと言わんばかりのヒロの態度にムカついて、ヒロの後ろ頭を睨んで言葉を失った。


確かに小学校高学年…いや、下手したら中一の別れる直前ぐらいまで手を繋ぐことはあった…

まぁ、幼い頃からのクセが抜けなくての行為だった…ってだけだと思うんだけど…

流石に今は高校生にもなって、手を繋ぐという行為が周囲からどう見られるかぐらいの知識はある


それだけに現状が意味不明で、どうにも気恥ずかしさが勝って気持ち悪い


だから私は無理やりにでも引き剥がそうと、繋がれているヒロの手をもう一方の手で掴んだら、その上から第三者の手が重なってきた。


「お前こそっ、馴れ馴れしいんだよ!!その手、放せっ!!!!」


そう怒鳴ってヒロから手を引き剥がしてくれたのは元樹で、私は今度は元樹に手を握られて目を剥いた。

するとヒロがすぐ振り返ってきて、元樹と繋いでいない方の手を掴んでから元樹を足蹴にして言った。


「ただの友達風情がナツに触んな。気持ち悪ぃ。」

「は!?気持ち悪いのはこっちのセリフだっつーの!!舞い戻り幼馴染の分際で、しゃしゃり出てくんな!!」

「舞い戻りで何が悪い!!お前こそ、俺がいない間の場繋ぎ友達だろ!?もうお役御免なんだから絡んでくんな。」

「友達、友達連呼すんな!!俺はいつか菜摘の彼氏になる予定なんだからな!!」


「あり得ねぇよ。お前だけはない。」

「なんでてめぇにんな事言われなきゃなんねぇんだよ!?ただの幼馴染なだけのクセして!!」

「幼馴染だからって関係ねぇだろ。現にナツだって断ってんだし、さっさと諦めろよ。」

「諦めるわけねーだろ!?バカか!!!」



「~~~~~~っ!!もうっ!!いい加減にしてよ!!!!」


私は両側から手を引っ張られて口喧嘩されることにイラついて、思いっきり手を振り払ってから怒鳴った。

それにやっと二人の目が私に向き、私は二人を睨みつけた。


「こういうの本当に嫌!!二人とも馴れ馴れしく私に触らないでくれる!?高校生にもなって仲良く友達や幼馴染と手を繋ぐとかないから!!普通じゃない!」


私は手汗で気持ち悪い掌を制服で拭いながら、世間一般論を諭す。


「こういうことはちゃんと好きな人とするものだよ。安易に私なんかにするものじゃない。分かるよね?」

「分かんないね。俺は菜摘しか彼女にするつもりねぇから。」


元樹が不服そうにブスッとして言ってきて、私は元樹を見つめて返す言葉がなくなる。


……元樹に関しては…そうか…

いや、でもな…


私はこれ以上元樹に懐かれても困ることになりそうだったので、一線を引いておこうと考えた。


「………元樹、ほんとに悪いんだけど、こういうことするなら縁切るから。」

「は!?なんで!?」

「私は元樹と友達以上になるつもりはないから。そういうことを望んでくるなら、もう傍に近寄らないで。」


これには流石に元樹もきたのか、悲愴な顔をして固まってしまった。

私はこれで諦めてくれるかと思いながら、今度はヒロに目を向ける。

ヒロは至って普通に目を合わせてきて、私はその切れ長の目に少しだけ居心地が悪くなったけど告げた。


「ヒロもだよ。もう私たちは子供じゃない。あの頃の私たちじゃないんだよ。」

「………なんで?俺らがずっと幼馴染なのは変わらねぇだろ。」


ヒロの言葉に私はふと小学生の頃にふざけながら交わした約束を思い出した。


『俺らはずっと幼馴染な。これは大人になってもじいさんになっても変わらねぇから!約束な!!』

『うん!いいよ!!約束ね。ヒロは私の一番だもん!』

『おう!俺も!!』

『やった!!ずっと一緒だね!』

『うん!!ずっと一緒だ!』


幼かったあのときがいつだったか…覚えてないけど、この約束だけはハッキリと覚えている。

私はヒロもこれを覚えていたのだろうか…と表情から読み取ろうとするけど、ヒロはじっと私を見つめてくるだけで分からない。


昔ならヒロが考えてる事…すぐ分かったのにな…


私は離れてた期間が長すぎたことと、その離れてた間にお互いが変わったと感じて、やっぱり昔と同じじゃない現実に悲しくなった。


「ヒロ。幼馴染っていう関係は変わらなくても、環境は変わるよ。仲良くお手て繋いで…なんて、昔の話だよ。」


仲の良い幼馴染だった私たちの関係は、中一のあの頃までだとヒロに分かるよう告げる。



もうあの頃には戻れない



「もう幼馴染だからって一緒にいる必要もないでしょ?ヒロも折角こっちに戻って来れたんだから、色んな友達作った方がいいよ。」


ヒロは私を睨むように見つめてくるだけで、何も発さない。

私はその眼光が少し怖くて目を逸らすと道の先に足を向けた。


「それじゃ、先に行くね。」


私は二人から逃げるように足を進めて、微妙に心臓が動悸を奏でているのを聴いていた。



事実を口にしたのに、どこか納得できてない自分がいる。

それが気持ち悪くて、私は見ないフリをしようと手を握りしめた。









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