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隣の想い人  作者: 流音
2/26

1、再会


今まで当たり前のように傍にいたヒロがいなくなって4年――――

私は高校二年の二学期を迎えていた。


まだ夏真っ盛りの照り付ける太陽の下、乗り慣れた電車で学校へ向かう。

二学期初日の学校は皆どこか浮き足立っていて、休みの気分が抜けきっていないのが見て取れた。

私は夏休みといっても何も特別なことはしなかったので、一学期と変わらずにあえて同級生と騒ぐこともなく坦々と一人教室へ。


その道すがら何人かに声をかけられて挨拶だけ交わすと、教室に入るなり横から抱き付かれた。


「菜摘っ!!会いたかったぜ~!!」

「………元樹…、久しぶり。相変わらずだね。」


この暑苦しいのに抱き付いてきたのは小学校からの同級生である小泉元樹コイズミモトキで、私は元樹をいつものように押し返して彼に目を向けた。

元樹は少し茶色がかった短髪で耳にピアス、それに開いたシャツの首元からはチェーンのネックレスとチャラい風貌の男子だ。


「菜摘こそ相変わらずの塩対応だな!!変わってなくて安心したぜ~!!」

「なにそれ。安心とか意味分かんない。」

「それ!!『意味分かんない』ってのが聞きたかった!!菜摘はそうでなくちゃなー!」


元樹は再度私に抱き付いて来ようとしたので、私はガシッと元樹の顔面を掴んで阻止した。


「近い!そういうのは彼女にでもやりなよ!!」

「え~?俺には菜摘だけだって昔っから言ってるじゃん~?」

「それは昔っからお断りしてますけど!!」

「いつか気が変わるって!!な!!」

「か・わ・ら・な・い~~~!!!!」


私は両手で思いっきり元樹を押し返すと、元樹をビシッと指さして言った。


「私は誰も好きになったりなんかしないから!!諦めてさっさと次に行ってよね!?」


私はにへっと笑う元樹を一度睨んでから自分の席に移動すると、朝から厄介な奴にからまれた…と大きくため息をついて椅子に背を預けた。

そこへひょこっと、これまた小学校からの同級生である明日香が可愛い足取りでやって来た。


「菜摘、おはよ。今日も小泉君全力だね?」


私は男子の誰もが釘付けになるだろう明日香の豊満な胸のふくらみを見て、また大きくなったんじゃないだろうか…と自分の胸を見下ろして顔をしかめながら返す。


「おはよ。あの力の半分でも勉強に注げばいいのに、こっちはいい迷惑だよ。」

「ふふっ。そんな事言って小泉君に構われなくなったら寂しくなるんだよ、きっと。」

「えぇ?そんなのあり得ないから。早く彼女でも作って離れてくれるのが一番。」

「菜摘の意地っ張り~。」

「意地とかじゃないから。」


面白そうに茶化す明日香をピシャリと抑え込むと、ちょうどよくチャイムが鳴り担任が教室に入ってきた。

それを見た明日香が慌てて自分の席へと戻って行く。

そのとき何人かのクラスメイト男子が明日香を見ていて、相変わらずモテるな…と他人事のように思った。


明日香は昔っからふわふわしたお姫様みたいな子で、男子の心をわし掴む何かを持っている。

だから今まで何人にも告白されてきてるし、過去に付き合った人も複数いる。

まぁ、今はいないみたいだけど…


私はそんな明日香とこの高校に入って初めて仲良くなって、今日まで友達としての関係を築いてきた。

でもそれが、このとき教室に入ってきた人物の登場によって揺るがされようとは、思いもしなかったのだった。




「花﨑大翔です。よろしくお願いします。」


私は担任の転校生紹介の流れから現れた男子生徒に目が釘付けになって、息が止まり、胸の奥で何かが鈍く疼いたのを感じた。


「えー、花﨑君は中学一年の冬頃までこの近隣に住んでたらしく、この夏やっとこっちに戻ってこれたそうだ。知ってる奴がいたら率先して声をかけてやってくれ。」


先生の説明を聞き流しながら、私は4年前に別れたヒロと大きく違う姿に目が逸らせない。

今のヒロはどう見ても私より背が高そうで…下手すれば元樹より高いかもしれない。

それに小さくキラリと青く光るピアスに長めの前髪、だるそうに猫背な姿勢。


私は自分の知るヒロとはほぼ真逆だと感じて、きっと別人だと目を逸らした。


私の幼馴染…だったヒロは、スポーツマンでいつも親しみやすい空気を放っていた。

それこそ昔は元樹と仲が良かったんだから、元樹みたいに明るいキャラだったはずなのに…


今目に映るヒロは…、どこか空気がピリッとしていて誰も近寄れない雰囲気を醸し出している。


こんなの絶対ヒロじゃない…


それにヒロだったとしても、私はもうあのときの私じゃない…

ヒロと幼馴染になんか…戻れるわけない


私はあくまでクラスメイトとして接しようと決めると、もうヒロ…だろう男子を見るのはやめて、担任の指示に従って体育館へ移動することになったのだった。


その道中、私と同じようにヒロだと気づいたのか、元樹と明日香が同時に私に並んで尋ねてきた。


「菜摘!あれ、大翔じゃねぇの!?お前と家隣だった!!」

「……そうかもね。」

「そうかもね!?」


「菜摘、大事な幼馴染だったんじゃないの?話しかけにいかなくていいの?」

「…いいよ。わざわざ何を話すの?私、ヒロと話したいことなんてないもん。」

「菜摘…。」


驚いて目を剥く元樹とどこか呆れた表情の明日香に挟まれ、私は少しムスッとしながら本音を溢した。


「たぶんヒロであってると思うけど、あんなの私の知ってるヒロじゃないよ。そんな人に会ってなかった時間すっ飛ばして仲良く会話できるほど、私のコミュ力は高くないから。」

「菜摘…。」


「だったら俺が確かめてやるよ!ちょっと待ってろ!」


元樹はニカッと良い笑顔を残すと、だいぶ前を歩いていたヒロ…へと突進していった。

その背を明日香と見ながら、何にでも前向きな姿に尊敬すら感じる。


「小泉君、いつも全力だね。あれきっと菜摘のためだよ?」

「………あいつの性分な気もするけどね。」

「お、珍しくちょっと肯定的だね。」


明日香が嬉しそうに笑っていて、私はその顔を横目に見ながら図星をつかれたことに照れ臭い。


「……さすがに…ちょっと戸惑ってるから…。元樹や明日香がいてくれて助かってる…ってのが本音。」

「菜摘…。なんか今日可愛いね…。」


――――可愛い??


私は生まれてこの方、あまり言われたことのない言葉に明日香をガン見した。

明日香はほうと感心したような顔で小さく笑う。


「菜摘その方がいいよ。素直な姿にちょっとキュンときた。」

「なんで女の私にキュンとするの?」

「だっていつも意地っ張りな菜摘が弱いとこ見せてるんだよ!?それもこの頼りない私に!!」

「………それ自分で言う?」

「それはいいの!それより菜摘だよ!!いつもそうやって弱音見せてくれればいいのに~!」


明日香がしっかりした表情を見せたり、ブスッと拗ねたりとコロコロ表情を変えて訴えてきて、私はそんな明日香の方が可愛いと思いながら明日香の頭を撫でた。


「明日香は可愛いね~。ずっと私の癒しでいてね~。」

「ちょっ!!話逸らさないでよ!私だって菜摘に頼られたいのに!!」

「はいはい。いつかね。」

「いつかって!!」


私は明日香がじゃれてくる子犬みたいで笑って躱していたら、ちょうど体育館に入ったところで元樹が戻ってきた。

私はどこか渋い顔をしている元樹を見て、ヒロだったのかどうかが気になり元樹の発する言葉を待った。


「結論から言うと…、大翔だったよ。菜摘。」


ヒロ…


私はやっぱりとどこかで納得して、軽く頷いた。

すると元樹は微妙に顔をしかめながら続ける。


「あいつ、俺の事…ちゃんと覚えてた…。でも、なんかやっぱ昔と…違うんだよな…。」

「……違うって?」


明日香もヒロのことが気になるのか不安そうに元樹に尋ねる。


「なんて言ったらいいのか分かんねぇんだけど…、目の前に分厚い壁があるっつーか…。昔の話ふっても反応薄くて…さ。この俺でも間がもたなかったんだよなぁ…。」

「小泉君でそんな感じなんだ…?花崎君どうしちゃったんだろう…。」


私は二人の会話を聞きながら、ヒロを見た時の自分の印象は正しかったんだと思った。

昔のヒロからは考えられないけど、ヒロは周囲を拒絶してる。


私は離れていた4年の間に何があったんだろう…と考え込んだ。

そこへ元樹が私に目を向けて驚くことを言った。


「でもさ菜摘の話を振ったら、ちょっと顔が変わったんだよな。」

「え?」


私はそう言った元樹に注目して、大きく心臓が跳ねた。


「いや…俺の見間違いかもしれねーけど、菜摘も同じクラスなんだぜ?気づいたか?って聞いたら、ちょっと表情が緩んだように見えたっつーか…。いや、勘違いかな?」

「勘違いなわけないよ!!菜摘、花崎君とずっと長い間一緒にいたんだもんね?私たちはただの同級生だけど、きっと菜摘は違うんだよ!菜摘!やっぱり話に行こうよ!!」


明日香がまるで自分のことのように嬉しそうに顔を輝かせてきて、私は4年前の宙ぶらりん状態の別れが引っかかっていて素直に頷けない。


「俺は違うと思うけどなー。話しかけにいっても、きっと俺と同じで分厚い壁に弾き返されると思うぜ~?」

「そんなのやってみなきゃ分からないよ!菜摘、始業式が終わったら一緒に話に行こ?私と一緒なら大丈夫でしょ?」


明日香が元樹をギッと睨んでから私にすり寄るように上目遣いで見つめてきて、私は明日香にここまでお願いされると断れない。


「……分かった。話すだけね?」

「やった!!」

「えぇ~!?」


二人の相反する態度を見ながら、私はヒロに言いたい事、聞きたい事を今の内にまとめておこうと始業式の間中考える事になったのだった。






***






それから始業式を終えた後の休み時間、私は明日香に連れられてクラスメイトに囲まれているヒロの所へと赴いた。


「花﨑君!久しぶりだね。私のこと覚えてる?」


明日香がヒロの周囲にいた女子の間に割り込むと真っ先にそう尋ねて、ヒロは切れ長の目を明日香に向けると少し首を傾げた。


「やっぱり分かんないか。私、四宮明日香シノミヤアスカ。中学一年のときだけ同じクラスだったんだけど…。」

「あぁ…。明日香か…。あの頃から男子に人気だったけど、今も相変わらずみたいだな?」


ヒロは昔と違う低く通る声で周囲を見てそう言って、私は鋭いな…と思った。

明日香は「そんなことないよ~。」と笑いながら私の腕を引っ張ってくる。

それに若干抵抗していたら、明日香は有無を言わさず私をヒロの前に突き出した。


「じゃあ、花崎君!この子は誰だか分かる?」


私はヒロの目が自分に向くと感じた瞬間、サッと顔を背けた。

長い間一緒にいた過去があるのに明日香のように覚えてないって顔をされたら、きっと立ち直れない。

その逃げからくる行動だったのだけど、その心配は全く必要なかった。


「分かるも何も…、ナツだろ?久しぶり。」


低い声で昔のように呼ばれたことにヒロに顔を戻すと、ヒロは表情を緩めて薄く微笑んでいた。

私はその笑顔に4年前のことがフラッシュバックしかけたけど、グッと取り乱しそうな自分を抑え込んでいつものように返した。


「久しぶり。なんか変わったね、ヒロ。」

「はは。それはナツもだろ?何その恐い顔。お前、そんなピリピリした奴だったっけ?」

「そっちこそ、そのだらしない前髪切れば?チャラついててバカみたいなんだけど。」

「言うな~。昔馴染みは手厳しいことで。」


ヒロは昔と変わらず目尻にキュッと皺を寄せた笑顔を見せていて、周囲の女の子たちが騒ぎ出した。

私はその空気を感じ取ってこれ以上はヤバいと感じて、明日香の手をとって告げた。


「ま、困ったことがあったら聞きにくれば?その必要はないかもしれないけど。」

「は?なんで?」

「何でもない。それじゃ、お邪魔しました。」


私は素早く踵を返すと明日香と一緒に自分の席へと避難した。

後ろでは予想した通り、女子たちがヒロに私との関係を聞いて盛り上がっているのが聞こえてきて、逃げて良かった…と一息つく。

するとそれを見ていた明日香がムスッとした顔で言った。


「なんであんな意地張るの?」

「なにが?」


私は本音を溢した手前、明日香には見透かされたと分かっていたが、素知らぬ顔をして話を逸らした。

でも明日香はそれも分かっていて追及してくる。


「花﨑君、菜摘見て笑ってたよ!?すごく嬉しそうだったのに、どうしてあんなケンカ腰でしか話できないの!?」

「……ケンカ腰になんてなってないよ。」

「なってたよ!!さっきの素直で可愛い菜摘はどこにいったの!?」

「…そんなこと言われても…。」


明日香は微妙に涙目になると、私の制服のシャツを掴んでヒロの席の方を指さした。


「あれ見て!!花﨑君、大人気だよ!?どうするの!?」

「どうするって…、勝手にさせておけば―――」

「大事な幼馴染じゃないの!?」

「大事って…まぁ…。それより明日香、落ち着いて…。」


私はどんどん怒りのボルテージを上げる明日香を宥めようとするけど、明日香は「その程度なの!?」と更に顔を歪める。

するとそこへ更に空気の読めない男が乱入してきた。


「菜摘には俺がいんだからいいじゃん。大翔なんて放っておけよ。」


私の背後からのしっとのしかかる様に抱き付いてきたのは元樹で、私はすり寄ってくる元樹の顔を手で押し返した。


「暑いんだけど。」

「いいじゃん。俺と菜摘の仲だろ~?」

「誰が!?放してっ!」


「もう!!小泉君は話の邪魔しないで!!」


執拗にひっついてくる元樹とそれを引き剥がそうとする私、そしてその間で話を聞いて欲しくて声を上げる明日香。


このなんとも騒がしい私たちにヒロが注目していたなんて、このとき私は全く気づいていなかったのだった。








ナツとヒロの物語をよろしくお願いいたします。

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