1-5 オレハ、ザコニスラカテナイ
今月3話目!
只今16,000文字!
目標の54,000文字まで残り38,000文字!
案外三日に1話更新できるかも笑笑
朝食後、何だかんだあったが俺とヴィエラさんとクラトの二人と一匹は荷物を纏めてウィンブルス王国の北門まで来ていた。
・・・・・小屋のあるスラム街から数㎞歩いて。
「はぁ、はぁ、入ってきたときは眠らされてて気がつかなかったけどこの街大きすぎません?」
出発前から既に息も絶え絶えな俺はスイスイと先を行くヴィエラさんに声をかける。が、
「だらしない。この程度で根をあげてはガロティス帝国まで持たないぞ?その辺で野生のガブリンの餌になりたいのか?」
と、もう何度目になるのか分からない返事が返ってくる。
ちなみにガブリンとは、2頭身どころか1.5頭身程の頭でっかちな犬型の魔物のことで、一応肉食なのだがスライムの次に弱いといういわゆるザコモンスターだ。
それこそ子供でも、ナイフを持てば勝てる程度でガブリンによる被害は年間を通しても1件あるかないか。
ヴィエラさんはそんなザコモンスターに俺がやられると考えているようだ。
全く、舐められたものだね。
俺はこう見えても戦闘経験こそ無いが努力すれば神にすら届き得るんだぜ?
そう思っていた時期が俺にもありました。
だが俺は今生命の危機に瀕している。
他ならぬガブリンの手によって。
「グルルァア!」
ガブリンが唸り声をあげながらその鋭い牙を剥き出しにして飛びかかってくる。
「うぉっ!死ぬ死ぬまじで。今花畑が見えたって。ヴィエラさん、こんなの聞いてないんですけど!?」
俺は攻撃をギリギリで避け、後方に着地した巨大な1.5頭身の化物を見据える。
ガブリンだ。
確かに話に聞いていた通り見た目は犬、ブルドックのようだ。
だが、想像と圧倒的に違う点がひとつある。
「なんでザコモンスターの癖にサイズが俺と同じくらいなんだよ!!」
くそ、舐めてた。
異世界の子供を舐めてた。
異世界の住民を舐めてた。
このサイズの魔物にナイフを持った子供が勝つ?
地球だったら16歳の男子高校生ですら勝てねぇよ!
こいつによる被害は年間1件あるかどうか?
地球だったらそんな被害じゃ収まらねぇよ。
くそ、見通しが甘かったのは俺の方か。
魔法がある世界なんだ。
地球がどれだけ平和だったのか身に染みるぜ。
「ウウッ、ウォーンッ。」
「あ、遠吠え。おいユウト、こいつの遠吠えは特殊で半径数キロ以内のガブリンに聞こえる。早く倒さないと百匹近いガブリンが寄ってくることになるぞ?」
ガブリンの突然の遠吠えにヴィエラさんの解説がついてくる。
この状況で仲間を呼ぶだと?
確かにガブリンはスライムの次に弱いとあって、速度は人が走るより少し遅い程度だがそれが複数になったら俺死ぬぞ?
まじでヴィエラさんが言った通りガブリンの餌になっちゃうよ。
どうせ食べられるならヴィエラさんに食べられてからが良いに決まってる!
あ、勿論性的な意味ね。
「こうなったら、これを使わせてもらうぞ!」
俺はそう言ってポケットからスマホを取り出す。
「な、なんだ、あれは!?」
ヴィエラさんの反応で少しやる気も増す。
「はぁぁぁぁああ!」
カシャッ
ビクッ
「・・・グルルルラァ!」
ガブリンは生まれて初めて聞くであろう、案外大きいスマホのシャッター音に驚き、その事を屈辱に感じたのかさっきまでより殺気を放ってくる。
ドヤァ!
「ふっふっふっふっ。こうなれば俺の勝ちは揺るがないぜ!さぁ、ひれ伏せ!」
ピッ
ピピピッ
「ん?」
ピッ
ピピピッ
ま・さ・か!
警告!
ガブリンを服従させるには容量が足りません。
見たことのある表示に俺の顔から血の気が引く。
「グゴァアッ!」
「し、し、しし仕方ない。この手は使いたくなかったが、出し惜しみは無しだ!俺がこの世界で初めて編み出した奥義を見せてやる!」
俺は覚悟を決めるとガブリンがいる方向と違う方向、ヴィエラさんのいる方向へと走る。
「ギブアップ!助けてください!」
これぞ俺が初めて自力習得した、最初で恐らく最後の奥義。
"他力本願"!
女に泣きつくなんて格好悪いって?
はっ、格好良いだの格好悪いだのは命あってのものなんだよ!
生きていればいつでも挽回できるさ!
「やれやれ、ガブリン相手にこれだと先が思いやられるなっ!と。」
バシィイ!
「ギャゥッ!」
ヴィエラさんはそう言いながら飛びかかってくるガブリンの頬に手首のスナップが効いた華麗なビンタを決める。
そのまま手を髪に持っていき軽くかき上げる。
勿論ガブリンは動かない。
「何惚けてるんだ?ガブリンは雑魚だが、カンキやドラちゃんが居ない今数が集まると面倒だ。置いてくぞ?」
カンキはあのクソ猿のことで、ドラちゃんはレグルスさんたちと見たドラゴンの群れのリーダーだ。
両方ともヴィエラさんの従魔だが今回はお留守番だ。
ヴィエラさんはそのまま俺の戦闘を見学する為、椅子代わりに使っていた旅行鞄を持ち上げる。
「えぇー、いや今の何ですか?あんな巨体をビンタ一発って、ヴィエラさんってどれだけ怪力なんですか!?」
「うん?なんだ、魔力で体を覆えばこのくらい子供でもできる・・・って、あぁそういえばユウトは魔力のことを子供の頃に教えてもらってないんだったっけ。全く、どれだけ田舎でも魔物が出るっていうのに魔力のことを子供に教えないなんてとんでもない村だな。ユウトの生まれは。」
うんん?いきなり何を分からないことを・・・
あぁ、そういえばヴィエラさんは未来が見えるんだっけか。
神様のことを内緒にしようと思えば確かに地球の話はできないからそういう誤魔化し方になる。のか?
未来の俺は親から魔力のことを教えてもらっていないっていう設定を使ったのか。
「そうなんですよ。魔力って言葉は知ってるんだけど使い方が全く。」
「まぁそれは道中講義してやろう。・・・そろそろいかないと本当に面倒なことになる。」
そうして俺とヴィエラさんの二人旅は、
ピコンッ
「ぼくのこともわすれないでよー。」
俺とヴィエラさんとクラトの二人と一匹の世界を巻き込む旅が始まった。
「魔力はなんていうのかな。血?みたいな何かが体に流れてて、それを外にギュッと捻り出す感じ?雑巾みたいに。」
何てことはなくたまに魔物が襲い来るものの極々平和に過ぎていった。
だがこの旅で一つ分かったことがある。
・・・ヴィエラさんは絶望的なまでに人に教えるのが下手であった。
ピコンッ
「ごしゅじんさまー、ヴィエラなにいってるの?」
俺も何言ってるかわからん!
だが地球でライトノベルやアニメを嗜んでいた俺にはヴィエラさんが何を言いたいのかはわかる。
これは体内を巡る魔力を意識して体の任意の部分に持っていき云々だ!
俺はそうと分かれば即座に自分の内面へと意識を集める。
・・・
・・・・・
・・・・・・・?
これかな?
何か体の中心、お臍の下辺りに暖かなものを感じられた。
クイッ・・・
だが、その何かを任意の場所へ引っ張ろうとしても中々動かない。
クイクイッ・・・
あれだ、家と家の間の狭い塀の間を横綱が無理矢理抜けようとしているような、引くとその分だけ跳ね返る感じだ。
グイッ・・・
例えが独特だって?
そんなわけないだろ。十人中十一人が理解できる完璧な例えだろ!
グンッ・・・プシュッ
「おっ?」
「ん!?」
なんだ?
今何かが体から大量に抜けたような・・・
ヴィエラさんはこちらを見て目を見開いたまま固まっているし、クラトに関しては俺の首で適度な固さと柔らかさを兼ね備えていたのに、今ではカチコチになっている。
「ヴィエラさん、クラト。何かあった?」
「お、お、おまっ、お前ユウト、なんだ今の魔力は!!」
ピコンッ
「ごしゅじんさまからすごいまりょくをかんじたよー。びっくりしたー。」
「ふむ?俺から魔力?」
いまいちピンと来ない俺にヴィエラさんのご尊顔が接近する。
「あmべpk「今ユウトが一瞬放った魔力は世界最強の魔法使いのものより純度が高かったぞ?」らっb!へっ!?」
「ま、まじっすか。」
「あぁ、魔力の総量は遠く及ばないが質に関して言えば間違いない。」
なるほど。
クソ神特製ならこの世界の人間の最強より純度が高いのも頷けるのか。
・・・純度ってなんだ?
「ヴィエラさん、魔力の純度ってなんですか?」
「純度か?そうだな、言うならばガブリンの群れの中にスライムが一匹混じってるって感じかな?」
・・・聞く相手間違えたーっ!
「分かりにくかったか?なら・・・」
「あ、大丈夫です。ガブリンの群れの中にスライムが一匹混じってるって感じですか。ヨク、ワカリマシタヨー。」
ーなんだ?
今確かに神の、いや、あの憎き悪神に近い波動を感じた?
我の世界であるマナスに降りてきているというのか?
いや、それにしては小さかったな。
奴の尖兵か?
まぁいい。丁度取り戻しつつある力を確かめたかったところだ。
奴の尖兵であれ、奴自身であれこの憎しみを振りかざす機会が向こうからやって来たのだ。
くっくっく。
少し持て成してやるか。ー
「兄貴、兄貴!」
「何だ喧しい!それに俺のことは兄貴じゃなく親分って呼べと言ってるだろうが!」
「すいやせん、あに、親分!」
ユウトの魔力にヴィエラとクラトが驚いていた頃、二人と一匹が向かう先にある街道の脇の林の奥、凡そ人が寄り付かなそうな場所にあるボロい小屋に一人のヒョロっとした少年が転がり込む。
恐らく12,3歳であろう少年は小屋の扉を蹴破らんばかりの勢いで開き、二回り以上年の離れた男、親分の行動を制止する。
その余りの慌て振りに兄貴、いや、親分と呼ばれた、髪も髭も延び放題、体は長らく洗っていないのか所々黒ずんでいる厳つい顔の、いかにも盗賊ですといった風貌の男が怒鳴り返す。
親分が怒ったのはそれだけでなく、今まさにこの小屋に似つかわしくない可憐な、こちらも12,3歳であろう少女に伸ばした手が途中で停止させられたことも理由の一つだろう。
親分のその手を見て、小屋に飛び込んできた少年のまだ幼さの残る頼りない顔が歪む。
「けっ、で?何の用だ?まさか用事もないのに俺の楽しみを邪魔した訳じゃないだろう?もしそうなら、わかってるな?」
親分は少年の歪んだ顔を見て少し溜飲を下げると話を戻し、下卑た笑みを少女に向ける。
「っ。親分、用事もないのに邪魔するわけないだ、でしょう!狩り場の近くに獲物が向かってきてます!」
少年は親分が少女に向ける下卑た笑みを見て沸き上がる殺意を何とか抑え、小屋に飛び込み少女への接触を遮るために仕入れた情報を告げる。
「獲物だぁ?そんなもの他の奴引き連れて行きゃ捕らえられるだろうが。いつも通り脅せば使えそうな男は生かして、無理そうなら皆殺し。女は生かして拐えばいいだろ!俺の楽しみを邪魔した理由にしては弱いと思わないか?」
そう言い、親分の手は少女に延びる。
ガシッ
「あぁ?なんだ?」
親分の手をついに耐えきれなくなった少年が止める。
「お、親分。確かに弱いと思いますがそれは獲物のレベルを考えれば妥当だと思いました。」
「あん?強えぇのか?俺達"暴狼"の10人を連れていっても勝てないほどに。」
「いや、レベルが高いっていうのはそういう意味ではなく、女性が、ってことです。」
「ほぅ、どの程度に?」
少年の言葉に今まで手を捕まれて不機嫌だった親分の表情がだらしないものに変わる。
「親分が見たことのある一番の美人より上だと断言できるレベルです。そんなレベルの女を親分抜きで拐わせたらみんなは女は居なかったと言って使った後、証拠を消すために殺してくるかもしれないですよ?」
少年の言葉に親分の血流は一部に集まる。
「ほぅ、俺が見た最高の女は高級娼館の女だが、それ以上だと?」
「はい、間違いなく。それに兎人でした。」
「そうかっ!」
少年の最後の言葉が後押しに成ったのか親分は即座に小屋を出て小屋の周りでたむろしている仲間に聞こえるよう声をあげる。
「おぅ!おめぇら!新入りが飛びきりの上玉が狩り場に近づいているのを見つけたらしい!その女は、かの高級娼館の女よりレベルが高いという!」
「そんな女を俺は独り占めする気はねぇ!だが、無条件でおめぇらに使わせる気もねぇ!いいか、この獲物を捉えるのにより貢献した奴、貢献したと俺が判断した奴にのみ使用を許可する!しかも女は、兎人だっ!」
「「「「「おぉぉお!!」」」」」
親分は仲間の士気が高まったことを確認すると小屋に繋いでいる少女の鎖が固定されていることを確認し小屋に立て掛けてあった大斧を手に取る。
「行くぞおめぇらっ!
今夜は宴だぜっ!」
「「「「「うぉぉお!!!」」」」」
「お兄ちゃん・・・」
小屋の周りが静かになった木々の間に繋がれた少女の呟きがこだまする。
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