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「優介、財布ちゃんと持ったか?」
「うん、ばっちり!」
ゆかりお手製の「いたって普通の」朝食を食べ終え、食料調達の為に買い物に行く事になった。俺たちは3人暮らしをしている。それぞれの両親はクソ陽によってプログラムされ消去されてしまった。今思うと恋しいが、仲間がいたため孤独感を味わう事は避ける事ができた。それにしても、生活するというのはこれほどまで厳しく難しい事だったのかと感じる。
真冬。凍てつく風が俺たちを襲う。俺の手は既に悴んでおり、小指と薬指が全くつかない状態にある。俺は冬という季節は一番嫌いだ。幼少の頃はもっと雪だるまとか作って遊んでたものだが、都会の中心地となるとアスファルトを黒く染めるだけで積もるなんてことはない。ただただ寒いだけである。
「ゆかり、ちょっとマフラー貸せ。」
「えー? なんで持ってこなかったの?」
「俺のぼろぼろでマフラーとしての役割果たしてないよ。通気性抜群。」
そういうとゆかりは「はい」と不機嫌そうに頬を膨らませマフラーを渡してきた。
「さんきゅ」
デパートが立ち並ぶ巨大な交差点に着いた。車よりも歩く人の方が何百倍も多いと言えばわかるだろうか。皆ヘッドフォンか耳あてをして、マフラーを付け、手袋を付けている。こんな解放感のない、密室に閉じ込められたような服装はなんだか嫌いだ。
「今日は何買うの?」
「今日の昼と晩御飯と、明日の昼御飯かなっ。今日の晩御飯何がいい?」
「ハンバーグ!」
優介の即答。こないだも食べただろうが。
「わかった。ハンバーグね~。」
そういや、女子ってもんは、カロリーを過度に気にするものだと勝手に思ってたが、ゆかりはそうでもないらしい。それは結構俺にも羨ましかったりもする。今まで半ヒキニート生活を送っていたものだから、お腹が出てるのだ。中学生の時とかは、「着やせするタイプとか言って誤魔化す系女子」を俺は散々鼻で笑ったものだが、今ではもう人の事が言えなくなってしまっている。
そんな事を考えているとデパートの隣にあるお店に着いた。比較的お店は少し狭いものの、食品から洋服まで何でも売ってるお店だ。バカでかいデパートでうろちょろして何処かわからなくよりはよっぽどマシだが、まぁ・・・
「キーーッ!! ガシャンガシャーッ!!」
異常な音が辺りに響き、その後暫く沈黙が続く。俺は音がした方へ振り向くと、異常な物が目に飛び込んできた。
「ゆうすけええええええええ!!!」
トラックに優介が撥ねられ、電柱にぶち当たっていた。優介はすでに不気味な赤色で体全体を染め上げていた。
「おい!大丈夫か!?ちょ、病院・・・」
その瞬間、急にとまったトラックに体当たりして乗りあげられた2階バスがゆかりを踏みつぶした。
「ゆかりいいいいいいいいい!!!」
もう嫌だ。なんだこれは。目の前にあるのは両親を失った俺にとっての、先の見えない絶望だった。一切の光がなく、どこまでも真っ暗で、血の色に染められた壁にぶち当たった。
一緒に楽しく買い物をしたかっただけなのに!
俺をどうしたいんだ!クソ陽!!
俺は絶望の壁の中。始めてで最期でゆかりの言葉を聞く事ができた。
「好きだよ」
見てくれてありがとうございましたm(_ _)m