- Escape -
「おーい おじいさん~ 農業しないの~?」
「うっせぇ!」
僕は小学5年生の髙月 優介という。今日から、ネットに日記みたいなものを書いていこうと思う。最近この歳にして「ストレス」というのを感じ始め、クラスメイトから「おじいさん」というあだ名で呼ばれる事が多くなった。最近何をするにもすぐ萎えてしまい、本音を言おうにもクラスメイトの必殺の刃「おじいさん」で見事に討ち砕かれてしまう。
面と向かって話さずに、文字として残せば少しでも楽になれるだろう。僕はそう信じることにした。
×月△日 □曜日 晴れ のち 曇り
今日も皆からおじいさんと呼ばれる。すでにあだ名として定着してしまっているらしい。鍬でも持って襲ってやろうかと思うが、怒ると、
「そうかっかしねぇで。お茶でも飲んで気分落ち着けたらどうだっぺな?」
などと言われる。いや、気分落ち着けろと言われても、お前らのせいだ。100%お前らのせいだ。
そんなことはさておき、明日くらいに、好きな女子に告白しようと思う。桜野 ゆかり という。毎日の暗い僕には一生に何回かのビッグイベントである。成功すれば明日からのこの日記はきっと華やかな内容に。僕の日記を書くモチベも上がるかもしれない。逆の結果であれば僕の顔は地面にめり込むだろう。まぁいわゆる賭けだ。
告白を成功させ、なんとかいい方向に持っていきたい。彼女は僕の事をどう思っているか定かではないが、好印象であってほしい。
初日だというのに、楽しい事など何もないが、明日に期待して今日は終わるとしよう。
明日は今日よりもずっと・・・・
×月☆日 ○曜日 雷雨
今日は桜野ゆかりに告白をした。結果から言うとダメだった。昨日、底の見えない崖の綱渡りしていた脳内に急な横からの突風が吹く。落ちそうになるがなんとかこらえる。
どうやら木下 和馬とすでに付き合っていたらしい。脳内に2度目の突風が後ろから襲う。
しかし、フラれた後の「ありがとう。とってもうれしかった。」の1言で脳内大綱渡り大会をぐじゃぐじゃの大惨事にしてしまった。
僕は嫌われてはいないんだというせめてもの希望を抱いたが、それにしがみついていたって彼女はすでに付き合っている。諦めて手放すとしよう。脳内ではぐじゃぐじゃの大惨事になって景品も失い、これ以上渡る必要がないと悟った俺は諦めて崖の底へと落ちてしまった。ゆかりは諦めるが、まだ彼女探しを諦めたわけではない。崖の底から這い上がって、またチャレンジしてやるからな。
初日より暗くなってしまったが、明日から楽しい事、探そうかな。では今日はことへんで。
素敵な事が起きますように。
×月◎日 ♯曜日 雨 のち 曇り
今日はいろんな事があった。まずは暗い話から。
いつも使っているパソコンのEscapeボタンが壊れてしまったのだ。Escapeなんて全然使わないが、なぜだろう。どうでもいいけどEscapeって「逃げる」っていう意味なんだね。僕だって現実からEscapeしたいが小学生でそんな事言ってる奴がいたらドン引きされるだろう。それこそ彼女なんてまともに探せる状態ではなくなる。もちろん親からはすこぶる怒られた。幸いキーボードが2つあったため今こうして日記を書くことができている。早く新しいキーボードが欲しいものだ。
次はいい話。
算数、国語、社会のテストで満点を取ることができたのだ。お母さんは、
「こんなんで喜んでちゃ、中学生になった時大変よ?もっと勉強しなさい!」
と期待とは逆に言われてしまったが、自分の中では非常に満足だ。そろそろ勉強しなきゃまずいかなとは思うが、6年生になってから考えよう。
次もいい話。
女子の友達ができたのだ。今日から友達!というわけではないが自然な流れでなることができた。まぁ基本友達作りというのはそういうものだが。
この女子の友達をなんとかガールフレンドまでに持ち込みたい。別に中学・高校があるから焦らなくてもいいじゃんと思うかもしれないが、早くこういう経験をしてみたかったのだ。減るものじゃないし、こういうのは経験が大事だと思っている。
今日はまぁ大分明るい感じでかけたなと思う。こういう日が続けばなと思う。
では今日はこのへんで。
もっと1日1日を楽しく 明るく。
×月♪日 ∞曜日 雨
今日は休日。頼んでいたキーボードがやっと届き、コンピュータ本体へ接続する。うむ、やはりなめらかでさわり心地がいい。
なぜか脳内で「この後スタッフがおいしくいただきました」というナレーションが鳴り響く。テレビなどでポッ○ータワーなどを作り、壊してしまった後に流れるあれだ。こけて倒れている女子を見た友達が「この後スタッフがおいしくいただきました」などと言っていたこともあったっけ。随分変態質な友達を持ったものだ。中学2年くらいになると皆ああなるのだと想像すると吐き気がする。
それはさておき、新しく手に入ったぴかぴかつるつるキーボードを使って、適当に検索していると、小説が並ぶサイトにジャンプした。その中でも特に目立った「非現実的な日常」という小説タイトルに吸い込まれるようにカーソルが動き、カチッという音とともに目の前の画面が本文へ切り替わった。
僕はこんなに面白い小説を見たことがなかった。まだ完結はしてないそうだが。僕も今までたくさん小説を読んできたわけではないが、どっぷりとハマってしまいそうだ。
ー1日後ー
まだ「非現実的な日常」はまだ続いてる。作者も飽きないものだ。最も、僕も全然飽きてはいないのだが。
僕はもう高校1年生。木下 和馬と桜野 ゆかりとは別の高校になってしまったが、こっちはこっちで楽しく生活している。今書いてる日記も小説を見ながら書いている。いやぁ、このしょうせt
?月?日 ?曜日 ?
昨日かどうかも確認する手立てはないが、僕は日記を書いていた時、画面がぐにゃりと裂け、穴の中に吸い込まれてしまったのだ。連れてこられたのは何もない真っ白な世界に大きな画面があり、周りには小説?の文字が無数にある部屋のような場所だ。
ここに来る前に声を聞いた。
「ようこそ。」
「あなたは今から大きな運命を背負っています。」
「それはこのセカイを破壊してしまうかもしれないし、平和へ導く事さえできてしまう大きな使命です。yesかはいで答えて下さい。」
「ふふふ。 では、この先にあるものであなたは知ることになるでしょう。いってらっしゃい。 小説旅行へ。」
声が消えた後、体を確認すると、なんと体が足からだんだん文字になり、天上へと吸い込まれていった。これから僕はどうなるんだろうか。
「非現実的な日常」ってなんだろうか。
「異次元世界」ってなんだろうか。
そう考えていると、僕の体は消滅し(腕を残した体の感覚がなくなる)、視界はいつもの景色、パソコンの前に座っている時の景色になった。
「もう・・・なんだここ・・・逃げたいよ・・・。」
逃げたい。
そうだ、逃げたいんだ。
逃げる・・・
僕は感覚がなくなる寸前の腕をなんとか動かし、目の前にあるボタンを押すのだった。
「Escapeって、逃げるって意味だったよね」
薄れゆく意識の中、聞き覚えのある声が脳裏に鳴り響いた。
「好きだよ」
見てくれてありがとうございましたm(_ _)m