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Delete - デリート -  作者: たらこパスタ
- 非現実的な日常 リアリティア -
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- Ctrl - 2

 

 かちゃかちゃとキッチンからお皿が鳴り、おいしそうなデミグラスソースの香りがこちらまで漂っており、奥からは、

「あらー、助かるわ~」

 などという母の声が聞こえてくる。

 俺はリビングのソファーでごろごろしており、何もしてない。このままでダラダラしているのも癪なので皿洗いくらいはしようと思う。ただ今は暇なので小説の続きでも書くとしよう。


 「和馬~ ハンバーグできたよ~」

 ゆかりの1言で思考は一気に現実へ引き戻された。小説を考えながら書くというものは自分がその世界に入り込んでしまっている訳で時間はあっと言う間に過ぎ去ってしまう。おいしそうな匂いで満たされた空間にいる俺は、よだれが止まらなくなっていた。

 今日の晩御飯のメニューはご飯、普通のみそ汁、鮭の塩焼き、メインメニューのハンバーグといった普通の晩御飯である。なかなかの量を盛り付けてあるが、俺はご飯5杯くらいいけるので多分ぺろりと平らげるだろう。

 ハンバーグからの肉汁が旨く、とろけそうになる。作ったのは母なのかゆかりなのか定かではないが、わざわざ聞いて闘争心を燃やさせるのも面倒なので確かに美味いが聞かないに越したことはない。

 「どう?ハンバーグ。私が作ったの。美味しい?」

 「ああ、美味い。ありがとう。」

 どうやらゆかりだったようだ。どうせ母はこんな娘欲しいだのとぶつぶつ言ってるだろう。

 ハンバーグ2個に対しご飯を4杯おかわりをするという今までの晩御飯の2、3倍くらいは食べたんじゃなかろうか。こんな晩御飯が毎日続けばなと本心を口にしたところ顔を真っ赤に染めてソファーにあるクッションに顔をうずめている。話しかけても応答なしなので仕方なくキッチンへ行き、お皿を洗った。

 あの後何の進展もなく、ゆかりはあのままソファーでいつの間にか寝ており、「兄弟いないのに謎の2段ベッド」を使うことは結局なく、お泊まりは終わった。

 俺は小説を書くのが楽しくなり、ネットへと投稿するようになった。ゆかりも投稿しているらしい。2人とも意外と好評で、若干俺の方がコメント数が多い。まぁ、「非現実的な日常(リアリティア)」の原作者である 空野(そらの) (ひなた)には遠く及ばないが。

 『そういえば、ゆかりの小説見たことないな。あらすじだけしか。ちょっと見せて。』

 3分後くらいに返事が返ってきた。

 『はいはい。笑わ・・・ないでね?』

 『OK OK。』

 俺は胸を躍らせながら、目の前にあるタイトルをクリックする。


             「エスケープ」

 私はいつもパソコンの前に座っていて、オンラインアクションゲームをやっている。この前の大会では、全国2位になるほどやりこんでいた。

 おやつを食べながら、眠気というモンスターと戦っていたある日、どうしても倒せなかった難易度MAXのボスラッシュのラスボスを倒すことができた。言葉にできないほど嬉しい。鉛筆の芯をダイヤモンドにできたくらい嬉しい。 うん・・・。

 誰がわかるか。こんな例え。

 ラスボスには勝てたが、眠気という本当のラスボスは倒せず、ダウンしかけそうになり、キーボードの上にうつ伏せになっていたその時、音をたてて「バキバキメキ」とテレビ画面がぐにゃりと裂け、それによってできた穴は底なしの黒で埋め尽くされた吸い込まれるような・・・ ブラックホールのようなものがあった。私はその時何を思ったのかブラックホールに手を伸ばし、そのまま吸い込まれてしまった。

 気が付くとそこには



 終わっていた。

 『あの~ ゆかり?笑うも何も、まだ全然だと思うのだが。』

 『あはは・・・ まぁ頑張って続き書くよ・・・』

チロリン  メールだ。

 俺はいつものようにメールを開くと、そこには驚くべきものがあった。

 アドレスなんてしらねぇぞ。

 差出人:空野 陽

  件名:このセカイは君の手にかかっている

  本文:                    


 本文は何も書かれていなかった。急な意味不明メールに頭がついていかない。何故陽さんは俺のアドレスを知ってる。件名だけ、そして全く理解できない謎の内容。確かにゆかりの知り合いとは言ったが、ゆかりも教えたとは言ってないし、俺も聞いた憶えはない。俺の思いつく限りではアドレスを知る手段はなく、どう考えても異常だった。さらに異常なのはここからだった。

 ゆかりに聞こうとチャットを開こうとするが全く繋がらない。ゆかりの小説「エスケープ」で思い出したEscapeボタンとDeleteボタンを確認する。

 ・・・動かない。バグったか壊れたという可能性もあるが、買って1日目だ。多分ありえないだろう。そして今目の前のコンピュータで出来ることは陽さんとメールをすること(こちらからはできないが)と自分の小説を見ること(書くことはできない)である。

 どっとやる気が消え失せ、もう寝てしまおうと2段ベッドの上に登り、毛布に潜って目を閉じる。


 薄れゆく意識の中、猫のような、今にも取れそうな眼がこちらを睨んでいた。


ようこそ。


何か不思議なことが起きたようですね。


無理もありません。私はあなたの全てを知っている。


あなたが私で、私はあなたなのですから。 ふふ。


じゃあお答えしましょう。 パソコンですね。


あなたは、ある能力に目覚め、「異次元世界(リアリティア)」に(いざな)われています。


突然現れた空野 陽という存在。


繋がらなくなったパソコンとキーボード。


質問はたくさんありましょうが、今は「異次元世界」に来て下さい。


では、またお会いしましょう。


「がたっ  痛っ・・・てぇぇ・・   くない!?」

 俺は一昨日の様に2段ベッドの上から床に落下したはずだが、全く痛みを感じなかった。

 時計は6時15分をさし、秒針は氷になったかのように止まっている。

 視界は全て白黒で、色みの全くない世界が広がっていた。窓の外を見ても同様にそうだ。風も全くない。

 リビングに行くと、母がソファーに座り、リモコンをテレビに向けて固まっていた。画面にうつったバラエティ番組も白黒で固まっていた。

 今の状況を確認しようとするが、頭の整理が追い付かず、何も考えられなくなっていた。ただただそこに広がる白黒な景色を眺めているだけだった。

 廊下に出ると、唯一動いている謎の物体が浮かんでいた。まるで吸い込まれるかのような大きな穴が中心へ向かって渦を巻いている。

 そこで昨日見た夢を思い出し背筋が凍る。

 「異次元世界(リアリティア)」に(いざな)われるって・・・これか!?」

 触れなければいけないのか。少なくとも、踏み出さなければ世界は凍りついたまま何も語らない。意外と冷静に働いた頭で覚悟を決め、吸い込まれるような穴へ手を伸ばした。


真っ白なのに、どこか暗い。


何処へ向かい、この後何をするのだろうか。今はただただ導かれたレールの上を進んでゆく。


俺の生活はどうなるんだろう。


確かに俺はヒキニートだ。一生ひきこもっていたって何も変わらないのは知っている。

        

ただ俺は平和に、何も変わらず過ごしたかった。


もうちょっと甘えていたかった。


ゆかり・・・

 見てくれてありがとうございましたm(_ _)m

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