真の物語 - true story -
おい お前。 永遠の命を欲したのではないのか?
「そりゃ誰でも欲しいけどな。小説を書く事しか出来ないなんて聞いてない。優介もゆかりもいないなんて聞いてない。」
役に立たねぇのな お前。 お前が創りだした『小説』くらい最後まで書けよ。
「まさか小説が命を持って現れるとは思ってなかったけどな。で、用はなんなんだ。」
簡単な事だ。俺がお前に乗り移って小説を書く。「ある人」を天送りにする為にな。
「Delete を書いたのはお前か。」
そうだ。もう自問自答はよそう。今からお前を乗っ取る。人格が吹っ飛ばないようしっかりしておくんだな。
それ以来返事は無くなってしまった。
左手の甲にはナイフが刺さっており、右手にはDelete - デリート - が存在した。開いてみるが内容は前見た時と同じ全てがでたらめになっている。天使?悪魔?勇者?魔王?全くわからない。
とりあえず、小説が書いた小説って事はこの「Deleteにも命がある」と考えた方がよさそうだ。
とはいえどうしたらいいかわからない。以前暗闇から脱出した「痛み」は今持っているナイフと関係あるのだろうか。やってみようか。
以前来た「暗闇」は「作られる予定だった」小説の中だと仮定した俺は、Deleteを開き、一番最後である第3章である和馬とゆかりと優介が暮している場面を開く。
その上に左手を翳し、ナイフを思い切り引き抜く。
「っ・・・・ ぐあああああああああああ!!!」
「激痛」では足りない痛みと共に意識が遠のいていく。これでも「3代目」の元へ辿りつけたのなら、俺は暴走する俺の小説を止めなければいけない。耐えるしかない。
目眩よりも酷く見るものすべて残像のように薄くぼやけ、重なって見える。
「この世界のゆかりと優介。心配しなくていい。俺が死んでも俺は居るんだ。今まで迷惑かけてごめんな。」
届いただろうか。きっと届く。夕陽でオレンジ色に染められた病室は、この世界で最後に見る景色になった。
気がつけば俺は木造の2階建ての家の前に立っていた。右手には「Delete」と書かれた小説があり、左手の甲には何もなかった。
ここが俺の友達であるゆかりと義弟の優介がいるのだろうか。とりあえず確認する時間はない。この時に限って律儀にインターホンを押す暇などない。俺は思い切ってカギのかかっていない玄関を開けた。
「嘘だ。嘘だ。あいつなぜいる?小説はこんな展開なのか・・・?」
家だと思って入ったそこには360°草原が広がる大地だった。そこに居たのは血だらけの和馬を引きずっている俺だった。
「おい!お前!俺の友達に何してる!」
ゆかりでもない。優介でもない。そこいるのは小説に操られた俺と和馬だけだった。
「や・・っとわかっ・・・た・ 気づく・・のに遅すぎ・・た・・・に・・・逃げろ・・・。おm・・ガフッ・・・・敵わ・・い・・。」
やっと絞り出された言葉を最後に和馬は抵抗をやめ、体を投げ出してうなだれた。
「おい!俺! 何してる!! お前が求めたのは小説の終わりじゃないのか!!」
「この小説は誰が書いたんだ。Deleteというのは俺が書いたが、それの元になった小説を書いたのは一体どこのどいつだ?」
「俺だよ。それとこれとは関係ねぇだろう!お前が望んでるのはなんなんだ!」
見慣れた姿。聞き慣れた声。きっと3代目の陽を操った俺の小説だ。
「言ったところで知れた事だがな。俺の望みはすでに半分叶ってる。今和馬を殺したからな。後は操りきれずに失敗した優介を殺す事だ。」
「何故その2人なんだ! お前は俺を殺して小説を乗っ取りたかったんじゃないのか!」
「はぁ?てめぇ本気で言ってんのか? なあ!!」
俺の小説は既に意識を失ってしまった和馬を俺に投げつけてきた。その反動で右手に握りしめていたナイフが俺の横腹に突き刺さった。
痛みは感じなかった。「痛み」は人間が死なないようにする為の危険信号だが、今の状況では関係なかった。戦うしかない。
膝と腕をガクガク震わせ、ゆっくりナイフを引き抜き、両手で握りしめ、俺の小説に向かって構えた。
もう、俺には命は存在しない。
死人は死人なりに精一杯足掻こうじゃねぇか。




