- person of courage -
目が覚めると、前来た「現実世界」という所にいた。前の風景と同じように360°緑の草原に前と同じように横たわっていた。
いや、待てよ・・・。俺は小説と共に自殺したはずだ。「目覚める」という事はあり得ないはずだし、4代目だとしても俺は「現実世界」にはいないはずだ。
とりあえず俺は起き上がり、現状を確認するが、何もない。前回のように優介と陽がいるわけでもなく。
仕方がないので俺は真っすぐに足を進める。しかし変わらずずっと草原が続くだけだ。なんとも不思議な世界。本当に「現実」というものなのかを疑う。
もっと「現実」はビルなどが立ち並び、活発に車がいきかっている世界の事ではないのだろうか。そう思うたび「セカイ」についての疑問が次々と湧いてくる。これが{勇者}なのだろう。
20分くらい歩き続けた先に、陽が1つの分厚い本を持って立っていた。
「おい、ここはなんだ。『現実世界』じゃないだろう?」
陽は何も言わず、こちらへ近づいてくる。優介と一緒に連れてこられたあの日とは全く違う目つきで睨んでいる。
「お前、何で俺が書いていた小説を消したんだ。小説を消すってことは、お前らを殺すって事になるんだぞ。理由はともあれ、俺はお前を殺さなきゃいけない。こんな事したくなかったのになあ?」
そういうと陽は5歩さがり、目が描かれている本に手をかざし始めた。
俺は気づけば右手に白く輝く剣を持っていた。これが聖剣なのだろうか?何もかもわからないけど、俺が{勇者}ということを改めて思い知らされた。
陽が手をかざしていた本が勝手にペラペラとめくれ、数ページ開いた所で静止した。そして中から何やら物体が現れた。
「俺は生憎戦闘はできないのでな。確実に息を止めろよ。髙月 優介。」
『イエス マスター。ガガ・・・排除し・・ま・ ガガガ・・・』
優介!? いや、聞き間違えではない。目の前に現れた物体はまぎれもなく優介だった。
顔はいつも見る優介だったのだが、体半分が機械のような物でできており、手が巨大な鉤爪になっていた。
反対のほうの体は純白な服を纏っており、後ろには光輝く羽があった。
イエス マスター と言っている所から、おそらく陽から操られているのだろう。今まで平和だの思い出だのと口にしてきた俺だったが、これだけは退く事はできない。戦うしかないのだと悟った。
『標的・・・ 木下・・ガガ・・かず・・・ 』
和馬(?)はそう言うと右手に付いた巨大な鉤爪で襲いかかってきた。
俺はぎこちなく右手に握っていた剣で受け止めようとするが、さすがに剣術どころか運動もしていないただの引きこもりは剣と一緒にはじかれ、吹き飛ばされてしまった。
何が勇者だ・・。 「戦いに負ける事」も出来ないじゃないか。
「くそ陽ああああああああああああ!!」
陽に対する恨みよりも自分に対する不甲斐なさで殺意が湧き上がり、剣を優介の奥に存在する陽に向けるも、殺意だけでは倒す事も触れる事も出来ない。
なぜ勇者などしなくてはいけなくなったのか。
この剣で陽を殺したくてもこの小説の創造主である奴の前では所詮小説に書かれたいたぶられるだけの存在。奴の手のひらで転がされる存在。勝てる道理などない。
優介の鉤爪ではじかれた剣は粉々に砕け散り、剣を拾おうとした瞬間優介に背中を引き裂かれた。
今度こそ死んだ。これでいいのかもしれないが、優介を救えなかった。
許して・・・もらえないだろうな。こんな引きこもり勇者は、やっぱり奇跡なんて起きないんだ。
俺は死んだと思った。もうだめだと思った。
そんな中、陽が吐き出した 言葉を思い出した。
「お前の体は今日から、聖剣になるんだ。触れるもの皆傷つける体になってしまうんだ。」
そうだ。触れるものみんな・・・。
「バッキィ!!」
気が付けば優介の鉤爪は粉々に砕け散った。ギギギ・・・と音を立てて体半分を占めていた機械部分も粉々に砕け散った。
「え!? なにここ? うわぁ! 和馬危ないよ! 切っ先ないけど危ないよ!?」
優介が無事意識を取り戻した。恐らく服装から見て純白な服や羽の部分は{天使}の体で機械部分が{悪魔}なのだろう。茜が優介を連れ出した後一体何が起きたのだろう。
「っく・・。 勇者だからって調子こいてんじゃねぇぞ。 次ぜってー殺すからな。」
というと陽が優介の{天使}と共に光に包まれ消失した。
「現実」と呼ばれていた世界も真っ暗になり、その後風景がいつもの部屋に戻っていた。俺と優介は俺の部屋のベッドに立っており、床にゆかりが居た。
「むにゃ・・・ もう食べれまへぇん。 あ、でもそれは別腹ですよぉ・・・。」
俺が消してしまったはずの世界が戻っている。俺を恨んでいた俺はすっかり心から消え去っていた。確かに、俺が存在していれば皆を巻き込んでしまっているのには変わりないが。
ただ、{勇者}としての俺は少し好きになれたのかもしれない。やっと能力の本質に気づいたのだ。自由に操るまでにはほど遠いが、消去して逃げる事もできないのなら真正面から立ち向かおう。それが{勇者}だろう。
「優介。覚えて無いかもしれないが、お前は悪魔に堕ちかけていたんだ。」
「えぇ!? そうなの!?」
「ああ、今度は俺が{魔王}に堕ちるかもしれない。逃げたいと思うかもしれないが、すぐEscapeを押さずに{天使}として頑張ってくれ。」
「う、うん!!」
まだ3年は始まったばかりだ。結局3年が3日になった訳ではなさそうだ。
どうやら「物語が始まるのが3年後」ではなく、
「決着が付くのが3年後」という事らしい。
このネットに上げられた小説の中で小さく暴れまわる俺達。目の前に並べられた選択肢でどれだけ世界の創造主に抗えるのだろうか。俺は少し楽しみだ。
俺でも呆れるほど自己中だ。そんな俺でも救う事ができるのなら・・・
見てくれてありがとうございました^^




