- Shift - 3
「ファ!?」
目が覚め、気づくと俺はゆかりに抱きついて寝ていた。寝起きは意識が朦朧とするはずだが、この事態にはさすがの俺も眠気もふっとぶ精神的大ダメージを受ける。
午後4時半。3時間ほど寝ていたようだ。リビングに戻ると優介はソファの下で寝ていた。おそらく寝返りをした時に落ちたのだろう。俺とそっくりだ。いや、本来直さねばいけないところだろう。馬鹿か俺は。
誰も起きておらず、いつもの騒がしい我が家とは一変、ただ沈黙が流れるだけなので、テレビでも見ようとリモコンをテレビに向け、ひときわ目立った赤いボタンを押す。
『今日のテレビショピングはなんと、どんなホコリでも吸い込む事のできる掃除機です!』
『これは素晴らしいですねー。小指に乗るほど軽いし小さいし、収納スペースを取らなさそうですねー。』
『そうですねー。これは片付かない我が家に革命が起きそうd』(ブツッ
『皆さんこんばんは。お昼のニュースです。まずは最初n』(ブツッ
意味不明な掃除機を紹介するテレビショッピングと時間外れのニュースが放送されていた。なんだよ、小指に乗る掃除機って。どんな掃除機だよ。
ゴールデンタイム以外のテレビはバラエティ番組などろくにないし、唯一マシな番組もサスペンスとかそこらへんだろう。刑事物などただの引きこもりには縁も縁もない。
まぁ実際のところ俺達は作りものの刑事ドラマよりも摩訶不思議な現実に今ぶち当たっている訳だが。
そんな自問自答をしても思ったほど時間は過ぎず、暇を持て余す。しかしそのために優介やゆかりを起こすのも癪なのでもう1回寝る事にする。
パソコンを開け動画でも見ようと思ったのだが、クソ陽の件で何も出来ないただのディスプレイになっている事を忘れていた。よって何もすることがない。
再びゆかりが眠っている寝室に行く。掛け布団をまくり上げて抱き枕の様にしており、
「むにゃむにゃ・・・ ハンバーグおいしぃよぉぉ・・。」
などという寝言を言っていた。もう1回隣に行くことをやめ、俺は静かに寝室を去った。
リビングに戻り、優介が寝ているソファとは別のもう1つのソファに俺は寝る事にした。掛け布団は無く正直寒いが、仕方ないだろう。後でゆかりにこたつでも出してもらうように頼んでおこう。
「・・・のおっきな・変態スケベおね・・さんが来てるよ!?」
「ファ!?」
「お、やっと起きたか・・。晩御飯出来てるよ!? 全く・・・。揺すり起こそうとしても起きようとしないし。なんでこんなんで起きるの!?私も恥ずかしいんだけど!?」
知るかよ。そんなことよりそんな卑猥な言葉で優介と同じように反応して起きてしまった自分を恨む。くそったれ。
それにしても晩御飯できてるのか。ってことは2時間くらい寝てたのか?
とりあえず起きてからはというもの、風船の空気を抜いてるかのようにぐーぐーと鳴るこの腹をなんとかせねば。
「今日の晩御飯何?」
「ハンバーグよ。」
またかよ。もう飽きたわ。さすがの優介も今日の昼あれだけハンバーグ食べてたのだから、あいつも飽きている事だろう。
いつのまにかゆかりが寝ていたベッドで横になっていた俺は掛け布団をまくり上げ、リビングへと向かう。
テーブルを見ると、ハンバーグが7・8個ほどお皿に盛りつけてあり、ものすごいスピードでハンバーグと白米をかきこんでいた。
「ゆかり~?おかわりくれる?」
「え~?もう7杯目じゃない!?」
7杯目!?あいつの胃袋はどうなってるんだ。朝になったら20キロくらい体重増えても知らないからな。20キロは言い過ぎか。まぁ、それほどあいつは食っている。俺もそんだけ食べても太らない体が欲しい。
さすがに昨日の晩御飯、今日のファミレスと食べてきたハンバーグをまた今日の晩御飯に出されると、飽きて思うように喉を通らなくなる。
「ゆかり、ハンバーグは美味しいんだけどさ、ちょっとメニュー変えてくれないか。ちょっとさすがに飽きるわ。」
「ふーん、じゃあ何がいいの?」
「肉じゃがとか・・・ まぁそのあたりかな。」
「そっか。まぁハンバーグは優介1人で食べてしまいそうなペースだし、作るね。」
そういうとゆかりはテーブルに畳まれて置かれていたエプロンを着て、台所へと向かった。優介はあの山盛りになったハンバーグを1人で食べるのか・・・。いよいよ人間とは思えなくなってくる。
20分ほど待っていると、ゆかりは美味しそうな匂いを放つじゃがいもと鶏肉が盛られた器をテーブルに置き、「たくさんたべてねっ」と軽くウインクをしてエプロンを外した。いかん、目覚めてしまう。俺はまだそんな年頃ではないのだ。
初めてゆかりの作った肉じゃがを口にする。味付けはやや薄めで、じゃがいもの甘さを引きたてた味付けになっていて、とても美味しい。かつての母の料理と比べる事はやめておく。
「おかわりある~?」
と白米がよそわれていたお茶碗を渡すが、
「ごめーん、全部優介が食べちゃったみたい。今日炊いたのに・・・。」
うむ、あいつは人間ではない。胃袋とかそこらの問題では無い。
「優介、お前何杯食べたんだ?」
「16杯くらい? はは・・・。」
「お前大丈夫か!・・・どうやったらその胃袋にその量が入るんだ!?」
そう言うと聞いてはいけなかった質問かと思うほど優介は先ほどまで目にとまらぬスピードで動いていた腕が止まり、顔を下に向けた。
数秒経つと、優介はかなりの小声で話しかけてきた。
「実は今日寝ている時、暗闇から声を聞いたんだ。お前の能力は既に目覚めているって・・・。 暗闇に向かって『どんな能力なんだ』って聞いたら、『どんなものでも圧縮する事ができる』んだって・・・。これって、ほら、3年後に・・・ 役に立たないかな・・・?」
能力・・・? できるだけ3年後の事は考えないようにしていたのだが、能力を手に入れる事ができると言う事は・・・。勝算はある。圧縮か・・・。
「その能力の事、できるだけ考えないようにしたかったが、話すしかないか。3人でまた話し合おう・・・。」
「そっか、もしかしたら和馬も能力が手に入るかもしれないしね。」
「いや、『しれない』じゃない。多分確実に手に入る。」
そうだ。あのセカイで知ったある事実。この非現実的な日常での登場人物内での俺達・・・。
「優介、非現実的な日常知ってるよな?」
「うん。」と嬉しそうにうなずく優介。
「俺は勇者で、優介は天使なんだ。つまりあの物語上から考えると、俺達は多分堕ちるんだ。その魔王や悪魔の能力なんじゃないかな。」
「ねぇ?なにこそこそ話してるの? もしや陰口じゃないよね・・・?」
「わかったから。後で話すよ。」
つい昼に「楽しく過ごす」努力をしようと決意したばかりだが、この事実を知ったとたん俺の脳内では何かが変わった。もしかしたら勝てるのかもしれないと。確かにあのクソ陽がプログラムした能力かもしれないが。それでも賭けるしかなかった。
「よし、今まで思い出したくもなかったが、こうなったら話すしかない。ゆかりも優介も聞いてくれ。」
こうして初めての作戦会議が行われた。この3年をどれだけ有効に使えるのだろうか。主人公が辿る過酷な道のりはどんなものなのかはまだ知らないが、それでも前を向いて進むしかないと悟った。
見てくれてありがとうございましたm(_ _)m




