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「何故?」

「何故?」と尋ねる彼女

「何故?」


 「何故?」

そう言って首を傾げるのが、彼女の癖だった。

全て解りきったような顔で、それでも何か別の答を求めるように。


僕がその言葉に答えても「そう」とだけ言って話を終わらせるくせに、きっと僕は彼女が満足いく答えなんて出せてないのに、少しすると彼女はまた僕と話をしようとしていた。




彼女の言葉には、『普通』の言葉がなかった。あるのは軽い冗談と、重い言葉と、「何故?」だけ。


彼女はある日、「私は嘘つきだから」と言った。

これまでの会話にはなかった言葉だった。冗談なのか、大事なことなのか、分からなかった。

それまでは彼女の言葉が嘘なのか本物なのか分かっていたのに、この言葉だけはどうしても分からなかった。


僕は初めて彼女の言葉に答えを出すことが、できなかった。彼女の言葉の真意を汲み取ることが、できなかった。




それからの彼女に変わった様子はなく、自分が嘘つきだといったことが嘘のようだった。

その言葉の真意を知ることになったのは、その言葉の存在を忘れかけていたころだった。


突然彼女が僕の目の前から姿を消した。


本当に突然で、あっけなかった。


何の言葉も無く、もうすぐ去るような素振りも見せずに。


彼女は、紛れもなく、嘘つきだった。


彼女に会えない学校に行かなくなった。

彼女の言葉が聞こえない耳を塞いだ。

彼女の姿を捉えることができない両目を覆った。

彼女には届かない言葉を発する口を閉じた。


彼女のことを分かっていると思っていた。でも、僕は彼女のことを分かりきってるわけではなかった。思い上がっていた。

気がついたころにはもう何もかも手遅れで、後悔することしかできなかった。




彼女が突然目の前から姿を消してからしばらくして、分かったことがあった。


僕は、彼女を好いていた。


こんなにも彼女に会えないことが辛く、こんなにも彼女が恋しい。

そうして、毎日のように記憶の中の彼女に手を伸ばした。


会いたくて、でも会えなくて。そんな現実を変える力もなくて。無力な自分に苛立った。


彼女は、僕の心の中に大きな穴を開けて去っていった。






彼女がいなくても、月日は流れていく。

それでも僕が彼女のことを忘れることはなかった。


そして、とうとう彼女のいない学校から卒業することになった。

何の感慨も湧かなかった。悲しくもなく、嬉しくもない。


僕は泣いたり笑ったりしている有象無象の同級生たちを横目に見て、一人校門に向かった。

そこに立っていたのは…。



僕は最初、自分の目を疑った。強すぎる思いからきた幻覚かと思った。

だがあれは、間違いなく彼女だ。

軽く脚を開き、片手で無造作に花束を持ち、僕の方を見つめていた。


 「やぁ」


と、変わらない声で彼女は言い、こちらへ歩いてきた。


 「はい、これ。卒業祝い」


差し出された花束を受け取り、ようやく僕は声を出した。


 「何故…?」


そう尋ねると、彼女は困ったように笑った。

僕もつられて笑った。

彼女が消えて以来、はじめての笑みだった。


僕の心の中に、ようやく光が差した瞬間だった。




彼女と再会したことで、僕の中の時間は再び流れ始める。


きっと僕は、これからも彼女が持つ答えになんて辿り着かないのだろう。

それでも彼女は、そんな僕を選んだのだ。


この先続いていく未来はきっと、彼女と共にあるだろう。




―Fin―


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