君の僕
【君の僕】
目の前に、君の背中。
広くて、幅のある肩。
僕は頬杖ついて、ぼんやり眺める。
目の前に、君のうなじ。
太くてしっかりした首筋。
君が手を這わせ、ぽりぽりと掻く。
その仕草が、何とも言えない。
キスしたい。
キスしたら君は、
どんな顔するのかな。
びっくりするのかな。
びっくりして、
それで、
にっこり笑うのかな。
怒るのかな。
どんなふうに怒るのかな。
すっごく怒るかな。
ふふふ、怒らせてみたくなったな。
最近、君は僕のほう向いてくれないから。
ああ、僕って意地悪だなあ。
君には、僕だけと話して欲しい。
君の知っていることは全部知りたい。
誰も知らない君をたくさん知りたい。
僕の知ってることも全部話したい。
どうでもいいことも話したい。
そして、ほかの誰にも教えない。
ふたりだけの会話をするんだ。
だけど、ほら、
こっちを向いてくれないと、お話できないよ。
どうやったら、君はこっちを向いてくれる?
どうしたら、君はまた僕に触れてくれる?
あの時はなでなでしてくれたのに、
今はもう、知らんぷりなんだね。
冷たいね。
僕をこんなに、好きにさせたのに。
罪作りだよ。
僕はだれかのこと「好き」とか言うのが
どんなことなのかわからなかったけど、
ついさっき、これが「好き」なんだって知ったのに。
僕に触っていいのは君だけだよ。
君が触っていいのも、僕だけ。
ああ、どうしたら君は優しくなってくれるのかな。
また、腹痛起こせば、構ってくれるかな。
また子供みたいに泣きじゃくっていたら、振り向いてくれるかな。
一体どれだけ体に傷をつけたら、君は
振り向いてくれるかな。
「いち、にい、さん……」
僕の体に傷はいくつあるのだろう。
誰にも知られないよう、静かに袖をめくる。
心の分も合わせると、数えられなくなっちゃうね。
そのうち君が付けたのはいくつ?
僕が付けたのはいくつ?
嫌だな。
自傷キャラとか、気持ち悪いな。
傷つけるのは、快感にはならないよ。
痛いし。すっごく痛いし。
でも、君につけられるのは、悪くないかも。
むしろ快感?
無視されてない証拠だよね。
ね?
お願い、僕のね、付けた傷をね、君の傷で塗り替えて。
君の色で染めて、君の痛みを刻んで、塗り固めて。
君の与える痛みだけを感じていたい。
君がいなくて寂しい痛み、君が欲しくて心が潰れる痛み、君を求めて傷を増やす痛み、
僕のすべてが君じゃなきゃやだな。
やだな。やだな。
傷が滲んでいたいよ。
これは涙かな、しょっぱい。鉄の味。
君がいないのに泣いちゃだめだよ。僕。
泣いていいのは、君の前だけ。
君は許してくれたもん。
「泣きたい時は泣いてもいいんだよ」って。
母さんも、ほかの誰も許してくれなかったこと。
「もう大人なんだから」「いちいち泣かないの」
……ああ、ダメ、泣いちゃう。
僕は、強くないから。
どこかでぼろが出ちゃう。
それが君の前だったらいいのに。
恥も、苦しみも、涙も、全部、君に拭ってもらう。
それでまた明日、頑張れる。
ああ、あったかい手。大きな手。優しくて、少しゴツゴツした、君の手。
ちっぽけな僕なんか簡単に包み込んでしまう、大きな手。
いつも泣きそうな時、触れてくれた、優しい手。
ああ、欲しいよう。
君が欲しいよ。
せめて、手だけでも欲しいよ。
切り取って、頬ずりして、大事に、大事にするんだ。
そしたら、いつまでも一緒。
どこへいくにも一緒。
こっそり会える。いつでも会える。
ポケットに手をすべらせたら、君の手に触れる。
いつまでも暖かい、優しい大きな手。
僕のもの。
でも、声が聞けないなあ。
あの、体に響くような、低くて柔らかい声。
ざらざらして、ごろごろして、ふんわりして、心地よく内蔵を振動させる。
耳元で囁かれたら、僕はもう、
死んじゃうかも。
死んでもいいや。この際。
君が僕のものにできたなら。
君ごと欲しい。
ぜーんぶ欲しい。
やっぱりパーツじゃダメ。
全部ください、僕に。
代わりに、僕をまるごと全部あげる。
君の好きにしていいから。
僕は、自分のこの体、いらないから。好きにして。
僕は、君さえ手に入れば、それでいいから。
僕をあげるよ。
これが僕の「好き」なんだよ。
「好き」だよ。「大好き」。
ほかは何にもいらない。
いらないよ。
君だけ。
自傷系病みキャラでした。
最低だね☆ でも、書いちゃう☆
読んでいただき、ありがとうございます。
自傷キャラ好きの方、次をご期待。
作者のファンの方――居ないでしょうけれど、
次は頑張って、普通に読めるほのぼの系書くから……多分
待ってて……ね