一巡目 三日目 そのニ
「…………」
っ! これは夢の……。
気が付くと俺の目の前には頭の中で何度も再生されたあの光景が映し出されていた。倒れている女性とそれを前に立ち尽くす俺。そしてもう一人。着崩したスーツとハットを被った男。
「――――」
俺が何かを喋っている。しかし、その声は俺には届かない。口を動かしている事だけしか俺にわかる事はない。今これほど読唇術ができたら、と思う事も無いだろう。そうすればこの状況を少しは理解できるはずなのだろう。
「――――」
俺の近くに立っていた男の口が綻ぶのが見える。その後も俺と男は何か話しをしている様だ。
そう言えば今回の夢は中々長いな。俺としてもありがたいことだ。
「――――!」
俺の表情が強張り、男に向け何かを叫んでいる様だった。それに対して男は笑った。更に俺の表情が強張っていくのが良くわかる。俺の顔だしな。
「――そ――よ」
い、今何か聞えた……のか?
「――――!」
次も聞えるのではないかと思い、耳を澄ませた。しかし俺の声は一切として俺には聞えない。これは俺の夢なんだ。少しくらい俺の願いを聞いてくれ。
「ふふっ――ってい――君」
……聞えるこの男の声は聞える。まだ完全に聞える訳ではないにしろ、先ほどよりも確実に聞えているのは明確だ。
そして声が聞えるのと別に一つだけおかしい点があった。
「――――」
俺と喋っているはずの男は途中からチラチラとこちらを見ているのだ。そして目が合ったような感覚があった時に一度だけ、口が小さく綻むんだ。それからも喋る時は少しだがこちらをみて喋っている。そして次に男が口を開いた時、男の顔は完全にこちらを見ていた。
「さぁ、ゲームを始めようか――奏真守仁君」