ニ巡目
【十二月十八日】
気がつくと俺はベッド上で横になっていた。あの時俺は確かファネッサに撃たれて……
『やぁ、気がついたかい?』
頭に響くファネッサの声。俺は驚いて辺りを見回したが、奴の姿は見当たらない。どうもこいつ等道化ってのは頭に直接喋りかけるのが好きらしい。
『さっそくで悪いけど日付を確認してくれるかな。今日は十八日であってるよね?』
なにを言っているんだこいつは。とは思いつつ、俺は携帯で今日の日付を確認する。その数字はハッキリと十二月十八日を表示していた。
「まさか……」
『あれ、さっきまで信じてなかったのかい君。中々やるね』
どういう意味だ。
『いや、特に意味は無いよ? さ、二度目の惨劇の始まりだ』
そして俺の絶望は半ば強引にスタートした。
下に降りてニュースを見ているとき、お袋は前と同じように美咲を心配していた。しかし俺はそんな事を気にする事もなく、一日を終えた。
【十二月十九日】
今日もお袋は美咲を心配していた。前の俺は意味がさっぱりわからなかったが、もしかしたらこれはフラグなのかもしれない。しかし、どこをどうすれば未来が変わるのかが今の俺にはさっぱり見当が付かず、二日目も何一つ変わらぬ日常を過ごすことになった。
【十二月二十日】
俺はこの日、流れ通りに美咲とのクリスマスデートの約束をした。ここで約束をしないという選択肢も考えた。しかし、犯人は美咲の家に直接やってくる。となると結論は同じという事になる。
「なぁ、お前は俺にヒントとかはくれないのか?」
『それは無理だね。そんな事したら上に怒られちゃうからね。ま、別に良いじゃないか。どうせ何度でも繰り返す事は可能なんだ。少しずつ進みなよ。……じゃないと絶望が集まらないからね』
「ん? 最後の方なんて言った?」
『あぁ、いや。こっちの話』
「まぁ、ならいいんだが」
【十二月二十一日】
「無事に犯人が捕まったな」
『うん。そうだね』
今日、犯人が捕まった。そして明後日脱走する。それまで俺は待機をするつもりだ。美咲が殺される直前に犯人を捕まえてしまえば、と考えたからだ。俺は今日一日、どう犯人を捕まえるかのシュミレーションを頭の中でひたすら繰り返した。結果美咲に辺な人扱いされたのだが。
【十二月二十三日】
二十二日に何か変わったことが起きる事はなく、流れ通りに今日、犯人は脱走した。少し違うと言えば前回は台風の中での脱走だったが、今回は台風は来なかった。ただの計画的脱走だそうだ。たった数日で何が計画的なんだとも思ったが、この出来事は今俺がこれまでの世界とは別の世界に居るのだと実感するのには十分な証拠だった。
そして俺は明日に備えて大分早くベッドに入った。
【十二月二十四日】
視界が悪い。相当強い嵐の様だった。そしてそんな中、俺は一人の男の背中に包丁を突き刺した。今の俺にこの男はわからない。見たことの無い男を刺し殺したであろう俺はゆっくりと包丁の側面に顔を向ける。その包丁に写ったのは、瞳孔がはっきりと開き、満足そうに口を緩める俺の姿だった。
そして俺が瞬きをするのに目を閉じ、開いた時にその目に写ったは見慣れ天井。この時、俺は今のが夢だった事に気が付いた。
「…………」
時計に目を向けると、時刻は午前一時を過ぎたあたり。美咲たちの死亡推定時刻にはまだ時間がある……はずだった。
「美咲っ!!」
俺が美咲の家に向かうと、あろうことか玄関の鍵は開いていた。急いでリビングへと向かうと、目の前に広がるは大量の血とその上に横たわる美咲。俺は美咲に駆け寄り、彼女を抱え、そのの名を叫ぶ。俺は前にこんな夢を見た気がする。そう、夢だとこの後美咲は口を動かすんだ。『ごめんね』って口だけが動くんだ。
「――め――ね……」
美咲の口が動く。掠れる声で『ごめんね』と呟いた美咲。俺はそのまま美咲を抱きしめ只……泣いた。
『お取り込み中の所ごめんね。改変の時間だ』




