一巡目 七日目 その2
「――ッ!?」
突如として聞えてきた声に驚き、辺りを見回すが誰も居ない。しかし、部屋には一つだけ変わった物があった。
「……人形?」
机の上に置いてある、ピエロの人形。ぬいぐるみの様な愛くるしいデザインではなく、子供が見たら怖がりそうなリアルな作りだった。
「なんだこれ……」
俺がその人形を触ろうとした時、人形の瞳が真っ赤に光った。
――あぁ、申し訳ない。驚かせてしまったね。
まただ、また聞える。頭に直接響いてくる声。聞き覚えの無い声。
「もしかしてお前か……?」
こんな質問をした事を思い返すと中々にぶっとんだ質問をしたものだ。
――あぁ、一応僕はこの人形ですよ。まだ素顔を見せる訳には行かないのでね。
「どういう事だ」
俺がそう聞くと、ピエロ人形は机の上を突然歩き出した。というかお前動けたのかよ。
――ところで、君はパラレルワールドと言うものを知っていますか?
唐突な事を聞いてくるものだ。パラレルワールドってあれだろ? 平行世界ってやつ
「ん、あれだろ? 幾つものみたいなのがあってそれぞれに違う世界が云々ってやつ」
俺が平行世界と言われて一番に思いついたのがこれだ。有る意味数々の可能性って感じだな。俺がもし美咲と付き合わなかったら、とかそういうの。
――あぁ、一般的にはそんなようなものです。並行世界や並行時空とも呼べます。しかし、現実はちょっと違うんですよ。
「違う? 何がだ?」
人形は机の上を歩いて居たと思うと、気がつけば俺の目の前に浮いていた。
――パラレルワールド……そんなものは存在しません。存在するのはこの一つの世界ただ一つです。
そんな事は俺ではなくどっかのお偉い学者さんにでも教えてやれ。まったく意味のわからん夢を見ているものだ。ピエロ人形が喋り、浮いた=俺の見ている夢だ。これが現実だったら卒倒物だ。
――ふふっ、夢だと考えるならそれでも良いでしょう。しかし、君は僕の事を忘れられない。恐らくしばらくはね。まぁ、夢だと思っているならこのまま話を聞いてもらいましょうか。
この世界は一つの世界です。貴方方人間が言っている平行世界と言うものの真実は『可能性』なんですよ。わかりやすく言うと、『もしも』です。もしも君がここで僕と出会って居なかったら、もしも君の両親が結婚しなかったら、もしも君が特別な力を持っていたら、……もしも僕が人間だったら。と、まぁそう言った『可能性』であって現実ではない幻想なんですよ。
と、ピエロ人形はここで喋るのを止めた。続きはないのかと待っていたら、ピエロ人形は俺の目の前から姿を消した。
――……残念ながら僕が説明できるのはここまでです。続きはいずれ、ファネッサ君に聞いてください。
「はぁ? ちょ、ちょっと待て! 一体お前……!」
――僕ですか? 僕の名前は クイ・エルネリア 皆からはエルネと呼ばれてます。それでは、どうぞお気をつけて。また会いましょう……奏真守仁君。
その言葉を最後にして声は聞えなくなった。そして俺は気がついたら机に顔を伏せて居た。もしかしてこれは本当に夢だったのかもしれない。記憶に強く残っているただの夢だったのかもしれない……




