表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REスタート  作者: 桜庭 呉羽
――FactorⅠ
11/18

一巡目 六日目 その2

 「……ん……」

 カーテンの隙間から漏れた陽の光で俺は目を覚ます。身体を起こそうとすると、二日ほど前と同じ感覚が俺の脳を襲う。だが今日の俺は前回とは違う。なんて言ったって状況を完璧に理解しているからな。

 俺は昨日、美咲が眠いと言ってから、そのまま一緒に寝た。俺はちょっとした昼寝感覚だったのだが、どうやらそのまま朝を迎えてしまったらしい。そして、俺が今動けない理由それは――

「んん……えへぇ……」

 美咲が俺に抱きついたまま動かないからだ。抱きついていると言えば聞こえは良いが、正確に状況を判断すると、美咲は俺の首に腕を回した状態で俺の下で寝ている。しかも首に回した腕は中々の強さで絞めている。二人とも仰向けで。

「ちょ、ちょっとまってく、れ」

 美咲は夢の中で俺の身体に抱きついているつもりで力を強めているのだろうが、現実は少し違う。ガッチリとホールドされている。何とか横に倒れられないものかとも試みた。

「よっ――ぐぇっ!?」

 俺が逃げようとしたと思ったのか、美咲は俺が動こうとすると腕の力を強める。なんて事だ。完全に詰んでいるじゃないか。

「……なんとかしてこの状況から抜け出す事はできないものか……」

 と、俺は一番最初にすべき事を忘れていた。今は朝、時刻は六時丁度だ。という事はもうそろそろ起きて良い時間なのだ。ましてや昨日大分早く寝たのだからもう起きていいはずなのだ。寝る子は育つって言うけどさ。美咲さんや、君は中々普通だね。

「おーい美咲ー? 朝だぞー起きろー」

 とりあえず呼びかけてみた。

「んー……? まだ食べられるよぅ……」

「何をだよ!!」

 おっと。思わず大きな声が出てしまった。いや、待てよ? 大きい声上等じゃないか。なんで俺は小声で起こそうとしてたんだよ。馬鹿かよ。

「美咲ー! おーきーろー!」

 次は今だせる限り大きな声を出して呼んでみた。寝起きなので、そこまで大きな声が出ない。その上俺は美咲と逆方向に声を発しているせいなのか、美咲はまた先ほど同じようなことを呟いた。

「というかお前はなんの夢見てんだよ……」

 抱きつきながら飯食ってんのか? 行儀悪いって言うかどうやって食べてんだお前。

「んふふー……あーん」

「あぁ、俺が食べさせてるのね」

 美咲の夢の内容が大体わかった所で本題に戻らねば。俺はどうやったら美咲を起こし、この状況を打破できるのだろうか。五分程、寝起きの頭をフルに回転させ打開策を考えた。そして俺がふと現実に意識を戻すと、どうだろう。首の次は足をロックされてしまった。これでは手しか使えないではないか。

「ん……? 手が使えるなら十分じゃね?」

 寝起きというか、そういうの関係なしに俺は相当アホだったのかもしれない。手を使って美咲を揺さぶってでも起こせばよいのだ。そうだ、それがあった。いやぁー安心安心。

「みーさーきー! 起きてー! 美咲ー!」

 俺は大声をだしつつ、美咲の身体を揺さぶった。といっても俺が上に居るので、美咲を揺らすには自分の身体を揺さぶる必要がある訳でして。

「う゛っ、あ゛っ、ぐっ! み、美咲……起きてくれ……」

 ちょっと揺さぶり方を間違えると首への力が強まってしまう。足を固定され、今の俺はプロレス技でもかけられているのではないかと錯覚できるレベルで辛かった。挙句段々首を絞める力が強くなっていくと来た。最悪俺死ぬよ、彼女に寝ながらにして殺されちゃうよ。助けて! 誰でも良い! この際お袋でも良い! だーれーかー!

 俺の心の叫びを聞いて駆けつけてくれる者など誰一人として居なかった。第一心の声が聞えてたら俺引いちゃうもん。

 などと下らない事を考えていると、段々と首を絞める力が弱まっていった。

「や、やった……山を越えた……!」

 グラフなどである上がる所まで上がって下がっていくあれだ。あれに入ったのだ。このまま絞める力が下がっていくのを待ってなんとしてでも抜け出してみせる!

 そして数分後、俺は何とか抜け出す事ができた。冬場に汗だくになると言う代償によって。

 朝食を食べようと下に降りようとしたら、携帯にメールが届く。

『今日休校らしいぞ? 知ってた?』

 同じクラスの男子から休校を知らせるメール。そんなものは俺が知っているわけが無い。さっきまで美咲と格闘していて学校の事を考える隙がなかったのだから。

「なぁ美咲、今日休校って知ってたか?」

 美咲に問うと、美咲は少し間を空けて頷いた。

「……台風かな」

「はぁ?」

 美咲が突然意味のわからない事を言うので、思わず素っ頓狂な声をだしてしまった。なんとも恥ずかしい。美咲は表情を変えずに窓の方へと向かい、カーテンを開く。すると何故今まで気がつかなかったのかが不思議になってくるくらい大きな雨音が部屋に響いた。雨風が窓ガラスを叩く。もしかしなくても雹が混じっている。雨だけではこんな音はしないはずだ。

「……これじゃ何か起こっても誰も気がつかないよね」

「え? あぁ……」

 美咲は台風を言い当てた所から表情を変えずにそう言った。少し前までの俺だったら大した意味は無いと流せるのだが、今の俺にはどうも裏がある様に聞えてしまう。しかし今はそんな事を考えても仕方ない。

「美咲、とりあえず飯にしよう。な?」

「え? あぁ、うん」

 俺が美咲に触れた途端に美咲の表情が変わった。はっきりとは言えないのだが、いつもの美咲に戻った。それだけはわかった。

 それから俺達は下に降り、朝食を食べながら今日の過ごし方を話し合った。過ごし方と言ってもほとんどは美咲が、だ。いくら隣だからと言ってもあんな状況の中外に出るのは危険過ぎる。

「じゃ、とりあえず明日まで美咲ちゃんは家で過ごしてもらう事になっちゃうんだけど構わないのかい?」

「はい! 一向に構いません!」

 お袋の問いに美咲は勢い良く答える。

「じゃあ客間空けるわね。今日も守仁の部屋じゃ……ねぇ?」

 あんたはそれを本人に問うのか。ねぇって言われてもなんて言えば良いんだ何を。

「あ、私は別に守仁君の部屋でいいですよ! 守仁君じゃ手を出す度胸も無いので!」

 いや、決め付けんなよ。いや、無いけども。反論できないけども。

「お、おう。無いぞ。これっぽっちも」

 俺がそう言うとお袋はやれやれと言った表情で溜め息をつく。一体俺が何をしたって言うんだ。ナニもしていないんだぞ。

「じゃ、とりあえず布団は……いらないか」

「はい! もちろん!」

「えぇー……マジですか……?」

 俺は明日の朝も冬場に汗だくにならにゃいけないのか。覚悟決めないとな。今日ちょっと運動しようかな。あぁ、台風で外出れないじゃん。

 お袋と美咲は俺が詰みが確定している間に色々と話を進めていた。できれば俺も話に入れて欲しいかなーって。思っていた時期が僕にもありました。しかし、お袋と美咲の間に入れるほどコミュ力高くはない。とりあえず珈琲でも一杯頂こうかな。

 『現在、突然の台風の影響で各地で多大な被害が見られています。』

 ほう。やっぱり突然の直撃なのか。昨日まで一度も報道されてない訳だ。

 『瓦、看板などが飛んできた、と言った事故も増えています。屋外に行かれる場合は、十分注意してください』

 この中に外出する物好きは居るのだろうか。それに物が飛んで来るのであれば家に居ても十分注意は必要じゃないだろうか。

「ね、守仁君。お部屋戻ろう?」

 俺がニュースを見ている間に二人の話は終ったようで、お袋は既に居らず、台所で洗い物をしていた。

「ん? あぁ、構わないが何かするのか?」

 生憎今これと言ってする事はない。する事がないから昨日はあのまま寝たのだ。それで今日やる事があるとも思えない。

「もっかい寝よ? 私まだ寝たりない……」

 さっきまで元気にお袋と話をしていた人間とは思えない表情だった。美咲は眠そうに瞼を擦りながら船を漕いでいた。

「あいよ。んじゃ部屋戻るか」

「うん……」

 俺は美咲と居れるだけで良いのだ。別に何かをしていなくたって良い。一緒にテレビを見たり、本を読んだり、ただ何もせず喋っているだけでもいい。だから寝ていても良いのだ。俺は美咲と一緒に居れればそれでいい。この気持ちは昔も今も変わらないものだ。

 そして俺達はさっきまで俺達が戦っていたベッドのへ入り、眠りに落ちていく。深く深く、闇に吸い込まれる様に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ