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侍女の苦難、その始まり

作者: 猫まふらー

変わらない日々とは窮屈でつまらないものだけど、変わらない日々こそ愛おしいものだということを。


私は5年前に知ったというのに。



***


「あらあら、シオン・レグリードさんじゃありませんか。こんなところで奇遇ですわね」


王の住まう王宮で侍女として働き始めて早3年。夕方のこの時間はつい気がゆるんで黄昏てしまった。

後ろから聞こえてきた甲高い声に、内心を出さないよう頬の筋肉を引き締めて振り返る。


「これは、レイナ様。私になにか御用でしょうか」


そこにいたのはレイナ・ジッグ侯爵令嬢とその使用人や取り巻きの令嬢たち。

このレイナ様は私を見かけるたびに声を掛けてくる。迷惑極まりない。


「あなたなどにわたくしが用があるとでも?」


じゃあ話しかけるなよ。


「では、仕事がありますので失礼します」


さっさと踵を返し立ち去ろうとしたのだけれど、「ちょ、ちょっと待ちなさい!」という何か焦りを含んだ声に渋々立ち止まる。もちろん顔には出さない。


「なんでしょうか」

「あなた、陛下が専用の侍女を探しているというのはご存じかしら?」

「一応は」


ここ最近侍女やメイドの間で噂になっている。国王陛下が新しい侍女を探していると。

以前まで侍女を務めていた方たちは、テロに巻き込まれ亡くなったり、襲撃への恐怖から皆やめてしまった。

噂では国王自らが侍女を選ぶのではないかと囁かれ、いまだに正妃を娶っていない若く美しい国王の侍女になり、あわよくば…!と野心あふれる御嬢さん方はいきり立っている。

権力者と侍女との恋物語なんて、物語の中だけでしょう。


「ふふん。まあ、あなたなんかが陛下の侍女になんてなれるはずないですわ!で、でも、なんならわたくしのじ、侍女にしてあげても…」

「?」


後半がもにょもにょしてて聞き取れなかった。何だか顔を赤らめていらっしゃるけど、何を言いたいのだろうか。

言い忘れていたが、このレイナ様は一応陛下の側室という立場におられる。仮にも国王様の伴侶に一介の侍女が聞き返すこともできず、どうしたものかと視線を彷徨わせるとレイナ様の後方から歩みよってくる人を見つけた。


「お話中に失礼します。レイナ様、そろそろ後宮にお戻りになるお時間では?」


後宮に住まう側室にはいくつかの規範があって、その一つに外出時間の制限がある。

側室は朝の7時から夜の7時までしか出歩いてはいけないのだ。しかも出歩ける範囲も後宮周辺のごくわずかな範囲。それ以降は部屋から出てはいけないことになっている。

今は大体6時過ぎといったところか。確かに少々危ない時間ね。


「…ええ、わかっていましてよ。ではシオン・レグリード、また会いましょう」


現れた騎士様をぶすっとした様子で睨んでから、颯爽と取り巻きを連れて去っていくレイナ様をお辞儀で見送る。顔を上げれば、レイナ様に声を掛けた男性がこちらを見下ろしていた。

黒を基調として、ところどころに赤の模様が付いたこの国の騎士団の制服を着た、まだ若そうな男。

私の視線に気づくとにっこり笑って、「侍女長が呼んでいましたよ」とやんわり背中に手を添えられ、歩くことを促される。

一緒に歩き出した男に、一緒に行くのか?と私は不信に思ったが、何やら力のある笑みに何も聞けず、結局騎士様と一緒に歩き出した。


騎士様と一緒にやってきたのは広い中庭だった。たくさんある中庭の一つで、特に奥まった場所にある。

私のほかにも侍女たちが集められていて、中庭は人でいっぱいだった。

そんな中、姿は見えないが侍女長の凛とした声が響き、場は一気に静まり返った。さすがは侍女長。


「みなさん噂には聞いているでしょうが、今回陛下の専用侍女を新しく任命することになりました。今日はその発表に集まってもらったのです」


キャァァと期待に溢れた黄色い声があがる。というか、噂は本当だったのか。

興味も期待もしていないのでぼんやりしていたら、隣にいた騎士様が動く気配がした。顔を向けると、にこっと一瞥し前へ歩いて行った。なんだ今の。

騎士様はそのまま侍女長の隣まで迷いなく歩いていく。突然現れたイケメン騎士様にまたもや黄色いざわめきが広がる。

パンパンと侍女長が手を叩き、場を鎮める。


「ではセインネル殿お願いします」


どうやら騎士様から発表されるらしい。騎士様は穏やかなイケメンスマイルを張り付けたまま話し出す。


「第一騎士団団長アルフレド・セインネルです。此度陛下の専用侍女となっていただくのは二人。まず、そちらの赤髪の御嬢さん」


団長様が指差したのは群衆の中ほどにある赤の髪。本人はまさか指名されると思ってなかったのだろう、隣の子につつかれて訳が分からないという顔をしている。

彼女は群衆に侍女長と団長様の前へ押し出された。


「え?えぇ!?」

「もう一人は・・・」


パニックになっている彼女を無視して話を進める団長。神経は図太いようだ。


「後ろのほうにいるこげ茶の髪の御嬢さん」


ほう、こげ茶。私もこげ茶だけど違うよね。こげ茶なんてよくある色だよね。なんでみんなこっち見てるの、やめて押し出さないで。

赤髪の子と私を見て一つうなずいた侍女長。ほかの侍女たちに向かい、宣言する。


「陛下専用侍女に、セラ・メロットとシオン・レグリードを任命します。以上解散!」


こうして私は陛下専用侍女になってしまった。大変不本意である。

あの後、セラと2人で連れて行かれた別室で説明を受けたのだけど。

曰く、今回陛下専用侍女を選ぶにあたっての選考基準は、いかに魔力が強く、きちんと扱えるか。

審査官は第一騎士団団長アルフレド・セインネル様。彼は触れただけでその人の魔力量がなんとなく分かるんだそう。

量が多いだけじゃあ駄目。きちんとそれを使いこなせているか、なんだけど・・・。


実は私、自分にある魔法を常にかけている。


セラも似たようなものだったみたいで、日常生活で魔法を使っていて量も申し分ないから陛下の侍女に選ばれてしまったようなのだ。

団長様の言葉によると、


「陛下の侍女たる者、自身の身も守れないと務まりませんからね。その点御嬢さん方は大丈夫ですね。魔力も申し分ないし、使い方もしっかりわかっておられるようだ」


だそうだ。こっちは隠してるってのに堂々と言い放たれて、正直イラッとした。思わず団長様に殴り掛かってしまったのも不可抗力と言えるだろう。躱されたけど。


「陛下、シオンさん。東から来てます」

「今日多いわね。陛下、お退きください」


新たな職場になって1ヶ月。襲撃者への対応もこなれたものだ。セラは魔法で不審者が近づいてきたら知らせてくれる。そして陛下に避難(実際はちょっと下がってもらうだけ)してもらい、私が襲撃者を追い払う。

護衛騎士の仕事じゃないの?と思われる方もいるだろうけど、護衛騎士にもちゃんと仕事はしてもらっている。

セラの情報通り東の窓をぶち破って黒装束の人間たちが、ひい、ふう、みい・・・11人か。

対してこちらは護衛騎士2人に、私、セラ、陛下の5人。実際戦うのは護衛騎士と私だけど。セラも陛下も戦えるんだけど・・・。セラは優しすぎて向いてないし、護衛対象が戦うとかはありえないし。

護衛騎士2人がそれぞれ戦い出したのを横目で確認して、私もターゲットを定める。


『ハゲろ』


黒装束の髪がはらはらと舞い散り、丸坊主の人間が11人出来上がった。動揺する黒装束の隙を逃さず、騎士がそれぞれの相手を切り捨てた。あと9人。


『ねえ、痛いでしょう。引きちぎれそうな程痛いでしょう・・・?』


魔法の使い方は人それぞれだけど、私の魔法は言葉が重要。痛みでろくな動きのできなくなった黒装束たちを騎士たちが冷静に切り捨てていく。あとは彼らだけで大丈夫でしょう。私は彼らに背を向けて陛下とセラの無事を確認することにした。


「陛下、セラ、怪我は・・・」

「シオンさん!!」


セラにさえぎられて咄嗟に振り向くと黒装束が1人、私に剣を振り上げていた。さっきのが効いてないってことはコイツ、魔術師か!

剣士のふりをしてて気づかなかった自分の不用心さを呪いたい。避けるのも無理そうなので、とっさにしゃがんで両手で頭をかばった。


「・・・?」


予想した衝撃が来ないので恐る恐る目を開ける。大きな背中が私をかばうように立っていた。その人は魔術師を切り捨てるとこちらを振り向いた。


「大丈夫ですか?」

「っ!大丈夫、です!」


心配そうに手を差し伸ばしているのは、かの団長様アルフレド・セインネル殿。私は差し伸ばされた手に触れることなく自力で立ち上がる。なんかこの人には対抗心というか反抗心がうずいて仕方ないのだ。


「残念だな、アル」


国王陛下が肩を落とす団長様に話しかけているけど、何が残念だったんだろう?


続く?

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