『 聞けなかった疑問 』
* ノリス視点
国王様の一言で、王妃様もソフィアさんもエリーも
ピタリと会話を止め、アルト君のほうを向いた。
その目には、僕には理解する事が出来ない熱が見え隠れしている。
そんな女性達に対して、アルト君の表情はとても暗かった。
「アルト君?」
王妃様が声をかけると、小さな声でアルト君が呟いた。
「師匠は……トゥーリを好きだと思うんだ……」
そこで何かを考えるように、口を閉ざしてしまう。
そんな、アルト君の様子を周りの皆が困惑したように見つめる。
ポツリポツリと何かを思い出すように、ゆっくり話すアルト君。
誰も、口を挟もうとはしなかった。女性達の顔も真剣な表情になっている。
「トゥーリ……顔は笑ってるのに……。
ずっと、涙を流してたんだ…… 。その笑顔も、凄く淋しそうな
哀しそうな顔で……俺、ここが凄く痛くなったんだ」
そう言って、アルト君は自分の胸を掌で押さえる。
「俺、師匠がトゥーリのそばに行くと思ってた。
でも……師匠は一度も、トゥーリを振り返らなかった……。
真直ぐ前を見たまま、旅に出た」
アルト君の言葉は、断片的で最初は意味が分からなかったけれど
それが、セツナさんとトゥーリさんの別れを意味しているんだと途中で気がつく。
「俺、師匠がトゥーリの涙に気がついてないんだと思って
師匠に教えようとしたんだ……。だけど……」
ギリッと歯を食いしばり、何かが通り過ぎるのを待ってから
話を続けた。
「だけど、師匠もトゥーリと同じぐらい辛そうな顔をしてた……」
誰も、何も言わない。いや……言えないのかもしれない。
ソフィアさんとエリーは、涙ぐんでいるし王妃様も悲しそうな顔をしていた。
「俺……。師匠がどうして、トゥーリの涙をそのままにして
旅に出たのか、今でも分からない。でも……師匠の辛そうな
顔を見てから、師匠に聞くことも出来ない……」
アルト君は、俯いていた顔を上げ
答えを求めるかのように、国王様を真直ぐ見る。
アルト君の心の中に、ずっと引っかかっていたんだろうか……。
国王様は、複雑な表情を作りながらアルト君を見つめ返していた。
「そうだな。今ここで私が答えをアルトに教えてもいいが……。
その答えは、アルトが自分で見つけるほうがいい。
なぜ、トゥーリは笑いながら泣いていたのか。
どうして、セツナはトゥーリが泣いているのを知っていながら
振り返らなかったのか」
「……」
アルト君が、不満そうな顔を国王様に向けている。
「私が、ここで答えを話したとしても
今のアルトには、半分しか理解できないだろう。
それに、私の答えが本当に正しいのか私にも分からない。
私は、その場を見ていないからな。
だから、アルトが自分で答えを見つけるのが一番いい」
国王様の言葉に、納得できない様子を見せながらも
アルト君は、しぶしぶという感じで頷いていた。
「アルト、恋をして初めてわかる事もあるのだよ」
そう言って笑う国王様は、とても優しい表情をしていた。
アルト君は、首をかしげていたけれど
数年後には、国王様の言葉の意味が理解できるんじゃないかと思った。
セツナさんの恋が、苦しいものだと知った女性陣は……。
ため息をつき、アルト君に何か聞きたそうにしていたけれど
それ以上、アルト君を悩ませる事を良しとしなかったようだ。
そして、その火の粉がサイラス様に降りかかるのは
もう暫くしてからのおはなし……。
読んでいただき有難うございます。