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刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第一章 : レンゲソウ
8/40

『 恋って怖い 』

* ノリス視点

「アルト君は、好きな人はいませんの?」




ソフィアさんが、アルト君にそんな事を尋ねていた。

今この部屋には、国王様と王妃様、ユージン様とキース様

サイラス様とフレッド様とジョルジュ様が居る。


そして、ソフィアさん、アルト君……僕とエリーと11人でお茶を飲んでいた。

普通に考えれば、僕やエリーが一緒にお茶を飲める方々ではないのだが……。


王妃様に誘われて、断る事が出来なかったのだ……。

緊張しながら、席に着いた僕達に

ソフィアさんが色々と気を使ってくれていた。


フレッド様もジョルジュ様も、席に着くことを拒否していたけれど

王妃様の、命令で一緒に席についた。


セツナさんは……ここ数日

女性達から、拷問のように食べ物を詰め込まれたせいか

この時間は、部屋にこもって出てこないらしい。

確かに……あれだけの量をお皿に盛られたら

僕だって逃げ出したいと思う……。


王妃様やソフィアさん、エリーの気持ちも分からなくもないけれど……。

ラギさんの葬儀から5日目、セツナさんは、息を呑むほど痩せていたから。

だからといって、1人が食べる事が出来る量には限りがあるのだ。


そんな感じで、はじまったお茶会は、王妃様の人柄もあるのだろう

とても、賑やかな場となっていた……主に、王妃様とソフィアさんとエリーが……。


ソフィアさんが、エリーさんに僕との出会いを聞き

居た堪れない空気を感じながら、僕は会話に加わらずに黙々と何かを食べる。


そして、僕の話が終わったら

王妃様が、ソフィアさんとジョルジュさんの事を聞いたのだ

ソフィアさんは、とても嬉しそうにジョルジュさんとの事を語り

ジョルジュさんは、気の毒になるぐらい項垂れていた。


そんなジョルジュさんをみて

フレッド様やサイラス様は

意地の悪い笑いを、ジョルジュさんに向けていたのだが……。


女性達の会話は、とどまることを知らず。

ユージン様やキース様の子供の頃の話、サイラス様の失恋の話など

男性陣にとっては、迷惑極まりない話が次々と展開されていく……。


王妃様が、国王様との話をされた時は

国王様は、とても自然に話しの流れを変えていた。

僕達みたいに、恥ずかしい話に流れが向きかけるとサラリと方向を変えるのだ。


王妃様は、その意図に気がつかず

王様との思い出話に、花を咲かすように語る。

その巧みな舵取りに、僕は憧れを感じ

いつか、国王様みたいになりたいと思ったのだった。


結局、被害にあわなかったのは、国王様とフレッド様とアルト君だけだった。


一通り、身の回りの人の恥ずかしい話を話し終えたのだろうか

ソフィアさんが、ふとアルト君の方を見て聞いたのだ。


「アルト君は、好きな人はいませんの?」とソフィアさんの問いに

みんなが、アルト君に注目する。


「好きな人? 師匠?」


アルト君の答えに、柔らかな空気が当たりに漂う。


「セツナ様は男性でしょう? 女性の方はいませんの?

 恋愛対象の方は……?」


「恋愛? 恋?」


「そう、恋ですわ!」


アルト君は、難しい顔をしながら唸った。

そして出した答えが……。


「恋いらない。女性……怖いし……」


アルト君が、顔色を悪くしていった言葉に

全員が、目を見張る。


「修羅場は、もっと怖い……」


正直、アルト君からこのような言葉が出るとは思っていなかった。


「修羅場……?」


王妃様が、興味津々な様子でアルト君に聞く。


「豹変するんだ!

 地獄を見せてやるって、叫ぶんだ!」


アルト君は、カタカタと小刻みに震えていた。

何があったんだろうか? セツナさんを巡る修羅場でも目撃したんだろうか。

エリーが、アルト君の背中をさすりながら声をかける。


「アルト君は、恋を知っているの?」


エリーが、アルト君に尋ねると

アルト君が、頷いた。


「恋って、ドロドロした殺し合いの末に

 勝ち取るものでしょう?」


「……」


部屋の中に、沈黙が訪れる……。

アルト君の、恋の定義はいったい何なんだろう……。


「あはははは」


国王様が、声を上げて笑う。国王様とは反対に

アルト君は、とても真剣な顔で話し始める。


「俺は師匠に、恋してると思っていたんだ」


アルト君の言葉に、みんなが彼を凝視する。


「どうして、そう思ったの?」


王妃様が、アルト君に尋ねる。


「恋する気持ちっていうのは、離れたくない

 ずっと、一緒にいたい気持ちだって教えてもらったんだ」


「確かに……間違ってはいないわね……」


「師匠は、俺の好きは家族に対するものだって教えてくれたけど

 俺も、そう思った。だって、俺……トゥーリとクッカを殺したいって

 思わなかったから」


「どうして……殺さなきゃいけないの?」


「恋を叶えるためには、戦って勝たなきゃいけないんでしょう?」


「えー……。うー……ん」


王妃様が、返事をどうしようか悩んでいると

国王様が、笑いながら「セツナがそういったのか?」と聞く。


「違う。ダリアさん」


「ダリアさん?」


王妃様が、初めて聞く名前に首をかしげた。


アルト君は、ダリアさんと言う人を説明してくれた。

その人は、本当に女性なのだろうかという疑問が頭に浮かぶ。


朝は、無いのに夕方になると生えてくるという髭……。

ソフィアさんぐらいの、大きな斧を振り回して雄たけびを上げ

筋肉で、服が破れるという女性……。


きっと、この疑問を抱いているのは僕だけじゃないはずだ……。

周りに視線をやると、微妙な表情のまま皆固まっている。


国王様だけは、楽しそうに微笑んでいるが……。

そんな空気を、物ともせずアルト君は話を続けた。

アルト君にとって、ダリアさんはとても印象深い人らしいと

話を聞いていて思った。


「ダリアさんが、乙女は、か弱いから

 守るべき対象なのよ! って言ってたけど。

 俺は、守らなくてもいいと思う。絶対俺より強いと思うし……」


また少し、顔色を悪くするアルト君

彼は、いったい何を見たんだろう……。


「その、ダリアさんは強いかもしれないが……。

 他の乙女は、弱いかもしれないだろう?」


「他の乙女?」


国王様が、笑いながらアルト君に答える。


「そうだ。例えば、ソフィアとかエリーとか……」


「王様! どうして私を省くのよ!」


「ああ……王妃とか?」


国王様の言いように、膨れてしまう王妃様。


「そうだね。

 ソフィアさんやエリーさんは、守らないとね」


アルト君は、コクコクと頷きながら納得したようだ。


「アルト君! どうして私は入ってないの!?」


「王妃様は、乙女なの?」


アルト君の質問に、うっと答えに詰まる王妃様……。

アルト君が真面目に聞いている分、返答に困るのだろう。


国王様は楽しそうに、王妃様を見ているし

サイラス様達は、俯き肩を震わしている。

その様子を、目を細めて不快そうに眺めながら


「女性は、いくつになっても乙女なの!」


と王妃様は断言した。その剣幕に、アルト君は少し引いていたが……。


「ダリアさんと……同じ事いう……」


アルト君の言葉に、ダリアさんと言う女性かもしれない人と

同じだといわれた王妃様は、肩を落として黙ってしまった。


「アルトは、乙女とはどんな女性だと?」


「えっと……未婚の女性?」


「ああ、間違ってはいないな」


「王妃様、もう結婚してるでしょう?」


「……そうですね……」


そう言って、自分のお皿の上にあるお菓子を

口に詰め込み始める王妃様を、アルト君が不思議そうに見つめていた。


僕とエリーも、結婚してはいたけど

金銭的な理由で、腕輪をしていない……だから、アルト君は

僕達が結婚している事を知らないのだろう。


エリーの方を見ると、何も言うなという視線を僕に送っていた……。

乙女であるか、ないかは女性にとって重要な事のようだ……。


「アルト君はどうして、恋がドロドロしたものだと思ったの?」


エリーが、アルト君のお皿にお菓子を置きながら話を元に戻す。


「ダリアさんが、愛の物語だという本の内容を教えてくれたんだ」


そう言って、その時に聞いた本の内容を語ってくれるアルト君……。

話が進んでいくと、とても重たい空気が……部屋の中に漂っている。


そのドロドロとした展開に

顔を引きつらせている、ジョルジュ様とフレッド様。


楽しそうに聞いているのが

国王様と王妃様に、ソフィアさんにエリー。


サイラス様は、おっかねーと呟き腕を摩っている。

ユージン様とキース様は、何かを言いたそうに

サイラス様に、視線を向けていた。


アルト君の語る、愛の物語だろうと思われる話は簡単に言うと

恋人だった人を捨て、新しい恋人と旅に出ようとしたところを

捨てた恋人に見つかり、刺されて殺される話だった……。


なぜ……こんな子供に聞かせる話に

その本を選んだのか……僕には理解できない。


「でも、俺……殺すなら恋人じゃなくて

 相手の女だと思ったんだけど、ダリアさんは

 自分の手に入らないなら、殺して自分のものにするのよ!

 って言ったんだ。だけど、好きな人を殺したら、逢えないでしょう?」


「……」


ああ……だから、アルト君はトゥーリさんとクッカさんを

殺せないって言ったのか……。


「恋って怖いよね?

 だから、俺、恋いらない」


確かに、恋はいろいろな意味で……怖いものだけど……。

真剣な表情で、全員に問うアルト君に……僕は何もいえなかった。


アルト君の、この手に関しての知識は、相当偏っているのが分かった。

ダリアさんという女性? がきっと全ての元凶なのだろう……。


アルト君の、ある意味正しく。しかし、根本的に間違っている

恋と言うものに対して、王妃様とソフィアさんとエリーが

話し合っている。どうやら、アルト君に読ませるための本を決めているようだ。


正直僕は……アルト君が、恋を自分で知るまでそっとしておいたほうが

いいと思うのだけれど……。


白熱している会話に、入っていける勇気など僕には無かった。

その白熱している会話を止めたのは……国王様の一言だった。


「アルト、セツナの恋もドロドロしていたのかな?」




読んでいただき有難うございます

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
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活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
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