『 お城での出来事 』
失敗したと思ったのは城についてからだった……。
この4日間、色々な意味で神経が高ぶっていた僕は
眠る事も出来ず……。強盗や冒険者をギルドの牢屋に送りながら
ラギさんの眠る場所が、寂しく見えて……ひたすら花を植えていた。
僕の自己満足なのは分かっていたけれど。
動いてないと、何かに押しつぶされそうだったから……。
気がついたら、水分は取っていたけれど食事はとっていなかった。
食べたいという、欲求すらなかったのだから仕方が無いと思う。
サイラスが、酷い姿だと言ったけれど話半分に聞いていたし
自分の姿が、どうなっているかなんて
気にしている余裕がなかったのかもしれない。
サイラスとアルトに促されるまま、城まで来たのはいいけれど
着替えて来ればよかったと、城についてから思った。
4日間、動き続けて泥だらけなのだ……。
これで、国王様に会うとか、さすがに失礼に当たる。
そう思い、サイラスに着替えに戻ると伝えようとした瞬間……。
2人分の、悲鳴が聞こえた……。
「なんていうこと! セツナ君! どうしてそんなにやせているの!」
「セツナ様! どこかお怪我を!?」
王妃様とソフィアさんは、アルトを探していたらしい。
アルトを見つけて、一目散に走ってきて……僕を見て悲鳴を上げた。
王妃様も、ソフィアさんも青い顔をしている。
怪我などしていない事を伝えると、王妃様もソフィアさんも
ホッと息をついて……2人で何かを話し出した。
2人の悲鳴を聞きつけて、ユージンさんやキースさん達が駆けつけてきて
そして、彼等が来るという事はもちろん
ジョルジュさんや、フレッドさんも居るわけで……。
みんな僕を見た瞬間、息を呑んで目を見開いていることから
サイラスの言った通り
僕は本当に酷い姿をしているらしいと、ここで気がついたのだった。
皆が僕を凝視する中、やっぱり1度戻って出直そうと思い
「申し訳ありません、1度戻って着替えてきます」というより早く
「帰さないわよ、セツナ君……」
そう言って、王妃様が僕の右腕をとった……。
汚れますよっと声をかけようとした瞬間
「帰しませんわ、セツナ様
帰ったら、暫く来ない気がしますもの」
とソフィアさんも、僕の左腕を取った……。
2人の行動に驚き、固まっていると
王妃様とソフィアさんが、視線を合わせ頷き
僕を引っ張っていく。僕は慌てて、彼女達を止めようとするが
「ちょっと、ちょっと待ってください!
僕、泥だらけなんですが!」
「だから、お風呂に入るのよ!」
「お風呂場が汚れますよ!」
「お風呂は、汚れを落とす為の場所ですわ」
王妃様とソフィアさんが、抵抗している僕を引っ張る。
何処にそんな力があるんですか!? と僕は言いたい。
「え!? いえ、一旦帰ってまた来ますから!」
「駄目よ、何処で入っても一緒でしょ。
私の騎士がこんなに、よれよれになって帰ってくるなんて!」
よれよれ……。確かに、よれよれかも知れないけれど
よれよれ以前に、僕は、王妃様の騎士ではないんですが……。
そう告げようと口を開いた瞬間、左側のソフィアさんが
「そうですわ、セツナ様……。
私の王子様のイメージが……」
え……? え!? ソフィアさんの王子様はジョルジュさんでしょ!?
王子様のイメージ、ジョルジュさんでいいじゃないですか!
大体、本物の騎士も王子様もいるのに
それを僕に求めるのは、どうかと思うんですが、などと
つっこみたい所はたくさんあるのだけど、2人の剣幕に押され歩かされる。
左右から聞こえる、2人の会話に口を挟む隙もない……。
少し慌てながら、視線を感じたほうに目を向けると国王様と目があった。
謁見室から執務室に、移動するところだったようだ。
「助けてください」と目で訴えた僕に、国王様はやんわりと笑い首を横に振った。
「私では無理だ」そう瞳が語っている……。連行されている途中で
大臣や将軍とも会ったのだが、大臣達は可哀想な子を見る視線で
将軍は、殴りたくなるような顔で僕を見送ってくれたのだった……。
そして僕は、お風呂場まで連行され。
服を脱がしにかかる、王妃様を風の魔法で縛り
王妃様とは違い、乙女そのままの反応を見せているソフィアさんに渡し
2人を追い出してから、諦めてお風呂を借りた。
浴槽は広く、とてもいい香りがして心が休まる。
アルトに色々教えていた、ダリアさんじゃないけれど
女性の勢いは侮れないと、初めて実感した僕だった。
お風呂から上がると、服が一揃えおいてある。
それを広げてみると、王妃様の趣味が丸分かりの服だった。
もちろん僕は、カバンから自分の服を取り出し
王妃様が用意した服を着ることはなく
その服を、着なかった事で王妃様が少し拗ねた。
こういう服は、自分の息子に着せればいいと思う。
そう伝えると、ユージンさんが「止めてくれ!」と叫び
キースさんとサイラスは、そっと王妃様の視界から消えた。
そして、ソフィアさんが口を開こうとしたのを
フレッドさんが、慌てて手で口を塞ぎ黙らせる。
ジョルジュさんは、王妃様の持っている服を
青い顔をしながら、見つめているのだった。
- End -
読んでいただき有難うございます。