『 建国祭での短編集 』
セツナと王妃の打ち合わせの話です。
短くて本当にすいません……。
『 建国祭での短編集 』
* 召喚呪文? *
「僕を呼び出すための言葉ですが……」
僕は少し、ぐったりしながら王妃様と建国祭の打ち合わせをしていた。
この衣装を着て欲しいとか、この言葉を言って欲しいとか
演劇でもするんですか? という感じの要望に
僕の顔は引きつったまま、戻らなくなるかもしれない。
そんな僕を、全く気にすることなく楽しそうに計画を詰めていく王妃に
ため息が漏れつつも、無理なく笑っている王妃を見ると
仕方ないかと言う気になってしまうのである。
「セナ君を呼び出す呪文!?」
「……」
「呪文~。ちょっと謎っぽいよね?」
瞳をキラキラさせながら、僕の言葉を脳内変換してくれる王妃に言葉が出ない。
あえて、そこは気がつかない振りをする。
「僕の名前を呼ぶだけで、魔道具が発動するように魔法をかけておきますから」
「……」
僕を呼び出す言葉が僕の名前だと告げた瞬間、王妃の顔が不満げにゆがむ
その不満を聞きたくは無かったのだけど……王妃は依頼主だ。
「なにか?」
王妃はこれでもかというほど、深いため息をつき
僕に、言い聞かせるようにゆっくりと理由を話した。
「あのね、セナ君。
名前を呼んで助けに来る役目は、最愛の人だけなのよ?」
「……」
「セナ君の名前を呼んで、魔道具が発動するのはどうかと思うわ」
それはそれは、真剣に語る王妃。
僕は、色々諦め王妃に告げる。
「王妃様が決めてくれていいですよ……」
僕のセリフにとてもいい笑顔を僕に向け
ここは、騎士がお姫様を守るために呼び出される場面だからかっこよくないと!
と力説し、正直それで呼び出される僕は、恥ずかしくて仕方が無いのだけど思いながらも
王妃の要望を取り入れるしかなかったのだった。
……当日、着替え中に呼び出されることになるなどとは
このときの僕には、考えもつかなかったことである。
- End -
* 魔道具 *
僕を呼び出す為の呪文? が決まり魔道具に魔力を込めようとしたときに
王妃が魔道具を見て一言。
「かわいくない」
普通、魔道具は宝石類か魔力をためやすい石などが使われることが多い。
だから、魔道具に可愛いも、可愛くないも無いと思うのだが……。
「魔道具ってこういうものですよね?」
僕が用意した魔道具は、手のひらで握れるぐらいの石で僕が作ったものだ。
「そうだけど……。
こう……もう少し大きいものとか……光るものとか?」
「……王妃様は、魔道具に何を求めているんでしょうか……」
「だって、普通過ぎるんですもの」
「普通が一番だと思いますよ」
「そうだけど、お祭りの日なのよ!
普通じゃなくてもいいと思うの!」
僕は、お祭りじゃなくても
王妃はきっと、可愛くない! というに決まっていると思ったけれど
それを口に出すことはしなかった。
記念になるようなものがいいとか、可愛くないと嫌だとか
色々と要望を出してくれるのはいいのだけど……具体的にどういうものがいいのか
その物自体を言わない王妃に、僕は少し面倒になりカバンの中であるものを作り出す。
「じゃぁこれで……」
変更はしないという感じでカバンから出したものに
少し首をかしげて凝視する王妃。
「セナ君、これはぬいぐるみ?」
「そうです。
可愛いでしょう?」
僕は、可愛いというところを強調する。
「うん、かわいいけど……」
「使い終わった後は、普通のぬいぐるみとしてつかえますしね」
「そうだけど……これは何?
羽があるけど鳥なの? でも、このずんぐりとした体じゃ飛べないわ?」
「この鳥は飛べませんが、とても早く泳ぐことができるんですよ」
僕の説明を楽しそうに聞く王妃、ぬいぐるみの説明が終わると
手にとって、ぎゅぅっと抱きしめる。そして僕に視線を移して
「気に入りました!」と一言。
僕は、決まったことに安堵して王妃からぬいぐるみを受け取り
そこへ魔力を注いでいく。魔力を注いだ魔道具を王妃に渡し
当日まで、誰にも見つからない場所へ隠しておくことと注意をしてから
王妃との打ち合わせが終了した。
嬉しそうに、ぬいぐるみを抱きしめて帰っていく王妃の背中を見送った後
依頼の内容はとても単純なものなのに
王妃のせいで、色々と複雑になってしまった段取りに僕はため息をつきながら
木の葉の酒場の奥の部屋で1人、冷めてしまった紅茶を口にした。
- End -
あとがきに、薄浅葱がつくった魔道具になったぬいぐるみがUpされた
アドレスが張ってあります。よろしければ見てあげてくださいませ。
イメージが壊れると思われる方はスルーして下さい。
読んでいただきありがとうございます。
薄浅黄作
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