表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第四章 : カンガルーポー
36/40

『 ミッシェルとデス 』

【 ミッシェル 】


そろそろ起きる時間かなぁって思いつつも、

外に出るのは寒いからベッドの中でぬくぬくとしていると、

デスが私の頭を葉っぱの手でパタパタと叩いた。


デスが私の家に来てから、

毎朝こうして起こしてくれるのが楽しくて、

起きていても寝たふりをしていることも多かったりする。


葉っぱの手で頭を優しく叩かれていると……二度寝しそうになるけれど……。


デスはセツナさんとアルトから譲って貰った、

貴重で珍しい魔法生物といわれる生き物だった。

人間の言葉を理解することができる植物で、

その上魔法も使えるというのだから凄いと思う。


デスが本気をだせば、

この辺りの魔物なら簡単に倒せてしまえるぐらいの力を持っていると、

教えてくれたのは風の上位精霊様だった。


出かける時はデスを連れて出かけたら安心だと教えてくれたけど、

デスを連れていると注目を集めるので、

学校にいく時はお母さんかお父さんに預けようと思っていた。


デスは私の家族も好きみたいだから、

私と離れてもきっと大丈夫と思っていたのだけど……。

デスは私から離れなかった……。


学校には連れていけないからお留守番をしていてといっても、

必死になって頭を振って私に抱きついて離れない。


どうしたものかと考えていたら、

デスがいきなり小さくなって私の服のポケットにストンと入ってしまった……。

何か魔法を使って体を小さくしたのかな?


「授業が終わるまで静かにできる?」とデスに聞くと、

「ギャ!」と返事がきたのでデスを信頼して連れていくことにした。


デスを連れていることは、

私と私の友達には教えたけれどそれ以外の人には秘密にしている。

時々……デスを譲って欲しいといってくる人がいたけれど、

セツナさんが旅立つ前にデスのことで、

何かをいわれた時の対処法というのを教えて貰っている。


簡単にいってしまえば、

「守護者様からの許可を貰ってきてください」と返事をすればいい。

すると相手は、

「今の話はなかったことにしてください」と丁寧に告げて去っていくのだ。


セツナさんはデスを私に譲ってくれたけれど、

譲渡の権利は私ではなくセツナさんにありますよということにしてくれていた。

セツナさんは私や私の家族を守るために、

そうしてくれたのだとお父さんが教えてくれた。


アルトの師匠でリシアの守護者で、

将来私が入る予定のチームのリーダーは、

とても優しい人だと思う。ちょっと怖いところもあるけれど、

それはあまり気にならない。

だって、セツナさんが怒る時は何かを守る時だって知っているから。


デスが私の頭を叩く感覚がパタパタではなくポスポスと早くなってきた。

これは早く起きて! というデスの心の焦りを表していると思う。

デスの早朝の日課はお菓子を作っているお父さんの隣に立って、

卵の殻を貰うことだから。


一度寝坊して下に降りると、卵の殻は処分されたあとだったのだ。

卵の殻を貰えなかったデスはしょんぼりと肩を落としていた。

お父さんはデスにも厳しい……。


なので……お父さんが卵の殻を処分する前に、

お父さんのところまでいきたいのだけど、

デスは絶対に私を置いて一人で下に移動しようとはしない。


何度か一人で下にいっていいよとは伝えてある。

デスが出入りできるように扉にデス専用の小さな扉を、

お父さんがつけてくれている。


私が勉強をしていたりお昼寝をしていたりする時は、

デスはその扉から自由に行き来して、兄さん達と遊んでいることも多い。

なのに……朝は私と一緒でないとこの部屋から出ることはなかった。


ポスポスポスポスという連打の音に「デスおはよう」と声をかけると、

「ギャギャ!」と返事をして頭を叩くのをやめ、

私の頬に自分の顔を押し当て挨拶をしてくれる。

私はデスのこの朝の挨拶がとてもとても好きだった。


デスが葉っぱの手を箪笥のほうに向け早く着替えるようにと私を促し、

私は笑いながらデスのいう通りに箪笥から服をだして着替える。

着替えながら机の上に置いてあるリグシグがいるガラスの箱を指でつついて、

リグシグに挨拶をしてからデスを頭に乗せて階段を下りていった。


洗面所で簡単に身だしなみを整えてから、

お父さんとお母さんに朝の挨拶をする。デスは私の頭から急いで降りて、

一目散にお父さんの隣へと移動するために走っていった。


お母さんに「おはよう」と声をかけられ「ギャ!」と挨拶をし、

調理場に入る前にデスは魔法を使い自分の体を綺麗にしていた。

デスはお父さんやお母さんが調理場に入る前に、

魔道具を使って体を綺麗にしていたのを見て、

調理場に入る前は自分も綺麗にしなければならないと考えたのだろう。

デスはすっごく頭がいいのだ!


お父さんの隣につくと「ギャ! ギャギャ!」と、

卵の殻を催促するようにデスが鳴いていた。


お父さんは最初デスに卵の殻をあげるのを渋っていたが、

デスがあまりもねだるものだから根負けして与えると、

デスの体が少しだけ大きくなった……。


多分……卵の殻はデスが成長するのに適したものだったのだと思う。


セツナさんからは何でも食べるので、

基本ほしがるものは与えても大丈夫といわれている。

それと同時にやっぱり何でも食べるので、

食べてはいけないものも教えてくださいといわれているけれど、

デスは勝手に何かを食べるような子ではなかった。


お父さんの足下でお父さんを見上げながら、

今か今かと待っているデスに「おはよう」と声をかけてから、

お父さんが卵を割り始める。

卵を割りその殻をデスへと落とすと、

デスは降ってきた卵の殻をパクリと食べるのだ。


お父さんが卵を割る音とデスが卵の殻を食べる音で、

今日も一日が始まるのだなと楽しい気持ちになっていった。


デスがきてから、私達家族の笑顔が凄く増えたと思う。

お父さんは料理をしている時はほとんど話さないけど、

デスとの時間を大切にしていることを私は知っていた。


だって、お父さんの作業の順番が少し変化していたから。

卵を使うお菓子をデスのために後回しにしたのだと思う。

デスに視線を落として時々笑っているお父さんの顔が優しい。

デスも嬉しそうに体を揺らして次の卵の殻を待っている。


そんなどこかくすぐったくなるような時間が私の宝物になった。


お母さんと一緒にお店の掃除をしながら、

私はデスと出会えたことを感謝していたのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2024年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景5 : 68番目の元勇者と晩夏の宴 』が刊行されます。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ