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刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第三章 : ゼラニウム
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『 閑話 : 名もない冒険者 』

【大会の衣装は…… :セツナ】


大会も近づいたある日、酒肴の女性達が

大会で着る衣装は用意してあるのかと聞いてきた。


用意していないなら、これを着てみる気はないかと

彼女達が手にしているものを見て、もう準備はしてあるからと

丁寧にお断りした。


彼女達が手にしている服を、他の酒肴のメンバーが目に入れて

『原色の赤色の上下とかありえないだろう!』とか

『お前らの趣味を押し付けるな』など

女性陣と言い争いになっていたけれど、僕は参加しなかった。


僕が断ったことで、僕と似たような年齢の人達に

押し付けようとしていたが、全員に断われていた。


結局その衣装は、その場に居なかった

バルタスさんに『いつもありがとう。贈り物!』といって

渡されていたが……。


『サイズがあわんとおもうのだが?』とぼそっと呟き

その衣装じっと眺めて、何とも言えないような表情をつくていた。




【大会当日:名もない冒険者】


 大会が開始されるのは、朝10時。

闘技場に入ることができるのは8時だというのに

このくそ寒い中、4時に起きて闘技場の入り口に並んでいた。

俺達と同じことを考えている奴も多いが、先頭は俺達のチームだ。


眠いわ、寒いわ、腹が減るわで苛々としてくるが

同じチームの奴が屋台から、暖かいスープとパンを買って来て

手渡してくれ苛々が少しおさまる。


「これなら、黒の隣の席の確保ができそうだね」


「そうだな」


狙う座席は、黒達に用意されている場所の隣だ!

バートルからハルまで来たのは、大会に参加する為ではなく

黒が全員そろうこの機会に、一度は見ておきたかったから。


俺もチームの奴らも、黒達が織りなす物語を聞いて

冒険者になった。もうすぐ、その憧れの人達に会えるかもしれない。

声が聞けるかもしれないと思うと、ぞくぞくするほど楽しみだ。


そして、少しでも話ができたら嬉しいのだが。


その為にはまず、席の確保!

この戦いは負けるわけにはいかない!



そんなこんなで、闘技場に入ることができ

無事に、黒達に用意されている席の隣を確保できたわけだが……。


あれだけ盛り上がっていた、チームの奴らも今は黙り込んでいる。

憧れの黒達に話しかけようと意気込んでいたのだが

黒達の纏う空気にのまれて、声をかけることなどできそうになかった。


しばらくして、そんな空気にも慣れ

仲間たちとチラチラと黒達に視線を送りながら

大会が始まるのを待っていると、場違いとしか思えない子供達が

降りてきて、一番前の席に陣取る。


そしてその子供達を守るように、黒のチームの人達が

今まで座っていた場所から移動して座り直す。


あちらこちらから入ってくる声で

彼等が冒険者志望の子供達で、その中の1人が

今回噂になっている暁の風のチームの子供だと分かった。


最近、全ての黒のチームと同盟を組んだという

チーム暁の風は碌な噂がない。どうして、黒のチームが

そんなチームと同盟を組んだのかがわからないし

正直、むかつくと言えばむかつく。


今回この大会に参加しているようだが。

暁の風のリーダーである、セツナという男が負けるのを

楽しみにしている奴も相当数いるはずだ。


俺もそのうちの1人だし。

他の奴らもそうだ。


だってそうだろ?

風使いの魔導師と青のランクの獣人の子供が

黒全員に認められるとかどう考えてもおかしいじゃないか。


何か裏があるに違いない。

それは、どの冒険者も思っていることだった。


「で、暁の風のリーダーってどいつだ?」


「俺が知るわけないだろ」


「すっごく、男前って聞いたけど」


俺達で、それらしい人間をさがいていると

隣りから子供達の声が流れてくる。


どうやらまだ、セツナは来ていないらしい。

このまま来ないかもしれない、そんなことを話しながら

大会が始まるのを待っていると、何処からか声が聞こえてくる。


俺達も、周りの奴らもその原因を探っている時に

「立つな」と言う命令に、体の動きが止まった。

その命令は、俺達にされたわけではなくアルトという獣人の子供に

月光の黒のアギトさんが与えたものだが、その声の威力はすごかった。


「ちょっと可哀想ね」


自分のチームのリーダーを悪く言われて

腹が立たない奴はいない。


あの子供は可哀想だとは思うが

こんな状況にした、セツナという奴が一番悪い。


近くに居て、視線が合えば……。

色々と言ってやろうと考えてた。


だが、実際すぐそばに来て

獣人の子供と話し終わった後、俺と視線が合ったのだが

すぐにそらすことしかできなかった。


凍り付く様な闘志を体に浴び、心の底から恐怖が湧き上がった。

あの男は敵に回してはいけない。


それは俺だけではなく、俺のチームの奴らも同じ事を言った。

そしてそれは、あの男の戦いを見て確信に変わったのだった。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2024年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景5 : 68番目の元勇者と晩夏の宴 』が刊行されます。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
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