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刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第二章 : ベニラン
20/40

『 それぞれの朝 』

* 前半:セツナ視点

* 後半:サフィール視点

* それぞれの戦い *

* セツナ視点 *


 トゥーリの薬の調合が間違っていた為、僕の髪の色と目の色が銀色と青色になっていた朝

アルトが訓練の場所に来た瞬間、それ以上目を見開く事ができないんじゃないかというほど

驚いた顔を作っていた。


「師匠どうしたの!? また吟遊詩人になって何処かのお城に行くの!?」


「……違うから」


アルトの言葉に、アルトと一緒に訓練の場所にきたアギトさん達が興味をしめすが

僕が首を横に振るとつまらなさそうな表情を僕に向けた。


「セツナ君、どうしたの?」


昨日は、サーラさんは居なかったのに今日はなぜかいて

アルトと一緒に僕の傍によりそっと、僕の髪に触れていた。


「胃薬と間違って、ミソラ草の粉末を飲んでしまったんです」


「ぷっ……」


サーラさんが噴き出して笑う。アルトは、ミソラ草? と首を傾げているのを見た

クリスさんが、ミソラ草の特徴をアルトに説明してくれている。


「薬を間違うって、お前それ一歩間違えれば危険だろ」


ビートが真剣な表情で僕を見て、僕はビートの言葉に確かにと頷き返した。


「吐き出そうと思ったら、セリアさんが急に目の前に現われたので

 吃驚して飲み込んでしまったんです……」


僕の溜息と同時に出た言葉に、今度はビートも笑い出す。


「まぁ、害のない薬でよかったな」


「ええ」


「色が変わるだけで、ずいぶん印象も変わるもんだな……」


クリスさんが、真面目にそんな事を話している。


「変わるわよね~。私も昔、ナンシーちゃんと一緒に

 色を変えて遊んでいたの。懐かしいわ!」


サーラさんは、満足したのかアギトさんの隣へと戻り

楽しそうに昔の事を話していた。


「そういえば、エリオさんはどうしたんですか?」


「さぁ? 食いつかれてまだ寝てるんじゃないのか?」


ビートが興味なさそうに答える。


「そうですか」


誰も気にしていない様子なので、アルトの訓練に入る。

離れたところでは、アギトさんがクリスさんとビート2人を相手に

嬉々としながら戦っていた。アギトさんの余裕の表情にクリスさん達は

どんどんと殺気だっていく。


アルトとの訓練が終わっても、アギトさん達はまだ戦っていた。

クリスさんとビートは、息も切れ切れだ。そんな2人を見てアルトが呟く


「いいなぁ」


「え? 何がいいの!?」


「楽しそう」


「えー……」


僕にはどう見ても楽しそうには見えない。


「アルトもはいってきたら?」


サーラさんが、アルトの呟きを聞いてそう声をかける。


「邪魔になるでしょう?」


「そろそろ終わりそうだから、いいんじゃないかしら?」


サーラさんの言葉に、尻尾を小さく振りどうするか悩んでいるらしい。


「アギトちゃん! アルトが2人に加勢するわ!!」


サーラさんが、アギトさんに向かって叫び、アルトはサーラさんを凝視し

そしてすぐにアギトさんのほうを見た。


「クク……来い、アルト」


アギトさんは楽しそうに笑い、視線をクリスさん達に留めたままアルトを呼ぶ。


「師匠! 俺行って来る!」


僕に言葉を告げた瞬間、腰から双剣を抜いて一目散に向かっていく。

アルトがアギトさんに攻撃を仕掛けたタイミングに合わせて、クリスさんが

アギトさんに剣を振り下ろしていた。


「クリスちゃん達の目に、闘志が戻ったわね」


「今日は動けなくなるんじゃないですか?」


「それを言うなら、アルトもだと思うけど」


「時計を買いに行くのは、明日になりそうですね」


「多分ね。でも、セツナ君にとってはそのほうが

 よかったんじゃないの?」


「確かに……。この姿は目立ちそうですから」


「ふふふ……」


アルトが入った事で、アギトさんの戦い方ががらりと変わる。

アギトさんはアルトを狙う事によって

クリスさんとビートを追い詰めていっていた。


アルトが重い一撃を貰いそうになれば、どちらかが庇い

もう一方が、アギトさんをアルトから引き離す。弱いものを守りながらの

戦闘は、肉体的にも精神的にもきついものだ。


アギトさんが本気で、アルトを落としにいこうとしている分

2人も必死にならざるを得ないのだろう。


アルトも2人に庇われているのに気がつき、戦い方を変えていく。

この瞬間にも、アルトは成長していた。


「どうしたの?」


「何がですか?」


「なんだか、アルトを眩しそうに眺めているから」


「アルトがどんどん成長していくな、と感じたんです。

 僕の手を離れるのも、そう遠くないのかもしれないと」


「……寂しい?」


「どうなんでしょうか」


アルトの成長を心から願っている。

だけど、アルトが僕から離れていく時のことを考えると心が沈む。


「複雑な親心よね」


「親心ですか?」


「そう。早く一人前になって欲しいと願いながらも

 まだ、後暫くは……自分の手の中にいて欲しい、と思ってしまう」


「……」


「アルトは、まだ12歳。セツナの手から離れるには

 最低でも4年はあるわ。アルトが成長するたびに、

 そういう気持ちを感じる事は多くなるわ。

 でもね、それ以上に成長する姿を見るのは

 嬉しい事で、楽しい事よ。あの子達と出会えて幸せだって

 心から感じることが出来るから」


「そうですね……」


「それに、アルトが成長するころには

 セツナ君は、また子育てをしているんじゃないかしら?」


「どういう意味ですか?」


「トゥーリちゃんとセツナ君の子供が

 生まれているんじゃないかしら」


「……」


「寂しいと感じる暇もないぐらい

 忙しくなるわよ!」


サーラさんはそう言って、愛しそうに自分のおなかへ掌を当て

そして、優しく僕に微笑んだ。


「ね?」


「そうですね」


僕はただ、サーラさんに笑ってそう答えたのだった。


アギトさん達の戦闘はそろそろ終わりそうだ。

アルトも大きく肩で息をし、アギトさんを睨みながら立ている。

クリスさん達もそろそろ限界に近いんじゃないだろうか。


アギトさんは、息を切らすことなく3人を楽しそうに眺めていた。


「ここまでか? まさか、ここまでという事はないだろう?」


アギトさんが挑発するように、言葉をかける。

その言葉に一番最初に反応したのはアルトで、アギトさんにのせられるように

攻撃を繰り出した。疲れてきているせいで、隙が多くアギトさんに返り討ちにされる寸前に

クリスさんが、アギトさんとアルトの間合いに入りアルトを助ける。


クリスさんに、追撃するようにアギトさんは剣を振るが

その剣を受けたのはビートだった。


クリスさんとビートで連携するように、アギトさんと剣を交えていく。

アルトは体力が尽きたのか、その場で倒れそのまま動かなくなっていた。


「あらあらあら」


サーラさんが、動かなくなったアルトを見て笑う。

アルトが倒れて、10分ほどアギトさん達は戦っていたけれどその戦いを止めたのは

僕とサーラさんの前に表れた、魔法陣を見てのことだった。


いきなり、僕とサーラさんの前に出現した魔法陣に

サーラさんを、僕の背中に隠すようにして庇う。

アギトさんが、一瞬にしてサーラさんの傍に駆けつける。


この場に緊張が走るが、この魔力の主がフィーであるとわかり

僕は緊張を解いた。アギトさん達の表情はまだ硬い。

誰の魔法か告げようとしたとき


「セツナ、おはようなの~」


フィーが、魔法陣の上に現われ可愛らしく僕に笑いかけ

朝の挨拶をしてくれるが……その左手には、死んだように動かないエリオさんの

襟首辺りの服が握られていたのだった。


「エリオちゃん!!」


「エリオ!」


アギトさんと、サーラさんがエリオさんを呼ぶがエリオさんは全く反応を返さない。

その服はボロボロで、所々怪我をしているようだ。クリスさんとビートもエリオさんを

呼んでいる。


「フィー? 何があった?」


アギトさんが、フィーに理由を聞く。


「サフィと戦ってズタボロにされたのなの」


フィーの言葉に、アギトさんが目を見開きフィーをみていた。


「エリオが、サフィールのところへいったのか?」


「そうなの。朝早く戦ってくれって来たのなの。

 サフィは、女神の硬貨を調べるので忙しいから帰れって

 いってたけど、エリオがサフィの研究室で暴れようとしたから

 サフィが怒ったのなの」


「命知らずだなエリオ……」


ビートが顔を青くして呟く。


「サフィは怒ってても、最初は手加減しながら戦っていたのなの

 でも、エリオの戦い方はおかしかったのなの。

 サフィが、これ以上は魔法を使うなといっても止めようとしなかったのなの」


「それで?」


「魔力が枯渇寸前になっても

 魔法の使用を止めようとしなかったから

 サフィが無理やり落としたのなの」


「……」


フィーの説明に、全員が黙り込む。


「意識が落ちて、動けなくなったから

 サフィに頼まれて、運んできたのなの。

 はっきりいって、迷惑なのなの」


「すまなかった」


「サフィが許してるから、私も許してあげるのなの」


「そうか」


「セツナにも会えたしなの~」


「一番の理由はそれかよ……」


ビートがボソッと呟く。


「サフィから伝言なの」


「何かな?」


「エリオの目が覚めたら

 3日後にまた来いって。

 明日とあさっては、研究で忙しいから来たら殺すって言っていたのなの」


「伝えておこう」


「子供の躾は親の役目なのなの。

 サフィに迷惑をかけたら、サフィが殺す前に私が処分してあげるのなの」


「……」


「……」


アギトさんとサーラさんは、お互いに視線を合わせ

そして、エリオさんをみて溜息を付いていた。

サーラさんが、エリオさんの傍へ行きエリオさんを癒していく。

フィーは、最後に言いたい事を言い終わると僕に視線を向けた。


僕も手伝いましょうかと、サーラさんに声をかけると

フィーの相手をしていて欲しいということをいわれる。

フィーは、僕を見て何度か瞬きをすると口を開いた。


「セツナの髪の色と目の色が違うのなの~。

 どうしたのなの?」


今、気がついたの?


薬を間違えて飲んだことを説明すると、フィーも飲んでみたいのなのといい

その姿も素敵なのといってくれた。


背中に背負っているくまのぬいぐるみを下ろし、その中から

小さな包み紙を取り出す。


「サフィからなの」


「僕に? 何かな?」


「女神の硬貨を貸してくれた

 お礼だといっていたのなの」


「なんだろう?」


「あけてみるのなの」


フィーに言われるまま、包みを開いていく。


「魔道具?」


「そうなのなの」


「何の魔道具だろう?」


「星空が見える魔道具なの」


「……」


「サフィが苦労して昨日作ったのなの。

 サフィは、闇と火の使い手だから苦労していたのなの」


「つくるとしたら、光魔法の方がつくりやすそうだね」


「そうなの」


「どうしてこれを僕に?」


「光のお姉さまが、セツナは寝るのが好きだと言っていたのなの」


「いや……別に寝るのが好きなわけじゃ……」


「獣人の子供と、お昼寝をしていたのなの?」


確かに、昼寝はしていたけど。


「サフィが、セツナは何が好きなわけ? ときいてきたから

 寝るのが好きなのなの、と答えたらそれを作っていたのなの」


「そう……」


サフィールさん、困っただろうな。


「お部屋の中で使うと、暗くなって星が浮かぶのなの!

 綺麗なの!! フィーにもつくってくれたのなの~」


フィーはそう言って、嬉しそうに自分の分の魔道具を見せてくれた。


「ゆっくり眠れるのなの~」


「うん、今日の夜にでも使ってみるよ。

 サフィールさんに、ありがとうございますと伝えてくれるかな?」


部屋がプラネタリウムみたいになるんだろうか?

嬉しいかもしれない……使うのが楽しみだ。


「了解したのなの~」


「うん、お願いするね」


フィーが笑って頷いて、視線を少し遠くへと向けた。

そして、首を傾げて僕に聞いた。


「セツナ、どうしてアルトはあんなところで寝ているのなの?」


「……」


力尽きて倒れたアルトを、すっかり忘れていたのだった。

フィーが、サフィとお買い物に行くからもう帰るのなの、と言って帰り

僕はアルトを抱えて、部屋へと向かう。


クリスさんと、ビートがエリオさんをあちらこちらにぶつけながら

雑に運んでいる。どうやら、少し怒っているらしい。


サーラさんが、そんな2人に

「エリオちゃんの怪我を増やしたら絞めるわよ」といっている。

アギトさんが、その様子を見ながら苦笑を浮かべていた。


誰も、エリオさんがなぜサフィールさんのところへ言ったのか

口にはしなかった。


「サフィールから魔道具を貰ったのかい?」


「はい。素敵なものを頂きました」


「セツナは、サフィールに好かれたんだな」


「え?」


「サフィールは、自分の気にいった者にしか

 魔道具を渡さない」


「そうなんですか? 魔導師なら、魔道具を売る事もあるでしょう?」


「サフィールの属性は、闇だろう?

 闇の魔法は、人の心に作用する魔法がおおい。

 だから、そういう魔道具を作れといわれることが多くてね。

 毎回毎回、断っていたのだが、ある日、切れた」


「……」


「僕は、魔道具でお金をもうける気はないわけ!

 2度と、僕に魔道具を作れなんていうな!! とね。

 火属性も使えるのだから、火の魔道具は売ればいいのにな」


「それは」


「あいつの研究は、金がかかるというのに

 魔道具を作って売らないとか、色々首を絞めていると思うが

 自分の作る魔道具が、誰かを傷つける事になるかもしれないと思ったら

 作って売る気にはなれなかったんだろうな」


人間の欲望は何処までも貪欲だ。


「それから、サフィールに魔道具を

 作ってくれという人間はいなくなった」


「……」


「だから、魔導師なのに余り金を持っていない。

 そういう依頼も、断る奴だからな。自分の研究のために

 喉から手が出るほど金が欲しいだろうに」


馬鹿な奴だと言いながらも、アギトさんの口調はとても優しかった。

だが、アギトさんは苦悩するように眉間に皺を作る。


「口も悪いし、態度も悪いが、悪い奴じゃない……。

 だが、あいつがセツナにしようとしていた事は

 あいつが一番嫌悪していた事だ。

 なのに、あいつはその衝動を抑える事が出来なかった」


僕の記憶を見ようとしたときの事を言っているのだろう。


「許してやってくれとは言わない。

 だが、セツナがよければ、仲良くしてやってくれ」


「はい。僕は気にしていません。謝ってくださいましたし」


僕は、魔道具と一緒に入っていたカードをアギトさんに見せる。

そこに書かれていた文字は、謝罪と感謝の気持ちだった。


「僕は、気にいられるようなことをしてませんけどね」


僕の言葉に、アギトさんが苦く笑いながら


「普通は……。あんな高価なものを、担保も期限もつけずに

 貸すことなんてないだろう? それも、自分を害そうとした人間に

 セツナが、サフィールを信用したからサフィールも珍しく

 それに答えたくなったんだろう。本当に珍しい事だがな」


「僕は……」


「まぁ、間にフィーが入っている事も理由だと思うが」


「ああ……なるほど」


「きっと、フィーに色々と言われたのもあるんだろう」


「それが一番大きな理由かもしれませんね」


「だな」


フィーに責められているサフィールさんを想像して

少し気の毒に思いながらも、思わず小さく笑った。


「別に同盟は結ばなくていいからな」


アギトさんの最後の言葉に、また笑い

アギトさんも、目を細めて笑っていたのだった。







* 僕とエリオ *

*サフィール視点*


「サフィ、帰ってきたのなの~」


フィーの声で、僕は机の上に広げられている資料から顔を上げる。


「ありがとう、フィー」


「いいのなの。伝言もちゃんと伝えたのなの。

 でも、エリオの相手をするなんてどうしたのなの?」


「なにがなわけ?」


「普段のサフィなら、エリオの相手などしないのなの」


「ああ。あの馬鹿が言ってただろう。

 守りたい人を、守りたい時に、守れるように力が欲しいって」


「言ってたのなの」


「きっと、エリオは大切な人ができたわけ」


「ふーん」


「僕を一番毛嫌いして、僕の魔法を暴こうとして

 反対に、ボロボロにしてやったわけだけど」


「……」


その時のことを思い出して、小さく笑う。


「年を重ねるにつれて、僕を嫌う事はなくなったけど

 僕に近づく事はなかったわけ。

 なのに、僕のところへと来た。それだけ、切羽詰っていたわけ」


「何時もおかしいけど、今日は更におかしかったのなの」


「アギトは魔導師じゃない。

 サーラとエリオじゃ力の差がありすぎて、エリオの求めるものは得られない」


「でも、セツナが居るのなの」


「その、セツナに頼りたくなかったんだろう。

 僕のところに来るぐらいだから」


「そうなの?」


「僕の勘でしかないわけ」


「ふーん」


「エリオはまだまだ伸びるわけ。

 多分今ここが、あいつの第1の正念場なわけ」


「育ててあげるのなの?」


「サーラの息子だからね。

 あいつは、2種使いなんだろう?」


「そうなの」


「なら、これからが勝負だ。

 魔導師として、駆け上がる覚悟を決めたのなら

 僕は、その手助けをしてあげるわけ。

 今日のエリオは、覚悟を決めた男の顔をしていたわけ」


「そういえばそうなの」


「クリスはともかく、エリオもビートも黒になりたいと

 言いながら、何処か甘えの抜けきらない顔つきをしていたから

 相手にするのも、馬鹿馬鹿しかったけど

 本気で覚悟を決めたようだから、僕もそれなりに相手になってやるわけ」


「ふーん」


「僕とアギトが、覚悟を決めたのもエリオぐらいだったわけ……」


「……」


「あれから、ずいぶん時がたったなぁ……。

 色々変化していったけど、サーラをアギトにとられたけど

 それでも、僕は今幸せなわけ……。フィーとも出逢えたし」


「サフィ……」


「僕の子ども時代は、最悪な思い出しかないけどさ

 初代とジャックそして、アギトとサーラが居たから僕は生きようと思ったわけ。

 だから、彼等の息子が僕を頼ってくるなら、その覚悟があるなら

 僕は僕の持っている全てを、教えてもいいと思っているわけ」


フィーが僕の膝の上に乗って、僕をギュッと抱きしめる。

僕の痛みを、分かち合ってくれるかのように。


僕やアギトが、求めたのがジャックのような

他者を寄せ付けないほどの強さなら。


エリオは、セツナのような強さを求めたのだろう。

守りたい人を、守りたい時に、守れるような力。

繊細で、優しいエリオにはお似合いの力の求め方だ。


エリオに覚悟を決めさせた女性が、どんな人物なのか気にはなる

アギトが、サーラに惚れた時と同じ目をしたエリオを見て

懐かしい思いにかられた。僕のサーラに対する想いは

恋愛ではなくなりつつあるけど……。アギトの目はまだ、あの時のままだ。


「サフィは、自分の伴侶をみつけたほうがいいのなの」


フィーの言葉に、苦笑をこぼす。


「そうだね、僕もそろそろ自分の奥さんを見つける努力をするわけ」


「それがいいのなの」


「サーラみたいな人がいいわけ」


「根本からしてもう、駄目駄目なの」


呆れたように僕を見るフィー。努力をするといいながらも

だけど、もう少しだけサーラとアギトを困らせるのも悪くないと

思っている僕の婚期は限りなく先のような気がしないでもない。


ここまで来たんだ、今更妥協する気もない。

なるようにしかならないわけ、と心でそう締めくくったのだった。


フィーから、セツナが魔道具を喜んでいたと聞き

ほっと胸を撫で下ろす。僕が酷い事をしたり言ったにもかかわらず

普通に、アギト達に接している態度と同じように僕に接する。


まるで何事もなかったかのように……。


僕のあいつの第一印象は、どうでもいい奴だった。

そこから、気にいらない奴になり、そしてお人好しな奴になり

危険人物となり……そして、変な奴に落ち着いた。


変な奴だ。本当に変な奴だ。


誰にでも優しく、そして許し許容してしまえる人間。

だけど、あいつはその中に自分を含んでいないようだ……。

彼はきっと、自分自身を一番許せないで居るんだろう。

いつか自分自身を許せる日が来るといいと、心から思う。


彼を傷つけようとしていた、僕が願う事じゃないかもしれないけど。


どうも素直に、謝罪や感謝が出来ない僕は

せめて、何か出来ないかと考えフィーにあいつが好きなものを聞いた。


フィーから返ってきた答えは、僕を苦しめるものだったけど……。


『セツナは、寝るのが好きなのなの』


『……』


僕は必死に考え、魔道具を作り上げる。

正直、こんな魔道具を気にいって貰えるかは分からなかったけど

フィーの笑顔から、取りあえずは喜んでもらえたようだ。


「サフィ?」


「うん?」


「セツナは、サフィを嫌っていないのなの」


「……」


「ちゃんと許してくれているのなの」


僕の心を見透かしたように、フィーがそう告げる。

僕と繋がっているのだから、僕の心なんて全て知っているか……。

僕は、フィーの頭をなでて頷いたのだった。

 




読んで頂きありがとうございました。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2024年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景5 : 68番目の元勇者と晩夏の宴 』が刊行されます。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
+注意+

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