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刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第二章 : ベニラン
19/40

『 気持ちの行方 』

* エリオ視点。

 隣の部屋から、魔法の発動を感知する。

多分セツっちが、音を立てないように転移魔法を使って外へ出たのかもしれない。

昨日の夜も、庭で酒を飲んでいたから。


窓から外を見ていると、暫くしてセツっちが庭を歩いていた。

自分の勘が当たった事に、満足して次にどうしようか考える。


このまま寝るか……セツっちを追うか。


どうせ、このままベッドに入ったとしても

気になって眠る事なんて出来ないだろうから、セツっちを追う事にする。

一瞬今日も姿を見ることが出来るかもしれないと、期待が胸をよぎる。


「……」


自分の中の気持ちに、気がつかないほど子供ではない

だけど、困らせるとわかっていて気持ちを伝えないと覚悟を決められるほど

大人でもない……。


軽く溜息を落としながら部屋を出て、極力音を立てないように廊下を歩く。

後もう少しで玄関というところで、聞きたくもない声が聞こえた。

相変わらず親っちの気配は、俺っちには読むことが出来ない。


「エリオ、何処へ行くつもりだ?」


「眠れないから、庭に散歩」


「……」


「……」


「丁度いい。私もお前に話があったところだ」


「明日でもいいしょ?」


「なんだ、私が一緒だと都合が悪い事でもあるのかい?」


「ない」


「ならいいだろう」


そう言って、玄関から外へと出て庭の方へと歩きだす。

歩いている途中に何か魔道具を取り出し使っていた。

何を使ったんだ?


このまま、自分の部屋へ戻ろうかと思ったけど親っちがセツっちを見つけて

話をするなら、その内容が気にならないといえば嘘になる。


自分の部屋でついた溜息よりも、大きめの息を吐き

親っちの後を追いかけた。


「セツナも外に居たのか」


親っちがセツっちを見つけ、苦笑する。

セツっちは、俺っち達に背中を向けて座っていた。


「また、1人で酒でも飲んでいるのか?」


「さぁね」


「真夜中の冬空の下で、飲まなくてもいいと思うんだが」


「アルトに気がつかれるのが嫌だと言ってたけど」


「彼なら、気がつかれないようにするぐらい簡単だろう?」


「そういわれれば……」


「多分、セツナは外が好きなんだろうな。

 気持ちはわからなくもないが。彼の張る結界は冷気も通さないから

 できることだな」


「……」


「さて、本気で驚かせてみるか……」


「俺っちに、話があったんじゃないのか?」


「明日でもいいだろう」


「……」


そういって、親父が能力を発動させ気配を完全に断ち切った。


「ああ、話してもかまわないぞ」


「はぁ? そんなことしたらばれるっしょ」


「音声遮断付き結界の魔道具を使ったからな」


「母っちがつくったのか?」


「そうだ、色々役に立ちそうだろう?」


「最悪だ」


「壁に耳ありというらしいからな」


以前セツっちが、セリっちに言っていた言葉だ。

親っちが、そっとセツっちの方へと歩きだし

親っちの後ろを、俺っちもついて歩いた。


「セツナ? まだ飲んでるの?」


後もう少しで、セツっちの場所へ届くというところで

セリっちが、セツっちのまん前に現れて、セツっちを驚かせていた。


「グッ……」


その時、妙な音が聞こえたが何の音だったんだろう。


親っちも、俺っちもセリっちがいきなり現れた事で

セツっちと同様に驚き、2人の会話が届く位置でなりを潜める。


「……けほっ……」


「大丈夫?」


どうやら、飲んでたものが喉に引っかかったようだ。


「……大丈夫じゃないです」


「あんなにお酒を飲んだのに

 まだ飲んでるのが、駄目なのヨ」


「飲んでませんよ」


「嘘は駄目だワ」


「本当です」


「じゃぁ、それは何?」


「水です」


セツっちは、そう言ってカップの中身をセリっちに見せた。


「お酒と同じ色だワ」


「……」


中身を見せても信じてもらえていないようだ。

セリっちには、色しかわからないのだからしょうがないよな。


「どうして飲んでないの?」


「特に理由は……」


「飲まないなら、外に居る必要はないと思うワ」


「水に映る月を見に来たんです……けどね」


そう言い、セツっちは溜息を付きながら

セリっちから視線を外し、俯いた。セツっちの様子が少しおかしい。

俯いたまま、顔を上げることをしない。


「どうしたの? 落ち込んでいるの?」


「どうしてですか?」


「ゆっくりと、落ちている感じがするワ」


セリっちがセツっちの横へと座った。

セツっちは、セリっちの質問には答えず片方だけ立てていた膝に

目を閉じ額をつけた。


「今日、何かあったか?」


親っちが、真剣な表情でセツっちをみて俺っちに聞いた。


「いや、俺っちは何も気がつかなかったけど」


酒肴の店でも、楽しそうに笑っていたような気がする。

だけど、あいつは1人椅子に座って大食い競争を眺めていた。

多分、セリっちを1人にしないためだろうけど。


セリっちは、寂しがりやのようだし……。

セツっちは、何時もセリっちを気にかけている。


セリっちも、外に出ているときは必ずセツっちを探すんだ……。

そして視線を合わせて、恋人同士のように微笑みあう。

その光景を目にするたびに、胸が締め付けられるように苦しい。


セリっちと知り合って、まだそれほど時間は立ってないというに。

……俺は、幽霊みたいな類は苦手だったのに……どうして

どうして、彼女に惹かれたんだ。彼女は幽霊なのに。


胸の中にあるものを、飲み下すには苦すぎて

何時までもそこに留まったまま。だけど、それがそこにある限り

息苦しさはなくならない。


セツっちとセリっちの間に、どんな契約が交わされているのか

セリっちがセツっちに頼んだ事はなんなのか、知りたくて知りたくて仕方がない。


なのに、セリっちは俺には何も話してくれなかった。

俺に出来る事は何もないと、はっきり言われたからそれ以上

聞く事は出来なかった。


「セツナ?」


「何もありませんよ」


「嘘だワ」


何もないと告げるセツっちに、セリっちが即答で返す。

セツっちは、顔を上げる気配がない。


「セツナ……?」


心配そうに、セリっちが横から

身を乗り出してセツっちの顔を覗きこみ

セツっちが少しだけ顔を上げ横目で、セリっちと視線を合わせた瞬間

セリっちが、うっすらと口をあけて呆気にとられた表情を作った。

そしてすぐにまた、セツっちは膝に額をつけてしまった。


「……」


「え? え? え!?」


「……」


「え? え?!」


「……」


「えーーーー!!!!」


「……夜中ですよ」


「だって、だって……セツナ。

 どうしたの!?」


セリっちが、浮き上がりセツっちのまわりをくるくると周っている。


「取りあえず、落ち着いてください」


「だって……」


「はぁ……」


セツっちは、深く深く溜息をつきやはり顔を上げなかった。


「どうしてそうなったの?」


「薬のせいです」


「薬? 薬の調合に失敗したの?」


「いえ」


「じゃぁどうして? どうして?」


「少し食べ過ぎたようなので、胃薬を飲もうとしたんですが

 僕が調合した薬ではなく、僕が調合を教えている……弟子……。

 になるのかな……? 取りあえず、薬の出来を確認する為に

 飲んだんですが、薬草の種類を間違えて調合されてあったんです」


「でも、セツナは薬の中にどんな薬草が入っているか

 味でわかるんでしょう?」


「わかります」


「なら、吐き出せばよかったじゃない?」


「吐き出そうと思ったら、セリアさんが目の前に……」


「……」


「……」


セツっちが、少し顔を上げてセリっちを見る。


「わ……私のせい……?」


「気配はわかりますが、流石に目の前にいきなり

 現われたら吃驚するでしょう?」


「そ、そ、そうね」


「……」


セリっちは、セツっちから視線をそらした。

そして、俯いたのだがその肩が小刻みに震えだした。


「ふ……ふ、ふ……ふふ。

 あは、アハ、あははははははははは!」


いきなり笑い出すセリっち。


「うるさいですよ」


「だって、だって、だって!!

 で、でも、似合っているわ。セツナの菫色の瞳も好きだけど

 今の、海の色の瞳もとても素敵だワ」


セリっちが、笑いながらセツっちの目の色の話をする。

薬のせいで、セツっちの目の色が変わったのか?

何の薬が入っていたんだ?


姿変えの(ミソラ)草と胃痛に効く(カシエラ)草は形が似ているものね」


「……そうですね」


溜息を付きながら、セツっちが返事を返す。


「ミソラ草?」


「ガーディルより向こうの地域で取れる、薬草だな。

 お遊びで目の色と髪の色を変えるために使う薬草だ」


「姿変えの魔道具があるっしょ?」


「魔道具は色が固定だが、ミソラ草は何色になるのか飲んでみるまで

 わからない。サーラとナンシーも若い頃に飲んで遊んでいた」


「へー」


「そろそろ、セツナの髪の色も変わるんじゃないか?」


親っちの言葉に、セツっちを見ると薄茶色の髪がキラキラとした

銀色の髪に変化していた。


「……」


セリっちが、黙ってセツっちの髪を優しく撫でている。

その手は透けていて、頭を貫通しているけど本人は撫でているんだろう。

ちょっと羨ましい。


セツっちが顔を上げ、静かになったセリっちを見た。


「どうしたんですか?」


「え……あっ……」


セツっちと目が合って、セリっちは顔を赤くする。


「もしかして、セリアさんの好みの色になりました?」


「え……」


セツっちの頭から手をはなし、赤くなりながら視線を彷徨わせる。


「ち、ち、ちが……うワ」


絶対違わないしょ。

今度はセリっちが、俯き、ポツリポツリと話し出す。


「セツナの髪の色を見て

 子供の頃の夢をネ、思い出したの」


「夢ですか?」


「うんそう。

 王子様と舞踏会でダンスを踊るの」


恥ずかしそうに、セリっちがそう告げる。


「い、いちおう、貴族だったでしょう?

 だから、そういう教育はうけていたのヨ?

 だから、だから、キラキラした場所で踊ってみたいって

 憧れみたいなのがあったの。一生懸命練習したから

 それなりに踊れるのヨ? でも、1度も男性と踊ることなく

 死んじゃったケド」


「……」


「先生は女性だったし」


「なるほど」


「何も知らない、子供の頃の夢よ!!

 ちゃんとした、女性になったら……父に会えると

 夢見ていた頃の……夢よ」


セリっちはそう言って、寂しそうに笑う。


「でも今思うと、王子様と踊ることが目的なんじゃなくて

 認められたかったのね」


誰に……かは、口にはしなかった。


「僕の髪の色は、金色なんですか?」


「え? 銀色よ?」


「銀色の髪で、どうして昔の夢を思い出したんですか?

 普通、王子さまって金色の髪を想像するんじゃないんですか?」


「私が読んでた物語の王子様は、銀色の髪だったのヨ。

 挿絵が、とても素敵だったの!」


「また、物語……」


「どうかしたの?」


「なんでもありません」


浮いていた体を地面に下ろし、セツっちの髪に手を伸ばし撫でる。

その姿は、仲むつまじい恋人同士にしかみえない……。

思わず、奥歯をかみ締める。


セツっちが立ち上がり、体を伸ばす。

セリっちは、目を細めてセツっちを見ていた。


セツっちはそんな、セリっちを見て笑みを浮かべ

セリっちの前で、背筋を伸ばして左腕を軽く背の方へとまわし腰を折る。

そして、優雅に右手を差し伸べた。


「セリア嬢、よろしければ私とダンスを踊っていただけませんか?

 どうか、貴方の瞳に惹かれた愚かな男に慈悲を……」


「……」


セツっちの王子様然とした態度に、セリっちは目を見開いてセツっちを見ている。


「セツナ……似合うな。

 それに、慣れている」


親っちが、俺っちの隣で呟いている。


「え……あの……」


セリっちはいきなりの事で、咄嗟に言葉出てこないようだ。


「どうか、私とダンスを……」


セツっちが、そう言葉にするとセツっちの後ろあたりに

淡い光が幾つも浮きあがり、幻想的な光景を作り出していた。

小さく、魔道具が壊れる音が響く。


セリっちが、恥ずかしそうにおずおずと手を差し出しセツっちの手の上に乗せた。

本当に触れ合っているわけではないけど……見ている俺っちには触れ合っているようにみえる。


セリっちを優しく誘導し、少し広めの場所へとつくと

お互い視線を合わせ、ゆっくりと踊りだす。セリっちに触れる事もできないのに

セツっちは優雅に、セリっちを舞わせる。


セツっちの腕の中で、喜びと恥ずかしさの入り混じった表情を作りながら

頬を赤く染めて。くるくると華のように舞うセリっちは……どこかの国の

お姫様のようだった……。


「っ……」


思わず声が出る。俺もセリっちに触れたい……。

セツっちに対して、嫉妬のような感情がわきあがったその時


親父が静かな声で、俺に告げた。


「彼女の心を惑わせるような事を、告げるなよ?」


「……何の事だよ」


「セツナが、セリアさんの為にしている事は

 全て、彼女の未練を断ち切るためのものだ。

 彼女のほんとの未練が、何かは知らないがそれだけでなく

 セツナは、彼女の願いを全てかなえるつもりで居るのだろう」


そんな事は、言われなくてもわかっている。


「お前の気持ちがどうであれ、彼女の憂いを増やす事をするな。

 彼女は優しい。お前が気持ちを告げれば、お前を少なからず

 気にしてくれるだろう」


「……」


「男なら、彼女の気持ちを一番に考えろ。

 彼女の幸せが、何処にあるのかを己の心に問え。

 そこに自分が必要ないのならば……。

 彼女が幸せになれる道を、願い、その手助けをしてやることだ」


「親っちにいわれても、説得力がないっしょ」


母っちを、置いて逝こうとした親っちに

俺を説教する資格はないだろ?


「私には無理だが、お前ならできるだろ?」 


「……」


なんだよそれ……。

奥歯から嫌な音が漏れる。


「何も、毎回毎回そうあれと言っているわけではない」


「……」


「手に入れたい女に、死に物狂いになることもあるだろう。

 周りが見えない状況になる事もな。私にも覚えがあることだ。

 だが、彼女だけは駄目だ。彼女をこれ以上苦しめるような事は……」


「親っちの言いたい事は、それだったのか?」


「いや違う」


「なら、ほっといてくれ!」


俺だってわかってる。俺の気持ちは彼女にとっては

迷惑にしかならない事は、俺が一番わかっているんだ。


どんなに願っても、手に入れることができない

どんなに想っても、彼女の心さえ俺には向かない事は

誰よりも、俺が一番わかっているんだ……。


彼女を水辺へと送るために、セツっちが行動している事も

全部全部わかっている!!


だけど……この気持ちは消えない。

わかってる。だけど……消えないんだ。

 

どうしようもないだろう?


彼女との会話を思い出す。


『エリオは、そんな人は居ないの?』


『そんな人?』


『どうしようもなく、好きな人』


『……いない』


『エリオも、そんな人と出逢えるといいわネ』


出逢えても、届かないなら悲しいだけだろ……?

なら、俺は出逢わなければよかったと思ってしまう。


出逢わなければ……。

こんな辛い想いを、抱える事はなかったのに……。


嬉しいと、満面の笑みをセツっちに向けながらも

その頬には、綺麗な涙がキラキラと光って落ちる。


小さく、セツっちに礼をいいそして

セリっちは、セツっちを抱きしめるようにして消えた。


セツっちは、小さく溜息を落とし

寝る前に、送る物を整理して寝ようかなと呟き

転移魔法を使って、俺達の前から姿を消したのだった。


親っちが、俺を見て何かをいいかけるが

結局何も言わずに、俺を1人にしてくれた。





エリオの一人称が 『俺っち』→ 『俺』なのは仕様です。

読んで頂きありがとうございました。



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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
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