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刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第二章 : リコリス
13/40

『 微妙 』

* サーラ視点。

R15っぽい事を匂わせています。

苦手な方は要注意。

 私が悪ふざけを考えたのが悪いといえば悪いのだと思う。

だけど……あそこまで意地悪な、仕返しをしなくてもいいと思うのよ。

本当。ちょっと……そう、ほんのちょっとだけ戸惑う顔が見たかっただけなのに。


お風呂のせいではなく、セツナ君とのやり取りで赤くなった顔を隠す為に

ブクブクと湯船に沈む。はぁ……どんな顔をして出て行けばいいのかしら。

お風呂は気持ちがいいのに、気分は少し憂鬱だった。



セツナ君手作りの、幻のお肉入りのシチューを食べ

思い出したくない出来事を、アギトちゃんがアルトに語った後。


私たちはゆるゆるとした時間を過ごしていた。

寝るにはまだ早い時間。アギトちゃんとセツナ君は楽しそうに

様々な話をしていた。私には難しい話をしていた事もあって

退屈だなっと思っていたのが、セツナ君に分ってしまったのかもしれない。


「サーラさん、よければ先にお風呂どうですか?」


セツナ君の魅力的な言葉に、抗うつもりはない。

お風呂なんて、中々入れない! アルトが言うにはとても大きなお風呂らしい。

ちょっと、いやかなり楽しみにしていたのは事実だ。


「いいの? セツナ君が先に入った方がよくない?」


「僕は後からでもいいので」


「じゃぁ……」


ここで素直に、お風呂に向かって居ればよかったのに!!

ちょっとした、悪戯心を出してしまったのだ。


「アルト、私と一緒にお風呂に入ろう?」


先ず最初にアルトを誘う。アルトはセツナ君が用意した果物を食べながら

器用に眉間にしわを寄せた。それもとても迷惑そうに……。

少し心に傷がついた……。


「俺は男だから。男は女とお風呂には入らない」


そう言って拒絶する。とてもまともな意見だ。

そこで興味を失ったのか、セツナ君の分の果物を貰い

尻尾を振りながら、食べる事に集中していた。

あれだけ食べても、まだ食べるアルトが信じられなかったけど

セツナ君が何も言わない所を見ると、何時もこんな感じなのかもしれない。


「じゃぁ……セツナ君一緒にどう?」


私の言葉に、お茶を飲んでいたクリスちゃんがお茶を噴き出す。

エリオちゃんと、ビートちゃんはニタっとした表情を作っていた。


「……」


「セツナ君。チームの友好を深める為にもどうかしら!」


「母さん!」


クリスちゃんは、お堅い所があるから

こういう冗談を嫌う傾向がある。


少し胸を強調して、セツナ君を誘惑する。

アギトちゃんは、面白そうにセツナ君の反応を見ていた。


照れた顔か……戸惑った顔かどちらかを見せてくれると思っていた私。

きっと、アギトちゃんもそう思っていたはず……。


な の に!


「光栄ですね。サーラさんみたいな綺麗な女性と

 一緒に入浴できるなんて。では、さっそく行きましょうか」


そう言って立ち上がり、私のほうへと手を伸ばした。


「え? え? ええ?」


「サーラさん?」


立ち上がらない私を、不思議そうに見つめる。

確かに、誘ったのは私なんだけどっ!!


こういう反応を期待していたんじゃない!


普通この年頃の男の子が、そんな反応を返す事なんてない!!

今まで、なかった返答に私のほうが混乱してしまう。


綺麗な菫色の瞳で、綺麗に笑うセツナ君。

こんな若い男の子と……一緒にお風呂……?


一気に体の体温が上がり、言葉が詰まる。


「師匠。男は女とは一緒にお風呂に入っちゃ駄目だ。

 夫婦とか恋人どうしじゃないと、駄目だって本で読んだ」


アギトちゃんも、子供達も呆然とセツナ君を見ている中

助け舟を出してくれたのは、アルトだった。

アルトは、何の本を読んだの?


「アルト……。それはとても正しい事だけど

 女性から誘われた場合、受けてもいいんだよ」


「えぇ!?」


思わず私が驚きの声をだす。


「そうですよね?」


「え……あの……」


「女性から勇気を出して誘ってもらった場合

 アルトの好みの女性で、この人と一緒に時間を過ごしてもいいなと

 感じたら、一緒にお風呂に入ってみてもいいんじゃない?」


「うーん……。俺は嫌だ」


「そう?」


「うん。サーラさんは、師匠の好みの女性なの?」


「そうだね……」


セツナ君が、じっと私を見つめる。

その視線に、何処か落ち着かなくなりソワソワと体が動いてしまう。


「好みかな。一緒にいると楽しそうですよね」


そう言って私に向かって優しく笑う。

その笑みに、耐えれなくなり半分なみだ目になりながらアギトちゃんをみた。

心の中で「助けてっ!」と叫びながら。


「セツナ君……悪いけどサーラは、私のだから」


「あれ? 止めに入らないので公認かと思いました」


「……」


苦虫を噛み潰したような表情をアギトちゃんが作る。


「残念ですね」


そう言って、楽しそうに笑うセツナ君の表情に

セツナ君の言葉に、どうやらからかうつもりが

からかわれていたんだと知る。


ここで終わったと、ほっと息を吐き出した瞬間

セツナ君が信じられない事を口にした。


「ご夫婦で、入ってきたらどうですか?」


私も、アギトちゃんも子供達もセツナ君が本気じゃなかった事に

ほっとした隙間に狙った言葉。それぞれが渇きを癒そうと

お茶に口に含んだ瞬間だったから、セツナ君とアルト以外

むせたり、噴き出したりと大変な事になっていた。


私とアギトちゃんを、精神的に追い込む手は緩まない。


「サーラさん、音声遮断の結界を作れるようになっていたでしょう?」


練習していたのを見られていたようだ。


「お……音声遮断!?」


エリオちゃんが、声を震わせながら繰り返す。


「……」


クリスちゃんは、片手で顔を覆い。

ビートちゃんは、口をあけてセツナ君をみていた。


「風呂で……?」


アギトちゃんが、ぼそっと呟く。

アギトちゃん!?


そんな私達に、アルトが爆弾を落とす。


「お風呂で音を消してどうするの?」


「……」


誰もアルトの問いに答えない。

視線も合わせないように、そっと外す。


「師匠?」


「さぁ……僕の考えている事と

 違うみたいだから……」


セツナが、ニヤリとあくどく笑う。


「僕は、夫婦で会話を楽しんだらどうかと

 思ったんだけどね。僕達に聞かれたくないこともあるだろうし」


「俺とじいちゃんの、内緒話みたいなもの?」


「そうそう。2人だけの会話だよ」


「ふーん。アギトさん達は何を考えていたの?」


そう言って、アギトちゃんを見るアルト。

アギトちゃんにしては珍しく動揺しているようだった。


「……せ……セツナ君と同じ事だよ?」


「お風呂広いから、一緒に入っても大丈夫だよ?」


無邪気にお風呂を勧めてくれるアルト。


「まぁ、1人でのんびり入るお風呂も悪くないですよね?」


セツナ君が私を見て、そういった。


「うん。うん。1人で入りたいわ。

 のんびりあしをのば、のばすの」


「お風呂はあちらですから、ゆっくりどうぞ」


一秒でも早く、この居た堪れない場所から離れたくて

すぐに立ち上がり、早足でテントへ向かい、お風呂場へと移動した。


後ろから声が聞こえる。


「セツっち。俺っちは、親っちのそういう想像したくなかった」


エリオちゃんがセツナ君を非難している。

自分のことを棚にあげて、エリオちゃんガンバレ。もっというのよと

心の中で声援を送る。


「僕は、一緒にお風呂をどうですかと勧めただけですよ。

 エリオさんは、何を考えていたんですか?」


「……」


セツナ君の返答にあえなく、撃沈。

クリスちゃんとビートちゃんは、セツナ君とかかわる事を

早々に止め、アルトを交えて違う話題へと逃げていた。


「僕で遊ぼうとするのが、悪いんです。

 僕はやられたら、やり返しますから」


声しか聞こえないけれど、きっとその顔は笑っているに違いない。

セツナ君の、この言葉を聞いて2度と彼をからかわないと誓う。


子供達のいる場所で、夫婦の秘め事の話しはやはり微妙だ。

子供達にとってもそうだろう。


とほほほっと。

より深く、お風呂に沈んだのだった。




読んでいただきありがとうございます。

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