表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第二章 : 連翹
12/40

『 亡き友と私達 』

* ロシュナ視点

 夕食に顔を出さなかった、ハンクを探し外へとでる。

夜は昼よりも、ぐっと気温が下がっていた。


私とハンクとラギールでよく集まっていた場所へと足を運んだ。

彼もきっとそこに居るだろう……。肩を落とし項垂れている彼を見つける。

昔より小さくなった背中を、少し寂しい気持ちで見つめた。


3人で……あの時代を駆け抜けた。

私は……近い将来、彼にも置いていかれる事になるんだろう。


「ハンク……」


「なんじゃ……」


私は彼の隣に並び、空を見上げた。


「ラギールからの手紙を読むかい?」


「わしへの恨み言が書かれていたか」


「いや……ラギールがそんな事、書くはずないと

 君が一番よくしっているだろう……」


「……」


私は、ハンクに手紙を渡した。

ため息をつきながら、封筒から手紙を取り出し読み始める。

時々肩を震わせながら、読み終わり私に手紙を返してからは

何も語らず、ただ時間だけが過ぎていた……。


「あやつは……幸せだったろうか……」


「どうだろうね」


「わしは……」


「……」


ハンクは空を見上げ、その目を滲ませながら呟くように話す。


「わしはあの日……。自分のミスで仲間を失いここに戻ってきた

 あやつにこう言った。今更この村に何のようだと。力に溺れ

 この村と妻子を捨てていったお前の居場所など、もうこの村にはないと」


私はハンクが、ラギールに戻ってくるなと伝えたという事しか

聞いていなかった。


「ネルやオルスにはもうお前は死んだと伝える。

 二度とここに戻ってくるなと……」


「……」


「あやつはな、その時もその手紙のように何も言わなかった。

 ただわしに、ネルとオルスをよろしく頼むといって立ち去った……」


「そう」


「わしは許せなかったんじゃ。そうだろう?

 わしらは、狼の村をよりよくする為にがんばって来た。

 命を懸け、必死に走り、わしらの妻や子が殺されようとも

 仲間の屍の上を……乗り越えながらも

 走るのをやめなかったのは、わし達が目指したものを形にする為だ。

 なのに……なぜ、あやつは簡単にこの村を妻子を捨てる事ができるのだと」


「……」


「竜から加護をもらい、力のあるあやつがこの村の長になり

 わしらを引っ張って行ってくれると思っておった。

 信じておった。あやつはそれを裏切ったのだ……」


「……うん」


「だが……ネルが死ぬ間際こういった。

 わしにあやつを許せとな。わしは村やネルやオルスを捨てた

 あやつを許す事はないというわしの言葉に、ネルは困ったように笑って言った」


「何をだい?」


「ラギールは、確かに戦うのが好きでこの村を出て行ったのかもしれない。

 だけど、あの人の背中を後押ししたのはこの村と私達を守るものだと思うと……」


「……」


「あの人の首には賞金がかけられている。そんな人がこの村に居れば

 きっと人間達は、あの人を狙うでしょう。それは、この村や私達を

 危険にまきこんでしまうことになる……。だから、あの人はここを離れた。

 私はそう思います……。だって、あの人ここが好きなんだもの……と」


そういえば、ラギールがこの村をでてから暫くは

ラギールの名前がこの村にも届いていたことを思い出す。


「……確かにそうかもしれない」


ラギールはそういう本音は、誰にも言わない……。

私達3人の中で、一番優しくそして相手の事を思いやる事が出来るやつだったから。


「……」


「オルスが魔物に殺され、ネルが病に倒れたとき

 あやつが居ればと……。わしがあやつを追い出したのに

 もう二度と顔など見たくないと、追い出したのはわしだというのに……」


「ハンク……」


「ネルの言葉がずっと心に残っている。

 ネルは、あやつを最後まで慕っておった。そして信じておった。

 きっと、あやつもネルのことを想っておっただろう……」


「……」


「わしが……あやつら家族を引き裂いた。

 わしが……。わしが……」


「……そういう道を選んだのは、ラギールだよ」


「違う! わしがあの時、村にもどれと言えばあやつは戻って居った(おった)はずだ

 家族3人で、幸せに暮らしていたはずだ……。その機会をわしが奪った。

 あやつに……ラギールに、ただ一言……やっと帰って来たかと言っておれば!」


「ハンク」


「オルスが魔物に殺される事もなかったかもしれん。

 ネルが病に倒れても、あやつがなんとかしたかもしれん。

 そして……あやつはこの村で暮らし、独りで死ななかったかもしれん……」


とめどなくあふれる涙は、もう届く事のない友への想い。


「わしが、あやつを信じてさえ居れば……」


立っていることができず、膝を突いて泣くハンクに

かける言葉が見つからなかった。


「あやつは幸せだったろうか?

 独りで何を想って逝った……。

 せめて、手紙にでもわしへの恨み言書いてくれればよかったものを」


「手紙を読んだろう? ラギールは独りで死んだわけじゃない。

 アルトとセツナという人間がいたんだろう?」


「そんな手紙……本当かどうか分からないではないか」


「……」


「わしがあやつの……幸せを奪った…」


小さくなった背を丸めて泣くハンスの背を撫でながら

声をかけることも出来ずに、私もラギールを想い涙が落ちる。


そんな私達に、優しい怒りを纏った少年が現れるまであと少し。

そして私達は、ラギールの真実を知る事になる。

ラギールと彼等が会わなければ、届く事のなかった真実を……。




読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2024年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景5 : 68番目の元勇者と晩夏の宴 』が刊行されます。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ