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刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第二章 : オトギリソウ
11/40

『 トキトナの街で 』

* ある日のコーネとルーハス *

…… コーネ視点 ……


「ねぇ、ルー」


「なんだ」


私達は、2人向かい合って昼食をとっていた。

セツナは用事があるからと出かけ、アルトはムイムイと遊んでいる。


私とルーの今一番の問題は、アルトが可愛がっているムイムイの事だった。

あのムイムイは、お肉として提供される賞品だった。

ムイムイの子供の肉は柔らかくてとても美味しいのだ。

だが、普段食べることはない。大きく育ててから沢山の肉をとる。

だから、この賞品目当てで競技に参加する人も少なくない。


「私、こんなの作ってみたの」


机の上に、昨日の夜作ったムイムイのぬいぐるみを机の上に乗せた。


「……で……?」


ルーの視線は冷ややかだ。


「これを、檻に入れておくのはどうかしら?」


「どうかしらって、なにがどうなんだ」


「だから、朝起きたらムイムイがぬいぐるみになってました!

 っていうのはどうかな?」


「……」


「それで、見てない間にムイムイをバラシチャウとか……」


「反対に聞くが、お前がアルトだったらそれで納得するのか?」


「……しないわ……ね」


私は机の上にのせたムイムイのぬいぐるみを突付く。

ルーはため息をつき、私を見た。


「お前が、アルトを可愛く思ってるのは知ってるが

 こういう事を曖昧にするのはよくないって分かってるだろうが?」


「……わかってるけど」


「セツナが、自分で潰すといったのもそういうことだろう?」


「そうね、セツナの言葉はとても驚いたけど」


「そうだな」


「セツナは、私達に殺さないで欲しいって頼むと思ってた」


私のセツナの評価は、優しい人間。

冒険者をしているなんてとても信じられなかったのだ。


「セツナって、結構冷たいのね」


私のこの言葉に、ルーは何も言わなかった。

私のムイムイをぬいぐるみにしよう計画は実行されなかったけど

このぬいぐるみは、セツナにもらわれることになる。


そして、セツナがムイムイを殺すことに

どれほど葛藤し、悩んでいたかを私は後に知ることになったのだ。




* 大食い大会 *

…… アルト視点 ……



朝は憂鬱だったのに、今はとても楽しかった。

だけど、ふと……リペイドに居たときのことを思い出す。

じいちゃんとリペイドの建国際を見たことを……。

俺の周りはとても賑やかなのに、寂しくなってしまい

ムイを抱いている腕に力が入った。


急に力が入って、ムイは驚いたのか顔を上げ俺と目があうと

「ムイ?」と不思議そうに鳴いて、俺の顔に鼻をつけてくるものだから

それがくすぐったくて笑ってしまう。ムイの暖かさに寂しさが通りすぎるのを感じた。


俺は、師匠とルーハスさんコーネさんと一緒に

お祭りを見てまわっていた。


色々な催しを、覗いたり参加したりしているうちに

いつの間にか、夜になっていた。お昼の人気の催しが俺が参加した競技で

夜の人気が、今4人で参加することになったムイムイハンバーグ大食い競争みたいだ。


4人一組のチームで、60分の間にハンバーグを何個食べることができるかという競技だ。

開始の合図で、いっせいに食べはじめもう30分が経過している。


俺とコーネさんは、次々とお皿をつみあげていくのに

師匠とルーハスさんが、もう駄目だ、もう駄目だといいながら食べている。


「ルー! 手と口を動かすのよ!」


「いや、もう食えねぇって!」


「大食いというのは、もう食べれないと思ったところから勝負なの!」


「無……ぐぇ」


きっと無理だと言おうとしたんだと思うけど、コーネさんが

ルーハスさんの口に、ハンバーグ丸々1つを口の中に押し込んだ。

中々咀嚼できずに、ルーハスさんは目を白黒させながら口を動かしている。


「師匠! もっと食べて!」


「いや……僕ももう無理……」


ルーハスさんを見ながら、青い顔している師匠。


「何を甘いことを言ってるの!

 食べるのよ! 無理に押し込むの!」


コーネさんが、口に入れたものを飲み込んで

師匠のお皿に、新しいハンバーグを乗せた。


やっと飲み込めたのか、ルーハスさんが目を吊り上げながら

コーネさんに、文句を言おうと口を開いた瞬間


「コーネてめー!」


またしても、コーネさんにハンバーグを押し込まれていた。


「ほら、もう2個も食べれたじゃない。

 四の五の言わずに、食べるのよ!」


コーネさんの剣幕に、師匠もルーハスさんも一生懸命食べている。


「師匠、新しいハンバーグ来たよ」


「……」


俺は師匠のお皿にハンバーグを乗せる。

そのハンバーグを、俺の皿に戻そうとしてコーネさんに睨まれ

師匠は、何も言わずに自分の口の中に詰め込んでいた。


「アルト君、こっちも新しいのがきたから

 食べてくれる」


「うん」


俺とコーネさんがお皿を重ねていくたびに

師匠とルーハスさんの顔色は悪くなっていく。


そして終了という声が聞こえると、師匠とルーハスさんが

机の上に突っ伏して動かなくなった。それをみて、コーネさんが

「これぐらいの量で、情けないわね!」と呟いた。


優勝は俺たちのチームで、賞品はムイムイのお肉20キロだった。

師匠とルーハスさんは無言で、お肉を持って俺とコーネさんの後ろを歩いている。


このまま詰め所に帰ると思っていた俺は、道が違うことに気がついて

隣に居たコーネさんを見上げると「美味しいお菓子の屋台があるの!」と言って

俺の手をとり繋いでくれる。コーネさんに手を引かれながら後ろを向くと


今まで黙っていた師匠とルーハスさんが、ボソっと同じ事を言っていた。

そして2人同時に、深く深くため息をついていた。




* お祭りの後で *

……  ルーハス視点 ……


詰め所の長いすで、コーネとアルトが気持ちよさそうに寝ていた。

大食い大会で、信じられないほど皿をつみあげた2人は

その帰りに、まだ甘ったるい菓子をペロリと平らげていた。


いったいこいつらの腹はどうなっているんだ。

きっと、腹の中に得体の知れない生き物を飼ってるに違いない。


俺とセツナは、椅子に座り2人で酒を飲んでいる。

飲むと言っても、俺達の腹の中にもムイムイの肉が詰まっていて

酒を落とす隙間など余りなかったが……。


セツナから貰った消化剤は、とてもよく効き気持ち悪さはなくなっている。

後で、数個分けてもらうことにしようと決めた。


眠っている2人を少し呆れたように眺めるセツナに

俺の中で疑問に思っていたことを尋ねた。


「なぜ、ムイムイを連れて行くことに決めたんだ?

 お前は、ムイムイを置いていくと思っていたんだが」


食べすぎで少し顔色が悪いセツナが、俺のほうを向き答える。


「そうですね、いくつか理由はあるんですが

 一番の理由は、アルトが自主的に動いたからでしょうか」


「どういう意味だ?」


「アルトは今まで何をするにも、僕に聞いてから行動していたんです。

 出会ったころは、自分から何も言い出すことができなかった。

 徐々に、あれが食べたいと言うようにはなりましたが

 こういう我侭を言うことは一度もなかったんです」


「……」


「アルトが育った環境のせいでもあるんでしょうが……。

 だけど、ムイムイを助ける為に僕に相談することなく

 自分から動き、そして僕の言葉にも頷かなかった。

 アルトの中で、譲れないものが出来たって事なんでしょうね。

 アルトの目の中には、自分が我侭を言ってると言う自覚もあって

 僕に対する罪悪感も抱えていたけれど……。

 それでも、自分を押し通すのはアルトにとっては初めてのことだったんですよ」


「そうか」


「アルトが勇気を出してとった初めての我侭を

 僕は、無下にすることが出来なかった」


「……」


自己主張をする……。奴隷になれば一番最初にそぎ落とされる感情だ……。

奴隷として捕まった子供の心の傷は中々癒えない。

セツナは、アルトの心の傷を治すことに一番力を入れているんだろう。


「それに、これから行く場所はアルトにとって厳しい場所になるかもしれない。

 アルトだけなら、心の負担はないんでしょうが……。僕と居ることで

 アルトが傷つく可能性が高い。だけど、1人では行かせられないですしね。

 そんな時、ムイムイがアルトの癒しになるかもしれません」


「確かにな……。だが、昼間見たから分かっていると思うが

 でかくなれば相当食うぞ? 小さいうちはそこらの雑草で足りるが」


「そうですね……」


「まぁ、困ったらギルドを通して連絡してくればいい。

 金は払ってもらうが、飼育用の餌を送ってやるよ。

 雑食だから何でも食うが、量を確保するのが大変だからな」


「ありがとうございます。

 困ったら連絡させてもらいますね」


「ああ」


「僕からも、聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「あの窓際にある、ムイムイに似たぬいぐるみはどうしたんですか?」


セツナが視線を向けた先にあるぬいぐるみは

コーネが、アルトの為に作ったものだった。

昨日は自分の部屋に飾っていたみたいだったが

この部屋に飾ることに決めたらしい。


ぬいぐるみが作られた経緯を話すと、少し苦笑し

ご迷惑をかけてしまってすいませんと謝っていた。


「コーネが好きでしたことだから、気にすることないんじゃないか?

 だが、あのぬいぐるみがどうかしたのか?」


「売っているのなら、1つ購入しようと思ったんですが

 コーネさんの手作りだったんですね」


「ぬいぐるみなんてどうするんだ?」


「手紙と一緒に送ろうと思いまして」


「あー。居ないわけないよな。

 どんな女だ。お前の恋人は」


手紙に、ぬいぐるみときたら贈り物だろう。

俺は、大いに好奇心が刺激されセツナに質問を浴びせるが

セツナはのらりくらりと交わしてしまう。


それならば、酔わせて吐かそうと苦しい腹を抱えながら酒を飲んだのだが……。

気がつけば、自分の部屋で寝ていた。俺が先に潰れたようだ。

途中から記憶がない。そして、二日酔いで気分は最悪だった……。




読んでいただきありがとうございました。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2024年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景5 : 68番目の元勇者と晩夏の宴 』が刊行されます。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
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