表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刹那の破片  作者: 緑青・薄浅黄
第一章 : レンゲソウ
10/40

『 夜の帳に注ぐ酒 』

* 国王様視点

 夜も更け、私の執務室には静かな空気が流れていた。

今日は少し、仕事が立て込み何時もより遅い時間になってしまったが

建国祭を境に、私もそして周りの者達も休息を取るように心がけるようになった。


私が、休息を取らなかったものだから

周りの者も、取る事ができなかったようなものだ。


王妃が、あの時行動に移していなければ

皆で、共倒れになっていたかもしれないことを想像すると怖いものがある。


疲れた目元を押さえながら、そっとため息を落とす。

明かりを落とし、自室へ戻る為に扉を開け歩くと私の騎士が後ろをついてくる。


ゆったりと歩きながら、ふと中庭のほうを見ると青年が1人座っていた。

こんな時間に誰が座っているのだろうと、目を凝らすとセツナだった。


表情の無い顔で、空を見ながら酒を飲んでいた。

グラスが2つ用意されているが……1つは、亡くなった英雄の分なのだろう。


数日前にアルトとサイラスに連れられて

城に来たときは、目を疑った……。

あそこまで自分を削るとは、誰も想像していなかった……。


リリアとソフィアが、怒りながら世話を焼いていたが

彼にはそれぐらいが、丁度よかったかもしれない。


いつも、落ち着いているがゆえに忘れそうになるが

彼はまだ若い、人に甘えて生きていても許される年齢だ。


16歳で成人といっても

この国では、一人前の大人とみなされるのは20歳をこえてからだ。

ギルドの孤児院でさえ、20歳で孤児院を出たとしても1年は手を差し伸べる。


16歳から20歳までの、4年間は大人に支えられながら

社会経験を積む為の時間という認識が強い。


アルトにしても、ギルドに12歳で登録できるとはいっても

実際登録するのは、一握りだろう……。

親が居るならば、親が庇護し

居ないならばギルドの孤児院で庇護するのだ。


ガーディルでは違うのだろうか……。

あの国周辺は、色々厳しいと聞くからな……。


私は、自室に向いていた足を中庭のほうへ向け歩く。

セツナが、私の気配に気がつき振り向き立とうとするが

それを、手で止めセツナの隣に私も座った。


騎士達が、椅子を用意すると言うが

必要ないと告げる。


「……さすがに、地面に座るのはどうかと思われますが」


「セツナだって座っているだろう?」


「僕は、王ではありませんからね」


そう言って肩をすくめるセツナを

適当に言いくるめて、私も夜空を仰ぐ。


奪った王座についてから

こうやって、地面に座り空を仰いだ記憶は無い。


セツナは、カバンからグラスを取り出し

私に、酒を注いでくれる。それを受け取り一気に喉へ流し込んだ。


美味(うま)いな……」


「それはよかったです」


「少し肩の力を抜いてから

 酒の味が戻ってきたな……」


「そうなんですか?」


「ああ……」


私が、父を殺し、兄を殺しこの国の国王という座を奪い取った。

その事を、後悔した事は無い。


だが……私は、王位継承権を持たなかったから

帝王学を学んでこなかった……。

良い王というものが、どういうものかわからなかった。


悪い王なら、ずっと目にしてきたが……。


理想を現実にする為に、走り続け……。

将軍も大臣達も、私と同じぐらい走り続けてきた。


王である私を支えて。

友である前に……臣下として……。


それが当たり前だと、他国の王は言うだろう。

確かにそうかもしれないが……。考え込む私にセツナが口を開く。


「仕事と私事を、区別できるのなら

 多少、肩の力を抜いてもいいんじゃないでしょうか」


「……」


「その国々で、色々違うのですから

 比較する必要は無いかと思います。

 国を治めるのに、威厳も体裁ももちろん必要ですけどね」


私の気持ちを読んだように、セツナが話す。


「それに、王妃様が王妃様らしくないので

 国王様が、少し肩の力を抜いてもそう変わらないと思います」


「王妃らしくないか……」


「王妃様が、ご自分でそう言ってましたよ」


セツナの言葉に、苦笑を返すことしか出ない。


「成すべき事を、成しているのならば

 息抜きしても、許されるんじゃないでしょうか」


「……」


「よその国では、何も成さずに遊んでいる王も居ますしね」


微妙に笑うセツナに、私は苦笑を滲ませる。


「そうだな……」


セツナの話を聞く為に、隣に座ったのだが……。

自分の胸のうちを、話している事に気がつく。

どうも、この青年はそういう雰囲気を持っているようだ。


「セツナは、これからどうするつもりなんだ?」


「予定としては、サガーナに向かいます」


「獣人の国か……」


「はい、ラギさんに頼まれた事もありますし。

 アルトの事もありますから」


「サガーナには、船を使うのか?」


「いえ、もと来た道を戻ります。

 洞窟を使って、クットまで戻ろうと思います」


「そうか……。セツナ……この国に仕える気はないか?」


私の言葉に、セツナは真直ぐ視線を私に合わす。


「今更、勧誘が来るとは思いませんでした」


「国王として、一度は言わなければならないだろう?」


「確かに、そうかもしれませんね」


セツナは、気を悪くした風でもなくこちらを見ている。


「僕は、今の所は何処の国にも仕える気はありません」


「そうだろうな。

 気が変わったら、ぜひ我が国に……」


私がそう告げると、軽く笑い

「第一候補に入れておきますね」と軽く答えた。


彼に断られる事は、はじめから分かっていた事なので

これ以上、この話題を続ける気はなかった。


昨日アルトが話していた、彼とトゥーリの話を聞こうかと

口を開けかけたときに……セツナの眉間にしわが出来た。


彼のこういう表情を見るのは、初めてだ。

どうしたのかと、不思議に思って彼を凝視すると


「来ます。毎日場所を変えているのに……。

 どうして、すぐに分かってしまうんでしょうね……」


セツナがそう告げてから、すぐに将軍が私達の前に現れた。


「セツナ! なぜ何時も何時も場所を変える!

 探すのが面倒だろうが!」


将軍の第一声が、セツナに対する文句だった。


「僕は、静かに飲みたいんです。

 将軍が来ると、酒を出せとうるさいじゃないですか」


この2人の会話から、将軍がセツナの酒を当てにして

セツナを毎日探している事が伺えた……。


昔から、酒に対する情熱は凄まじかったからなっと

俯き、笑ってしまう。その笑いを聞きつけたセツナが


「国王様……笑い事ではないんですが……」


と少し不機嫌そうに、私を見た。

私とセツナが話している間に、将軍はもう腰を下ろしており

自分のカップを、セツナの前に出していた。


セツナはため息をつきながら、酒を注いでいる。

彼なら、誰にも見つからずに飲む事が出来るだろうに

そうしないのは、セツナを探している将軍を

無視する事が出来ないからだろうし

将軍は、将軍で私のようにどこかで彼が独りで飲んでいるのを

見かけてから、探すようになったんだろう。


「今日の酒は、何処の酒だ?」


「レグリアのお酒です」


「ガーディルの南の国か?」


「そうです」


「どういった国なんだ?」


「僕も行ったことが無いですから知りません」


「じゃぁなぜ、酒を持っている?」


「珍しいお酒を見かけたら、購入しているんです」


「そうか……美味いな!」


「……それはよかったですね」


「つまみを出せ! つまみを!」


「僕は、食べ物を見たくありません」


「酒につまみは、欠かせないだろうが」


「僕は、いりません」


「俺はいる!」


「……」


まぁ……将軍は、酒が目当てなのもあるのかもしれないが……。

しぶしぶ、カバンから食べ物を出しているセツナを見て

微笑ましく思ってしまう。


「ドルフ……かなり前に、帰宅したと思ったのだが……?」


私が、将軍に声をかけると。彼を名前で呼んだからか

意表をつかれたような表情を私に向け、そして笑った。


「1度帰った。今日は、ライナスがいて驚いたがな……」


私の意図を理解したのか、彼も私を名前で呼ぶ。


「お前と違って、偶然セツナを見つけた」


「俺は、セツナを探してた」


「……」


ドルフの言葉に

セツナが迷惑そうな視線を向けていたが、ドルフはお構い無しだ。

他愛もない話をし、セツナが最後にこの国の酒をカバンから取り出す。


「その酒は、飲んだ事がある。

 珍しくないからな……そろそろ帰るとするか……」


そういって、少し酔っているドルフは珍しい酒の瓶だけを

持って帰っていた。その後姿を、セツナは黒い笑いを浮かべ見送っている。


「セツナ?」


その笑みの意味が分からない私がセツナを呼ぶと


「このお酒は、リペイドのものなんですが

 120年ぐらい前のお酒なんですよ。生産量が少なかったみたいで

 今は手に入れるのが難しいお酒です」


「……」


そう言って、カバンから後2本取り出すと

後ろにいた私の騎士達に、1本ずつ渡す。

騎士達は、断っていたのだが私が許可すると素直に受け取っていた。


「国王様にも、1本差し上げます」


「いいのか?」


「まだありますから」


「前々から、気になっていたんだが

 なぜそんなに酒を持っている?」


私の問いに、セツナはただ笑っただけだった。

私も、深く追求する事はなくその日は解散したのだが……。


後日私と、私の騎士2人は……ドルフに付きまとわれる事となる……。




読んでいただき有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2024年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景5 : 68番目の元勇者と晩夏の宴 』が刊行されます。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ