僕の好きを知ってたの?
***BL*** 好きと言って眠ってしまった彼。告白した事を覚えているんだろうか、、、?ハッピーエンド
「好き、、、」
と言いながら、ノルディンは意識を失った。酒の席で、寝ちゃっただけだけど、、、。
ノルディンの口からはっきり聞けたのは、まぁ、嬉しいけど、、、コイツ、目が覚めても覚えてるのかな?
そう思いながら、彼の髪に触れた。
俺は彼の気持ちを知ってしまい、どう接したら良いか悩んでいる。
ずっと好きだった相手。でも、彼の気持ちは分からなかった。
ノルディンは、貴族の次男として生まれ、俺を追う様に騎士団に入って来た。剣の腕はからっきしで、どんなに練習しても強くはならない。
それでも、人員不足を補う為に入団したままだった。
俺の可愛い従兄弟。
小さな頃から俺を慕い、追い掛けて来た。
実兄より俺を頼るから
「本当の兄は俺なのに」
とザカリーはブツブツ言う。
それがちょっとした優越感になった。
ノルディンの事が好きだと実感したのは、いつだろう。
ただ、この気持ちを伝えてはいけない、と思った事は覚えている。
彼自身、そんな気持ちで俺を慕っている訳では無い。兄の友達。従兄弟のお兄さん。そんなモノだ。
それなのに、みんなが酔い潰れた宴会の席で
「セヴェランが好き」
と聞いてしまった。
俺はどうしたら良いか分からず、つい、聞かなかった事にしてしまった。
あの時、ノルディンを起こしてでも確認すれば良かった。そうすれば、こんなに遠回りをしないで済んだのに、、、
**********
僕はずっとセヴェランが好きだった。でも、従兄弟で兄さんととても仲の良い彼に、その気持ちは隠し続けていた。
最近特に、この不毛な思いを持て余していて、さっさと告白して自滅すれば良いのに、、、と考えたり、やっぱり今のまま、気持ちを隠して一緒にいたいと考えたりで、僕の気持ちはいつもグラグラ揺れていた。
そしてとうとう僕は、セヴェランを諦めようと心に誓った。
いつもなら僕から挨拶をしに行くのに、足を止めて我慢をする。優しい彼は挨拶をすれば、変わらず返してくれるだろう。
でも、それが寧ろ辛くなりそうだった。
*****
少し身体を動かすと汗ばむ季節。
相変わらず、僕の剣の腕は上達する事は無く、団長に呼ばれた。
「内勤ですか?」
「事務仕事に人手が足りなくてな、お前が騎士団に入りたい気持ちも分かるが、事務作業の方がお前には向いているだろう」
「、、、分かりました」
僕は午後の練習から、剣を握る事が無くなり、新しい仕事を覚える事になった。
**********
昼の練習時間に、ノルディンがいなかった。隈なく探したが姿は見えない。
体調でも崩したのか?
心配して、練習に集中出来ない。
あれから俺は、未だどうしたら良いか分からず、いつも通りを貫いていた。
このままでは良く無いと思いつつ、アイツの気持ちを知った上で告白する事が、卑怯な気がして出来ない。
だからと言って、じゃあどうするんだと言われれば、言葉に詰まる。
練習が終わり、夕食の時間。食堂に行くと、ノルディンは事務所のメンバーと一緒に食事を摂っていた。
誰かが
「アイツ、とうとう騎士になるの諦めたんだな」
と言うのが聞こえて来る。
いつも俺を追い掛けて来た可愛い従兄弟、、、。
何だか、急に遠くへ行ってしまった様だった。
**********
事務所の人達が夕食に誘ってくれた。初めての仕事は分からない事だらけだったけど、先輩達は優しかった。
「事務の仕事はどうかな?」
「僕、文字を書くのが好きみたいです」
「ああ、君の文字は綺麗で見やすいよ。文章も分かりやすい」
褒めて貰えた。
騎士の練習で褒められた事は一度も無くて、僕は頑張っていたけど、無駄な努力だったのかも知れない。
今日、半日仕事をして、もしかしたらこちらの方が僕には合うんじゃ無いかと思った。
「ノルディン、珍しいメンバーと食事をしてるじゃないか」
「セヴェラン、、、お疲れ様」
僕は緊張した、、、
「練習は終わったのかい?」
僕の横に座っていた上司が、声を掛ける。
「さっきな。ノルディンは何故此処で?」
「今日の昼、内勤に移動になったんだよ。私の仕事を手伝って貰っている」
セヴェランの瞳が大きくなった。
「内勤?じゃあ、もう練習には参加しないのか?」
「そうだな、事務仕事も忙しい。朝練位なら参加出来るだろうが、難しいだろう」
「そうか、、、」
少し離れた席から、彼を呼ぶ声がした。
「、、、頑張れよ」
と一言僕に声を掛けてから、呼ばれた席に向かう。
**********
ノルディンの横に座る男を知っていた。人当たりが良く、誰からも好かれる男だ。確か名前は、ミシェル。
彼の下なら安心だ。
、、、そう思いながら、モヤモヤする。
飯を食っている時も、上の空だった。彼等を見ながら食事をする。
ノルディンに話し掛けるアイツが気になって仕方が無い。
笑いながら頭を撫でる。待て、彼に触れるな。そう思いつつ、自分を抑える。
*****
夜、ノルディンの部屋に行く。ノックをすると疲れた顔の彼がドアを開ける。
「セヴェラン、、、どうしたの?」
「、、、お前の事が気になって」
「 ? 」
「いつ、内勤の話しがあったんだ?」
「お昼に、、、」
狭い廊下を団員達が歩いて来る。扉を開けっぱなしにしていると邪魔になってしまう。
「中に入っても?」
「、、、はい」
はい、、、?
どうしたんだ。そんな返事の仕方、おかしいじゃ無いか、、、。
「ノルディン、、、」
部屋に入りながら名前を呼ぶ。扉を閉めると、彼の緊張が伝わる。
「騎士になるのは諦めたのか?」
「、、、僕には向いて無かったんです。全然上手くならないし、今日、事務の仕事をして、こっちの方が向いてるかなって思いました」
「そうか」
「ミシェルさんも優しいし、、、。これで良かったと思います」
「、、、俺は少し淋しいぞ、、、」
ノルディンが俺を見た。次の瞬間目を逸らし
「嘘ばっかり」
と笑った、
「嘘じゃない、、、」
「、、、」
「大丈夫か?」
「大丈夫です」
「、、、たまには練習に来いよ。朝練でも良いし、自主練をするなら付き合うからな」
「有難う御座います」
それ以上は、部屋に居られない雰囲気だった。
**********
セヴェランから僕に話し掛けるなんて、珍しかったな。いつも僕が追い掛けて、話すばかりだったもの。
僕から彼の元に行かなければ、自然にこの気持ちは無くなって行くかも知れない。
そう思って、出来るだけ彼を避ける様にした、、、。
*****
どうしてだろう、最近よくセヴェランに会う。
朝、職場に続く外廊を歩いていると、少し離れた練習場所から彼が走り寄って来る。
今までそんな事は無かった。
僕は大抵一瞬で彼を見つける事が出来る為、姿を確認すると前を見て歩く。
そう、まるで興味が無いフリをして、、、。
「ノルディン!」
毎日、毎日僕の名前を呼んでくれる。今まで僕が追い掛けていたのに、彼を諦めた途端、彼が追い掛けてくるなんて、滑稽だな、、、
僕は、「今、彼に気が付いた」という体で頭をペコリと下げる。
「ノルディン!今日は一緒にランチを摂ろう!」
そう言われて思わず立ち止まる。内勤になってからセヴェランとランチを摂る事は無かった。同じ職場のメンバーとテーブルを囲む人が多いから、当然僕もミシェルさん達とランチをしていた。
「迎えに行くよ!」
と笑う彼。
*****
何でだろう、、?
「考え事かい?」
「あ、、、」
仕事中なのに、ふとした瞬間意識が違う方に向いてしまう。、、、ダメだな。
「済みません」
「やっぱり練習に参加したい?」
「いえ、そんな事は、、、」
「じゃあ、恋の悩み?」
「え?!いや、あの、、、」
顔が赤くなる。
「嘘が付けないんだね」
「、、、済みません」
「もしかして、彼の事?」
僕達の仕事部屋は大部屋で、何時もドアが開いたままだ。
入り口にセヴェランがいる。
「ノルディン!」
と大きく手を振る。
「まるで犬だな」
ミシェル様が笑う。
「迎えに来たんだろう、お昼に行っておいで」
「有難う御座います」
僕が小さくお辞儀をすると、彼は手を振って
「いってらっしゃい」
と言った。
**********
またあの男だ、、、。そう思ってしまった。
先日もノルディンの横に座っていた上司。ミシェル、、、。親し気に彼に手を振る。
「お待たせ」
と俺の目の前に立つノルディンは、以前とは雰囲気が違った。
一緒に練習していた頃は、俺を見つけるとすぐに走り寄り、話し掛けて来た。
今は、落ち着いていると言うか、素っ気無い。
「仕事、忙しいのか?」
「入ったばかりだから、まだそんなに」
「慣れない仕事で、疲れないか?」
「大丈夫、みんな優しいから」
「上司の、、、」
「ミシェル様?」
「ああ、、、」
「優しいよ。教え方も上手だし、良い人」
「そうか、、、」
「うん、、、」
職場が変わるだけで、こんなに遠く感じるなんて、、、
**********
「明日も迎えに行っても良いか?」
セヴェランに聞かれて戸惑う。やっぱりランチは同じ職場の人と摂った方が良いかな、、、。
返事を考えていると
「嫌か?」
と聞かれた。嫌な訳無い、、、嬉しいよ。でも、僕は諦めると決めたんだ。
「明日は、職場のみんなと食べるよ」
だって、一緒にいると期待しちゃうから
「俺とは食べたく無いのか、、、」
セヴェランが寂しそうな顔をする。
な、何でそんな顔。今までそんな顔した事無いよね?
「あ、、、えっと、、、。仕事中は話しが出来ないから、ランチの時間はみんなと一緒にいたいなって、、、分からない事も沢山あるし、、、」
「夜は?晩飯は俺と如何だ?」
、、、断らないと
「晩飯もダメなのか?、、、」
「、、、」
「分かった」
カタン、、、と椅子の音がして、セヴェランが立ち上がった。
「ぁ、、、」
「ん?」
僕は頭を横に振って
「ううん、何でも無い」
と言った。
彼の事は諦めるんだから、、、
*****
それから、僕達には距離が出来た。いつも通り朝、外廊を歩いていても、セヴェランは遠くから手を振るだけになった。
その内、手を振る事が無くなり、最後にはこちらも見なくなった。
これで良いんだ。淋しいけど、いつかはこうなるんだから、早く慣れた方が良い、、、。
自分で望んだ事なのに、胸に空洞が出来たみたいな、変な気分だった、、、。
*****
ある日、外廊を通っていると
「セヴェランッ!大丈夫かっ!」
と叫び声が聞こえた。
え?
と思い、声の方を見ると彼が左目を押さえている。血がボタボタと流れ、砂で汚れたシャツが赤く染まる。
怪我してるっ!
僕は動く事が出来ず、立ち尽くしていた。
「済みませんっ!」
まだ新人騎士のルイが、真っ青になっていた。彼の剣が当たったんだ。
セヴェランが何か言いながら、気にするなと言う様にルイの肩を叩く。その間も手の間から血が流れ落ちる。
ルイはセヴェランに寄り添う様に、救護室に向かった。
セヴェランの横は僕の場所だったのに、、、
*****
ランチの時間、セヴェランの事が気になって探した。何処にも居ない。傷が深かったんだろうか、それとも、、、真逆失明なんて事は無いと思うけど、、、。胸がザワザワした。
僕は不安になって、席を立つ。
「ノルディン、如何したんだい?」
「ちょっと気になる事がありまして」
ミシェルさんに一礼して、食堂を出た。
僕はセヴェランを探しながら、救護室に向かう。
救護室には居なかった。心当たりの場所を探す。
セヴェランがルイと一緒にいる。後姿でよく分からないけど、白い包帯が痛々しい。
二人は練習場の端の手すりに寄り掛かり、神妙な面持ちで話しをしている。
怪我が心配で話しを聞きたかったけど、近くに寄る事は出来なかった。
**********
「ルイ、心配しなくて良いから。あの藪医者、ちょっと切れただけなのに、大袈裟に包帯を巻いたんだ」
「本当に大丈夫ですか?失明とかしませんか?」
「切れたのは眉尻だよ。場所が場所だけに、出血は酷いけど、ただの切り傷だから」
「本当に済みません、、、」
「な、腹が減った。朝から何も食って無いんだ。お前もだろう?食堂に行ってランチにしよう」
*****
「うわ、、、どうしたんですか?」
ミシェルが俺の顔を見るなり言う。ノルディンは居ない。
「ちょっと切れてな」
「失明なんて」
「して無いよ。そんな大きな怪我なら此処にいない。医者が大袈裟なだけだ」
「その包帯を見たら、みんな失明したのかと思いますよ」
「だよな。だから包帯は嫌だったんだ。でも、場所が悪いのか左目まで巻かれた。お陰で遠近感が取れなくて不便だよ」
「僕の所為です、、、」
「はは、そう思うなら俺に肉をたっぷり取って来てくれよ。沢山食って、早く治さないとな」
「ノルディンには会ったかい?」
「いや、まだ会って無いな」
「びっくりするだろうね」
俺は、ミシェルに挨拶をして席を離れた。
**********
私が食事を終えて部屋に戻ると、ノルディンは机に伏せって寝ていた。
彼の机をトントンと叩くと、ゆっくり起き上がる。
「騎士の彼、、、セヴェランだっけ?会ったかい?」
「いえ、、、怪我を、、、したのは知っています」
彼は顔色が悪かった。
「目が見えなくて大変な様だよ」
「え?」
「左目、包帯をしていた」
「嘘、、、」
彼は思い詰める様に視線を外した。
直ぐに席を立って、彼の元に行くと思った。でも、彼は動かなかった。
「気にならないの?」
「気になりますけど、、、午後の仕事が」
「行っておいでよ。食堂にいたよ。このままだと、心配で仕事にならないでしょ?」
「良いんですか?」
「戻ったら、倍速で仕事をすれば良いよ」
彼はガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。
「廊下は走っちゃダメだよ」
後ろ姿に声を掛ける。
**********
目が見えないって、、、真逆失明?
そんな、、、
心臓がドキドキする。みんな仕事に戻る為、食堂から出て来ていた。僕は流れに逆らって食堂を目指す。
開け放たれた扉から中を覗くと、彼は窓辺にポツンと座っていた。
白い包帯、、、。
失明って本当に?
もう騎士にはなれないの?
僕は何て声を掛けようか考えながら近付いた。
後、数歩と言う所で、セヴェランがゆっくり振り向く。
包帯で左目が覆われていた。通路を早足で歩きながら、涙を我慢していた僕は息を呑んだ。
「ノルディン?」
彼の優しい声を聞いて、涙が溢れた。
「ノルディンッ?!」
「目が見えないって、、、」
「ああ、、、これ?大丈夫だ。医者が大袈裟に巻いただけだ」
席を立ちながら言う。
「でも!見えないんでしょ?!」
ボロボロ涙が溢れる。
彼は僕に触れようと手を伸ばしたのに、触れる事が出来なかった。距離が掴めないらしい。
「セヴェランが、、、し、失明したって、、、」
彼は一歩前に出て、僕の前に立つ。
「ミシェルから聞いたのか?」
もう一度ゆっくり手を伸ばして、僕の手を握る。
僕はコクコクと頷くしか出来なかった。
「失明はしていない。ちょっと、切れただけなんだ。包帯をしているから、遠近感が取れ無くて困る位だ」
な、なんだ、、、
「良かった、、、」
ホッとした途端、力が抜けてしゃがみ込んでしまった。
もし、本当に失明していたら、こんな所にいる訳無いか、、、。そんな事も分からない位、動揺してたのかな、、、。
そう思いながら泣いた。
**********
ノルディンの涙は中々止まらなかった。小さな彼を抱き締めたいと思いながら、遠慮した。
あの時の好きと言う言葉が、気の所為に思えて自信が無かった。
最近避けられていたし、、、。
食堂は静かだった。食事をする者はいない。午後の仕事や練習が始まっているから、、、。
遠くのキッチンから、カチャカチャと食器を洗う音や、水が流れる音が聞こえる。数人で片付けをしているんだろう、偶に笑い声が小さく聞こえた。
やっばり聞こう。
このままでは良く無い。
「ノルディン、、、俺の事、好きか?」
いや、聞き方を間違えた。
「俺の事、好きと言った事、覚えているか?」
「え?、、、僕、好きって言ったの?、、、いつ?」
やっぱり覚えていなかった。
「言ったよ、、、。でも、君はその後すぐ眠ってしまったから、、、俺も如何したら良いか分からなくて」
「な、、、なんだ、、、僕、一所懸命隠してたのに、、、」
また涙が溢れる。
「セヴェランが好きだったんだ。ずっとずっと、、、。でも、言ったらいけないって思ってた。迷惑になるかなって、、、だけど、好きって伝えたい気持ちがどんどん強くなって、気持ちがグラグラして、、、離れた方が良いって考えたんだ」
「今も、、、?」
「セヴェランが一緒にいるのが嫌なら、、、」
「俺は淋しい、、、」
ノルディンの顔が歪む。
手を伸ばして、抱き締めた。泣くなら、俺の胸で泣けば良い。
「好き、、、セヴェランがずっと好きだったんだ、、、。離れたく無いよ。ずっと一緒にいたい」
「ノルディン、俺も一緒にいたい」
ギュッと力を込めた
「俺もノルディンが好きなんだ」
**********
セヴェランの傷は、眉尻をザックリと切ったらしい。ルイが心配するからちゃんと話さなかったけど、傷は深目で大きく切れている。ただし、眼球に異常は無く、後日抜糸をしないといけない。
聞いてるだけで、僕の左目の上がズクズク痛む。
セヴェランが優しく僕の頭を撫でた。
「さ、ノルディンは仕事に戻ると良い。夕食は一緒に食べよう」
「うん」
僕は早歩きで仕事場に戻った。
*****
机に戻ると、ミシェルさんが
「彼に会えた?」
と聞いて来た。
「ミシェルさんに騙されました。失明して無かったですよ?」
「私は失明なんて言って無いよ。目が見えないって言ったんだ。包帯がぐるぐる巻きだっただろ?」
「、、、」
結局、騙されてると思うな、、、。
「仲直りしたの?」
「え?」
「何かギクシャクしてるみたいだったから」
よく見てるな、、、
「有難う御座います、お陰様で仲直りしました」
「そっか、良かった。じゃあ、遅れた仕事頑張ろう」
そう言って、僕の肩をトントンと叩いた。
よし、頑張ろう!
*****
僕の仕事が終わっても、セヴェランは迎えに来なかった。騎士団の練習場にいるのかと思って、そちらに顔を出したけど居ない。食堂かな?
食堂を覗いても見当たらず、僕は心配になって来た。具合でも悪くなったんだろうか、、、。
一度寮に戻り、セヴェランの部屋に行く。ドアをノックしても返事が無い。ノブに手を掛けると、鍵が開いていた。
「セヴェラン、、、?」
そっと覗くと、彼はベッドで寝ていた。僕は静かに近付く。熱があるみたいだ。首に触れてみると、体温が高い。
僕は念の為手紙を書いて、彼の部屋の鍵を持つ。さっき鍵が開いていたのは、僕が入れる様に開けてあったのかも、、、。
食堂に行き、ピッチャーに飲み水を貰い、軽食を二人分お願いした。それを部屋に運んでから、僕は水桶に水を貼りタオルを濡らした。
起こさない様にそっと首筋に当てる。
僕のタオルを押さえた手に触れる様に、彼はすりすりと顔を寄せる。
「起こして御免、、、。熱が出てるから」
「ああ、、、」
「水、貰って来たよ。後、軽食も」
「助かる」
セヴェランは半身を起こし、水を飲もうとした。僕はグラスに水を注ぎ、手渡す。ゴクゴクと飲み干す姿が男っぽくて格好良い。
「はぁ、、、」
と息を漏らし
「美味い」
と笑う。、、、好きだ、、、。セヴェランの何気無い表情の一つ一つが好きだと思った。
「ノルディンも食べるだろう?」
「うん!」
一緒にサンドイッチを食べた。彼はペロリと平らげ、満足そうに
「ご馳走様」
と言った。
僕が食堂から借りたお皿を、返しに行こうと立ち上がると
「ノルディン、今晩、もう少し熱が上がると思う、一晩一緒にいて欲しい」
と言う。
「勿論、良いよ。食器だけ返して来るね」
「ああ」
セヴェランの部屋の扉を閉め、一人になると顔が赤くなった。
一晩一緒にいて欲しい、、、
少し低い声で言われて、胸がキュンとなった。
食器を返し、セヴェランの部屋に戻る。鍵を閉めて、枕元の椅子に座った。セヴェランはウトウトしていた。
*****
いつの間にか、椅子で寝ていた。セヴェランが腕を伸ばして僕の手を握っていた。
僕がそっとその手を布団の中に仕舞うと
「ノルディン、こっちで」
とベッドの奥を半分開けた。
一緒に寝るの?
「落ちるといけないから、お前は奥に、、、」
と掛け布団を捲った。
「で、でも、、、」
「椅子で寝たら身体に悪い、、、小さい頃は、よく一緒に寝たじゃ無いか、、、」
セヴェランの声がぼんやりしている。眠たいんだ。
僕は靴を脱いでベッドに上がる。彼と彼の間に挟まり、何だか安心している自分がいた。
セヴェランが僕に腕を回し、抱き締める。
「うん、、、良いな、、、」
僕は彼の胸に顔を埋め、彼の匂いをこっそり嗅いだ。
**********
朝、ノックの音で目が覚める。早朝から誰か来た。
「セヴェラン、誰か来たよ」
「ん、、、」
彼はベッドから出て、ドアに手を掛けた
しまった!僕!
「待って!セヴェラン!」
開いたドアの向こうから、ルイが見ていた。驚いた顔をしている。
僕は思わず服を着てる事を確認した。良かった、着てる。いや、良く無いけど、、、だって、ベッドの上にいるから。
「なっ!どっ!えぇっ?!」
ルイは入り口前で固まった。
「あ、、、」
セヴェランは状況を把握し、ドアの外に出ると扉を閉めた。
静まり返った扉の外が怖い、、、。
僕はベッドから降りて鏡を見た。髪に寝癖が付いている。ああ、、、これじゃあ、誤解されちゃうよ、、、。
昨日、シャワー浴びてないから、仕事の前に浴びたかったのに、、、部屋から出られないし、、、。
**********
「なっ!どっ!えぇっ?!」
ルイは入り口前で固まっていた。
「あ、、、」
しまった。ノルディンがベッドの中だった。俺は部屋を出て、そっと扉を閉めた。
「あの!どーゆう事ですかっ?!」
ルイは声を抑えて聞いて来た。助かる、、、。
「んー、、、。看病して貰ったんだけど、椅子で寝かせるのも心配だから一緒に寝た」
「、、、一緒に寝たって、、、」
「熱が出たんだよ」
「、、、」
ルイが疑いの目を向ける。
「傷、、、大丈夫ですか?」
「まだ、微熱があるかな、、、。傷は痛むけど、大丈夫だから」
「何か手伝う事が有れば、声掛けて下さい」
「ありがとな。そうするよ」
ルイはペコリと頭を下げて戻って行った。
部屋に入るとノルディンはベッドから出て、鏡を見ている。可愛い寝癖が付いていた。つい、腰に腕を回し、後ろから抱き締める。鏡越しに
「お早う」
と言うと、恥ずかしそうに
「お早う」
と言う。
「セヴェラン、僕、昨日シャワー浴びてないから、浴びに行きたいんだ」
「俺も行きたい」
「傷、平気なの?」
「頭に掛からなければ平気だろ?」
**********
シャワーを浴びて、朝食を摂りに行く。
「あれ?朝からシャワー?」
ドキッとした。セヴェランは髪を洗えなかったから、僕だけ聞かれた。心臓に悪い、、、。
「はい、昨日浴びる時間が無かったので」
「発熱した?」
ミシェルさんがセヴェランに聞く。
「今も微熱が」
「そっか、お大事にね。ノルディンも風邪引かない様に気を付けて」
「有難う御座います」
セヴェランは微熱がある割に、朝食を沢山食べた。流石だな、、、。僕は、病気になるとご飯が食べられなくなるから感心した。
食事をして、僕は仕事に行く
「セヴェランはどうするの?」
「熱が下がるまでは部屋で休むよ」
「じゃあ、昼に部屋まで行くね」
僕達は、以前の様に仲良く出来た。
**********
そろそろノルディンが来るかな、、、と考えていると、扉をノックする音が響いた。
俺はベッドから出て、ドアを開ける。
「ルイ、どうした?」
「お昼の時間になったので、昼食、何かお持ちしようかと思いまして」
「、、、そうか、ノルディンが来るから大丈夫だ。有難な」
ルイは、その場から動かなかった。
「、、、あの、、、ノルディンさんとはどんな関係なんですか?」
「どんな?」
「恋人ですか?付き合ってるんですか?!いつからですかっ?!」
「え、、っと、、、どうした急に?」
「今朝、二人でベッドに入ってましたよね、、、」
「あー、、、まぁ、、、」
「愛してるんですか、、、?」
「、、、直球だね、、、」
「だって!、、、知りたいんです、、、」
「ノルディンは、俺の従兄弟で小さい頃からよく遊んだ仲だよ。アイツの兄と三人でね。今朝のは、本当に、、、その、申し訳無かった。変な所を見せてしまった。でも、恥ずかしい事は何も無い。彼も、俺も服を着ていただろう?」
誰も居ない寮の廊下に、二人の声が響く。
「じゅあ、僕がっ!
「ダメッ!」
ハッとして、ルイが振り向く。
「ダメ、、、セヴェランは上げないよ?君がセヴェランを好きでも、セヴェランは僕のモノなんだ」
「ノルディン、、、」
そこには、二人分の食事をトレーに載せたノルディンがいた。
ルイは唇を噛んだ。
「済まんな、、、俺は、ノルディンのモノらしい」
彼は泣きそうな顔をして、その場を去った。去り際にノルディンにワザとぶつかり、彼が手に持っていた二人分の食事が床に落ちた。
「大丈夫か、、、?」
「大丈夫、また貰いに行かないと」
「俺が片付けるから、昼食を貰って来れるか?」
「うん、、、。ごめんね」
「お前は悪く無いだろう?」
そう言って頭を撫でる。
*****
夜、ノルディンが部屋に来た。少し元気が無い。
俺はベッドを詰めて座り、彼を横に呼んだ。
「どうした?」
「うん、、、」
「昼間の事が気になるのか?」
「ルイは、セヴェランの事が好きなのかな?」
「、、、お前が気にする事じゃない、、、」
「だけど、、、だけどさ、、、」
俺の左側に座ったノルディンの顔が、包帯で見えない。肩を抱いて頭を寄せる。
「俺が好きなはお前なんだ、他の事は考えなくて良い、、、」
「うん、、、分かった、、、。傷、まだ痛む?」
「昨日より大分良い。昼間、藪医者にも診てもらった」
「早く包帯取れると良いね」
*****
漸く抜糸が終わった。ノルディンは度々俺の傷を眺めては悲しそうな顔をする。
今もベッドの上で傷の近くを撫でる。
「大きな傷が残ったね」
「格好良いだろ?」
「そりゃあ、格好良いけど、、、」
チュッとキスをした
ノルディンがびっくりした顔をする。逃げない様に腕を回し、もう一度キスをしようと近付く。
「え?あ、、、の、、、」
「抜糸が済んだ記念」
彼を押し倒す。
「今日までずっと我慢していた」
「が、、、まん、、?」
キス
「ノルディンは心配性だから、、、」
見下ろしながら頬に触れる。
「そりゃあ、心配するよ。あんなに血が出た所、初めて見たんだもん、、、凄く怖かった、、、」
怪我をした日を思い出したのか、俺の首に腕を回す。
「無事で良かった、、、。包帯が取れるまで、本当に失明して無いか心配だったんだ、、、」
ギュッと抱き締めてから、少し身体を離す。そして、頬にキスをくれた。
「怪我をしたから、ノルディンが戻って来た、、、」
唇にキスをしながら彼の手を握り、指を絡める。
「嬉しかった、、、」
ノルディンの頬を軽く撫でる。彼は俺の傷を眺めながら、そっと触れた。
「傷口にキスをしても良い?」
「良いよ、、、」
両手で支え、左の眉尻にキスをする。端から端まで、小さなキスをした。
くすぐったくて、焦ったいキスだった。
**********
セヴェランの手は大きい。
子供の頃から背が高くて、いつも頼りになる人だった。
何年も一緒に過ごしたのに、こんなに近くに感じた事は無い。
覆い被さる様に身体を合わせ、キスをする。
広い肩幅が僕とは違った。
大きな手で、僕の頬に触れ、包んでくれる。
キスの仕方が変わり、恥ずかしいのに嬉しくてドキドキする。
彼の右手が頬から首筋に移動して、僕のシャツのボタンを外す。
キスの位置が顎に変わり、、、首筋に移り、、、彼の髪が頬を撫でる。
ボタンを全部外すと彼は一度僕を見た。
視線が熱を帯びていて、ドキリとする。
目が合うと、もう一度唇に小さくキスをして、、、それから、、、まだキスをしていない胸元へと近付いて行く、、、。
最後まで読んで頂けて嬉しいです。有難う御座います。




