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僕の好きを知ってたの?

掲載日:2026/10/13

***BL*** 好きと言って眠ってしまった彼。告白した事を覚えているんだろうか、、、?ハッピーエンド


「好き、、、」


と言いながら、ノルディンは意識を失った。酒の席で、寝ちゃっただけだけど、、、。


 ノルディンの口からはっきり聞けたのは、まぁ、嬉しいけど、、、コイツ、目が覚めても覚えてるのかな?


 そう思いながら、彼の髪に触れた。


 俺は彼の気持ちを知ってしまい、どう接したら良いか悩んでいる。

 ずっと好きだった相手。でも、彼の気持ちは分からなかった。



 ノルディンは、貴族の次男として生まれ、俺を追う様に騎士団に入って来た。剣の腕はからっきしで、どんなに練習しても強くはならない。

 それでも、人員不足を補う為に入団したままだった。


 

 俺の可愛い従兄弟。

 小さな頃から俺を慕い、追い掛けて来た。

 実兄より俺を頼るから

「本当の兄は俺なのに」

とザカリーはブツブツ言う。


 それがちょっとした優越感になった。


 ノルディンの事が好きだと実感したのは、いつだろう。

 ただ、この気持ちを伝えてはいけない、と思った事は覚えている。

 彼自身、そんな気持ちで俺を慕っている訳では無い。兄の友達。従兄弟のお兄さん。そんなモノだ。


 それなのに、みんなが酔い潰れた宴会の席で

「セヴェランが好き」

と聞いてしまった。

 俺はどうしたら良いか分からず、つい、聞かなかった事にしてしまった。



 あの時、ノルディンを起こしてでも確認すれば良かった。そうすれば、こんなに遠回りをしないで済んだのに、、、



**********



 僕はずっとセヴェランが好きだった。でも、従兄弟で兄さんととても仲の良い彼に、その気持ちは隠し続けていた。


 最近特に、この不毛な思いを持て余していて、さっさと告白して自滅すれば良いのに、、、と考えたり、やっぱり今のまま、気持ちを隠して一緒にいたいと考えたりで、僕の気持ちはいつもグラグラ揺れていた。


 そしてとうとう僕は、セヴェランを諦めようと心に誓った。


 いつもなら僕から挨拶をしに行くのに、足を止めて我慢をする。優しい彼は挨拶をすれば、変わらず返してくれるだろう。


 でも、それが寧(むし)ろ辛くなりそうだった。



*****



 少し身体を動かすと汗ばむ季節。

 相変わらず、僕の剣の腕は上達する事は無く、団長に呼ばれた。


「内勤ですか?」

「事務仕事に人手が足りなくてな、お前が騎士団に入りたい気持ちも分かるが、事務作業の方がお前には向いているだろう」

「、、、分かりました」

僕は午後の練習から、剣を握る事が無くなり、新しい仕事を覚える事になった。



**********



 昼の練習時間に、ノルディンがいなかった。隈なく探したが姿は見えない。


 体調でも崩したのか?


 心配して、練習に集中出来ない。

 あれから俺は、未だどうしたら良いか分からず、いつも通りを貫いていた。

 このままでは良く無いと思いつつ、アイツの気持ちを知った上で告白する事が、卑怯な気がして出来ない。

 だからと言って、じゃあどうするんだと言われれば、言葉に詰まる。



 練習が終わり、夕食の時間。食堂に行くと、ノルディンは事務所のメンバーと一緒に食事を摂っていた。

 誰かが

「アイツ、とうとう騎士になるの諦めたんだな」

と言うのが聞こえて来る。


 いつも俺を追い掛けて来た可愛い従兄弟、、、。


 何だか、急に遠くへ行ってしまった様だった。



**********



 事務所の人達が夕食に誘ってくれた。初めての仕事は分からない事だらけだったけど、先輩達は優しかった。

「事務の仕事はどうかな?」

「僕、文字を書くのが好きみたいです」

「ああ、君の文字は綺麗で見やすいよ。文章も分かりやすい」

褒めて貰えた。

 騎士の練習で褒められた事は一度も無くて、僕は頑張っていたけど、無駄な努力だったのかも知れない。

 今日、半日仕事をして、もしかしたらこちらの方が僕には合うんじゃ無いかと思った。



「ノルディン、珍しいメンバーと食事をしてるじゃないか」

「セヴェラン、、、お疲れ様」


 僕は緊張した、、、


「練習は終わったのかい?」

僕の横に座っていた上司が、声を掛ける。

「さっきな。ノルディンは何故此処(ここ)で?」

「今日の昼、内勤に移動になったんだよ。私の仕事を手伝って貰っている」

セヴェランの瞳が大きくなった。

「内勤?じゃあ、もう練習には参加しないのか?」

「そうだな、事務仕事も忙しい。朝練位なら参加出来るだろうが、難しいだろう」

「そうか、、、」

少し離れた席から、彼を呼ぶ声がした。

「、、、頑張れよ」

と一言僕に声を掛けてから、呼ばれた席に向かう。



**********



 ノルディンの横に座る男を知っていた。人当たりが良く、誰からも好かれる男だ。確か名前は、ミシェル。


 彼の下なら安心だ。


 、、、そう思いながら、モヤモヤする。


 飯を食っている時も、上の空だった。彼等を見ながら食事をする。

 ノルディンに話し掛けるアイツが気になって仕方が無い。

 笑いながら頭を撫でる。待て、彼に触れるな。そう思いつつ、自分を抑える。



*****



 夜、ノルディンの部屋に行く。ノックをすると疲れた顔の彼がドアを開ける。

「セヴェラン、、、どうしたの?」

「、、、お前の事が気になって」

「 ? 」

「いつ、内勤の話しがあったんだ?」

「お昼に、、、」

狭い廊下を団員達が歩いて来る。扉を開けっぱなしにしていると邪魔になってしまう。

「中に入っても?」

「、、、はい」


 はい、、、?


 どうしたんだ。そんな返事の仕方、おかしいじゃ無いか、、、。


「ノルディン、、、」

部屋に入りながら名前を呼ぶ。扉を閉めると、彼の緊張が伝わる。

「騎士になるのは諦めたのか?」

「、、、僕には向いて無かったんです。全然上手くならないし、今日、事務の仕事をして、こっちの方が向いてるかなって思いました」

「そうか」

「ミシェルさんも優しいし、、、。これで良かったと思います」

「、、、俺は少し淋しいぞ、、、」

ノルディンが俺を見た。次の瞬間目を逸らし

「嘘ばっかり」

と笑った、

「嘘じゃない、、、」

「、、、」

「大丈夫か?」

「大丈夫です」

「、、、たまには練習に来いよ。朝練でも良いし、自主練をするなら付き合うからな」

「有難う御座います」



 それ以上は、部屋に居られない雰囲気だった。



**********



 セヴェランから僕に話し掛けるなんて、珍しかったな。いつも僕が追い掛けて、話すばかりだったもの。

 僕から彼の元に行かなければ、自然にこの気持ちは無くなって行くかも知れない。

 そう思って、出来るだけ彼を避ける様にした、、、。



*****


 

 どうしてだろう、最近よくセヴェランに会う。


 朝、職場に続く外廊を歩いていると、少し離れた練習場所から彼が走り寄って来る。

 今までそんな事は無かった。

 僕は大抵一瞬で彼を見つける事が出来る為、姿を確認すると前を見て歩く。


 そう、まるで興味が無いフリをして、、、。


「ノルディン!」


毎日、毎日僕の名前を呼んでくれる。今まで僕が追い掛けていたのに、彼を諦めた途端、彼が追い掛けてくるなんて、滑稽だな、、、


 僕は、「今、彼に気が付いた」という体(てい)で頭をペコリと下げる。


「ノルディン!今日は一緒にランチを摂ろう!」

そう言われて思わず立ち止まる。内勤になってからセヴェランとランチを摂る事は無かった。同じ職場のメンバーとテーブルを囲む人が多いから、当然僕もミシェルさん達とランチをしていた。

「迎えに行くよ!」

と笑う彼。

 

 

*****

 


 何でだろう、、?



「考え事かい?」

「あ、、、」

仕事中なのに、ふとした瞬間意識が違う方に向いてしまう。、、、ダメだな。

「済みません」

「やっぱり練習に参加したい?」

「いえ、そんな事は、、、」

「じゃあ、恋の悩み?」

「え?!いや、あの、、、」

顔が赤くなる。

「嘘が付けないんだね」

「、、、済みません」

「もしかして、彼の事?」

僕達の仕事部屋は大部屋で、何時(いつ)もドアが開いたままだ。

 入り口にセヴェランがいる。

「ノルディン!」

と大きく手を振る。

「まるで犬だな」

ミシェル様が笑う。

「迎えに来たんだろう、お昼に行っておいで」

「有難う御座います」

僕が小さくお辞儀をすると、彼は手を振って

「いってらっしゃい」

と言った。



**********



 またあの男だ、、、。そう思ってしまった。

 先日もノルディンの横に座っていた上司。ミシェル、、、。親し気に彼に手を振る。

「お待たせ」

と俺の目の前に立つノルディンは、以前とは雰囲気が違った。

 一緒に練習していた頃は、俺を見つけるとすぐに走り寄り、話し掛けて来た。

 今は、落ち着いていると言うか、素っ気無い。

「仕事、忙しいのか?」

「入ったばかりだから、まだそんなに」

「慣れない仕事で、疲れないか?」

「大丈夫、みんな優しいから」

「上司の、、、」

「ミシェル様?」

「ああ、、、」

「優しいよ。教え方も上手だし、良い人」

「そうか、、、」

「うん、、、」


 職場が変わるだけで、こんなに遠く感じるなんて、、、



**********



「明日も迎えに行っても良いか?」

セヴェランに聞かれて戸惑う。やっぱりランチは同じ職場の人と摂った方が良いかな、、、。

 返事を考えていると

「嫌か?」

と聞かれた。嫌な訳無い、、、嬉しいよ。でも、僕は諦めると決めたんだ。

「明日は、職場のみんなと食べるよ」

だって、一緒にいると期待しちゃうから

「俺とは食べたく無いのか、、、」

セヴェランが寂しそうな顔をする。


 な、何でそんな顔。今までそんな顔した事無いよね?


「あ、、、えっと、、、。仕事中は話しが出来ないから、ランチの時間はみんなと一緒にいたいなって、、、分からない事も沢山あるし、、、」

「夜は?晩飯は俺と如何(どう)だ?」


 、、、断らないと


「晩飯もダメなのか?、、、」

「、、、」

「分かった」


カタン、、、と椅子の音がして、セヴェランが立ち上がった。


「ぁ、、、」

「ん?」


僕は頭を横に振って


「ううん、何でも無い」


と言った。



 彼の事は諦めるんだから、、、



*****



 それから、僕達には距離が出来た。いつも通り朝、外廊を歩いていても、セヴェランは遠くから手を振るだけになった。

 その内、手を振る事が無くなり、最後にはこちらも見なくなった。


 

 これで良いんだ。淋しいけど、いつかはこうなるんだから、早く慣れた方が良い、、、。



 自分で望んだ事なのに、胸に空洞が出来たみたいな、変な気分だった、、、。



*****



 ある日、外廊を通っていると

「セヴェランッ!大丈夫かっ!」

と叫び声が聞こえた。


え?


と思い、声の方を見ると彼が左目を押さえている。血がボタボタと流れ、砂で汚れたシャツが赤く染まる。


怪我してるっ!


僕は動く事が出来ず、立ち尽くしていた。

「済みませんっ!」

まだ新人騎士のルイが、真っ青になっていた。彼の剣が当たったんだ。

 セヴェランが何か言いながら、気にするなと言う様にルイの肩を叩く。その間も手の間から血が流れ落ちる。

 ルイはセヴェランに寄り添う様に、救護室に向かった。



 セヴェランの横は僕の場所だったのに、、、



*****



 ランチの時間、セヴェランの事が気になって探した。何処(どこ)にも居ない。傷が深かったんだろうか、それとも、、、真逆(まさか)失明なんて事は無いと思うけど、、、。胸がザワザワした。

 僕は不安になって、席を立つ。

「ノルディン、如何(どう)したんだい?」

「ちょっと気になる事がありまして」

ミシェルさんに一礼して、食堂を出た。

 僕はセヴェランを探しながら、救護室に向かう。

 救護室には居なかった。心当たりの場所を探す。

 セヴェランがルイと一緒にいる。後姿でよく分からないけど、白い包帯が痛々しい。

 二人は練習場の端の手すりに寄り掛かり、神妙な面持ちで話しをしている。

 

 怪我が心配で話しを聞きたかったけど、近くに寄る事は出来なかった。



**********



「ルイ、心配しなくて良いから。あの藪医者、ちょっと切れただけなのに、大袈裟に包帯を巻いたんだ」

「本当に大丈夫ですか?失明とかしませんか?」

「切れたのは眉尻だよ。場所が場所だけに、出血は酷いけど、ただの切り傷だから」

「本当に済みません、、、」

「な、腹が減った。朝から何も食って無いんだ。お前もだろう?食堂に行ってランチにしよう」



*****



「うわ、、、どうしたんですか?」

ミシェルが俺の顔を見るなり言う。ノルディンは居ない。

「ちょっと切れてな」

「失明なんて」

「して無いよ。そんな大きな怪我なら此処(ここ)にいない。医者が大袈裟なだけだ」

「その包帯を見たら、みんな失明したのかと思いますよ」

「だよな。だから包帯は嫌だったんだ。でも、場所が悪いのか左目まで巻かれた。お陰で遠近感が取れなくて不便だよ」

「僕の所為です、、、」

「はは、そう思うなら俺に肉をたっぷり取って来てくれよ。沢山食って、早く治さないとな」

「ノルディンには会ったかい?」

「いや、まだ会って無いな」

「びっくりするだろうね」


俺は、ミシェルに挨拶をして席を離れた。



**********



 私が食事を終えて部屋に戻ると、ノルディンは机に伏せって寝ていた。

 彼の机をトントンと叩くと、ゆっくり起き上がる。

「騎士の彼、、、セヴェランだっけ?会ったかい?」

「いえ、、、怪我を、、、したのは知っています」

彼は顔色が悪かった。

「目が見えなくて大変な様だよ」

「え?」

「左目、包帯をしていた」

「嘘、、、」

彼は思い詰める様に視線を外した。


 直ぐに席を立って、彼の元に行くと思った。でも、彼は動かなかった。

「気にならないの?」

「気になりますけど、、、午後の仕事が」

「行っておいでよ。食堂にいたよ。このままだと、心配で仕事にならないでしょ?」

「良いんですか?」

「戻ったら、倍速で仕事をすれば良いよ」

彼はガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。

「廊下は走っちゃダメだよ」

後ろ姿に声を掛ける。



**********



 目が見えないって、、、真逆(まさか)失明?


 そんな、、、


 心臓がドキドキする。みんな仕事に戻る為、食堂から出て来ていた。僕は流れに逆らって食堂を目指す。


 開け放たれた扉から中を覗くと、彼は窓辺にポツンと座っていた。


 白い包帯、、、。


 失明って本当に?


 もう騎士にはなれないの?


 僕は何(なん)て声を掛けようか考えながら近付いた。

 後、数歩と言う所で、セヴェランがゆっくり振り向く。


 包帯で左目が覆われていた。通路を早足で歩きながら、涙を我慢していた僕は息を呑んだ。


「ノルディン?」

彼の優しい声を聞いて、涙が溢れた。

「ノルディンッ?!」

「目が見えないって、、、」

「ああ、、、これ?大丈夫だ。医者が大袈裟に巻いただけだ」

席を立ちながら言う。

「でも!見えないんでしょ?!」

ボロボロ涙が溢れる。

 彼は僕に触れようと手を伸ばしたのに、触れる事が出来なかった。距離が掴めないらしい。

「セヴェランが、、、し、失明したって、、、」

彼は一歩前に出て、僕の前に立つ。

「ミシェルから聞いたのか?」

もう一度ゆっくり手を伸ばして、僕の手を握る。


 僕はコクコクと頷くしか出来なかった。


「失明はしていない。ちょっと、切れただけなんだ。包帯をしているから、遠近感が取れ無くて困る位だ」


 な、なんだ、、、


「良かった、、、」

ホッとした途端、力が抜けてしゃがみ込んでしまった。


 もし、本当に失明していたら、こんな所にいる訳無いか、、、。そんな事も分からない位、動揺してたのかな、、、。


 そう思いながら泣いた。


 

**********



 ノルディンの涙は中々止まらなかった。小さな彼を抱き締めたいと思いながら、遠慮した。

 あの時の好きと言う言葉が、気の所為に思えて自信が無かった。

 最近避けられていたし、、、。


 食堂は静かだった。食事をする者はいない。午後の仕事や練習が始まっているから、、、。

 遠くのキッチンから、カチャカチャと食器を洗う音や、水が流れる音が聞こえる。数人で片付けをしているんだろう、偶に笑い声が小さく聞こえた。


 やっばり聞こう。

 このままでは良く無い。


「ノルディン、、、俺の事、好きか?」


 いや、聞き方を間違えた。


「俺の事、好きと言った事、覚えているか?」

「え?、、、僕、好きって言ったの?、、、いつ?」

やっぱり覚えていなかった。

「言ったよ、、、。でも、君はその後すぐ眠ってしまったから、、、俺も如何(どう)したら良いか分からなくて」

「な、、、なんだ、、、僕、一所懸命隠してたのに、、、」

また涙が溢れる。

「セヴェランが好きだったんだ。ずっとずっと、、、。でも、言ったらいけないって思ってた。迷惑になるかなって、、、だけど、好きって伝えたい気持ちがどんどん強くなって、気持ちがグラグラして、、、離れた方が良いって考えたんだ」

「今も、、、?」

「セヴェランが一緒にいるのが嫌なら、、、」

「俺は淋しい、、、」

ノルディンの顔が歪む。

 手を伸ばして、抱き締めた。泣くなら、俺の胸で泣けば良い。

「好き、、、セヴェランがずっと好きだったんだ、、、。離れたく無いよ。ずっと一緒にいたい」

「ノルディン、俺も一緒にいたい」


 ギュッと力を込めた


「俺もノルディンが好きなんだ」



**********



 セヴェランの傷は、眉尻をザックリと切ったらしい。ルイが心配するからちゃんと話さなかったけど、傷は深目で大きく切れている。ただし、眼球に異常は無く、後日抜糸をしないといけない。


 聞いてるだけで、僕の左目の上がズクズク痛む。


 セヴェランが優しく僕の頭を撫でた。


「さ、ノルディンは仕事に戻ると良い。夕食は一緒に食べよう」

「うん」

僕は早歩きで仕事場に戻った。



*****



 机に戻ると、ミシェルさんが

「彼に会えた?」

と聞いて来た。

「ミシェルさんに騙されました。失明して無かったですよ?」

「私は失明なんて言って無いよ。目が見えないって言ったんだ。包帯がぐるぐる巻きだっただろ?」

「、、、」

結局、騙されてると思うな、、、。

「仲直りしたの?」

「え?」

「何かギクシャクしてるみたいだったから」

よく見てるな、、、

「有難う御座います、お陰様で仲直りしました」

「そっか、良かった。じゃあ、遅れた仕事頑張ろう」

そう言って、僕の肩をトントンと叩いた。


 よし、頑張ろう!



*****



 僕の仕事が終わっても、セヴェランは迎えに来なかった。騎士団の練習場にいるのかと思って、そちらに顔を出したけど居ない。食堂かな?


 食堂を覗いても見当たらず、僕は心配になって来た。具合でも悪くなったんだろうか、、、。

 一度寮に戻り、セヴェランの部屋に行く。ドアをノックしても返事が無い。ノブに手を掛けると、鍵が開いていた。


「セヴェラン、、、?」


そっと覗くと、彼はベッドで寝ていた。僕は静かに近付く。熱があるみたいだ。首に触れてみると、体温が高い。


 僕は念の為手紙を書いて、彼の部屋の鍵を持つ。さっき鍵が開いていたのは、僕が入れる様に開けてあったのかも、、、。


 食堂に行き、ピッチャーに飲み水を貰い、軽食を二人分お願いした。それを部屋に運んでから、僕は水桶に水を貼りタオルを濡らした。

 起こさない様にそっと首筋に当てる。


 僕のタオルを押さえた手に触れる様に、彼はすりすりと顔を寄せる。

「起こして御免、、、。熱が出てるから」

「ああ、、、」

「水、貰って来たよ。後、軽食も」

「助かる」

セヴェランは半身を起こし、水を飲もうとした。僕はグラスに水を注ぎ、手渡す。ゴクゴクと飲み干す姿が男っぽくて格好良い。

「はぁ、、、」

と息を漏らし

「美味い」

と笑う。、、、好きだ、、、。セヴェランの何気無い表情の一つ一つが好きだと思った。

「ノルディンも食べるだろう?」

「うん!」

一緒にサンドイッチを食べた。彼はペロリと平らげ、満足そうに

「ご馳走様」

と言った。


 僕が食堂から借りたお皿を、返しに行こうと立ち上がると

「ノルディン、今晩、もう少し熱が上がると思う、一晩一緒にいて欲しい」

と言う。

「勿論、良いよ。食器だけ返して来るね」

「ああ」


セヴェランの部屋の扉を閉め、一人になると顔が赤くなった。


 一晩一緒にいて欲しい、、、


少し低い声で言われて、胸がキュンとなった。



 食器を返し、セヴェランの部屋に戻る。鍵を閉めて、枕元の椅子に座った。セヴェランはウトウトしていた。

 


*****



 いつの間にか、椅子で寝ていた。セヴェランが腕を伸ばして僕の手を握っていた。

 僕がそっとその手を布団の中に仕舞うと

「ノルディン、こっちで」

とベッドの奥を半分開けた。


 一緒に寝るの?


「落ちるといけないから、お前は奥に、、、」

と掛け布団を捲った。

「で、でも、、、」

「椅子で寝たら身体に悪い、、、小さい頃は、よく一緒に寝たじゃ無いか、、、」

セヴェランの声がぼんやりしている。眠たいんだ。

僕は靴を脱いでベッドに上がる。彼と彼の間に挟まり、何だか安心している自分がいた。

 セヴェランが僕に腕を回し、抱き締める。

「うん、、、良いな、、、」

僕は彼の胸に顔を埋め、彼の匂いをこっそり嗅いだ。



**********



 朝、ノックの音で目が覚める。早朝から誰か来た。

「セヴェラン、誰か来たよ」

「ん、、、」

彼はベッドから出て、ドアに手を掛けた


 しまった!僕!

「待って!セヴェラン!」


開いたドアの向こうから、ルイが見ていた。驚いた顔をしている。


 僕は思わず服を着てる事を確認した。良かった、着てる。いや、良く無いけど、、、だって、ベッドの上にいるから。


「なっ!どっ!えぇっ?!」

ルイは入り口前で固まった。

「あ、、、」

セヴェランは状況を把握し、ドアの外に出ると扉を閉めた。


 静まり返った扉の外が怖い、、、。


 僕はベッドから降りて鏡を見た。髪に寝癖が付いている。ああ、、、これじゃあ、誤解されちゃうよ、、、。

 昨日、シャワー浴びてないから、仕事の前に浴びたかったのに、、、部屋から出られないし、、、。



**********



「なっ!どっ!えぇっ?!」

ルイは入り口前で固まっていた。

「あ、、、」

しまった。ノルディンがベッドの中だった。俺は部屋を出て、そっと扉を閉めた。

「あの!どーゆう事ですかっ?!」

ルイは声を抑えて聞いて来た。助かる、、、。

「んー、、、。看病して貰ったんだけど、椅子で寝かせるのも心配だから一緒に寝た」

「、、、一緒に寝たって、、、」

「熱が出たんだよ」

「、、、」

ルイが疑いの目を向ける。

「傷、、、大丈夫ですか?」

「まだ、微熱があるかな、、、。傷は痛むけど、大丈夫だから」

「何か手伝う事が有れば、声掛けて下さい」

「ありがとな。そうするよ」

ルイはペコリと頭を下げて戻って行った。


 部屋に入るとノルディンはベッドから出て、鏡を見ている。可愛い寝癖が付いていた。つい、腰に腕を回し、後ろから抱き締める。鏡越しに

「お早う」

と言うと、恥ずかしそうに

「お早う」

と言う。

「セヴェラン、僕、昨日シャワー浴びてないから、浴びに行きたいんだ」

「俺も行きたい」

「傷、平気なの?」

「頭に掛からなければ平気だろ?」



**********


 

 シャワーを浴びて、朝食を摂りに行く。

「あれ?朝からシャワー?」

ドキッとした。セヴェランは髪を洗えなかったから、僕だけ聞かれた。心臓に悪い、、、。

「はい、昨日浴びる時間が無かったので」

「発熱した?」

ミシェルさんがセヴェランに聞く。

「今も微熱が」

「そっか、お大事にね。ノルディンも風邪引かない様に気を付けて」

「有難う御座います」


 セヴェランは微熱がある割に、朝食を沢山食べた。流石だな、、、。僕は、病気になるとご飯が食べられなくなるから感心した。


 食事をして、僕は仕事に行く

「セヴェランはどうするの?」

「熱が下がるまでは部屋で休むよ」

「じゃあ、昼に部屋まで行くね」

僕達は、以前の様に仲良く出来た。



**********



 そろそろノルディンが来るかな、、、と考えていると、扉をノックする音が響いた。

 俺はベッドから出て、ドアを開ける。

「ルイ、どうした?」

「お昼の時間になったので、昼食、何かお持ちしようかと思いまして」

「、、、そうか、ノルディンが来るから大丈夫だ。有難(ありがと)な」

ルイは、その場から動かなかった。

「、、、あの、、、ノルディンさんとはどんな関係なんですか?」

「どんな?」

「恋人ですか?付き合ってるんですか?!いつからですかっ?!」

「え、、っと、、、どうした急に?」

「今朝、二人でベッドに入ってましたよね、、、」

「あー、、、まぁ、、、」

「愛してるんですか、、、?」

「、、、直球だね、、、」

「だって!、、、知りたいんです、、、」

「ノルディンは、俺の従兄弟で小さい頃からよく遊んだ仲だよ。アイツの兄と三人でね。今朝のは、本当に、、、その、申し訳無かった。変な所を見せてしまった。でも、恥ずかしい事は何も無い。彼も、俺も服を着ていただろう?」

誰も居ない寮の廊下に、二人の声が響く。

「じゅあ、僕がっ!

「ダメッ!」

ハッとして、ルイが振り向く。

「ダメ、、、セヴェランは上げないよ?君がセヴェランを好きでも、セヴェランは僕のモノなんだ」

「ノルディン、、、」

そこには、二人分の食事をトレーに載せたノルディンがいた。


 ルイは唇を噛んだ。

「済まんな、、、俺は、ノルディンのモノらしい」

彼は泣きそうな顔をして、その場を去った。去り際にノルディンにワザとぶつかり、彼が手に持っていた二人分の食事が床に落ちた。

「大丈夫か、、、?」

「大丈夫、また貰いに行かないと」

「俺が片付けるから、昼食を貰って来れるか?」

「うん、、、。ごめんね」

「お前は悪く無いだろう?」

そう言って頭を撫でる。



*****



 夜、ノルディンが部屋に来た。少し元気が無い。

 俺はベッドを詰めて座り、彼を横に呼んだ。

「どうした?」

「うん、、、」

「昼間の事が気になるのか?」

「ルイは、セヴェランの事が好きなのかな?」

「、、、お前が気にする事じゃない、、、」

「だけど、、、だけどさ、、、」

俺の左側に座ったノルディンの顔が、包帯で見えない。肩を抱いて頭を寄せる。

「俺が好きなはお前なんだ、他の事は考えなくて良い、、、」

「うん、、、分かった、、、。傷、まだ痛む?」

「昨日より大分良い。昼間、藪医者にも診てもらった」

「早く包帯取れると良いね」



*****



 漸く抜糸が終わった。ノルディンは度々俺の傷を眺めては悲しそうな顔をする。

 今もベッドの上で傷の近くを撫でる。

「大きな傷が残ったね」

「格好良いだろ?」

「そりゃあ、格好良いけど、、、」


 チュッとキスをした


ノルディンがびっくりした顔をする。逃げない様に腕を回し、もう一度キスをしようと近付く。

「え?あ、、、の、、、」

「抜糸が済んだ記念」

彼を押し倒す。

「今日までずっと我慢していた」

「が、、、まん、、?」


 キス


「ノルディンは心配性だから、、、」


見下ろしながら頬に触れる。


「そりゃあ、心配するよ。あんなに血が出た所、初めて見たんだもん、、、凄く怖かった、、、」

怪我をした日を思い出したのか、俺の首に腕を回す。

「無事で良かった、、、。包帯が取れるまで、本当に失明して無いか心配だったんだ、、、」

ギュッと抱き締めてから、少し身体を離す。そして、頬にキスをくれた。


「怪我をしたから、ノルディンが戻って来た、、、」


 唇にキスをしながら彼の手を握り、指を絡める。


「嬉しかった、、、」


 ノルディンの頬を軽く撫でる。彼は俺の傷を眺めながら、そっと触れた。

「傷口にキスをしても良い?」

「良いよ、、、」

両手で支え、左の眉尻にキスをする。端から端まで、小さなキスをした。

 くすぐったくて、焦ったいキスだった。



**********



 セヴェランの手は大きい。

 子供の頃から背が高くて、いつも頼りになる人だった。

 何年も一緒に過ごしたのに、こんなに近くに感じた事は無い。

 覆い被さる様に身体を合わせ、キスをする。

 広い肩幅が僕とは違った。

 大きな手で、僕の頬に触れ、包んでくれる。

 キスの仕方が変わり、恥ずかしいのに嬉しくてドキドキする。

 彼の右手が頬から首筋に移動して、僕のシャツのボタンを外す。

 キスの位置が顎に変わり、、、首筋に移り、、、彼の髪が頬を撫でる。

 ボタンを全部外すと彼は一度僕を見た。

 視線が熱を帯びていて、ドキリとする。


 目が合うと、もう一度唇に小さくキスをして、、、それから、、、まだキスをしていない胸元へと近付いて行く、、、。




最後まで読んで頂けて嬉しいです。有難う御座います。

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