バンジージャンプは綱渡り case4 <サルート>
今日は月曜! 月曜真っ黒シリーズです(^-^;
今日の最後はシティホテルのダブルルームへ運ばれた。
待っていたのは……きっと私より少し年下のビジネスマン。
明日の午前中には東京へ帰ると言う。
「中州は楽しめましたか?」
「いやいや出張して来たとはいえ、こちらが接待する側だからね。楽しむ事まではできないよ」
「あら、じゃあ、出張でいらしてお仕事して接待までなさるなんて、大変ですね」
「まあ、接待については“現地”……福岡支社の連中が段取りしたんだが……要はいつも奴らが《《クラブ活動》》している現場へ連れて行かれたようなもんさ」
「お嫌いなんですか? クラブ活動?」
「ああ? オレは硬式テニスをやりたいのに卓球をやらされてる気分さ」
「ごめんなさい、私はどちらも経験が無くて……」
「ただの物の例えだよ。つまりあいつらは会社の金を遊びに使ってるのさ。それも利益に見合わない額をね」
「それは困りますね」
「本社としてもある程度は目を瞑ってるんだ。オレは奴らのお目付け役で条件が整えば……アイツらは切る予定」
「まあ、怖い! だから、そんなお話はもうお終い! ガウンと一緒にお脱ぎになって」
「仕事だからってがっつくフリはしなくていいんだぞ」
「フリだなんて……意地悪な言い方ね」
「おいおい 意地悪なんて言われるのは心外だな」
「だって女の情を否定なさるんですもの」
そう言いながら女はガウンの合わせ目から手を差し入れて男の胸の厚みを確かめる。
「鍛えてらっしゃるの?」
「ん? ああ……ジムには通ってる」
女は男の胸を……感じさせる様にさわさわと指を這わせる。
「逞しい男の胸に身を委ねたいのが女の情ですわ」
この言葉を置いて目を閉じた女はそっと唇を突き出し、男はそれを強く吸った。
女は男の舌を強く求め、じわじわと流れ込む快楽の予兆の中で……『過去』を思い返していた。
◇◇◇◇◇◇
女にはかつて夫が居た。
単身赴任かつ忙しい身の上であった男が家に帰って来るのは2か月に1回ほど。
夫は几帳面だし学生時代から一人暮らしをしていたから、持って帰って来る衣服もせいぜい3日分の下着で……それはいつも洗濯され、キチンと畳まれていた。
キャリーバッグを開け、最初に顔を出したのは娘二人の為のユーハイムのポケモンビスケット缶。そして女の為にはサブレミシェルのケーキサブレ缶。
女がこの三つをそっと取り出すときれいに畳まれた夫の下着が顔を出した。
「離れていても家を感じていたいから」と夫は我が家の柔軟剤の写真を撮った。
それ以来、下着から薫るのは家と同じ。
女は夫の……家族への愛を感じ、思わず下着たちを抱き締めたらスルリ! と紐が顔を出した。
「えっ?!…… ストラップ??!!」
男物の下着の間には赤い花をあしらった1枚のブラジャーが紛れ込んでいた。
女は絶句し、指が凍る。
しかもすべての下着は……同じ香りで括られていて……
それが……夫の不貞行為の相手からの……最初の手紙だった。
女がそのブラがサルートとの物だったと知ったのは、ずっと後になってからだったが。
◇◇◇◇◇◇
その夜、娘二人が寝静まってから、女は夫の前にブラジャーを突き付け問い質した。
すると夫は涙を流しながら床に何度を頭を擦り付け許しを乞い、「せめて明日、娘達が居ない席で話し合いたい。キチンとした立会人も呼ぶから」と懇願し、改めて話し合いをする事になった。
しかし、次の日、家にやって来たのは見るからに素行の悪そうな三人組で、話し合いなど開かれる筈も無く、女はこの三人に凌辱された。
夫はゲラゲラ笑いながらその様にビデオカメラを向け、その映像は『家族の記録』の一番最後に残された。
◇◇◇◇◇◇
「あの映像をネットに上げるぞ!」と裏で脅迫されていたので、夫との離婚協議は一向に進まず、夫は単身赴任をいいことに表向きはのらりくらりと逃げ回っていた。
そんな中で、家のポストに一通の手紙が届いた。
開封すると、夫の不倫現場の映像が記録されたSDカードと1枚の便箋が入っていて……そこには不倫相手が夫と同じ会社の人間である事。そして差出人のアドレスと電話番号が記されていた。
藁をもすがる思いで連絡を取ってみると、その男はライバル会社のセールスで……売り先が競合する夫を何とか担当エリアから排除したい目論見がある様で、女はこのセールスと手を組む事にした。
女は最初はこのセールスに強い警戒感を抱いていたがLINEや電話のやり取りが深まるにつれ、徐々に心を解きほぐされていった。
実際、このセールスは夫との事だけではなく、娘達の事や日々の生活に於けるちょっとしたトラブルまでも親身になって考えてくれて適切なアドバイスをくれた。
いつの間にか女にとってこのセールスは心の安穏になっていった。
そして……「もし、この人に何か辛い事が起こった時は私が支えてあげたい!」と思う様になった。
やり取りをしている中で、このセールスは自分より年下だと分かり……
心に浮んだ「ああ、もし、私に弟にが居たら、きっとこんな風に思えるんだ」との言葉に胸が熱くなった。
こうして女の胸に片想いの種が植えられた。
でも、セールスにも同じ会社内に意中の人が居て……その片想いの切ない気持ちを“姉”として相談を受ければ受けるほど、女の心も狂おしく切なくなり、カレとの電話を切った後は涙を抑える事ができなくなった。
「私には手が届かない……手を伸ばしてはいけない人!」
そう固く固く決意していたのに……
そんなある夜、カレから電話が架かって来た。
「意中の人がカレの上司と不倫している現場を見てしまった。もうどうしていいか分からない」と
女は娘達に聞かれない様、スマホを持ったまま暗い夜道へ飛び出した。
「私が居るから! 私があなたをしっかり抱いてあげるから!」
こう叫びながら電話口でキスの雨を降らせ続けた。
程なく二人の間でビデオ通話が始まった。
そしてお互いを見つめながら
自らを刹那な音と共に慰めた。
◇◇◇◇◇◇
「あなたのご主人は二人の部下と不貞行為を行っています。 一人はあなたもご存じの女。もう一人は私が好きだった女です。
今まで嘘を付いて申し訳ございませんでした。
私はご主人の部下です。
そして最初にあなたに近付いた目的は……私の意中の人へ、ご主人が手を出す事を防ぎたかったからです。
嘘を付いていた事を許して下さいとはとても申し上げられませんが、せめてご主人を追い詰める手助けをさせて下さい。
あなたのお役に立ちたいのです。
信じてくれないかもしれないけど
あなたを愛しています」
こんなメッセと証拠のファイルが送られて来て女はすぐにカレへメッセを返した。
「あなたの真心を私は誰よりも知っています! 私も心からあなたを愛しているんです」と
◇◇◇◇◇◇
中央区にある夫の会社の近くのレンタルルームを《《カレ》》が押さえてくれて……夫と二人の女に対して話し合いが持たれる事になった。
その会合の前、カレの手配した探偵が収集した数々の証拠を受け取る為に、二人は鶯谷のラブホで落ち合った。
「やっと会えましたね」
「はい」
「こんな形にはなりましたけど、私はあなたにお会いできるのを心待ちにしていました」
「私だってそうです! あなたに会えるからこそ、夫や女達と話す勇気が持てたのです」
「待ち合わせ場所をホテルになさったのは……あなたが事前に証拠を確認されたいからですよね。 どれも公の場所で見れるものではありませんから」
ベッドの端に腰掛け、この様に話すカレの膝を両手で抱き締め、女は激しく頭を振る。
「それだけじゃないです!! どうか意地悪を言わないで下さい! 私だって! 女になりたいんです!! 決して! 決して! あなたにご迷惑をお掛けしませんから!!……」
でも、二人が結ばれる事は無かった。
証拠の数々を見た女が泣いてしまったから……
カレがただ、女を抱き締め
彼女の涙が止まるまで
頭を撫で続けていたから……
◇◇◇◇◇◇
女は離婚に漕ぎ付ける事はできたが、それは決して十分なものでは無かった。
娘達の将来を守る為に結局は不貞行為は不問となり、
元夫は東京本社から神奈川支社へ転勤となっただけだった。
女の“カレ”は出席コースからは外れた。
なのに、元夫は新天地でよろしくやっている。
娘二人の養育費も最初の1年はキチンと振り込まれたが、それ以降は滞り始めた。
これはすべて、あの凌辱ビデオがあるせいだ。
元夫からどんなに不実を重ねられても
娘の将来の為には
デジタルタトゥを残すわけには行かない。
家計が苦しくなり、女は今までの職を辞して、ヘルパーとして介護施設に勤めたが、数年で腰を痛め、仕事の継続が難しくなった。
このままでは、何とか支えて来た生活が崩れてしまう。
長女は高2、次女が中2。
学費だってこれからドンドン掛かって来る。
体を壊し、資格は普免と介護福祉士実務者研修のみの彼女がすぐに稼げる可能性がある仕事は……
もう、夜職しかなかった。
◇◇◇◇◇◇
そして女は“運ばれ屋さん”になった。
指名が来たらクルマに乗せられホテルまで運ばれる。
事が済めば、また別のホテルか事務所へ運ばれる。
その回数が多い程、実入りも多い。
ヘルパー時代はポロシャツが彼女の仕事着だったけど
今はサルートがそれに取って替わった。
娘達には「今日も夜勤だから」とスニーカーとポロシャツ姿で家を出る。
事務所でサルートを身に着け待ち合わせ用の服を着て待機。
そしてルーティンが始まる。
これが今の日常。
「私、ピル飲んでるから」の言葉で『NN』と言う《《裏を引き》》、口座残高は確実に膨らんでいる。
今日、最後の客を済ませて事務所へ戻ると、もう空が白んで来た。
時刻は4時半。
昼間ならまるっきり聞こえない列車の音が耳朶を打つ。
もうしばらくすれば始発だ。
少し寒かったのでウィンドブレーカーを羽織り、ホームのベンチで始発を待つ。
女はスマホを出し、元夫の裏アカを監視する。
「デジタルタトゥは刻まれていないけれど……今の仕事で身バレしたらどうしよう」
だが、彼女の娘達の為にはお金はまだまだ足りず、仕事を辞める事もできない。
いや、それだけが仕事を辞められない理由なのだろうか?
彼女は今日も、男の胸の厚みにときめき、鶯谷のラブホで顔を埋めた温もりを追い求めた。
警笛が聞こえ、列車が近付いて来る。
「今日最後のオトコも……期待外れだった」
彼女はため息をつき
勢い付けてベンチから立ち上がる。
その瞬間、
最後のオトコの残渣が漏れ出て
量販店で買ったショーツを濡らした。
おしまい
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