妖精のイタズラで聞こえた仏頂面婚約者の本音が、甘くてうるさすぎます…!!【2000文字】
『アイビー!俺のアイビー!』
本当に私の知っているエヴァン殿下なんだろうか…。
国に妖精が多いほど豊かになる。
数年に1人生まれてくる妖精の声が聞こえる者は、妖精の声に導かれながら、国のために仕事をする。
私もその1人だけれど、生まれはたまたま貴族の娘だった。
だから私が授かった仕事は、第二王子の妃になることだった。
今は、第二王子エヴァン様の婚約者という立場だ。
「…では、また次回のお茶会で」
エヴァン殿下は一瞥もなく部屋を出て行った。
ふうう、と緊張が解けていく。
「…この婚約、本当に進めるのかしら」
私の独り言を、王城の使用人たちは咎めなかった。
どちらかというと、曖昧に笑ったり、無理矢理笑みを貼り付けている。
それもそうだ、『第二王子はこの結婚を認めていない』という噂が有力になるほど、殿下は私に興味がない。
それどころか、いっつも仏頂面で私のことを睨んでくる。
『アイビー。エヴァンと結婚、イヤ?』
妖精たちがふわふわと集まってきて、私を取り囲む。
「嫌かどうかわからないぐらい、殿下のことがよくわからないわね」
私の返事に、妖精たちが何かを相談し始める。
あら、イタズラを企んでないといいけど。
『じゃあ、聞こえるようにしてあげるー!』
妖精みんながわーいと手をあげると、ピカっと光った。
『ちょっとだけだよー』
そう言ってくすくす笑いながら、妖精たちはどこかに行ってしまった。
妖精が気まぐれなのは、いつものことだ。
周りが驚いていないから、また見た目を大改造されたというわけではなさそう。
聞こえるって、何が…、と思った時、脳内に男の人の声が響いた。
『アイビーが可愛すぎる…!今日も目が合わせられなかった!』
「えっ」
この低い声、もしかしなくてもエヴァン殿下では…!?
『アイビーが話しかけてくれるのに、俺はどうして碌に返事ができないんだ!昨日だってアイビーの肖像画を見て練習したのに!ああ、あの桃色の瞳で見つめられるとダメなんだ…!すぐにでも襲いそうになるっ!』
…ちょっとまって。
『今日もあの唇を奪わなかったことを褒めたい!だが、そのせいでアイビーと何にも進展しないっ!あああ、アイビーに嫌われていたらどうしよう…』
この饒舌な人は、誰だ。
『今日もアイビーは素晴らしかった!所作、話の振り方、俺への気遣い、完璧な淑女だ!それでいて、甘いものに喜んでいるところは隠せていない!かわいいかわいいかわいいっ!』
…す、すごい見られてる。
『アイビー、早く俺だけのものになってくれ…。組み敷きたい、触れたい、早く、繋がりたい、アイビー…!』
「うわあああ!!!!」
聞くに耐えなくて、立ち上がって叫んでいた。
「妖精さん!もういい!もう大丈夫だわ!」
近くに妖精はいないかと探すが、こういう時に限っていない。
きっとどこかで私を見ながら、楽しそうに笑っていることだろう。
妖精はイタズラ好きだから。
…殿下には、結婚の意思があった。
それは、まあ、この中で唯一わかってよかったことだ。
そっか、殿下は私と結婚する気があったのか。
思いの外、ホッとしている自分にドキマギする。
あんなに恥ずかしいことを言われていたのに、私、嬉しいの…?
え、それでいいの…?
自分のことなのに、うまく整理できない。
『…部屋に忘れ物をした。戻ったら、アイビーはまだいるだろうか』
ええっ、今!?
『今日は2回もアイビーの顔が見られる、嬉しいな…』
心の準備がっ…!と頭を抱えている間に、エヴァン殿下が部屋に入ってきた。
「すまない、忘れ物をした」
「…は、はい」
やっぱりこちらを見ようとしない殿下は、忘れ物を手に取るとすぐに踵を返した。
『…今すぐアイビーと抱き合えたら、どんなに幸せだろうか』
「殿下はっ!」
殿下の心の声を掻き消すように、背中に向かって大声で呼び止めた。
「私と、結婚したいですか…!?」
殿下の口から、聞きたかった。
「…アイビー以外と結婚なんて考えられない」
『至近距離、キスしたい』
…あああっ。
『ちゅー!ちゅー!ちゅー!』
「なっ」
『ちゅーしたら祝福をあげちゃう〜!』
今になってようやく出てきた妖精たちは、きゃっきゃとはしゃいでいる。
キスしてまで、祝福なんていらないわよ〜!
…あ、だめだ、国として要るわ。
キスしたら、殿下はどんな反応するんだろう…。
「殿下、失礼します」
私は背伸びをして、殿下の唇に触れた。
エヴァン殿下の目が見開かれたが、すぐに私を抱き抱えた。
「今すぐ子作りしよう!」
「えっ」
「もう待てない!」
『子どもの名前はミゲルとエリスで決まりだ!』
「子どもは、結婚してからですってえっ!」
『国の恋人たちがすぐに結ばれちゃうおまじない、そーれっ!』
それって…!?
「あの、殿下…!婚姻状を申請しろと言う者が王城に溢れかえっているのですが…!」
「それに乗じて、俺たちも結婚だ!」
『好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ、アイビーいい匂いだ』
「妖精さん、やりすぎよ〜!」
もう、殿下の声もいいから〜!!
了
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