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幽霊なんていません。〜悪役令嬢の事件簿〜  作者: 吉良 鈴


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9/18

#9 恐怖は迷信の母である

昼時の食堂は、いつもよりざわついていた。

クラリス・ヴァレンティアが、元婚約者ロイ・グランディアとその恋人エリザ・マルベリーの前に立っていたからだ。


「嫌がらせをやめてください」

クラリスの声は静かだった。

だが、その一言に、周囲の空気が一瞬で変わった。


ロイは、椅子に座ったまま眉をひそめる。


「何のことだ?」


クラリスは、手に持っていた証拠の束を机に置いた。

生徒会が集めた、噂の発信源と拡散経路。

匿名で書かれた怪異報告の筆跡と、エリザの提出書類の一致。

そして、夜の校舎で目撃された“幽霊”が、ロイであること示す男子生徒Sと女子生徒Tの証言の一致。


「これは全部あなたたちが仕組んだことの証言です。私を怪異の中心に見せかけるために、噂を流し、仕掛けを使って心霊現象を演出した」


エリザは、顔を強張らせた。

「そんな証拠、でっち上げじゃ――」

「生徒会で正式に調査したものです。否定するなら、学院に異議申し立てをしてください」


ロイは、唇を噛んだまま何も言えなかった。

周囲の生徒たちは、ざわざわと声を上げ始める。


「最低……」

「噂って、全部あの二人が……?」

「クラリスさん、やっぱり違ったんだ……」


クラリスは、何も言わずにその場を離れた。

背後で噂が反転していく音を聞きながら、制服の裾を揺らして食堂を後にする。



生徒会室。

クラリスは机に向かい、報告書を書いていた。

筆記魔道具の先が走るたび、紙に整った文字が並んでいく。


「元婚約者ロイ・グランディアおよびエリザ・マルベリーによる名誉毀損行為について、調査の結果、以下の通り報告する――」


扉が開き、会計のユリウス・フェルマーが入ってきた。


「おつかれさまでーす!」


クラリスは顔を上げる。

ユリウスは、にこにこしながら報告書の束を見ている。


「おっ!今回は依頼じゃなかったけど、食堂での一件、自分も見ましたよ~!さすがですね!」


クラリスは、少しだけ頬を緩めた。


「ありがとうございます」

「でも、仕事してる時の独り言、癖なんすか?」

「へっ?私、独り言なんて言ってました……?」

「今も俺が部屋に入る前に声が聞こえてたから、誰かと話してるのかと思いましたよ!でもクラリスさん1人だったんで、独り言だったんだな〜って!」

「いや、私は……」


クラリスは、目の前に座っているセシルに目を向けた。

確かに、彼はそこにいる。

だが――ユリウスは、彼を見ていない。いや、見えていない。


セシルは、少しだけ悲しそうな顔をして呟いた。

「……バレちゃったか」


ユリウスは、首を傾げながら手を振った。

「じゃ、また出てきますねー」


扉が閉まり、静寂が戻る。


クラリスは、セシルの方を見た。

彼の足元が、うっすらと透けていた。


「……セシル会長、あなた……まさか」


セシルは、微笑んだ。


「そう。僕、幽霊なんだよね」

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