#5 呪いの写真
女子寮の一室。
クラリスとセシルは、依頼人である女子生徒Hと、同室の女子生徒Oの前に座っていた。
部屋は整っていたが、空気は張り詰めていた。
Oは布団にくるまり、顔だけを出して怯えたようにクラリスを見ている。
Hは椅子に座っているが、指先が落ち着きなく動いていた。
「まず、写真の話から聞かせてください」
クラリスの声は静かだった。
Hは頷き、話し始める。
「祖父から撮影機をもらったんです。古いものだけど、魔力で動くタイプで……でも、ちゃんと写るんですよ。最初は楽しくて、Oと一緒に寮の中でいろんな写真を撮ってました」
「その中に、問題の写真が?」
「はい。記念に二人で撮った写真です。部屋で、並んで撮っただけなのに……背後に、男の人が写っていたんです。睨みつけるような顔で」
クラリスは、静かに頷いた。
「部屋には、あなたたち二人しかいなかった?」
「はい。誰もいませんでした。背後にも、当然誰も」
Oが、布団の中から声を絞り出した。
「それから……金縛りに遭うようになって……夢にも出てくるんです。あの男が、部屋の隅に立ってて……ずっと見てるんです……」
クラリスは、Oの顔を見つめた。
その表情は、怯えと疲労に満ちていた。
「授業にも出られていないと聞きました」
「はい……怖くて、部屋から出られなくて……」
クラリスは、しばらく黙っていた。
そして、Hに目を向ける。
「その、寮で撮った写真に突然霊が写るとは考えにくいです。何か、他に心当たりは?」
Hは、目を泳がせた。
そして、しばらく沈黙した後、ぽつりと口を開いた。
「……実は、寮で写真を撮る前に、街外れの屋敷に行ったんです。Oと一緒に。誰も住んでいない、立ち入り禁止の場所です」
クラリスの表情がわずかに動いた。
「なぜ、そんな場所へ?」
「……写真を撮りたかったんです。雰囲気のある場所で。撮影機を使って、何か特別なものが撮れるんじゃないかって……私たち面白がって……」
Oは、布団の中で小さく震えた。
「その屋敷、もしかして――」
セシルが、そこで口を開いた。
「街外れの幽霊屋敷だね。昔、有名な写真家が住んでいた。晩年はスランプで、誰にも見向きされなくなって、屋敷に引きこもったまま亡くなった。死後、部屋には大量の未現像フィルムが残されていたけど、どれも真っ黒だったんだって。それが呪いの写真だとか言う話もある」
クラリスは、セシルの語りに目を向ける。
「心霊スポットになってるのね。」
「そう。写真家の怨念が残ってるとか、屋敷の鏡に彼の姿が映るとか、いろんな噂がある。写真を撮ると魂を抜かれるっていう迷信も、あの場所ではよく語られてる」
Hは、うつむいたまま言った。
「……私たち、あの屋敷で何かを撮ってはいけないものを撮ってしまったんだと思います!男の魂を吸い取ってしまったから!恨まれてるんですよ!Oは、あの男に呪われてるんです!!」
Oは、布団の中で小さく悲鳴を上げ、完全に潜り込んでしまった。
クラリスは、しばらく黙っていた。
そして、静かに立ち上がった。
「まずは、写真を見せてもらえますか?」
Hは、机の引き出しから一枚の写真を取り出した。
クラリスはそれを受け取り、じっと見つめた。
そこには、確かに二人の少女が並んで写っていた。
その背後に――青白い顔の男が、睨みつけるように立っていた。
「……不気味ね」
セシルが、目を輝かせる。
「これは、間違いない。心霊写真だよ!いやーすごい!」
クラリスは、写真を机に置いた。
「調査を始めましょう。まずは、撮影機の性能と、撮影時の状況から」
セシルは、嬉しそうに頷いた。
「了解。君の推理、今回も楽しみにしてるよ」
クラリスは、写真をもう一度見つめた。その青白い男の顔は、確かに不気味だった。