#4 噂の生徒会
学院の廊下は、今日もざわめいていた。
クラリス・ヴァレンティアが生徒会に入ったという話は、瞬く間に広まり、あちこちで囁かれている。
「えっ、あのクラリスが生徒会に? あの噂はどうなったの?」
「副生徒会長が惑わされたんじゃない? あの赤い瞳に」
「でも、生徒会に入れるってことは、噂の方が間違ってたのかも……」
好奇心、疑念、皮肉、そしてわずかな敬意。
様々な感情が混ざり合った視線が、クラリスの背中に突き刺さる。
だが、彼女は気にする様子もなく、制服の裾を揺らしながら堂々と歩いていた。
生徒会室の扉を開けると、窓際にセシル・ノクティスの姿があった。
銀髪が光を受けて淡く揺れ、淡い紫の瞳が外の庭を静かに見つめている。
「おはようございます、会長」
クラリスが声をかけると、セシルはゆっくりと振り返った。
「おはよう、クラリス。今日も堂々としてるね」
「当然です。噂に負けるほど、私は弱くありませんから」
クラリスは自分に用意された席に座り、机の上の書類に目を通し始める。
事務処理は地味だが、学院の運営に関わる重要な仕事だ。
筆記魔道具を手に取り、彼女は淡々と作業を進めていく。
セシルは窓辺から離れ、クラリスの机に近づく。
「最近、学院の空気が少し変わった気がする。君が入ってから、ね」
「それは、良い意味ですか?」
「もちろん。僕は、君がここにいることを歓迎してる」
クラリスは、少しだけ目を伏せた。
その言葉が、思いのほか胸に響いた。
そのとき、扉がノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは、書記のミリア・エルステッドだった。
几帳面な彼女は、いつも通り無表情で、手に一枚の依頼文を持っていた。
「クラリスさん。新しい依頼が入りました。前回の事件と似た系統なので、あなたに任せたいとのことです」
クラリスは立ち上がり、依頼文を受け取った。
「内容は?」
「女子寮で撮影された写真に、不可解な人物が写り込んでいたそうです。撮影者と同室の生徒が、金縛りや夢の中でその人物を見るようになり、精神的に不安定になっています」
クラリスは依頼文に目を通しながら、眉をひそめた。
「心霊写真、ですか」
「はい。依頼人は女子生徒H。彼女と同室の女子生徒Oも、証言者として話を聞けるはずです」
「心霊写真か……いいね。前回は音だったけど、今回は写真。オカルトの幅が広がってきた」
セシルが、興味深そうに顔を近づける。
「もちろん。写真に写る霊は、残留思念の最も純粋な形だ。しかも、金縛りや夢に現れるとなれば、これはもう――」
「……行きましょう。話を聞いてから、判断します」
とても楽しそうな様子のセシルを遮り、クラリスは依頼文を折りたたんで制服のポケットに仕舞った。
セシルは、嬉しそうに微笑む。
「了解。君の推理、今回も楽しみにしてるよ」
学院の空は、秋の気配を帯びていた。
新たな事件が、クラリスを待っている。