表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊なんていません。〜悪役令嬢の事件簿〜  作者: 吉良 鈴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/18

#12 帰る場所

朝の空気は澄んでいて、肌を撫でる風が少し冷たかった。

学院の門を抜け、二人は並んで歩く。向かう先は、セシルが最後に記憶している山――最上学年の記念旅行の下見で訪れた場所だった。


クラリスは登山用の軽装に身を包み、地図と記録魔道具を鞄に収めている。

隣を歩くセシルは、いつも通りの制服姿ながら、足取りは軽やかだった。


「まさか、クラリスから“生霊”なんて言葉が出るとはね」


嬉しそうに笑いながら、セシルが口を開く。


「生霊っていうのは、強い未練や感情が肉体から離れて、霊的な形で現れる現象でね。古くは“生きながらにして幽霊になる”とも言われていて、特定の相手にだけ見えることが多いんだ」


「セシル、いつも通りですね」


くすくすと笑うクラリスに、彼は肩をすくめて答えた。


「君が隣にいると、話したくなるんだ。オカルトでも、なんでも」


ちらりと横顔を盗み見ると、どこか楽しげで、安心しているようにも見える。


山道に入ると、空気が一段と冷たくなった。

木々の間から差し込む光が、落ち葉を柔らかく照らしている。

クラリスは地図を確認しながら、セシルの記憶を頼りに歩を進めた。


「ここで地図を広げていたって言ってましたね」


「そう。あのときは、引率の教師がいて、数人の生徒が……」


語尾が少し遠くなる。風景と記憶が重なっていくようだった。


「分岐があって、僕は……誰かの声を聞いた気がして、そっちへ向かった」


分岐点で立ち止まり、クラリスは周囲を見渡す。

霧が出ていたという話を思い出す。今は晴れているが、地形は確かに複雑だった。


「この先ですね。道なき道を進んだとしたら……」


足元に注意しながら斜面を下りていく。

セシルは後ろからついてきていたが、時折立ち止まっては木々を見上げていた。


「この辺りで、足を滑らせた気がする」


呟く声が静かに響く。


「でも、落ちた記憶はない。ただ、そこで意識が途切れた」


慎重に斜面を下りていくと、少し開けた場所に出た。

踏みならされた痕跡があり、古びた登山靴の片方が落ちている。


「……これ」


拾い上げた靴は、サイズも形も、セシルが履いていたものと一致していた。


「ここで、何かがあったんですね」


彼は黙って頷いた。


そのとき、風が吹き抜け、遠くに煙が立ち上るのが見えた。

クラリスは目を細めて確認する。


「煙……あれは、小屋の煙突?」


「誰かが住んでるのかも」


靴を鞄にしまい、足を速める。

セシルも、少し驚いたように後を追った。


木々に囲まれた場所に、小屋がひっそりと建っていた。

煙突からは、細く煙が立ち上っている。

扉の前で深呼吸をひとつ。クラリスはノックした。


「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」


しばらくして、扉が開く。

現れたのは、白髪の年配男性だった。

顔には深い皺が刻まれ、ぶっきらぼうな表情ながら、目は優しげだった。


「……あんた、何の用だ?」


少し緊張しながら、クラリスは答える。


「この辺りで、行方不明になった人を探しています。

銀髪で、紫の瞳。登山服を着ていたはずです。学院の生徒で、名前はセシル・ノクティスです」


男は眉をひそめた。


「名前は知らん。けど……銀髪で、そんな目の若い男なら、うちにいる」


息を呑むクラリスに、男は続けた。


「山で倒れてた。意識はなかったが、息はあった。医者にも診てもらったが、原因は分からん。ずっと眠ったままだ。身元も分からず、どうしたもんかと悩んでたところだ」


案内されて小屋の奥へ進むと、簡素なベッドがあり、そこにセシルが横たわっていた。


顔色は悪くない。呼吸も穏やか。

ただ、瞼は閉じたまま、微動だにしない。


振り返ると、そこに“幽霊”の彼がいるはずだった。

けれど、誰もいない。


「……消えた」


思わず呟く。

本体と近すぎると、影響があるのかもしれない。

いや、これは――


そっと手を握る。冷たいけれど、確かにそこにある。


「早く起きてくれないと、一緒に踊れないじゃないですか」


その言葉に、指がぴくりと動いた。

息を止めて見つめる。


やがて、瞼がゆっくりと持ち上がり、紫の瞳がクラリスを捉えた。


「……おかえりなさい」


微笑みながら、そう告げる。


掠れた声が、静かに返した。


「……ただいま」

少し読みづらかったので話の流れを変えずに改稿しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ