第四集:記憶の迷路、そして新たな試練
楓が悠真と陽子の記憶を乗り越え、未来への希望を心に宿したことで、彼女の日常は再び平穏を取り戻しつつあった。しかし、まだ完全に解決していないことが一つだけ残っていた。それは、祖母から託された、悠真と陽子の日記帳だった。日記には、二人の日々のささやかな喜びや、戦争に対する不安、そして互いへの深い想いが克明に綴られていた。しかし、後半のページだけが、なぜかごっそりと失われていたのだ。
楓は、失われたページに何が書かれていたのかを知りたいと強く思った。それは、ただの好奇心ではなく、二人の物語を完全に理解し、未来へと繋ぐための最後のピースだと感じていたからだ。
楓は、祖母に日記の失われたページについて尋ねた。
「そのページはね、ごめんなさい、私が預かっていたの」
祖母は、申し訳なさそうな顔で、一つの古いスクラップブックを取り出した。
「でも、私が預かっていたのは、陽子ちゃんが書いた、たった二ページだけ。残りのページは…陽子ちゃんが、ある人に託したと聞いていたの」
祖母から聞かされた「ある人」は、かつてこの街に住んでいた、骨董品や珍しいものを収集していた男だった。彼の名前は 五十嵐。現在は、街を離れ、郊外の屋敷に住んでいるという。楓は、その五十嵐が、悠真と陽子の日記の残りのページを持っているかもしれないと直感した。
楓は、手がかりを求めて、祖母と親交があった元特攻隊員の田中を訪ねた。
「五十嵐か…変わり者の収集家だった。金にものを言わせて、戦時中の貴重な品々を買い漁っていたよ」
田中は、苦々しい顔で言った。「あいつにとって、我々の思い出は、ただのコレクションでしかなかった。悠真の日記も、陽子ちゃんが彼に託したわけじゃなく、強引に奪っていったという噂もあった」
楓は、五十嵐に対する怒りを覚えた。二人の大切な思い出が、ただのコレクションとして扱われていることが許せなかった。
楓は、五十嵐の屋敷を訪れた。
屋敷は、森の中にひっそりと佇む、まるで時間が止まったかのような古い洋館だった。
五十嵐は、楓を一瞥すると、皮肉な笑みを浮かべた。
「佐伯悠真と鈴野陽子…ああ、懐かしいね。彼らの日記なら、ここにある」
五十嵐は、楓を薄暗い書斎に通した。壁一面に、骨董品や戦時中の品々が飾られている。その中に、見覚えのある日記帳が、ガラスケースに収められていた。
「この日記は、歴史的価値がある。君のような小娘に渡せる代物じゃない」
五十嵐は、楓を突き放した。
しかし、楓は引き下がらなかった。
「私にとって、これは歴史的な品物なんかじゃありません。二人の、かけがえのない思い出なんです!」
楓は、悠真と陽子から受け継いだ記憶を、五十嵐に語り始めた。
二人が交わした約束、海辺の防空壕でのささやかな日々、そして未来に託した希望。
楓の言葉は、ただの事実の羅列ではなかった。そこには、二人の生きた証、そして楓自身の心からの叫びが込められていた。
五十嵐は、楓の言葉を聞きながら、次第に表情を変えていった。
彼は、ただのコレクターだったのかもしれない。しかし、楓の言葉は、彼の中にある、何かを揺り動かした。
「…わかった。日記は、君に返そう」
五十嵐は、静かに言った。
「だが、約束してほしい。その日記を、ただの思い出話で終わらせないことだ。彼らの想いを、君が生きる未来で、形にしてくれ」
楓は、五十嵐から日記を受け取った。失われたページは、そこにあった。
日記には、悠真が出撃する直前、陽子に会えなかった悲しみと、それでも未来を信じる強い決意が綴られていた。そして、最後に一輪の押し花が挟まれていた。
「希望」という名の花。
楓は、日記を胸に抱きしめた。
二人の最後の言葉と希望が、今、確かに自分の手の中にある。
楓は、五十嵐の言葉を胸に、新たな決意を固めた。
この物語は、楓が悠真と陽子の最後の記憶を取り戻し、その想いを未来へと繋ぐ、新たな使命を見つけるところで幕を閉じる。