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食パンとその中身①

ベルが行方不明となった現場へ、リックとイーサン、そしてウィスタリア公爵であるロナルドが駆けつけると、目を閉じ立ったままの特級冒険者ザックと、片膝をつき地面をジッと見つめるウィスタリア公爵家の執事ウォルターの姿があった。


 そんな二人を見ながらリックとイーサンは愛馬から降り、ロナルドは公爵家の馬車から降りるとザックたちに近付いて行く。


「ウォルター」


 主であるロナルドが声を掛けたが、ウォルターは視線も向けず頷くだけで答える。

 そんなウォルターの様子から、目が離せない事情が何か有るのだろうとリック達は察した。


「ザック様、魔力はまだ大丈夫でしょうか?」

「うん、まだ余裕。俺の事はいいから、ウォルターさん、遠慮なく指示して」


 額に汗をかきウォルターに応えるザック。

 笑顔で「余裕」だと言っているが、その汗をみればかなりの魔力を使っている事は魔法使いではないリックでも分かった。


 一体何をしているんだ?


 ザックの魔力で地面を光らせ、ウォルターがそれを観察しメモに書きだす。

 リックには魔法陣の事は分からないが、ウォルターほどの人物が調べるということは、この魔法陣がベルを探す鍵になる事は理解できた。


「ウォルターはセルリアン王国出身だ。魔法使いと言えるレベルではないが魔法には詳しい。それに我がウィスタリア公爵家の執事になれるぐらいの実力者だ。きっとイザベラを見つけ出す手がかりを掴めるはずだ。マーベリック、安心していなさい」


 心配気にウォルターを見つめるリックに応えるように、ロナルドが優しく呟く。

 ウォルターの出自がセルリアン王国であり、魔法使いに準じるものであることは、きっとウィスタリア公爵家の機密事項だろう。

 それをロナルドが漏らしたことで自分が信頼されているとリックは感じた。


「ここ、ですね……西区、十番街……フレッド・カルーアの(もと)へ……」


「「「フレッド・カルーア?!」」」


 その名には覚えがあった。

 ベルの幼馴染の一人、魔法使いの男だ。


 養子先であった魔法研究団長の家を出され、国境沿いにある魔獣討伐団へと入隊したと情報が入っていた。


 なのに何故ここでその名が出るかが分からない。

 声を封じられ、魔法は仕事の時以外は使えないようにされていたと聞いていたからだ。


 まさか……セルリアン王国の王太子が手を回したのか?


 その可能性は無くはない。

 だが、友人を助けるだけの為にこのビリジアン王国を敵に回すだろうか。

 ロナルドから受けた情報のセルリアン王国王太子の性格を考えれば、そんな行動を起こすような情がある男には思えない。


 いや……

 そこにベルが関係すれば分からないだろう。


 ベルに対しあんな愚かな行為をしたセルリアン王国の王太子なのだ。

 友人の為ではなくベルを連れ戻すためならば、愚行に走る可能性は大いにあるだろう。


「あの愚か者は我々を馬鹿にしているようだな……」


 ロナルドの冷えた笑みとそんな呟きが聞こえ、リックは自分の考えが間違っていないと思えた。


 セルリアン王国などもうこの世界に必要ないのでは?


 そんな過激な思考が浮かぶほどリックはセルリアン王国の王太子に対し怒りが湧いていた。






「ロナルド様、イザベラお嬢様は西区の十番街。商業地区の倉庫街に捕らわれていると思われます」


 ウォルターの言葉にロナルドは頷くと、すぐに行動を始める。

 ウォルターとザックを自身の馬車に乗せると「西区へ」と言って馬車を走らせる。


 リックとイーサンも勿論その後を追う。

 ベルの居場所がある程度わかった事で希望が湧く。


 ただ西区は商業地区の為、かなりの広さがある。

 その上倉庫街は夜になる程人通りは少なく、目撃者も減るだろう。

 ベルを探すための聞き込みも困難になる事は間違いない。時間との戦いだ。


 日が沈みかけ、心に影が差す。


 絶対にベルを探し出し助け出して見せると思いながらも、もし見つからなかったら、という不安が生まれてしまう。


 ベルの居ない人生など俺には考えられない……


 もしセルリアン王国へベルが運ばれてしまったとしても、リックは敵を追いかけ逃がさず、必ずベルを自分の下へ連れて帰ると誓う。


「ベル、絶対に助け出すからな」


 馬上で自分に言い聞かせるかのようにそんな言葉が漏れる。

 隣を走るイーサンが頷き、自分もだと同意をしてくれる。


 かなりのスピードで走る馬車と並走し、気が付けば西区に入っていた。

 ウィスタリア公爵家の諜報員たちが動いていたのか、街中を走る際人とぶつかりそうになる苦労はまったく感じなかった。


 その時ふと、リックは何かを感じた。

 それが何かは分からないが、ベルに繋がるものだと自分のもつ直感が言っていて、自然と馬のスピードを落とす。


「リックどうした?」


 西区の倉庫街へと向かう途中、リックが馬をとめた事でイーサンが驚き声を掛けて来た。

 ロナルド達を乗せた馬車も少し先で止まり、窓からザックが顔を出し「リックさん?」と声を掛ける。


「ベルの、ベルの匂いがする……」


 ぽつりとそんな言葉が漏れる。

 イーサンが小さく「きもっ」と言ったが、今はそんな事はどうでも良く、リックは辺りの香りを嗅いで確認をする。


「リックさん、もしかしてベルさんのパンの香りじゃない?」


 ザックもリックの言葉で辺りを確認し、やはり何かを感じたのかそんな言葉を投げかけて来た。


「俺が間違えるはずがない! これはベルのパンの香りだ!」


 毎日のように麦の家に通い、毎日のように食べ続けたベルのパン。

 それがこんな西区の倉庫街に漂うはずもなく、リック達は香りが強いと感じる方へと馬を進めた。


 段々とベルのパンの香りが強くなる。

 彼女の事だ、きっと自分たちに知らせるためにどうにかパンを焼く機会を作ったのだろう。


 フレッドが幼馴染だからと油断したのか、それともベルのパンの味に惹かれたのか。

 他国で油断し過ぎている相手に、セルリアン王国出身者らしさを感じた。


「あそこじゃないか?」


 倉庫街の管理者用に建てられたであろう建物に不自然な灯りが見える。

 この時間まだ管理の者が残っていても何ら可笑しくはないが、その建物だけは屋敷全体に灯りが付いて人の気配も多く感じた。


 少し離れた場所から屋敷を確認し、男たちの様子をザックとともに探る。

 イーサンは第三騎士団員を呼びに城へ向かい。

 ウォルターは “何” かを探っているのか、馬車の外で目をつむり集中している様だった。


「リックさん、あそこ」


 小声でザックが話しかけて来た。

 ザックが指さす方へと視線を送れば窓が少し開いており、そこからベルの焼くパンの香りが漏れていることが分かった。


「ベルは絶対にあそこにいるな」

「うん、ベルさん以外あんないい香り出せないもんね」


 憎き恋敵のような相手だと思っていたザックの言葉が今は心強い。

 自然と視線が合いお互いニヤリと笑い合う。


 絶対にベルを助け出そう。

 視線だけでそう誓いあった気がした。


 ザックと屋敷の確認を終えロナルド達がいる場所へ戻ると、ウォルターが何やら紙に書き起こしていた。どうやったかは分からないが屋敷の地図が詳しく書かれていて、その上大体の敵の人数まで把握されていた。


「ウォルターさん……マジでこえー」


 ザックが小さく呟いた言葉に思わず頷いてしまう。

 これで魔法使いではないというのだから、セルリアン王国の定義は可笑しなものだ。


 それとともにウィスタリア公爵だけでなく、ウィスタリア公爵家の者は誰も敵に回してはいけないと、リックは改めて感じた。


 その後第三騎士団も合流し、皆で話し合い作戦を練った。

 ロナルドがいるため話し合いの時間はとても短い。

 優秀過ぎる悪魔公爵の作戦に否と言えるものなどいないからだ。

 

「では、イザベラを救う作戦を決行しようか」


 ロナルドの悪魔のような微笑みを合図に、リック達はベルを助けるため動き出したのだった。

ベルを見つけ出す話をどこでいれようか悩んでここにしました。

中身の話しは三話続きます。

楽しんで頂けたら幸いです。m(__)m

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