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提案とチョココロネ②

「ベルさん! どうしたの?なんで王城にいるのさ」


 どうやらザックはベルとは別の待合室にいたようで、向かい側の待合室から連れだと思われる壮年の男性と一緒に出て来た。


「ザックこそ、どうしたの?王城にいるだなんて……」


 特級冒険者であるザックが王城に呼ばれる。なにか大きな事件でも起きたのではないかとベルの顔に不安が浮かぶ。それを察したザックはベルの不安を振り払うように笑顔で答えた。


「違う違う、なんかあった訳じゃないよ。いや、この場合あったとも言えるかな?第三騎士団からの捜査協力依頼の報告に来たんだ」

「おい、ザック!」


 第三騎士団の話が出ると、壮年の男性がザックの脇腹を突いた。

 気軽に話すなと止めているのだろう。

 その威力のあり過ぎる止め方にザックの横腹が心配になる。


「イテッ!ベンさん痛いって」

「痛いじゃない、お前、捜査の話を無関係の奴に話すんじゃねえ」


 ザックにベンと呼ばれた男性が今度はザックの頭をぽかりと叩いた。

 冒険者らしい力強い拳骨音に、ベルの顔にまで痛みの色が出る。

 見ているこっちまで痛くなるほどの拳骨だが、ザックはあまり気にしていないようだった。


「ベンさん、落ち着いてって、この人はベルさんって言って第三騎士団の団長さんの婚約者さんだから関係者なんだって。大丈夫なの」

「なに?そうなのか?だがなー……」


 眼光鋭いといえるベンの視線にベルは言葉が出ず、「そうです」と頷くしかない。

 ザックの連れであるベンはまさに冒険者らしい男と言える風貌で、手足だけでなく顔にも複数の傷があり、見るからに強そうに見える。


 これまで強い騎士は沢山見て来たベルだが、強い冒険者の知り合いと言えばザックのみ。

 店に来る冒険者は勿論いるが、ここまでの圧を発する男性はいなかった。

 本物の冒険者。

 ベンは正にそう言われるにふさわしいと思える男だった。


「もしや冒険ギルドのギルド長であるベン・フロスティ殿かな?私はロナルド・ウィスタリア公爵。そしてこれが妹のイザベラ・ウィスタリアだ。第三騎士団長のマーベリック・シャトリューズはイザベラの婚約者で間違いないよ。話が漏れることは無いと私が保証しよう、安心してくれ」


「ウィ、ウィスタリア公爵閣下!これは大変失礼いたしました。その通りです。私は冒険ギルド長のベン・フロスティです。で、こっちのお喋りな奴がぁ特級冒険者のアイザック・オランジュであります」

「ウィスタリア公爵閣下って、あ、ベルさんのお兄さんか?俺はベルさんの友人のアイザック・オランジュです。よろしくお願いします!」

「おまっ、この馬鹿野郎!ちゃんと頭をさげねーか!」


 ベンがまたザックの頭を叩く。

 ザックは「イテッ」というだけで済んでいるが、今度は遠慮ない力加減だったようでゴツンといい音がしてベルの体に響いた気がした。

 友人としてザックの脳と頭蓋骨が心配になるほどの音だったため、ベルの眉間に自然と皺が寄った。


「ベン殿、そう気を使わずに。私は公爵と言っても爵位を継いだばかりの若輩者です。ギルド長であるベン殿や特級冒険者であるザック殿に比べたら幼子同然ですよ。どうぞ気軽に接してして下さい」

「は、はい、有難うございます!」


 ある程度の立場があるものならば、ウィスタリア公爵であるロナルドのことは良く分かっている。

 なので気軽にと言われても、ベンは肩の力を抜くことは出来ない。


 案内の為ザックとベンの傍にいる騎士も、同じ心境なのだろう。顔色が悪い。

 王の前に出た時以上に緊張している様だった。


 そんな恐ろしい男と呼ばれるロナルドがザックへと視線を向けた。

 新しく妹となったベルから「セルリアン王国時代からの知り合いで友人」だと聞いていたアイザック・オランジュ。


 見た目は第二王子であり友人のアレックスに負けない容姿をしているが、特級冒険者の名に相応しい豪のものだと聞いている。


 そんなアイザック・オランジュの事をウィスタリア公爵家の諜報員たちに調べさせてみたが、ベルとアイザックの間に接点は見つからなかった。

 セルリアン王国の孤児院で出会ったとベルからは聞いていたが、二人がその孤児院にいた(通っていた)時期は微妙に違う。


(さてさて、イザベラが素直に話せない知り合いとはどんな相手なのかな?)


 そんな考えもあってロナルドは、偶然この時間にこの場所に立ち寄ったのだ。


 勿論リックにも話がある、それは本当だ。

 

 可愛い妹を守るため、冷徹公爵は優し気な笑みを浮かべたまま、二人の(リックとザック)の行動に探りを入れているのだった。







 お互いに第三騎士団へと向かう用事があるという事で、ザックたちとベル達は一緒に第三騎士団棟へと向かうことになった。

 ベルはリックの仕事の邪魔になるからと商品だけを置いて帰ろうと思っていたが、兄であるロナルドが短い時間でもリックはベルの顔を見たいはずと、第三騎士団の団長室へと向かう事を進めて来た。何故かザックとベンまでも頷いて見せる。


 そして仕方なくだがベルが同意すると何故か皆がホッとした様子となった。

 案内人の後、ベンとロナルドが先を進み。

 ザックとベルがその後ろを進む。


 ザックは王城が初めてなのか、キョロキョロと視線を彷徨わせては子供のように喜んでいる。

 見るもの全てが面白いのか、それとも前世のゲームでも思い出しているのか、月のような薄い銀色の瞳には好奇心が浮かんでいた。


「ねえ、ねえ、ベルさん、さっき言ってたアレックス殿下ってさ、アレックス・ビリジアンでしょう?」


 ザックがベルにだけ聞こえる音量でそんな事を聞いてきた。

 王城内で第二王子の名をフルネームで呼び捨てる。

 特級冒険者であるザックだからこそ許されるが、誰にも聞かれたくない内容だった。


「そうだけど、どうしたの?殿下の名は余り出さない方が良いわよ」


 ベルもザックにだけ聞こえる音量で返事を返す。

 視線は勿論前を歩く兄に向いている。当然だ。

 そして貴族らしい笑みも浮かべたまま、ザックとの会話を楽しんでいるフリをした。多分不自然には見えないだろう。まあ、普段のベルを知るものならば違和感に気が付くかもしれないが。


「ああ、やっぱり。アレックス・ビリジアンってさ、俺と同じ隠れキャラなんだよね、知ってた?ツンデレキャラ枠なんだけど、本当にそんな感じなの?」

「えっ?!」


 気を付けていたつもりだったが、ザックの言葉に思わず大きな声を出してしまった。

 淑女として失格だろう。

 だが、今はそれどころではない。


 あのアレックスが攻略対象者?


 まさかこんな身近に攻略対象者がいたとは……


 それもその筈、アレックスは攻略対象者にしては少し年上すぎる気がしたからだ。


「イザベラ、どうしたんだい?」


「い、いえ、お義兄様、なんでもありませんわ」


 そうか、と笑顔で前を向き直したロナルドの背に、ベルは鉄壁の淑女スマイルを向けたまま、第二王子のアレックスの姿を思い出す。


 年齢はロナルドと変わらない。


 言われてみれば確かにアレックスは攻略対象者らしい美しい顔立ちをしている。


 従兄弟であるロナルドとはよく似ていて、双子のようだと周りにいわれているそうだ。

 それにどちらかと言えばアレックスの方が女性よりな美しい顔立ちだと言えるだろう。


 ベルのパンを美味しいと言って優しい笑顔で食べてくれるアレックス。

 そんな彼がツンデレキャラだと言われても、ベルには全くピンと来るものがないのだった。

 

風邪気味です。急に投稿休んでしまったら寝込んだと思っていて下さい。m(__)m


リックとザック→こっちは意図的

ベルとベン→こっちはたまたま


名付けに失敗した気がする……

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