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嫉妬とポン・デ・ケージョ

「えーと、こんばんは、いや、初めまして、ですかね?俺は特級冒険者のアイザック・オランジュです。ベルさんにはいつもお世話になっていますっ」


「あ……ああ、こんばんは。その、俺はビリジアン王国第三騎士団団長のマーベリック・シャトリューズと申します。特級冒険者であるオランジュ殿にお会いできて光栄です」


 ぎこちない挨拶を交わすリックとザックを見て、ベルの口元が自然と緩む。

 出来たらこの二人には仲良くなって欲しいなと思っていたため、この偶然の出会が嬉しくって、どうしても顔がにやけてしまう。


 小豆持ち込み事件の後から麦の家に自然と通うようになったザック。

 今やすっかりベルに胃袋を掴まれてしまったようで、ベルが麦の家へと仕事に来る日に合わせては、店に足を運ぶようになっていた。


 そして店に来たザックは、次の日用にと懐かしい二ホンの味(ベルの味)のパンを買い。

 店内でベルの仕事が終わるのを待っては麦の家の居住区へ上がり、ベルお手製の夕食を食べる。それが日課のようになっていた。


 そんな流れが出来れば、当然麦の家の従業員のミアやルカ、レオとも仲良くなり、すっかり打ち解けたことで、まるで以前から麦の家の一員だったかのようになっていた。


 従業員の三人が尊敬し敬愛するベルが心を許している相手なのだ。

 皆がザックに馴染むのも当然だった。


 そしてベルも、同じ記憶を持つザックには親しみがあった。

 ザックはベルの奥深い記憶の中の懐かしい部分である美味しい食べ物や、転生してからの想い出を、隠すことなく話すことの出来る相手であり、同じ辛い境遇を経験した同士のようでもあった。

 だからこそザックがベルの中でかけがえのない存在になるのも当然といえた。


 それにザックは人懐っこく可愛い性格のため、この世界ではベルよりも年上だと分かっていても、ベルはザックを弟のように感じ、甘やかしたくなっては好きな食べ物を聞いてみたり、それを率先して作って上げたりもしていた。


(リック様にザックの事を伝えたい……)


 そう思っていた中、ベルの婚約者であるリックが、仕事が忙しいにもかかわらず麦の家にやってきてくれた。

 二週間ぶりぐらいに会ったリックは、いつも通りカッコ良くって、嬉しさから自然と笑みがこぼれる。


 けれどリックの顔をじっくり見ていれば少し疲れているのがわかり、仕事の忙しさが想像でき胸が痛んでしまう。


(私に会いに来てくれたのは嬉しいけれど……その時間を使ってでも家でゆっくり休んでほしいわ……)


 そんな思いからベルはつい困ったような表情を浮かべてしまう。

 その表情がリックにどう見えるかはベルには分からない。ただリックを心配しているだけだからだ。

 目の前のリックが(もしかして俺は邪魔だったのかも……)と持ち前の後ろ向きな気持ちを発揮しているなど、この時のベルは残念ながら気付きはしなかった。


「あー……ベル、お客様が来ているようならば俺は出直すよ。君にちょっとでも会えて良かった。それじゃあ、お休み。俺はこれで……」

「えっ、リック様?」


 ベルをこれ以上困らせたくはないと、リックは二人に背を向け帰ろうとする。

 あまりの素早い動きに、流石騎士団長無駄がない動きだわとベルは変なことに感心してしまう。こんな時なのに。


「えっ?! えっ、えーっと、その、シャトリューズさん、様、ちょっとまってよっ!」


 悲しい現実からすぐにでも逃げたいと、騎士らしい俊敏な動きで愛馬に向かおうとするリックを、これまた特級冒険者らしい素早い動きでザックが引き留める。


 このままリックを帰らしては行けない。


 特級冒険者の勘がそう警告してきたからだ。


「シャ、シャトリューズさんはベルさんの婚約者様でしょう?安心して下さい俺はちゃーんとベルさんから貴方の話を聞いてます!その、そう!そうだ、良かったら上でお茶でも飲んでいきませんか?えーっと、その俺も色々とシャトリューズさんと話をしてみたいし……ねっ、ベルさん!」


「えっ?」


 一般女性であるベルが二人の動きに圧倒されていると、ザックがベルへと勢い良く振り向き、何故かウインクをして来た。


 この国の重要人物でもあるリックと特級冒険者であるザックが話をしてみたいのは分かるが、今のリックは疲れているだろうからと、リックの代わりに自分がザックに断りを入れようと思っていたが、何度もウインクをして来るザックの様子に流石に何か理由があるのだろうとベルは気が付いた。


「えーと……リック様、お体は大丈夫ですか?もし大丈夫ならば、上へ上がって行きませんか?私も久しぶりにリック様とゆっくりお話したいですし……」


 ザックからのアイコンタクトを受け、ベルはリックに言葉を掛けるが、ザックの手前とあって何だか他人行儀になってしまう。この場のぎこちない雰囲気にのまれたのかもしれない。


 だがその様子が益々リックの胸を燻ぶり、後ろ向きな感情を促した。


「ですが……俺は、お二人のお邪魔になりますし……」


 普段ではあり得ない言葉使いで返事を返し俯くリック。

 その姿にベルも何となくザックの言いたい事が分かった気がした。


 きっとリックは疲れていて正常な判断が出来ないのだろう。

 この世界では男女間の友情は出来辛い。特に貴族間はそれが顕著だ。


 だからザックとベルの仲をもしかしたら誤解したのかもしれない。

 今の時点で二人がただの前世友だとリックは知らないのだ、当然だろう。


 ベルは暗い顔で俯くリックの手を取り優しく包む。

 私が愛しているのは貴方だけです。

 そんな思いを込めた笑顔付きで。


「リック様、どうぞ夕飯を食べて行って下さい。今日は私が作った新作のパンもあるんですよ」


「……ベル……」


 案の定、ベルが癒しを込めて手を握ればリックの顔に少しだけ赤みがさした気がした。


 リックはやっぱり疲れているのだ。

 だから変な誤解もする。


 でも自分たちの関係をしっかり話せば、きっとリックは分かってくれる。優しい人だから。


 ならば自分に出来ることは一つだけ、リックを癒す為にも大好きなパンを食べさせてあげよう!

 それこそがリックを元気づける特効薬だとベルには分かるから。


「新作のパンか……それは楽しみだな……」


 特効薬は聞いた様で、リックは麦の家に立ち寄る気持ちになってくれたようだ。とても嬉しい。


 ベルの手を握り返し、ニッコリと笑うリック。

 美味しい話に少し疲れがとれたようでベルも安心した。


 やっぱりリックは食いしん坊。

 美味しいパンの話題には目が無いようだ。


 俯いていたリックが顔を上げてくれた。

 疲れているはずなのに優しい笑顔を返してくれる。


 ベルはやっと普段の雰囲気を出し始めたリックにホッとしていた。


「フフフ、ではリック様、上へどうぞ。実は今日作ったパンはザックが食べたいと言っていたポン・デ・ケージョというパンなんですよ。とっても美味しいので楽しみにしていてくださいね」


 そう言って先に階段を登り始めたベルには、当たり前のように ”ザック” と名を呼んでいるベルの姿と、ザックの為にベルが作ったパンという言葉に、深くショックを受けているリックの顔も、悪気なく上げて落すベルの様子を見て「あちゃー」と顔を覆うザックの姿も、残念ながら見えてはいなかった。

長く間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

仕事が忙しいことを言い訳にさぼっていました。申し訳ありません。


今日からまた頑張ります!m(__)m

夢子

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