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最初の一歩とクロワッサン②

「ここにシャドリューズ侯爵家三男マーベリックと、ウィスタリア公爵家養女イザベラとの婚約を許可し、正式に結ばれた事を宣言いたします」


 ウィスタリア公爵家内にある教会で、司祭がベルとリックの婚約を宣言する。

 すると制約魔法のカケラである金色の光が、ベルとリックの二人に注がれ周りから「わあ!」という歓声と拍手が上がる。


 今日の司祭様はウィスタリア公爵家に呼ばれるだけあって魔力が高かったのだろう。

 金の光はとても眩いものだった。


 

「マーベリック・シャドリューズ伯爵と、イザベラ・ウィスタリア公爵令嬢の婚約を祝して、乾杯!」

「かんぱーい!!」


 婚約式が終われば婚約披露会が始まる。


 イーサンとアリアが前に出て乾杯の挨拶を行えば、賑やかな披露会が始まった。


 リックは元々団長職に就いた時点で子爵位を賜っていたのだが、今回国を襲った襲撃犯を撃退し捕縛したとして陞爵することになった。


「俺の功績じゃないのに……」と最初は渋っていたリックだったが、ロナルドに「ベルを守るためだ」と言われれば否応なしに頷いた。


 それに公爵家の諜報部隊の行動を一般人に話すわけにもいかない。

 街を守る第三騎士団が他国の侵略を食い止めた。

 そう報告する方が誰からも納得できる結果だったのだ。





「ここに並べられているパンはクロワッサンというの。娘のイザベラがシャトリューズ侯爵領のバターを使って作り上げたのよ。なんでもバターを生地に包んで何度も織り込んで作るパンらしいの、ウフフフ……まるでイザベラとマーベリックのようじゃなくって、あの子の愛でマーベリックの心を優しく包み込むの、仲の良いあの子達らしいパンだと思うわぁ」

「まあ、ではこのパンを頂いたら愛する殿方と上手くいくかもしれませんわね」

「お母様、私是非頂きたいですわ」

「私もです」


 マティルダの宣伝効果で、貴族の女性には敬遠されてしまうかなと思っていたクロワッサンが瞬く間に無くなっていく。


 今日ベルが準備したクロワッサンは主に三種類。


 三日月型のシンプルなクロワッサン。

 チョコレート入りのクロワッサン。

 そしてラム酒に漬けたレーズンを練り込んだクロワッサンだ。


 ベル一人では流石にこれ程の客人数相手のパンは焼くことは出来ないし、主役であるベルが当日パンを焼き上げるのは無理な為、公爵家の料理人たちとルカ、レオ、ミアが朝から焼いてくれた物だ。


 ベルさんのお祝いの為!と張り切ってくれた彼らには感謝してもし足りないぐらいだ。


「ベルのパンは益々人気が出そうだなー、嬉しいけど俺としてはちょっと複雑だ……」

「リック様、すみません。大叔母が、いえ、義母が包み込むだなんて大げさな事を言ってしまって……」


 騎士であるリックをベルが守るような言い方に流石に気を悪くしただろうと、ベルはリックを伺う。

 腕を組み眉根に皺を寄せるリックはベルの思った返事とは違うものを返してきた。


「いや、そこは全然気にしていないんだけど」


「でも変な噂がたちますわ」


 騎士団長はベルに骨抜きにされていると、そんな噂が既にあることをベルは知っている。


 婚約する前からの噂なので、リックが店に通っているだけでそれだけの噂がたったと思うと、今後はどうなるかとベルは心配した。


 実際ベルの存在に心を救われたと自負しているリックは、守られていると言われても気にならない。なんせウィスタリア公爵家には今後も守られていくだろうと予想出来るから。


 それよりも


「ベルの店に男性客が増えるのが嫌なんだ……」

「えっ?」

「噂は全然本当の事だから良いんだけど、ベルがこれ以上人気になるのは耐えられない」


 しゅんとするリックの姿は反省中の大型犬のようでとても可愛い。

 ついつい頭を撫でてしまうと周りからは「きゃあ~」と声にならないような悲鳴が飛んだ。


「リック様、私はもう店には立たないのですよ、ミアとルカが麦の家を引き継いでくれるんですから」

「でも、視察には行くだろう? それに商品の指導もする。今後は店を増やすからそのやり取りもあるだろうし……」


 嫉妬を隠さないリックの言葉にベルは嬉しさ半分呆れ半分、複雑な気分だ。


 今後ベルは表には立たないとはいえパン屋の経営を続けていく、リックもそれは喜んでおり、いつまでもベルのパンを食べていたいと嬉しいことも言ってくれた。


 けれどそれとは別で、ベルの傍に男性の影がちらつくのは嫌らしい。

 最初は弟のようなルカにも嫉妬していたのだと聞いて驚いたものだ。


(でも全く嫌じゃないわ。むしろ嬉しいと思ってしまうから不思議ね)


 リックを伯爵家の当主として見るならば、そこは大きく構えていてくださいと諭すべきだろう。

 以前のベルだったならば、あの婚約者相手にそう注意していたかもしれない。


 だけどリックに『愛されている』と思える嫉妬はただ嬉しいだけだった。

 独占欲もお互いの愛があれば嬉しいと感じるのだなと、ベルは人を愛することが出来る自分が嬉しくて仕方がなかった。


「リック様、大丈夫ですよ。私にはリック様しかいません。貴方しか目に入らないんですから」

「ベル……」




 婚約式で仲睦まじい姿を見せたシャトリューズ侯爵の子息マーベリック・シャトリューズと、ウィスタリア公爵家の令嬢イザベラ・ウィスタリアの仲の良さは、瞬く間にビリジアン王国内で広まっていく。


 イザベラの赤い薔薇のような美しさと聡明さ。

 そして伴侶となるマーベリックへのその愛の深さは、いつしか結婚前の男女の憧れとなっていく。


 ただこの時点での二人は周りにどう映っているかなど分かっていない。

 愛する人が出来た。それが嬉しいだけ。


 甘い雰囲気を出し話をする真新しい婚約者たちは、すっかり自分たちの世界に入っていたのだった。

遅くなりました。短めです。m(__)m

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