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初デートとハンバーガー③

「は、初めまして、ベルさんのお店で働かせてもらっておりますミアといいます。シャトリューズ様、よ、よろしくお願いします」


「俺、いえ、私はルカといいます。シャトリューズ様、よろしくお願いします」


「僕はレオです。ベルおねえちゃんのお店のお手伝いをしています。チャトリュージュ様、よろしくお願いしましゅ」


 ベルがリックを店の居住区へと連れて行くと、ミア、ルカ、レオが出迎えてくれた。


「皆、初めまして第三騎士団のマーベリック・シャトリューズだ。ベルとは友人として仲良くさせて貰っている。今後も頻繁に顔を見せると思うがどうぞ宜しく頼む。それからシャトリューズは言いにくいだろう、気軽にリックと呼んでくれ」

「「「はい、ありがとうございます!」」」


 街を守る第三騎士団のリックはどうやら民の間でかなりの人気があるらしく、ルカやレオ、それに顔を合わせたことのあるミアでさえ緊張した様子を見せていた。


 そんな緊張気味な従業員二人と (それとレオ) は、ベルが雨でぬれて帰ってくるかもしれないと、お風呂を沸かし待っていてくれた。

 暖かい部屋に練習中のパンの匂いが広がり、濡れて冷えた身体がホッとするのが分かる。

 リックの顔にもベルと同じものが浮かんでいた、やっぱり鍛えていても寒かった様だ。


「リック様、お先にお風呂へどうぞ、私は取りあえず着替えて参りますわ」

「いや、俺は体を鍛えてるし、雨にも慣れている。それにここは君の家だ。先に君がお風呂に入ってくれ」

「いえ、そんな訳には参りませんわ、リック様は大切なお客様ですもの」

「ダメだ。濡れてる女性を放って風呂に入るだなんて出来ないよ」


 どうぞどうぞと風呂を譲り合う二人。

 その間にさっさと入ってしまえばいいのだが、お互い相手を思うあまりそうもいかない。


 仲が良さそうな様子で二人がもめている間に、ミアはタオルを二人の肩に掛けた後、今はベルの濡れた髪をタオルで拭いている。


 ルカはリックにも合うであろうサイズの制服を探しに行き、三階へと駆けて行った。

 そして何もする事の無いレオは、ベルとリックの会話を二人の間で聞いていた。


「ベルお姉ちゃん、だったら一緒にお風呂に入っちゃえば? 僕もいつも兄ちゃんと一緒に入るけど二人で入ると楽しいよ」

「「……」」


 純粋なレオの言葉に悪気はない。子供は無邪気だ。その言葉が今は辛い。

 先程の馬車での出来事を思い出せば、ベルは居た堪れなくなるし、リックはいけない想像をしそうになってベルを見る事が出来なくなる。


 確かに、レオのいう通り二人で入ってしまえば問題は片付く。

 けれどそう簡単な話ではない。

 大人の男女。一緒に風呂に入るなどこの世界ではあり得ない。

 いや、ベルが知らないだけで、ある可能性もあるのかもしれない。


 動揺からか、ベルはそんな考えが浮かびイケないと振り払う。ただでさえ痴女のような言葉を先程リックにタップリと投げかけてしまったのだ。これ以上女性としての、友人としての評価を下げたくはない。


 色々と深く想像する前にベルはゴホンッと一つ咳ばらいをする。

 そして「では……」とどうにか平常心を保ち、これまでの教育で受けた淑女の笑顔を作りあげると、お客様にこれ以上気を使わせてはならないと「自分が先に入らせて頂きます」とリックの案を受け入れた。


 その言葉にホッとするリックだったが、この後ベルが出た風呂場がとてもいい香りがして居た堪れなくなることをこの時の彼はまだ知らないのだった。




「ミア、ルカ、パンがとても上手に焼けているわ、これならもう合格点を出せそうよ」

「本当ですか! 嬉しい」

「ありがとうございます!」


 今日の夕食はハンバーガー。

 バンズはミアとルカが焼いてくれた物だ。

 やる気がある二人の成長は早く。今日のパンはこのまま商品に出来るほどいい物が出来ていた。


 この国に来てナツメグが手に入ったので、これまでよりも美味しくハンバーグが作れるだろうと、早朝から種を作った。勿論リックを夕食へ誘う前提で。


 ひき肉はこの世界には売っていないので、ビクス商会に頼みミートミンサーを作って貰った。

 ルカが率先してぶつ切り肉をひき肉にしてくれたので非力なベルはとても助かった。


 ミアは食堂の娘とあって料理の手際が良い、ベルの作る料理はミアにとって未知のものだったはずなのだが着実に覚えてくれてパンも十分に美味しく焼いてくれる。


 力仕事を担ってくれているルカは料理人としては素人だったが、手先が器用な為パンの形成など器用にこなしているし、何よりも職人だったからこそ、細い見た目からは想像できない程力がある為、とても助かっている。


 そんな二人と朝からハンバーグの種を作った。

 牛肉は高いため、鳥と豚肉を使ったつくねに近い種だったけれど十分に美味しそうにできている。


 それを冷蔵箱に入れ、今の時間まで休ませておきジックリ焼き上げる。

 両面に焼き目が付いたら少しだけワインを入れ蓋をした。この世界の肉は少しだけ臭みがあるのでお酒は欠かせない。

 そして蒸し焼きにして皿に盛り、使ったフライパンでソースを作る。


 先ずはバターを入れジュワッと溶けだしたらソースを入れる。このソースはベルが試行錯誤中だったもので最近やっと満足する味が出来た逸品。そしてトマトからベルが作った店自慢のケチャップも入れたら完成だ。


 いい香りがキッチンから食堂まで広がり皆がお腹をすかせた顔になる。


 夕飯にはまだ少し早い時間だが、会話を楽しむのならこれぐらいからで丁度いいだろう。


 普段はお酒を飲まないベルだったが、今日はリックが居るのでちょっといいワインを開けてみた。

 ミアもルカも成人しているのでお酒は飲める。この世界では飲酒年齢は決まってはいないが、一応成人してから飲ませるものだと親は認識している。


 なのでレオはリンゴジュースだ。この国ではリンゴは葡萄と同じく気軽に手に入るので、ベルはリンゴジュースを良くつくる。

 リンゴに少しだけレモンを使い、レオ用には蜂蜜も入れた。

 体が弱いレオが食べるものだ、リンゴも蜂蜜もアレルギーがないかと気にしながら作った物だった。


 皆で乾杯をし、ハンバーガーにかじりつく。

 貴族生活ではやりたくても出来なかったことがまた出来て自然と笑顔がこぼれた。


「美味い!」

「ベルさん、すっごく美味しいです」

「これがハンバーガー! 美味しいです」

「おいしねー」


 皆が美味しい美味しいと食べてくれるので益々嬉しくなる。

 作って良かった。

 誰かと一緒に食べられて幸せ。

 ベルの顔にも良い笑顔が浮かぶ。


「二人のパンもとっても美味しいわ、上手に焼けてる。私ね、二人が定番のパンを焼けるようになったらイートインスペースを広げたいと思っていたの。この調子なら思ったよりも早くその夢が叶いそうだわ。二人の頑張りのお陰ね。ありがとう」

 

 ベルの賛辞にミアとルカが喜ぶ。

 レオも「すごーい」と手を叩いて称賛だ。


 そんな中一個目のハンバーガーの残りをごくんと飲み込んだリックが質問をする。


「イートインスペース。ベル、そこでは今ある店のパンを食べるだけじゃないのか?」


 ハンバーガー二個目に手を出したリックが疑問を投げかける。

 完璧な所作で食べているはずなのにルカよりも食べきるのが早いリックは流石と言える。

 そんな様子をも楽しく思いながらベルはイートインスペースの構想を話す。


 今現在は【麦の家】にはイートインスペースが少ししかない。

 店内のカウンター席五つと、店外のベンチ一つだけだ。

 けれどミアとルカが基本のパン作りを覚えてくれたなら、パン作りは二人に任せられる。なので空いた時間でベルはモーニングを始めたいと思っていた。


 店のパン一つと、コーヒーか紅茶。

 本当は卵料理を付けたいところだがこの世界卵はちょっとお高いのでフルーツや蒸したお肉、それとサラダなどを自由に選べたらと思っている。


 それに魔獣のお肉ならば安価で手に入る。

 フルーツはこの国では簡単に手に入るリンゴや葡萄をメインにし、その時期安い物を選んで用意すればいいだろう。

 それとサラダは前世程のものを用意しなくてもここでは十分喜ばれる。ちぎったレタスや千切りキャベツでもあれば贅沢だといえた。


「パンと飲み物だけで良い人は鉄貨三枚ぐらいで、フルーツなどを付ける人は付ける量や物によって値段を変えたいと思っています」


 外で働く人は男性が多い。

 ベルの店に朝早く来る客もやはり男性がメインだ。

 お昼過ぎになると子供の世話や家事を終えた主婦がやって来る。夕食用のパンを買いにだ。

 ベルの店に通うパートの主婦二人も、朝の仕事を終えてからいつも駆けつけてくれている。そして帰りには店のパンを購入して帰る。こちらも夕食用のパンとする為だ。


「モーニングが軌道に乗ったら、店をもう少し広げてランチも出せるようになったらいいなと思っています。ミアとルカもいるし遠い夢では無い気がするんですよね」

「ベルおねえちゃん僕もいるよ。僕も手伝う」

「ええ、そうね。勿論レオにも手伝ってもらうわ。頼りにしてますからね」

「うん、任せてー」


 ニッコリ笑うレオが可愛い。

 ベルはつい隣に座るレオの頭を撫でてしまう。

 幼かったころの弟はちゃんとベルを姉だと慕ってくれていた。

 いつからか姉とは呼ばれなくなってしまったが、可愛かった事は消せない事実だ。あの子の幸せを願う気持ちは変わらない。



 ベルの夢を聞き。

 ミアとルカは感動していた。

 自分達に期待が掛けれられているその事が嬉しかった。

 もっと頑張ろう。

 ベルの力になりたい。自然とそう思っていた。


 そんな中、リックだけはその幸せから取り残されたような気持ちになっていた。

 ベルが語る夢の中に、リックはいない。その事がとても悲しい。


 彼女との距離が縮まったと思っていた。

 だが未来の相手として自分は見られていないかもしれない。

 そう思うと胸に痛みが走る。


(自分はいつの間にかこんなにもベルに惹かれていたのか……)


 仲が良い麦の家のメンバーを見ながら、ベルの一番になりたいとそんな欲が浮かんだリックだった。

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