登場人物紹介②
後書にオマケあります。イーサンとアリアを出したかったという作者都合の話です。
☆ビリジアン王国側
(成人は15歳)
○ベル(イザベラ・ウィスタリア)
このお話の主人公
20~21歳
赤い髪、金色の瞳
一般女性よりも少し背が高い
前世の記憶がある、元悪役令嬢
セルリアン王国の王太子に婚約破棄された過去がある
パン屋【麦の家】のオーナー
自分が悪役令嬢だと分かっているため悪い方へ考えやすい
自分の好意を伝えるのが怖い
ウィスタリア公爵家の養女になった
○リック(マーベリック・シャトリューズ)
このお話のヒーロー
26~27歳
金色の髪、緑色の瞳
逞しい体と幼い恋心を持つ男性
ビリジアン王国第三騎士団長
ベルの婚約者
鼻が利く男であり、空回り男子でもある
○ザック(アイザック・オランジュ)
23~24歳
特級冒険者
前世の記憶持ち
隠れキャラ(暗殺者になる筈だった)
闇に紛れる色合いを持つ美男子
紺色の髪と月のような薄い銀色の瞳
ベルを姉のように慕っている
○マティルダ・ウィスタリア
ベルの大叔母
50歳ぐらい
ウィスタリア前公爵夫人、セルリアン王国元王女
赤い髪、金色の瞳、ベルとよく似ている
ベルの養母
○イーサン・ジグナル
リックの親友で幼馴染
リックと同い年
第三騎士団副団長
深い赤髪、茶色の瞳
お調子者の一面有り
○ロナルド・ウィスタリア
30歳ぐらい
マティルダの息子
微笑みの冷徹公爵
悪魔公爵
白銀の髪、金の瞳という希少な容姿
家族に重く深い愛情がある
○ミア
18歳
麦の家の従業員
元食堂の娘
茶色の髪、茶色の瞳
ルカと恋人同士
○ルカ
17歳
麦の家の従業員
元小物職人
こげ茶色の髪、落ち着いた黄色の瞳
ミアと恋人同士、レオの兄
○レオ
10~11歳
麦の家に住む男の子
ルカの弟
体が弱かったため年齢よりも幼い
こげ茶色の髪、落ち着いた黄色の瞳
人懐っこい
ルカの弟
○エクル男爵
麦の家に迷惑をかけた下男の主人
鉱山をあてて急に裕福になった。
40歳ぐらい
アリアの父
○アリア・エクル
エクル男爵家の一人娘
ベルを慕っている
14歳
○エナ
アリアの侍女
食いしん坊
17歳
○サム
エクル男爵家の料理人
麦の家に通っている
実はベルの友人?
○ベラドナ
アリアの元家庭教師
エクル男爵の元恋人
○マリア
エクル男爵の妻
アリアの母
亡くなっている
○ダニエル・ビスク・オーカー
ビスク商会会長
30歳ぐらい
イザベラに恩義を感じている
○ケビン・オルエイ
ダニエルの秘書
○アーロン・シャトリューズ
リック父
シャトリューズ侯爵
脳筋な所がある
○ビクトリア・シャトリューズ
リック母
元騎士
○カーソン・シャトリューズ
リック兄
長兄
勿論脳筋
○エリアス・シャトリューズ
リック兄
次兄
伯爵家に婿養子に入っている
やはり脳筋
○チャーリー・ウィスタリア
ウィスタリア公爵家次男
23歳
白銀の髪、緑の瞳
父似
飄々としている
○自称エクル男爵家執事
ベルに気があった
本当は下男
○オビ、カイ
16~17歳
リックに付き添った新人騎士
麦の家のパンにハマる
○ベネット、エレン
王城の職員
ベルの作るパンやお菓子にハマる
○ヴァンス、オスカー、ダミアン
冒険者風36、商人風28、見習い風16
シャトリューズ侯爵家の騎士
ダミアンは憧れていたザックの護衛となる
○ウォルター
ウィスタリア公爵家執事
元諜報員
セルリアン王国出身
謎多き執事
ベルを守る防波堤
○アレックス・ビリジアン
30歳ぐらい
ビリジアン王国第二王子
ベルが断罪された夜会に出席していた
隠れキャラの一人
ツンデレイケメン
ベルのパンが好き
○レア
ミアの姉
18歳~19歳
自分がミアよりも上でないと嫌な性格
婚約者にフラれた
○ベン・フロスティ
冒険ギルドギルド長
顔や体に傷のある壮年の男。
良くザックを殴るが、彼なりの愛情表現
50歳ぐらい
○ピーター・マカロフ
冒険者ギルドの副ギルド長
○マイク
御者
ベルの護衛
○ビル(12)、ジョージ(11)
孤児院の子供
レオの友人
○トニー、ジョー、ジム
ウィスタリア公爵家の諜報員
○エディ
高級レストラン、ブオノ・ビジリエで働いていたシェフ
ベルのパンに惚れた
店長希望
20歳後半
○コニー
孤児院出身の女の子
砂漠色の髪、小柄
15歳
○グラッチ・ガロズ
商業ギルドの人事部長
甥っ子がベルと問題を起こした
ガロズ子爵家の六男坊
☆セルリアン王国側
(成人は18歳)
○クリスタルディ・セルリアン
ベルと同い年
イザベラの元婚約者
18歳の成人の儀でイザベラを婚約破棄した
セルリアン王国の王太子
金の髪、青い瞳
自分の中の愚かな部分を認められないでいる
恋人であった聖女とは疎遠
○ローマン・カーマイン
ベルの一歳下
イザベラの弟
幼い頃は体が弱かった
姉の愚行を信じていた
家を出された
○ジュール・マホガニ
ベルと同い年
イザベラの幼馴染
宰相子息
自分の優秀さを鼻にかけていた
地方文官になった
○フレッド・カルーア
ベルと同い年
イザベラの幼馴染
魔法研究団長子息だった
自分こそが一番価値ある魔法使いだと思っている
魔獣討伐団に入団
○アーノルド・チュベロ
ベルと同い年
イザベラの幼馴染
騎士団長子息
自分の正義こそ全てだと思っていた
辺境へ追いやられた
○聖沢ヒカリ
ベルたちより一歳年上
聖女の力を失った
突然知らない国に来て驚いたがクリスタルディと恋仲になり幸せだった、現在は疎遠
口うるさいイザベラが苦手だった
ゲームのことは知らない
○ルーベン・カーマイン
40代後半
イザベラの父
子供たちに深い愛情はない
家を守ることが全て
○オリビア・カーマイン
40代半ば
イザベラの母
跡取りである息子は愛しているが特に何かすることはない
自分に似ていないイザベラの事はどうでもいい
○イルクタルディ・セルリアン
マティルダの二つ年上であるが甥でもある
セルリアン王国国王
事なかれ主義
息子がイザベラと婚約破棄したことはしょうがないと思っている
ただし他方から責められたことで息子を責めるようになる
○クランプスの偶像団
セルリアン王国にある片田舎の名を持つ有名な犯罪集団
○ジン
クランプスの偶像団頭領
ベルを気に入る
【イーサン・ジグナルの休日】
ビリジアン王国第三騎士団の副団長イーサン・ジグナルは、久しぶりの休日を満喫していた。
誘拐事件があったことで、第三騎士団としても、そしてジグナル家の者としても忙しく走り回っていたイーサン。
走り回ると言っても実際は外に出ることは少なく、書類仕事や臨時会議が途轍もなく増えただけなのだが、日常の仕事もこなしつつ、その上誘拐時間やその他の仕事も増える一方で、休む時間もない程に手が回らなくなっていたというのが事実だった。
「サム、もう帰るの?」
「ああ、今日も仕事だからね」
イーサンは街の中では複数の名前を持っている。
サムというのも偽名の一つ。
昨夜から顔を出した恋人の家で一晩過ごし、色々と情報を掴んだ今日は、別の人物に会いに行く予定だ。
休日だがジグナル家の者としては動くしかない。
それが 『ジグナル』 の名を名乗る者の宿命だ。
「もうっ、一ヶ月ぶりに会ったのに、冒険者の仕事ってそんなに忙しいの?」
「冒険者っていっても色々あってさ、俺はトレジャーハンターっていう名がつく冒険者だからな、ダンジョンとかなら一ヶ月以上籠る日もある。だから次の約束は出来ない。君も良い人がいたら俺の事は忘れてそっちに行ってくれていい。俺の仕事に命の補償は無いからな」
頬に口づけを落しながら、嘘と真実を混ぜ合わせた言葉を恋人に吐く。
実際彼女は貴族の情婦という仕事についている女。
こんな別れにも免疫があり、慣れているともいえる。
「もう、私が貴方を忘れるわけがないでしょう。絶対にまた来て頂戴。待っているから」
「ああ、有難う、愛しているよ」
強くハグをし、深く口付けを落す。
仕入れたい情報は十分に入手できた。
これ以上彼女に会えば情も移る。
ここが潮時だろう。
彼女とはもう会えない。
そんな思いを込めて長い口付けを落した。
「じゃあな」
「ええ……サム、またね……」
期待のこもった瞳で見つめられ内心焦る。
彼女の事は可愛いと思うが特別な感情を抱くことはイーサンには出来ない。
このままサムはダンジョンで死んだことにし、彼女には何か【サム】の遺品が届くようにした方が良いだろう。
「この仕事は嫌いじゃないけど、やっぱり別れは嫌な時間だよなー」
そんな事を呟きながら、誰もいない路地裏に入るとイーサンは手際よく髪色を変える。
自画自賛になるがイーサンは顔が良い。
髪色一つ変えるだけで、色んな良い男を演じることが出来る。
先程までは冒険者のサム。
髪色は茶色で瞳だけは幼馴染を連想させる濃いグリーン。
そしてこれから化ける人物は商人のイサン。
イサンは真面目キャラとして設定しているので、黒紫色の髪に薄い水色の瞳を合わせている。
そこにスーツを着込み眼鏡をかければイサンの出来上がりだ。
第三騎士団の副団長イーサンに気付くものは誰もいない。
幼馴染に会っても、横を素通りできる自信がある。
まあ、シャトリューズ侯爵家の面々は少しばかり脳筋なので、それも当然だといえる。
兎にも角にも、イーサンのジグナル家仕込みの変装は完璧なのだ。
次期裏の当主として現場で動ける時間は限られている。
街に溶け込み人を誘導するのが上手いイーサンでしか掴めない情報もあるため、本職が休みの日はこうやって街に出ているのだが、ある意味 【自分】からも解放された気分になれる日でもあった。
「あら? イーサン様? イーサン様ではないですか?」
本名で呼ばれ、イーサンの背筋に嫌な汗が流れる。
振り向くべきか、それとも呼ばれたことに気付かず逃げるべきか。
そんな究極の二択に迫られるイーサンに、馴染みのある女性は近づいて来た。
「ああ、やっぱりイーサン様ですね、今日はお休みですか? フフフ…その深い紫色の髪も似合っていますね、雰囲気が変わって素敵ですわ」
ニッコリと笑いそんな言葉を吐く幼馴染の婚約者。
彼女の後ろに立つ護衛らしき男性が申し訳なさそうな顔をしている。
どうやら彼はイーサンが変装している事に気付いているようだ。
だが幼馴染の婚約者は変装に気付いていない。
なのにイーサンには気付く。
なんてことだろうか……
本当に恐ろしい女性だと思う。
「や、やあ、ベル嬢、先日ぶりだね? 今日はどうしたの? 麦の家は?」
幼馴染の瞳を連想させる緑色のワンピースを着たベルは、どうやら平民のフリをして買い物に来ているようだ。そう言えば市場が近かった。商会の集まる地区だ当然だといえる。
案の定ベルは良い笑顔で「ちょっと市場へ」と答え頬を染める。
その顔は犯罪級の美しさ。
通りすがりの男たちの視線を奪い、注目を集める。
これでは護衛も大変だろう。
勿論変装中のイーサンも大変だ。正直笑顔を控えて欲しいとさえ思ってしまう。
同情からベルの護衛に視線を送れば、無の境地ならぬ無の威圧を周りに放っていた。恐ろしい。
うん、彼女の守りは鉄壁のようだ。
これでは気軽に声を掛けることなど出来ないだろう。
ウィスタリア公爵家の恐ろしさを改めて感じた瞬間だった。
「イーサン様も市場にお出掛けですか? 宜しければご一緒にいかがですか?」
そんな言葉を掛けられ、幼馴染を揶揄うチャンスだなとそんな思考が浮かぶ。
ベル嬢との市場デート、その後は麦の家での食事。
そんな話をしたらあの幼馴染はどんな顔をするだろうか。
イーサンにいたずらっ子な心がむくむくと育ち始める。
だが、今日は貴重な休み。
そしてジグナル家の仕事の日でもある。
残念なことに相手との約束の時間も迫っている。
情報収集を疎かにするわけには行かない。
ジグナル家の裏の時期当主はイーサンなのだから。
「残念だけど、先約があってさー」
そう本音を伝えればベルも「そうですか」とすんなり引き下がってくれた。
手を振り別れると、チラリとショウウィンドウに移る自分の姿を眺める。
どっからどう見てもイーサン・ジグナルには見えない。
一体ベルはどうやって自分に気づいたのか、と不思議になる。
まあ、彼女は特殊な教育を受けているのでその関係もあるだろう。
自分はジグナル家で鍛えられた変装の名手だ。
だから大丈夫。他の者には気付かれることは無い。
手前味噌で自信を取り戻していると 「あれ? ジグナル様ですか?」と可愛らしい声の持ち主に名を呼ばれた。
本日二度目。
イーサンの背中に嫌な汗が流れた。
「やっぱり、ジグナル様ですね、お久しぶりです。エクル男爵家のアリアです。覚えておいでですか?」
「あ、ああ、アリア嬢、久しぶりだね。今日はこんなところに来てどうしたの? まさか、黙って家を出て来た訳ではないよね?」
麦の家での前科のある少女にそう問いかければ、頬を真っ赤にして「違います。ちゃんとお父様には話てきました」と拗ねられてしまった。
年頃の少女らしい可憐な姿に自分が無くした純粋さを思い出す。
ああ、胸が痛い。
違う意味でドキドキとした瞬間だった。
「ベルお姉様と待ち合わせなんです。市場を見て見たくって、もう少し先のカフェで約束しているんですよ。ね、エナ」
エナと呼ばれた純朴そうな少女がこくんと頷く。
その横には逞しい体を持つ男がいたので、護衛と一緒かと思ったら「ウチの料理長サムも一緒なんで安心なんですよ」と紹介され、また胸が痛む。
先程捨てたばかりのイーサンの偽名と同じ名を持つサムは熊のような大男。
なんだか名前負けしたような気がして地味に胸が痛かった。
「サムとベルお姉様は料理友達なんです」
「そ、そうなんだ……」
ベルと熊男。
相性は微妙だがその方が幼馴染の心は平穏を保てるだろう。
イーサンは笑顔で頷いた。
「ベルお姉様とはこうやってたまにお出掛けをするんですよ」
「そう、それは楽しそうだね」
「はい! 楽しいです」
これは幼馴染を使ってベルとアリアのお出掛け日は早めに確認しなければならないだろう。
街で遭遇するたびイーサン・ジグナルだと気付かれるわけには行かない。
「イーサン様もご一緒にいかがですか?」
ベルの妹分だけあって同じ様にイーサンを誘う。
嬉しいが嬉しくない。
とっても微妙な気分だ。
「残念だけど、俺はこれから人と会う約束があるんだ」
「そうなんですか、残念ですが仕方ないですね」
しょんぼりするアリアに胸が痛む。
心も体も真っ黒だからだろうか。
純粋さが眩しくって仕方がない。
「あー、良かったら今度また誘ってよ。俺とリック、一緒にさ」
「はい、絶対に誘います」
一瞬で機嫌が浮上するアリア。
この年頃の少女の感情の起伏は面白い。
イーサンには無かったものだ。
「じゃあ、俺は行くよ、ベル嬢に宜しくね」
「はい、ジグナル様、またお会いしましょうね」
元気一杯に手を振るアリア一行と分かれる。
ベルはともかく何故アリアまで自分に気付いたのだろうか? と悩み始めたイーサンには、アリアの「やっぱりジグナル様ってカッコイイ」という乙女な呟きは聞こえない。
それにイーサンは、アリアがセルリアン王国で育ったマティルダに淑女教育を受けている事実を知らない。
その上ベルと仲が良く、夜会での他人の見分け方を習っているなど知る由もないのだ。
「……なんだか俺、自信なくなって来たな……」
そろそろ俺も現場卒業か。
裏の当主になるためにシフト変更が必要なのかもしれない。
ベルとアリアとの偶然の出会いが、イーサンの未来を変えようとしていた。
それはまるでベルと結婚したリックがいずれセルリアン公爵領となる場所へと向かう為の暗示のようにも思えた。
だがイーサンは勿論、ベルだってその事に気付くはずもない。
ジグナル家の裏の当主になろうとしているイーサンが、いずれ第三騎士団団長になるか、ジグナル家の者としてセルリアン公爵領に行くか、そんな究極な選択を迫られる日が来るなど、誰が想像できるだろうか。
「俺、本当は才能無いのかも……」
落ち込んだイーサンは後日、ベルに変装に気付いた理由を聞いた。
「そもそも顔がイーサン様ですからね」何故と言われてもと困ると言われ、苦笑いだ。
その上「骨格は変えられませんし、歩き方や仕草などは自然と出てしまいますからね、ウフフ……」と笑われゾクッとした。
流石ウィスタリア公爵家の養女になっただけのことはある。
幼馴染の婚約者はただものではない。
それを改めて感じた。
リックを揶揄い過ぎて怒らせないように気を付けよう。
笑顔で「ふーんそうなんだー」と答えながらも、ベルに物凄い恐怖を感じたイーサンだった。