第四話 魔法?
今回少し長いかもしれません
なんとか理解を追いつけ、先程の状況を全員で整理しようという話になった。
ちょうど家の真ん中にあった円卓に座り、話を始める。
「まず、俺と姉貴は森の方に狩りに行っていた。んで猪を狩って、その後姉貴と頭をぶつけて気絶。起きたらこの家だった」
「あ、先に言っとくけど私が家に移動させたとかじゃないよ?」
「えっと、僕は釣りに行ってて、トウヤが水で溺れてたから助けようと水に足を突っ込んだら溺れたんだ」
「ナツキったら自分が泳げないこと覚えてないの?」
「ゔッ…」
姉貴の言葉が兄貴のメンタルにクリティカルヒットを叩き出した。
「焦って忘れてたんだ」などと容疑を否認しているが問題はそれじゃない。
「兄貴はどうでもいい、トウヤはなんで溺れたんだ?」
「ちょっと待ってどうでもいいって酷…」
トウヤはそれなりに賢い。となると前回溺れた兄貴のように暑かったから、という阿呆な理由で水に飛び込むはずがない。となると誰かに突き落とされた可能性だってある。自分で滑り落ちた可能性もあるがあそこは結構岩場なのでそこまで滑らない。
もし突き落とされたのなら、このあたりは危ないということになる。
姉貴も確かに、と呟き「大丈夫だから言ってごらん」と優しく声をかけている。
そんな状況にトウヤは少しきまり悪そうに口を開いた。
「素潜りしたほうが早いと思ったんです」
「…は?」
「だって釣りって時間かかるじゃないですか、それよりかは水の中に入って魚を手づかみしたほうが良いかなって」
面倒くさいですし、と小声で続けるトウヤ。しかし自分でも阿呆な理由と分かっているからなのかあまり弁明はせず口ごもる。…まぁ理由は置いておいて、突き落とされたわけではないならこの辺りはまだ安全ということになる。
「それで…これからどうする?」
「…どうって?」
「僕らが異世界転生してきたってことはわかった、だからこそ此処に住むことが危険だと思うんだ」
兄貴が珍しくまともなことを言っているので、少々驚きながらも視線を兄の方に向ける。
確かによく考えれば木が猪に直撃されただけで折れるなんて尋常じゃない。もしぶつかってしまったら最悪死ぬだろう。釣りだって底無しの川なんだから溺れたら命はない。
だからといってどうするかと聞かれても此処にとどまることぐらいしか無い気もする。
「じゃあ具体的にどうするの?私達別に此処で困ってないし…何処目指したりするとかあるわけ?」
姉の言葉に同意を表すため頷いておく。
急に注目をあびた兄貴は困惑しているのか急にたどたどしく「え、いや、あの…」という言葉を壊れたかのようにループ再生している。弟妹相手にこれなのに何故前世で科学者ができていたのだろうか。
そんな兄を可哀想に思ったのか、わざと話を逸らすトウヤ。
「そういえば僕たち兄弟なはずなのに全然見た目違いますよね」
「んー確かに?」
「流石にこれで兄弟は通じないだろうな」
兄は立派な角と首あたりの鱗を見る限りゲームで言う龍人と呼ばれる種族。
姉は羽の特徴を見る限り精霊辺りだろうか。弟は耳が尖っており、なんとなくエルフという感じがする。
一方俺はと言うと何の特徴もない、ヒューマンである。
こんな組み合わせで兄弟だと主張しても誰も信じてくれないだろう。
「龍人に精霊、ヒューマンにエルフか…これまた強いな…」
「気になってたんだけどトウヤがエルフなら魔法撃てるんじゃない?」
「え?僕ですか?」
「そうそう、なんかラノベで見たんだけどさ。エルフって魔法できるらしいし、ねアキナ?」
「…確かにゲームとかでも魔法が撃てるみたいな設定だけど」
「だからちょっと試してみない?外出て一発魔法撃ってみようよ、ほらナツキも一緒に!」
何故かとても楽しそうにしている姉貴に腕を引っ張られる。
何故かは分からないが姉貴はとても力が強い。前世からそうなのだが、腕を引っ張られるともげるので切実にやめていただきたい。
「痛い痛い痛い!もげる!!もげるって!!」
そしてとても貧弱な兄貴は姉貴に腕を引っ張られると本当に腕が外れる可能性がある。
兄貴は先程までずっと小声で喋っていたくせして今は、大声で大人気なく叫んでいる。
うるさく思ったのか姉貴は掴んでいた手を離す。兄貴の腕は結構赤く腫れている。
「あ、腫れちゃってる」
「誰のせいだと思ってるのホントに…」
少し涙を浮かべながら腕をさする兄貴。可哀想だとは思うが流石に弱すぎる気もする。
それに対して姉貴は特に謝る気はなさそうで、「ほらなんだっけ、痛いの痛いの飛んでいけー」と完全なる棒読みで兄貴の腕に手をかざして放り出す仕草をする。
すると何故か兄貴の腕の赤みは消えていた。姉貴の手でよく見えなかったので何が起きたのかわからない。
何が起きたんだ、と姉貴に聞こうとしたが姉貴もぽかんとしている。
「え、痛くない……え?」
「……兄さんやせ我慢してません?」
「してないよ!!」
「逆にナツキがそんな事できると思えないし…私の魔法?」
「んな訳」
「でもないとも言い切れないでしょ?」
戸惑いながらもフフン、と腹が立つ笑顔でこちらを見つめてくる姉貴。
それに我慢出来ないほどガキでもないのだが、それでも腹が立つこと限りない。
しかし前世で中二病をこじらせかけていたトウヤは姉の言葉を聞いて、キラキラした目で姉を見つめている。
「じゃ、じゃあ僕も魔法が使えるかもしれないってことですか!?」
「かもねー」
「ちょっと僕外で魔法練習してきます!!」
面倒くさいことが起こる気がしたが、俺が止める義理はない。
その数分後、その予感は見事に的中し、とてつもない地響きが起こった。
どうせトウヤだろうと決めつけ、何が起きたんだと外へ出れば巨大な岩が空からゆっくりとこちらに向かって落ちてきていた。
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